自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 最終回となる今回のテーマは、オリンピックイヤー後のキャリア形成。少子高齢社会の本格到来による人手不足の常態化や、働き方改革、グローバル化やイノベーション追求の加速など、働く環境が猛スピードで変わる中、2020年の東京オリンピック開催までは好景気が続くと予測されている日本。ではその2020年の向こう側には何が待っているのだろうか? 現在新卒採用の責任者を務め、本連載を俯瞰してきたパートナーの丹羽恵久氏に話を聞いた。――約1年続いたこの連載企画も今回が最終回になります。丹羽さんは、これまでのインタビューで交わされる会話に耳を傾けてこらましたが、振り返ってみていかがでしょう? BCGの採用に携わる立場としても、省庁や先進企業の変革を見つめている人間としても、非常に興味深くインタビューの数々を傾聴しました。この連載企画では「これからの『働く』」がテーマでしたが、激動の時代における働き方やキャリア形成の在り方について、私自身もいろいろと考えさせられました。 >>連載バックナンバーはこちら 全編を通じて感じたのは、皆それぞれの考え方を持って働き、転職なども経験しながら、自分ならではのキャリアを作り上げていた点です。 例えば第2回に登場した学生の皆さんが、今どんなことを考え、何を知りたがっているのか、新鮮な思いで受け止めましたし、彼らと向き合うことで、私の知らなかった一面を見せてくれた当社の千田や日浦の話もまた、とても興味深かったです。 また、第5回は経産省の菊池さんとクロスフィールズの小沼さん、そして元外務省のキャリアを持つ当社の石田による座談会でした。社会貢献をテーマにしながらさまざまな話題が登場しましたが、結局のところ「どこで働くか」ということよりも、「どう生きていくか」「どんなふうに社会と向き合うのか」を考えることが大切であるという意見には共感すると同時に、今この時代ならではのキャリア観の変化を強く感じました。 第1回で当社の水越が発信した「これからは不確実性の時代。だから自分のキャリアや自分のブランドは、自ら考え、作り出し、磨いていかねばならない」という視点を、実はすでに多くの方が無意識のうちに備え、「自分ブランドの磨き方」を模索し始めているのではないでしょうか。 ――オリンピック開催が近づくにつれ、開催後に起こる社会や経済の変化についても、少しずつささやかかれるようになっています。今から2年後、就職やキャリア形成をめぐる環境にも変化がやってくるとお考えですか? 2020年だから何かが突然変わる、ということはないと思います。しかし今現在、既に世の中全体で旧来のキャリア観は変化し始めてきており、この変化が一層顕著になるのが、2020年以降ではないかと感じています。 連載の第3回にはPKSHA Technologyの上野山さんと当社の上山が、第4回にはBCGデジタルベンチャーズの平井と山敷が登場し、各自が歩んできたキャリアヒストリーや、今後についての考え方を語ってくれました。 先端テクノロジー領域に携わる彼らの対話を聞いていると、キャリア形成のピークを、従来よりもずっと早いタイミングで意識していることが分かります。四者四様に異なる発想や認識はあるにせよ、少なくともこれまでの日本のビジネスパーソンに根付いていたものとは明らかに違うキャリア観を持っています。 終身雇用を前提にしていた時代は、40~50代に自分のキャリアのピークが訪れるようなビジョンを描くのが当たり前でした。しかし、今の時代は全く異なるスピード感で動いています。 ――キャリアを構築していくための道のりである成長曲線。それを上り坂に例えるならば、坂道の勾配が以前よりも急になっている、ということでしょうか? そうですね。近年の欧米の実情を見れば分かりやすいでしょう。例えば、大学の学部卒でいわゆるシリコンバレーのテック企業に入社して、いきなり責任あるポジションを任され、高額な年収を受け取ったり、大学在学中に設立したベンチャーで画期的なアプリ等を開発して大成功しているようなケースがいくつも生まれています。彼らは社会人になってすぐに、あるいはまだ学生のうちから、キャリア形成の上り坂を一気に駆け上がっています。 一方、これまでの日本はどうだったでしょう? 大学3~4年生になってから初めて社会に出て行くことを意識し始め、「ヨーイ、ドン!」で始まる一括採用のプロセスを経て会社に入った後、少しずつ経験を積みながら、皆が同じ足並みでゆっくりと成長をしてきました。 もともと日本は、学校教育と社会人教育が分断された構造です。学生時代は学業に専念し、仕事やキャリアについては社会に出た後に学べば良い、という考え方をしていました。終身雇用を謳う企業は、学生たちをポテンシャル採用し、就職後に10年、20年という長い時間をかけて一から育てることが当たり前だったのです。 しかし、日本の社会も変化の時機を迎えています。企業の体力は昔ほど堅牢ではなくなっており、テクノロジーの進化によってビジネスが目まぐるしく変化していく中で、これまでのような悠長な人材育成では国際的競争力も失ってしまう。新卒入社社員にも即戦力としての活躍がより期待されてくるでしょう。また、かつてはスーパージェネラリストが優秀な社員とされていましたが、その価値観も変わりつつあります。これからは、強みとなる専門性を備えたエキスパートこそが高く評価されていく環境になっていくはずです。 そうなれば当然、学歴で判断するようなポテンシャル採用ではなく、真に活躍できる人材を見極めて採用する必要が出てきます。特に、インターンシップの在り方などは大きく変容する可能性があります。 ――今後、就職の形が大きく変化していくことが予測される中、これから就職活動を始める学生たちには、何が必要になってくると思いますか? 学生のうちから、自分の強みを認識することが重要だと考えます。これからの時代、プロフェッショナルなビジネスパーソンであるために必要な要件を、私は「ソフト」「ハード」「ハイブリッド」の3つの側面で捉えています。この中のどれを自分の強みとして磨いていくか、整理してみてほしいのです。 「ソフト」、つまり内面的な部分で言えば、アダプティブ・ケイパビリティー(環境適応能力)を高めていくことが重要になるでしょう。つまり、物事を柔軟に考え、臨機応変に問題解決をしていく能力や心構えです。 一方、「ハード」とはモノを創る力や知識のこと。例えば、今やどんなビジネスにおいてもデジタル領域の知見が必要とされる時代です。その領域に関する技術的なスキル、もしくは一定の知識を蓄えることは必要になってくると思います。 そしてハイブリッドとは、文字通り、このソフトとハードとをつないでいく資質や能力のこと。英語をはじめとする言語能力などは典型例で、英語のテストの点数の高低などではなく、言語を通して「正しくコミュニケーションできるか」が大事です。連載の第6回でユニ・チャームの横関さんや当社の滝澤が示していたような、異文化との向き合い方もその一例と言えます。 以上の3つの側面から、自己の強みを把握し、高めていく学生が、キャリア構築において大きなアドバンテージを持つようになると私は考えています。また企業側も、これらの力量を正しく評価し、質の高い採用活動を実現できる企業が、競争力を高めていけると思います。 オリンピックを間近に控え、メディアなどでは「オリンピック開催後には今の好景気も一旦終息するだろう」という論調が目立っています。世界各国の過去の事例を見ても、自国開催のオリンピック終了後に不況が訪れている例が多いからです。 私自身はそうした単純な発想に疑問も持っていますが、もし仮に不景気がやって来れば、企業の採用方針もガラリと変わります。「本当に活躍してくれる人材だけを見極めよう」と採用を絞る姿勢が強まる。こうした局面になればなおさら、ソフト、ハード、ハイブリッドの能力をきちんと示せることは重要になってくるはずです。 ――ソフト、ハード、ハイブリッドを高めていくために、学生のうちにできることはどんなことでしょうか? 特別なことではありません。例えば、昨今では多くの若者が留学を経験したり、NPO活動に参画しています。このような場で異文化や多様な価値観と向き合う体験をすることによって、ソフトやハイブリッドの側面を鍛えていくことは可能です。また、本を読むことでさまざまな知識を得ることもお勧めします。 ただし、そうした機会に恵まれても、学びへと昇華されていないケースも散見されます。ただ「留学しただけ」「本を読んだだけ」では、学びにはなっていません。重要なのは、本質的なモノの見方、論理的思考力があるか否かです。正しい解釈や知見を得るためには、多面的に物事を見て、その上で自分はこう思う、なぜならば……と言えるレベルになること。これがまず大前提です。まずは、自分自身のベースとなる“考える力”を養うことが何より重要だと思います。 ――先ほど、インターンシップの在り方も変わっていくだろう、というお話がありました。具体的にはどのような変化が訪れるとお考えでしょうか? 近年は人手不足の実情もあって、学生側は志望企業に入りやすい状況が生まれているはずなのですが、企業と接触する機会を春の説明会からつくり始めるのではなく、それより前の時期に実施されるインターンシップにも参加する傾向が、ここ数年でむしろ強まっています。 この現象が意味しているのは、「企業に採用してもらう」という従来の学生側のスタンスが、「自分にとって相応しい企業をしっかり見極める」というものへと移行しつつあるということです。「説明会と面接だけで自分の働く場を決めたくない」と思うからこそ、インターンシップや各種の就職関連イベントに足を向ける学生が増えているのだと私は捉えています。 同じような心理変化は企業にも起きています。「1人でも多くの人材を確保したい」という量的な発想の企業もありますが、「『誰でもいいから採用したい』のではなく、真に有望な人材と出会いたい。そのためにも自分たちのビジネスやそれを支える理念や価値観をしっかりと発信して、共感してくれる学生と向き合いたい」と考える企業が圧倒的に多い。そして、このような思いがあるからこそ、良質なインターンシップを実施して参加者を募るところが増えているのです。 おそらくこうした就職する側と採用する側の変化は、今後ますます加速すると考えていますが、学生側の目線で考える時、懸念していることも私にはあります。それは「とりあえずインターンシップに数多く参加してみる」という発想では駄目だ、ということです。 先程も申し上げたように、インターンシップを開催する企業側は、真に価値観を共有できる学生と出会うことを目指しています。私たちBCGも、まさにそういうスタンスでいます。闇雲にたくさん参加するのではなく、「自分がイメージするキャリアビジョンに適した場はどこなのか」をしっかり見極めるための貴重な機会としていかなければいけません。 さらに今後は、学生自身が「本来持っている自分のポテンシャルを企業側へ伝える場」へと進化していくと見ています。これまで以上に、学生側には自分が持つ能力や伸びしろを発信する力、企業側にはそれを正しく見定める力が必要になるでしょう。――最後に、変化の激しい時代に、自分らしくキャリアを築いていくために必要なこととは何だとお考えでしょうか? 冒頭でも水越のコメントに触れましたが、これからは「自分のキャリアに自分で責任を持たなければいけない時代」です。受け身にならず、一人一人がプロアクティブにキャリアを創ることが何よりも大事であると考えます。 この連載企画のタイトルでもある「キャリア&ライフデザイン」というものを、学生のうちから明確にイメージし、ビジョンを持つことは容易ではないでしょう。私自身、学生時代にそんな立派なものを持ってはいませんでした。 しかし、これからキャリアをスタートする人たちにとっては非常に重要なものになるはずです。自分なりのキャリアイメージや人生設計というものに取り組みつつ、そのために必要なものは何かを考え、同時に今の自分に不足しているものも見つけ出し、「それをどこで、どんな人たちに囲まれながら、どうやって手に入れるのか」を考えなければいけません。 最初はモヤモヤした曖昧な中身でも構わないのです。ただし、「“何”がやりたいかはあるが、“どうやれば”できるかは分からない」なのか、「“何”がやりたいかはまだ分からないけれど、絶対に見つけたい」なのか、曖昧さの中身を明確に認識することは必要です。自分の立ち位置を正確に把握できれば、次第に次のステップが見えてくるはずです。 そのためには、自分に足りないものを素直に認める姿勢とそれを補う努力や工夫、そして腹をくくり、責任を持って自分の選択したキャリアと人生を全うする。そうした“強さ”がこれからの学生には不可欠だと思います。私としても、そのような学生と出会える場を今後ますます模索していきますし、巡り会えた方々と共に、このBCGを通じて成長していきたいと望んでいます。 取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第6回のテーマは「グローバルキャリア」。業種や企業規模に関わりなく、あらゆる企業が国際市場での成功を目指す今、グローバル人材の育成は経営の至上命題ともなっている。果たして「世界で活躍する人材」になるためには、どのようにキャリアを形成すれば良いのか? ユニ・チャームのグローバルマーケティング部門で活躍中の横関秀憲氏と、BCGで数多くのグローバル案件を担う滝澤琢氏に、実体験に基づくアドバイスをもらった。――20代からグローバルビジネスに携わってこられたお二人ですが、「グローバルで活躍したい」という意向はいつごろから持っていたのでしょうか? 横関秀憲氏(以下、横関): 正直なところ、入社当時の私の関心は国内にありました。もちろんユニ・チャームがアジアを筆頭に海外での業績をどんどん伸ばしていることは知っていましたが、私自身は成熟した日本市場での事業に魅力を感じていたんです。グローバルマーケットのことをろくに知りもしないで「日本が一番」なんて思っていたんですよ。 ですから、異動で今の部門に入り、アジアでのベビー向け紙おむつ事業に携わることになって初めて、成長市場でビジネスを展開することの醍醐味に触れ、強烈に魅力を感じるようになりました。 滝澤 琢氏(以下、滝澤): 私は逆に、就活をしている時から「グローバルなビジネスに携わりたい」という志向で、それが就職先選びの軸でもありました。ですからトヨタのようなグローバルメーカーのほか、総合商社なども応募していましたし、トヨタ入社時の配属先希望でも「海外事業に携われる部署へ」と強く主張しました。 願いが叶って海外市場向けの商品企画を担当し、そこでのオペレーションを一通り覚えた後は、より経営に近い領域でグローバルビジネスに携わりたいと考えるようになり、BCGへの転職を決めました。もちろん前職での経験も、今の仕事にとても活きていると実感しています。 ――「グローバルなキャリアを形成したい」という学生は多くいます。実際に海外での仕事に携わっているお二人は、その醍醐味や魅力を特にどういう場面で感じるのでしょう? 滝澤: 現地に足を運び、現物に触れ、人と出会って初めて遭遇できる新鮮な驚き。それが一番ですね。 私が前職で参画したあるプロジェクトでは、ヨーロッパで販売する小型車の商品企画を担当することになりました。同じ車に乗るのでも、その使われ方や生活シーンは日欧で全く違うのではないか、という発想から現地に飛び、現地スタッフと共に車を走らせて何日もヨーロッパ内を移動したんです。 例えば大型量販店の駐車場などで買い物客の動向を観察したり。大きな商品を購入した人が、それをどうやって自分の車に乗せるのか。どんなふうにシートを倒して、どう自分たちが乗り込んでいくのか。そういう何気ない日常の生活シーンを見るだけでも、日本と全く違っているのです。日本にいるだけでは見えてこない、小さな発見の一つ一つからインサイトを得ていく過程が実に面白いんですよ。横関: ああ、すごく分かります。私は今まさに東京とアジアの複数の都市を行ったり来たりしているんですが、対象が紙おむつという毎日の消耗品の場合でも同じですね。 日本とは使用頻度など、使われ方が全然違いますし、同じアジアでも国によって違いがあったりします。それを知っていくだけでもワクワクしますよね。 滝澤: はい。現地・現物こそがマーケティングの基本、という発想は何も当時のトヨタや自動車産業に限ったことではなくて、今私がBCGで携わっているさまざまな企業の多様なプロジェクトでもベースになっています。 泥臭いと思う人もいるかもしれませんが、あらゆる製品やサービスが、世界各国でそれぞれ独特の使われ方、親しまれ方をしている。世界を見渡せば、想像もつかない、知らないことだらけです。だからこそグローバルな仕事は面白いし、やりがいもある。 横関: もちろんアンケート調査などもします。日本に居ながらにして取得できるデータもありますが、やっぱり現地に行かないと見えてこないことがたくさんある。 それに、アジアの新興国では急速に成長している地域も多いので、同じ街であっても去年行った時と今年とでは生活ぶりがガラッと変わっているケースがあります。 生活者の所得水準が低くて、紙おむつが高価な商品だった時には「紙のおむつを使うのは夜寝る時に1枚だけ」だったのが、急激な経済成長でより身近な商品に変わっている、などということも珍しくありません。 滝澤: 成熟市場である日本では経験できないような変化のダイナミズム。それと向き合う醍醐味もグローバルビジネスの面白さの一つですよね。 私の場合、前職時代にも中国市場を担当した経験があったのですが、その後BCGで中国関連のプロジェクトを担当し、何年ぶりかで向こうに行ったんですよ。そうしたら、まさに横関さんが仰った通り、現地の様子が経済成長のおかげで一変していてとても驚きました。 ――「グローバル」というキーワードが出ると、必ず英語をはじめとする語学力が話題に出ます。お二人はどの程度、外国語を習得しているのでしょうか? 滝澤: もともと英語は苦手でした(笑)。何とか通じる程度でしかなくて、ほとんどがOJT、仕事で必要に迫られる中で少しずつ覚えていきました。 横関: 私なんていまだに苦手です(苦笑)。それでも、なるべく自分で話すようにはしています。現地では通訳の方に入ってもらう場面もありますが、現地の人の心に飛び込んでいかないと、先ほどお話をしたような実態にも触れられません。ですから、下手でもいいからなるべく自分で話すようにしています。 アジアだと相手側も英語が流ちょうなわけではありませんので、カタコトながらも現地の言葉を使ってコミュニケーションしてみることも多いですね。滝澤: 同感です。アジアだろうとヨーロッパだろうと、大切なのは言語ではなくて、どれくらい相手の懐に飛び込み、相手と同じ目線になれるかです。 ですから、グローバルなキャリアを目指す学生の皆さんにも、まずは物怖じしないメンタリティーを持つことをお勧めしたいです。 横関: 私は最初の数年間、日本市場と向き合いながら仕事を覚えていきましたが、そこで得た教訓の一つが「悩んだら消費者に聞け」ということです。それは海外でも同じで、分からないことがあったら、現地の人に聞くのが一番。 「外国だから」とか「語学に自信がないから」といって、自分で壁を作っていたらビジネスなんて前に進みませんよね。 滝澤: 仰る通りですね。私の場合、BCGのミュンヘンオフィスに赴任した際に実感しました。 クライアントはドイツ人で、ドイツ人のコンサルタントばかりのプロジェクトチームに、ごく当たり前にメンバーとして組み込まれる。メーカーでの若手時代と違って、一人のプロフェッショナルとして価値を出すことが常に求められる状況です。私が英語やドイツ語を話せるかどうかなんてことは関係ありません。問答無用での武者修行でした(笑)。 しかし、そういう環境があったおかげで、少なくとも現地で通用するだけのメンタリティーを養っていくことができました。 ――物怖じせずに飛び込んでいく姿勢の他に、何かグローバル人材に必要な素養や資質があれば教えてください。 滝澤: プロジェクトをリードする立場を任されるようになると、クライアントの経営幹部クラスと話をする機会が増えていきます。その時、痛感するのが思考様式の違いです。 グローバル企業の経営幹部は物事をストラクチャー化(構造化)して捉えた上で、ロジカルに判断する方が多いです。非常に忙しい中で、スピーディーに決断を下すのが当たり前の環境がそうさせるのでしょうね。そうした経営幹部クラスと対峙するには、自分の言いたいことを、分かりやすくシンプルに伝える力が問われます。もたもたしていては「いいから、早く結論を言え」と言われかねない。横関: すごく分かります。アジア市場の場合、日本のメーカーの人間が行くと、向こうの人たちは何か重要な意思決定ができる存在が来た、と思って迎えます。判断を仰がれた時、「社に持ち帰って検討します」と答えればすむような状況ではないことが、非常に多いですね。求められるスピードが違う。 滝澤: 日本のビジネスにはスピード感がない、みたいな話がよく出ますけれども、実際のビジネスのスピードに差があるわけではなく、思考プロセスの速度の違いが大きい気がしています。 ですから国内での仕事に携わりながら、いつか海外を目指したいという方は、日本にいるうちから物事を構造化して捉え、言いたいことをシンプルに分かりやすくまとめるというスタイルを常に意識し、鍛えていくといいのではないでしょうか。 横関: 私はまさに日本での仕事経験を積んでからグローバルビジネスに携わるようになりましたが、滝澤さんが仰る通り、日本という恵まれた環境にいる間に、学んでおけることがたくさんありますよね。 滝澤: 私は国内での仕事は、人材育成視点で見たときの“道場”のような存在だと思っています。国内のビジネスは、企業にしても商習慣にしても長い歴史の上で確立されてきたものであり、深い学びが得られます。ここで修行を重ねて“ビジネスをする力”を養った上で、グローバル市場に出てストレッチされると、より大きな成長が得られるのではないでしょうか。 ユニ・チャームさんのように海外で成功している企業の場合、当然グローバル部門に人気が集まりますよね? 横関さんのように抜擢されるためには一定の基準のようなものがあるのでしょうか? 横関: 明確な基準は聞いたことがありませんが、やはり国内のビジネスで一定の実績を上げることは必要だと思います。 とはいえ、新卒入社2~3年目の若手がいきなり大きな成果を挙げられるはずもありません。大事なのは、自分で目標設定をし、それを達成するという小さな成功体験を積み上げることです。そしてそれらの経験を通して、社内外の幅広い人たちとの間に信頼関係を築いていくことも重要です。 私自身は20代で、「お得意先に『横関さんを』とご指名をいただけるようになること」、「何かのテーマで『全国で一番』の成果を挙げること」という2つの目標を立て、どちらもクリアすることができました。そのための数々の地道な努力や行動が、自分の自信になり、その後のキャリアの広がりへ繋がっていると思います。――これまでのグローバルな取り組みの中で、特に成長できたと思える経験について教えてください。 滝澤: BCGに入って3年目に、グローバル展開をしているあるクライアントからの依頼で、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国という4つの地域を対象に、消費者インサイトを調査するプロジェクトを担当しました。 それぞれ異なる市場特性を持つ地域で個別に成功していくための手立てを考えるのではなく、この4エリアの特性を踏まえた上で、グローバル全体でどういう方針を取るべきかを導き出すチャレンジでした。 当然、とても難しいテーマです。単に固有の複雑性を持つ各エリアの特徴をピックアップして、最大公約数的な結論を出しても、実際のビジネスに役立つ価値にはなりません。しかし、これこそが本当の意味でのワールドワイドな取り組みですから、難問ではありましたが、自身を成長させる機会になりました。 横関: 私も似たような経験を今現在していて、成長を実感しているところです。2018年以降に発売する計画の新製品についてのマーケティングプロジェクトで、今リーダーを務めているのですが、パッケージやPR用のコピーなどを作っていくオペレーションだけでなく、原価計算から事業すべての設計まで任されています。 ここまで大きな裁量を任されるのは私にとって初めての挑戦で、経営陣から叱咤激励を受けつつ(苦笑)、今までとは比べものにならないほど複雑多様な人たちと向き合って仕事をしているところです。 私もまた多様性の中で調整能力を発揮して結果を出す、という試みをしているところなので、これを乗り越えたらまた一つステップアップできるのではないかと思っています。滝澤: やはりグローバルな仕事には、複雑性や多様性が必ず付いて回りますよね。文化も価値観も異なるし、スピード感や意思決定プロセスも違う中で、次々と知らないことや驚きに出会う。 新しい体験の連続ですから、知的好奇心が大いに刺激されます。それを面白いと思えれば、国内で得られるものよりも数段大きな成長が実現できるのではないでしょうか。 横関: そうですね。国内市場にも独特の成熟度や深みがあるので、学べることはたくさんあるけれども、世界に出てみれば知らないことの方が圧倒的に多いです。それを知るのが面白いと思えれば、少々しんどくても自分を高めていくことができます。しかも成果のスケールも大きい。 私の夢は世界中の「不快」をユニ・チャームの製品で「快」に変えていくことなので、これからもさらに成長していかないと、と思っています。 滝澤: 素晴らしいですね。私も30代は経営視点でビジネスに携わりたいという強い思いを持ってBCGに入社しました。実際、自己を高める多くのチャンスが広がっている環境ですから、新しいものをどんどん吸収して、コンサルタントとしてさまざまな領域でクライアントに貢献できるよう頑張ろうと思っています。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第5回は、「より良い社会の実現につながる仕事とは何か?」に迫る。官公庁はもとより、NPOやコンサルティングファームがさまざまなアプローチで社会変革と密接に関わり始めている今、「仕事を通じた社会変革」の在り方をどのように捉えるべきか? 三者三様のキャリアの持ち主による座談会から読み解いてほしい。――まずは皆さんがファースト・キャリアを選択した経緯を教えてください。 石田春菜氏(以下、石田): 学生時代から「どんな職業を選んでも1日の多くの時間を仕事に費やすことに変わりはない。それならば社会に何かしらでもインパクトを出せる仕事がしたい」と考えていました。 当時の私の発想では、国で働くことが一番社会へのインパクトを創出しやすいと思えましたし、幼い頃から海外に興味を持っていたので、単純かもしれませんが最初の就職先は「外務省」という答えにたどり着きました。 小沼大地氏(以下、小沼): 私の場合、学生時代は体育会系一色で生きてきたこともあり、「教職に就き、何らかの部活の顧問になりたい」と考えていました。そして「教師になる者が社会を全く知らないままなのは良くないだろう」という考えから、大学院を一旦休学して青年海外協力隊への参加を決めたのです。 シリアでの活動に参加する中で、コンサルティングファームで働く方と出会ったのですが、その方のキャリアについての考え方に強く影響を受けました。「これからは社会貢献とビジネスとがクロスオーバーする領域でこそ、大きなインパクトを生み出せるはずだ」と言うのです。 教師志望だった私は、それまで「ビジネスなんて、ただの金儲けじゃないか。興味ない」などと感じていたのですが、「何か面白そうだぞ」と、俄然興味を持ち始めたのです。シリアで出会った方への憧れもあり、コンサルタントになろうと決め、マッキンゼーにに入社し、約3年間働きました。 菊池沙織氏(以下、菊池): 私は法律家を目指すべくロースクールに通っていたのですが、事後の紛争解決に奔走する法律家ではなく、未然に事を防ぐために企業をサポートするビジネス・ロイヤーのような職業に就くことを、最初は何となくイメージしていました。しかしその後、当事者の視点から法律を解釈するよりも、法律や社会の仕組みそのものを作りたいと考えるようになったんです。 もともと暮らしやすい日本が大好きだったので、少しでも日本のためになる仕事がしたいという気持ちもあり、「日本が国際的な発言力を持っている背景には経済力がある。経済にばかり頼るのもどうかとは思うけれども、やはり最低限の経済力がなければ、国の幸福度は上がっていかない。これからの日本はどのように経済力と発言力を維持していけばいいのだろう」などと考えるうちに、このような課題と真正面から向き合いたくなっていきました。 そこから先は石田さんの学生時代と少し似ています(笑)。単純に「それなら経済産業省だろう」と思い、入省を決めたのです。 ――小沼さん、石田さんのお二人がキャリアチェンジをした背景にはどのような思いがあったのでしょうか? 小沼: 私の場合「国や世の中をこの手で変えるぞ」というような崇高で壮大な志を持っていたわけではありません。今も胸の内にあるのは、「一隅を照らす存在でありたい」という思いです。国とか世の中というスケールではなく、自分の身の回りにいる人たちの役に立ちたい、という気持ちでNPO(クロスフィールズ)も設立しました。 この団体で提供している『留職』プログラムは、日本企業の方々をアジアの新興国に一定期間派遣して、ご自身が持っている専門性や仕事で得た知見を活用しながら現地の社会課題の解決に貢献してもらう、という内容です。この仕組みを考えたきっかけも、周囲の同年代の友人たちが社会に出て数年経ち、仕事への情熱ややりがいを失い始めている姿を見て、「どうにかしたい!」と思ったことでした。 一足飛びに「国を変える」ようなことはできなくても、日々の仕事を通じて身近な人たちの役に立てたり、周囲の環境を少しずつ良くしたりすることはできる。そう気付けば、どのような仕事をしていても確かな手応えを感じて、前向きに生きていけるのではないか。自分の仕事の意義を再確認する場として、留職を活用してほしいと考え、スタートしたのです。 石田: 役人になるとか、コンサルタントになるとか、そういう特定の職業を選択した人だけが社会を変えるのではなくて、どのような仕事をしていても一人一人の心持ち次第で社会的意義は生まれてくる、という発想ですよね? 私もすごく共感します。 小沼: 何の仕事を選ぶかで「社会を変えられるかどうか」が決まるのではなく、どのような仕事であっても「少しでも世のためになれたら」という思いを込めて青臭く働くことはできるし、皆がそうするだけで世の中はもう変わり始めると思うんですよね。 菊池: 私もそう思います。すべての仕事は社会につながっていますものね。 小沼: だからこそ、菊池さんも参加している『次官 若手プロジェクト』の報告書にはドキッとしました。今後の社会貢献について、いろいろ触れられていましたから。 菊池: 短期間で100万以上ダウンロードされ、賛否両論のいろいろな反響がありましたから、作成した私たち自身も驚いたのですが、多くの方に反応してもらえたことはやはりうれしかったです。 調査をしていて気になったのは、今の若い世代が「社会に貢献したい」と思っていながら、「自分が社会を変えられる」と思っている人は少数派だった点ですね。 中には「社会を住みやすく変えるのは官の責任。なのに問題提起に終始していて解決策が提示されていない」というご意見もありました。もちろんそこは厳粛に受け止めたのですが、逆に「官も民も一緒になって取り組めたら、もっと変えられる」という思いがより一層強くなったのも事実です。ですから、先ほどの小沼さんや石田さんのご意見には、私も強く共感します。 石田: 私は官庁に9年勤めてからBCGに転職しましたが、官庁での仕事に限界を感じて辞めたわけでは決してありません。オリンピックの招致など本当に面白くてやりがいのある仕事をいくつも経験させてもらいました。少しは世の中に貢献できたはず、という自負も持っています。 転職を決めた理由は家庭の事情もあってのことですが、公務員として働く中で、むしろ「社会に貢献するためのアプローチは、何も官庁でしかできないわけではない」と気付いたことが大きいですね。 コンサルティングは企業の経営課題を解決する仕事ですが、クライアントのビジネスをより良くすることで、その先にあるクライアントの顧客により高い価値を提供できる。結果、クライアントを通して社会に大きな貢献ができていることを実感しています。 小沼: その通りですね。私がマッキンゼーを退職した理由も、「コンサルタントという職業には社会的意義がないから」ではありません。むしろ大ありなのだと在職中に学びました。 私はちょうどリーマンショック直後に入社したため、「クライアントの収益をどう確保するか」が至上命題ではありましたが、そこに終始せず、すべてのコンサルタントが「産業を復興させることで社会を甦らせて、幸せな世の中を取り戻そう」と真剣に考え、議論していました。 たまたま私は、シリアで得た「社会貢献とビジネスを融合させる」というテーマに挑むという目標があり、当初から「学びの場として3年間コンサルタント経験を積もう」と計画していたので、時期が来て次のステップへ進んだというだけのことです。 石田: 外資系コンサルティングファームで働いていると言うと、いまだに「お金を稼ぐため」とか「出世競争がすごい」といった誤解や偏見を受けることがあります(笑)。 しかし、公務員の世界から来た私が驚くぐらい、コンサルタントたちは皆、社会のあるべき姿やそこに向けた変革への情熱を持っていて、日々の仕事を通してより良い世の中を実現することに意欲的です。実際、コンサルティングファームは今、多くの官庁と社会変革プロジェクトを進めていたりもします。 菊池: そうですね。協業することも多いですよね。私たちパブリック・セクターにもコンサルタント出身者は少なくありませんし、逆に石田さんのように官僚からコンサルタントになる方もいます。 コンサルタントの間違ったイメージ同様、官僚もまた誤解されているところが多いと思います。経済産業省も本当に多様な人間が集っていますし、世の中のあるべき姿やそうしていくための方策論などを年中議論しています。世間に思われている以上に、自由闊達で風通しの良い組織ですよ。 ――「より良い社会の実現につながる仕事とは何か?」という問いに対して、皆さんは「職業で決まるわけではない」という共通見解をお持ちです。では、どのような働き方をすれば、より良い社会を創る担い手になれると思われますか? 小沼: 私たちNPOの間で最近よく語られるリーダーシップ論の一つに「トライセクター・リーダー」があります。簡単に説明すると、非営利団体、民間企業、公共機関の3つのセクターの特性や強みを熟知していて、三者の融合を図れるリーダーが社会変革を成功させる、というものです。 このトライセクター・リーダーの発想をもう少し拡大して解釈すると、複数の“場”をまたがって経験した人こそが、これからの時代のリーダーにふさわしい、と理解することもできます。ここで言う“場”とは、全く違う視点やスキルを持つ立場という意味です。 実はクロスフィールズの留職も、企業人のセクターを広げ、異なるセクターとの接点を提供することで、成長を実現してもらうプログラムだと言うことができるんです。 石田: 特殊なキャリアや立場に就いていなくても、セクターを広げたり、またいだりする経験はできるし、そこで貴重な体験を得れば、「より良い社会の担い手」になれる、ということですね? 小沼: そうです。留職を通して私たちが提供したいのは、「自分」と「仕事」と「社会」という3つのセクターが一直線につながっていることを体感すること。これが後のキャリア形成の“原体験”となると考えています。 例えば初期の留職プログラム参加者の中に、電機メーカーの方がいらっしゃるのですが、この方はベトナムの無電化地域に派遣されました。すると、持ち前の知識や技術を応用して太陽光を利用した家電の改良に携わり、大いに現地の方々に喜ばれました。 その方自身も「自分の仕事が、こんなにもダイレクトに社会の役に立つのか」と改めて実感でき、それまでとは仕事への向き合い方が一変したそうです。その後、現地での気付きを活かしてIoT家電領域で新たな製品を考案し、現在はその新規事業をリードされています。 菊池: すごく興味深いお話ですね。私は以前所属した新規産業室という部門で、「どうすれば日本の大企業がベンチャーのような斬新な発想による新規事業でイノベーションを起こせるのか」について頭を悩ませていた経験があります。 年功序列などの古い慣習の名残がある大規模な組織の中で、個人が埋没せずにアイデアを形にして、それを組織が取り上げ、膨らませていく営みは、なかなか成功事例に結び付きません。もしかしたら働き方や、原体験の持ち方によって、この問題は打開できるかもしれないし、そもそも大企業で働く方の意識自体が変わりますよね。小沼さんが例に出された家電メーカーの方のようなケースが増えれば、社会は確実に変わっていくと思います。 石田: 私はBCGで海外企業との合弁事業に関連するプロジェクトを多く担当していますが、企業の経営陣もグローバル展開を進める中で、他企業とのコラボレーションを通し、「セクターを越える」チャレンジを積極的に進めようとしています。トライセクター・リーダーのお話がありましたが、各方面で着実に何かを変えようとしているのは間違いないですよね。 ――最後に「世の中に貢献したい」という気持ちで就職活動時期を迎えている学生に、皆さんからアドバイスをお願いします。 菊池: 現代の若者は変化の時代の荒波の中、「ただお金を稼ぐためだけでなく、少しでも社会に貢献できる働き方をしよう」という層と、「こんなにリスクだらけで先が見えない世の中なのだから、何かにしがみついて静かに生きていこう」という層に、二極化しつつあるのではないでしょうか。 もしも皆さんが前者であるなら、「何になったらできる」とか「どういう機関にいないとできない」というような固定観念にとらわれず、どんな立場でも「どういう社会にしたいのか」を考え続けてほしいと思います。そして後者であっても、皆さんを取り巻く社会への関心を失わないでほしいです。 高齢化も相まって人生二毛作、三毛作の時代と言われています。1つのキャリアで全てを達成しなくとも、「いつからいつまではこの価値観で社会を見てみる」「もし足りなければ違うアプローチを試してみる」というような柔軟な発想と、緩やかな計画性を持って社会に出たら、きっと巡り合う仕事の一つ一つを面白く感じるはずです。 石田: 私は、今という時代には2つの「ソウゾウリョク」がとても大事だと思っています。イマジネーションの“想像力”と、クリエーティブの“創造力”です。 まずは「今手掛けている自分の仕事は、一体何のためにあるのだろう。社会の何につながっているのだろう」という想像力を発揮する。そして、その答えらしきものが見えてくれば、その時点から創造力の方をフルに使って、自分ならではのアプローチをすればいい。 こうして2つのソウゾウリョクを駆使していけば、どのような仕事でも、社会を良くすることにつながっていく。そう私は考えています。 小沼: 先ほどもありましたが、「この職業に就いた人だけが社会を変えていく」というわけではありません。自分と仕事と社会とを一直線でつなぐことができたら、誰だって、どんな職業に就いていたって、社会変革につなげていくことは可能です。 「でも、どういった仕事に挑戦すればいいのか分からない」というのであれば、とにかく何かに飛びこんでしまえ、と言いたいですね。極端な例かもしれませんが、石田さんがおっしゃったような想像力を持ち合わせていなかった学生時代の私は、電車の中で広告を見つけて、青年海外協力隊に飛び込みました(笑)。けれども、飛び込んだことで次のキャリアにつながる出会いや学びを得たのです。 何もしないで考え込んでいるくらいなら、思い切った場面に自分を投げ込んでみる。そこで五感を研ぎ澄ませながら体験を重ねていけば、ようやく鈍かった想像力が稼働するかもしれない。私の場合はそうでした。まず行動。そこでキャリアについての解像度を上げていく。先が見えない時代だからこそ、そのようなアプローチで挑戦してもいいのではないかと私は思います。 石田: キャリアの違いこそあれ、お二人の考えに共感できることが多くて驚きました。逆に立っている場所が違うからこそ、それぞれの強みや特徴を活かしたアプローチで社会変革や課題解決につなげることができるとも思います。 仕事を通して想いを社会につなげていく。世の中に役立ち、良い方向に変えていく。これから社会に出て行く学生の皆さんにもこの想いを持ってそれぞれの仕事に向き合っていただけたら、未来の社会を変革する原動力になると信じています。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴) =関連リンク= ■BCGデジタルベンチャーズのジャパンヘッドが語る、プロフェッショナルへと成長するために必要な2つの力 ■デジタル・ネイティブ世代の理系出身者に広がるビジネスチャンスとは? 「何がしたいか」を探すキャリアの描き方 ■10年後、20年後にどう生きたいか――。「自分らしく働く」を見つける就活とは?【学生×20代コンサルタント座談会・前編】 ■ボストン コンサルティング グループの企業情報 =外部リンク= ■ボストン コンサルティング グループ公式Webサイト ■ボストン コンサルティング グループ採用トップページ
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第4回は、2016年にBCGデジタルベンチャーズの日本拠点立ち上げに参画した2人の対談。多様なキャリアを経験した後、BCGとは異なる色のチームをリードする2人が、新しい時代のプロフェッショナル像について語ってくれた。 BCGデジタルベンチャーズ(以下、BCGDV)は2014年に米国ロサンゼルスで誕生した、大企業と共にデジタル領域のイノベーションを創出することに特化した組織だ。 デジタルが全てに絡んでくると言っても過言ではない昨今、イノベーションの実現を目指す大企業の変革パートナーとして、さまざまな新しいサービス、事業を次々と生み出している。 2016年、日本のBCGジャパンでパートナー&マネージング・ディレクターを務めていた平井陽一朗氏のリードで、東京にBCGDVの日本拠点が設立された。すでに大企業との変革プロジェクトが複数進んでいる。 ――お二人がBCGDV東京オフィス設立の立ち上げメンバーとなったのは、どのような経緯があったのでしょうか? 平井陽一朗氏(以下、平井): BCGDVは、クライアントである大手企業と進めるイノベーション創造プロジェクトで、アイディアの創出、新事業の戦略立案から、実際のサービス立ち上げまでを手掛ける、コンサルティングとスタートアップベンチャー、ベンチャーキャピタルの機能を併せ持つ組織です。 私はBCGを1度退職したのですが、コンサルタントとして大手通信事業会社の案件に深く関与した経験があり、またその後のキャリアでは、ディズニーやオリコンでエンターテインメントに携わりながらデジタル領域の事業にも関わってきたため、この分野には人一倍思い入れがありました。 ところがBCGに復帰して改めて市場を俯瞰してみると、日本の産業界のデジタル事業は完全に世界の先進勢力から周回遅れの状態でした。グローバル規模で存在感を発揮するようなスタートアップベンチャーもいまだ生まれていません。「何とかしたい」という気持ちが、BCGDV東京オフィス立ち上げ責任者を務めることになった、最も強い動機です。 日本の大企業に変革を起こし、揺り動かしたい。また、日本の大企業には、アセット、つまり豊富な資金と優秀な人材が多く潜在していることを、さまざまな経験を通じて実感していましたから、この「眠れる資産」を引き出してビッグ・ベンチャーを創出し、大きなインパクトを生みたいと考えたのです。 山敷守氏(以下、山敷): 私も「大企業の潤沢なリソースを存分に活かして、大規模なイノベーションを実現させたい」という気持ちがあり、前職を退いていました。そのようなタイミングでたまたま平井と出会い、BCGDV東京オフィス設立時から参画することになったのです。 ――BCGDV東京オフィス設立後、約1年が経過しましたが、現状はいかがでしょうか? 平井: まだ数十名ほどの小さな組織ですが、それぞれ異なる専門分野で力を磨いてきたプロフェッショナルが在籍しています。山敷をはじめ、プロダクトマネジャーたちは、これまで起業や新規事業の立ち上げを経験してきていますし、ストラテジックデザイナーやエクスペリエンスデザイナーの多くはデザイン領域で実績を上げてきた者たちです。そういった多様な専門性を持つメンバーが協働し、プロジェクトに取り組んでいます。 企業からは、我々が驚くほど反響をいただいており、複数の大きなプロジェクトが動き続けています。 山敷: 私自身も今、メディアコマースに関わる長期的なプロジェクトを担当していますが、BCGDVと日本の大企業との間でスタートしている取り組みは、いずれもダイナミックで革新的な内容です。近い将来、市場に大きなインパクトを与える可能性に満ちています。 ――プロフェッショナルとして成果を出し続けてきたお二人から見て、これからの時代、ビジネスプロフェッショナルへの成長を目指すのであれば、何が重要だと思いますか? 平井: プロフェッショナルという言葉にはいろいろな意味合いがあります。コンサルタントやエンジニア、デザイナーなど、職種ベースで何を目指すのか、どんな専門性を磨くのか、という発想で語られることもありますが、ここでは“成果にコミットできる人材”という捉え方でお話しすると、私が大事だと思うのは「自活力」です。 具体的に申し上げると、どこに行っても1人で生きていける力のことです。 例えば、私の周りには学歴や専門知識などとは無関係に、自営業で成功している知人・友人が大勢います。いわゆるエリートではなく、選択肢もある程度限られていたからこそ、情熱を力にして、圧倒的なパワーで目の前の事業を成立させることに成功している。こういう人たちは、まさに自活力があると言っていいでしょう。 では一方で、有名大学を出て学歴的にはいわゆるエリートと言われる人たちはどうかというと、良くも悪くも雑音にさらされやすいと思います。 「やりたい」と思ったことを自分から取りにいかなくても「できますよ」という雑音があちこちから届き、選択肢が無限に広がってしまう。その結果、思い切った選択をする人間がごく少数になっている気がします。 山敷: 確かにそうですね。私はその少数派でしたが、やはり一般的には、ファーストキャリアでは大企業に入るような道を選びがちということは言えると思います。 平井: 実は、私自身がそうでした。このようにお話しすると、大企業に入ることがややネガティブに映るかもしれませんが、大企業に入ったからこそ手に入る「ビジネスを拡大させる力」というものもある。それは、紛れもない事実です。 理想は、「自活力」と「ビジネスを拡大させる力」、この両方を併せ持ち、ブレンドして活用していくことじゃないかと思うのです。 自活力はあるが、ビジネスを拡大できない。ビジネスを興す知見はあれど、成し遂げる自活力がない。どちらか一方だけでは、新しいビジネスやマーケットを作ってイノベーションをリードするプロフェッショナルにはなれないと思います。 山敷: 大企業のように恵まれた環境に入ると、2つのタイプに分かれるような気がします。「安定した収入があるから、それで幸せ」と思える人間と、あえてリスクや責任の重い仕事、例えば新規事業などに果敢にチャレンジしようとする人間。 平井: 前者のような人たちの、そういう生き方も一つだと思いますし、後者のような人であっても、なまじいろいろなことができる環境と立場を手に入れてしまったがゆえに、器用貧乏になってしまうパターンもあります。 こうなると、最初に挙げた自活力がある人たちが持っているような熱量を発揮しないまま、「何がしたかったんだ、自分は?」となって埋没していく人も少なからずいます。 ――入りたい会社に入って、やりたい仕事にも就いたけれど、いつの間にか閉塞感を覚えて……というケースは多そうです。 平井: そうですね。何になってもいいし、どんな会社に入ってもいいけれども、重要なのは、とにかく最初の数年間にどれだけ意志を持って、自活力を磨けるかどうかで後々違いが出てくる、ということです。 ビジネスを拡大させる力は後から強化していける可能性がありますが、自活力は最初を逃すと致命的だと思います。山敷: 私は学生時代から事業立ち上げに興味があり、いろいろなことにチャレンジしました。 最初に手掛けたのはフリーペーパーの事業です。全然スマートさはなく、足を使って泥臭く営業して広告を取ったり、という感じでしたが、どうにか事業として成立するようになりました。これも自活力の一つだと思うのですが、立ち上げてみると「なんだかスケールが小さいな」という感覚を味わい、もっと大きなビジネスを仕掛けたくなりました。 結果、SNSを運営する会社の立ち上げに参加し、一時期は多少成果も上がったのですが、ベンチャーは経理でも人材採用でも、とにかくあらゆる業務をすべて自分でやらなければならない。サービスだけに集中できる環境じゃないんですね。ヒト・モノ・カネに悩むことのない環境で、思い切り事業に没頭してみたいと思うようになって、最初の会社に入社することを決めたのです。 平井: もちろん学生起業家で成功して、その会社をどんどん拡大していけるならば、それは素晴らしいことだけれど、必ず壁のようなものが現れる。 山敷が在籍していたメガベンチャーは、次々に新しいことを手掛けていたから、より大きなスケールの挑戦をするには、環境として申し分なかったはずだと思います。 山敷: 私にとっては本当に理想的な場でした。この会社にあるものを好きなだけ使って新しいことをしていい、その代わり成果を上げろ、というような企業でしたから。 1つ新しい事業を軌道に乗せた後、また別の新しい事業にチャレンジしたくなって、さすがにその時はすぐには許可をもらえず、「今の仕事は200%やりますから、こっちもやらせてください!」と直訴して、無理を通したこともありました(笑)。平井: 私がそもそも三菱商事を辞めてBCGに入社を決めたのも、「頭はいいけどビジネスをやらせたらオレの方が上」なんて思っていた友人がBCGに入社して、久しぶりに再会したら、ものすごくデキるビジネスマンに成長していて、正直それが悔しかったのがきっかけです。BCGという場を最大限有効活用して、自分も大きく成長したいと考えました。 その後も「やりたい」と思える仕事が現れると、後先を考えずに転職したりもしました。それでも大企業という枠組みの中で、その会社が持っているリソースを活用しながら多くのチャレンジをさせてもらえたおかげで、私なりの自活力が手に入ったのだと思います。今、BCGDVでの仕事を心から楽しめているのも、そうしたすべての経験が活きています。 山敷: 私は前職でも、さまざまな新規事業に携わり、一定レベル以上の数字が出るものもありました。が、目指すレベルの成果には程遠かった。「このままではいけない、自分のやり方を根本的に変えなきゃダメだ」という思いから、前職の環境から飛び出し、武者修行をしようと決めたのです。自分の考えが甘いせいなら、それを正したい、というその一心でした。 BCGDVを修行の場として選んだのは、大企業のアセットを活用してベンチャーを立ち上げるというその仕組みを純粋に面白いと思ったことに加えて、まさに自分のこれまでの経験を活かし、かつストレッチできるチャンスがあると確信したからです。 ここは、当然自分も一人のプロフェッショナルとして価値を発揮することを強く求められる環境ですし、その期待に必ず応えようと決意して飛び込みました。 それに、BCGDVメンバーには会社から何かを「与えてもらおう」という発想がありません。常に「利用してやろう」というスタンスで、そこも自分の価値観とフィットしたのです。平井: 当時の山敷にとっては、立ち上げメンバーの一員としてスタートできることも、魅力の一つだったろうね。 山敷: そうですね。BCGDVの日本での展開がどうなっていくか、よく分からない状況の時から話を聞いていたので、よりワクワクしました。 自分の場合、この先どうなっていくか、レールが見えてしまうと、いかに終着点まで効率良くたどり着くか、という発想になっていきます。つまり、楽をしたり、手を抜くことを考え始めたりするのです。 それでは仕事は楽しくなくなってしまう。仕事は頑張って無我夢中で走ってこそ楽しいものですから。 平井: 以前、上司に退職意思を伝えた時、「平井君にはこれから出世が約束されているのだから、今辞めてはもったいない」と言われたことがありました。それを聞いた瞬間に、「よし、辞めよう」と即座に決めたのを覚えています(笑)。 ゴールが見えると、途端に目の前の風景が色褪せる感覚は、私も本当に共感できます。 何も、私や山敷のような考え方がベストとは思わないけれども、例えば人生100年のうち、70年近く仕事に携わるとして、70年先まで計画を立てるなんてできるはずがないし、全くの無意味。70年後に後悔しない人生であるために、目の前の5年間で何を選択し、為すべきかを考える方がずっといい。先の見えない時代だからこそ、面白いのです。 精一杯やりたいことに食らいついて、活用できる会社のリソースがあるなら、人でも知識でも何でも遠慮なく活用させてもらうべきです。そうすれば自然と自活力は養われるし、不透明で不確実な時代であってもきっと生き抜いていけると思います。 ――最後に、お二人はこれからどんな挑戦をしていきたいとお考えですか? 山敷: 私は初めてFacebookを見た時の衝撃が忘れられません。いつか自分も、世の中に圧倒的なインパクトをもたらす、優れたサービスを自分の手で生み出し、大きな事業に育てていきたい。学生時代からずっとそれを目指してきました。 私にとっては、仕事は自分がやりたいことを実現するための手段です。何歳になっても、自分が誇れるサービスを創り続けていきたいと考えています。 平井: 若いころは物質的な欲望ばかりで、たくさんの収入が欲しいだとか、あの車が買いたいだとか、そういうことばかり考えていました(笑)。 しかし、歳を重ねた今は、社会貢献性の高い、インパクトの大きな仕事を手掛けたいという思いが強くなっています。 BCGDVのミッションは大企業が潜在的に持っている力に火を付け、変革を起こすこと。我々が介在することで、新しい挑戦に踏み出す機動力を失っている大企業に一歩踏み出す成功体験をしてもらい、硬直化した文化を壊していけたら、やがてそれは日本の産業界を変える大きなうねりへとつながっていくかもしれません。 日本企業の未来を変える起爆剤となる。そんな壮大な挑戦を仕掛けていきたいと思っています。 学生の皆さんの中には、今の時点ではやりたいことが明確になっていない人もいることでしょう。長期的な視点をもって5年後10年後を考え、その先役立つであろうことに挑戦しつつ、自分がやってみたいこと、得意なことをつくっていくのでも遅くはない。ただ、変動の大きいこの時代、組織力に依存せずに活躍できる自活力を、ぜひ意識して鍛えていってほしいと思います。 取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴 =関連リンク= ■デジタル・ネイティブ世代の理系出身者に広がるビジネスチャンスとは? 「何がしたいか」を探すキャリアの描き方 ■10年後、20年後にどう生きたいか――。「自分らしく働く」を見つける就活とは?【学生×20代コンサルタント座談会・前編】 ■就職して分かる“成長”の奥深さ。ビジネスの現場で求められる本当に必要な力とは?【学生×20代コンサルタント座談会・後編】 ■ボストン コンサルティング グループの企業情報 =外部リンク= ■ボストン コンサルティング グループ公式Webサイト ■ボストン コンサルティング グループ採用トップページ
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第3回は、理系出身でBCGに参画し、研鑽を積んだ2人の対談。BCGを卒業してベンチャー起業の道を選択した上野山勝也氏と、現在BCGでコンサルタントとして活躍している上山聡氏に、理系出身者にとってのキャリア形成の在り方や広がりについて、語り合ってもらった。 ――お2人とも理工系のご出身で、共にコンサルティングファームへの就職からキャリアをスタートされています。当時、どんな志向や仕事選択の判断軸を持って、就職活動を進めていらしたんでしょうか? 上野山 勝也氏(以下、上野山): 私の場合、研究していた内容がオペレーション・リサーチと呼ばれるもので、主に企業活動を研究対象としていましたから、周囲にも就職先としてコンサルティングファームを選ぶ人間が少なくありませんでした。 自分自身、就職活動時には「3~4年ほどの短期スパンで最も“没入”できる仕事に就きたい」という思いがあって、それをかなえられそうなコンサルティングの領域に自然と興味を持ったのです。複数社のインターンシップに参加して、一番面白そうに思えたボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)に入社を決めました。 上山 聡氏(以下、上山): 一概には言えませんが、理系の中でも工学系の場合、「社会にいかにインパクトを与えるか」という面に絡む研究をするので、修士課程や博士課程に進んで専門性を高めている学生であっても、ビジネス領域への関心は高いですよね。 上野山: そう思います。当然、理系の学生の中にはアカデミックなキャリアを選ぶ人もいますが、工学系は比較的自然に企業への就職を考えている人が多かったし、その傾向は今も変わらないはずです。 上山さんは社会基盤専攻ですが、周囲の学生はどのようなキャリアを選択していましたか。 上山: 社会基盤、すなわちインフラに関わる事物が研究対象ですから、アカデミック以外のキャリアでは、国やゼネコン、交通機関やエネルギー会社などに就職する人もいました。私自身も研究対象だった土木の領域を通じて「世の中を変え、多くの人々に貢献したい」という志から、当初は国土交通省に進む道を考えていたんです。 しかし、いよいよ具体的に就職を意識するようになり、さまざまなインターンシップに参加して実務の一端に触れ始めてみると、「膨大な数の人々と、どちらかと言えば間接的に向き合う公共機関よりも、人々により直接的に貢献できる仕事がしたい」と思うようになりました。 そうして広い意味でのサービス業に興味を持ち始め、最終的に最も自分の価値観に合致したのがコンサルティングの仕事だったのです。 ――実際、コンサルタントとして働き始めてから、理系出身ならではの強みや利点を実感されたことはありますか? 上野山: 基本的に文系理系は関係ないと思っていますが、あえて言うなら理系出身者は現象に目を向け、因果律でモノを考える習性が染み付いています。研究室時代の仮説検証型の思考プロセスがそのままコンサルティングの仕事で役に立ったのは、強みの一つと言えるかもしれません。 ただ、コンサルタントが向き合うのは生身の人間たちが営むビジネスですから、サイエンスを学んだ者の発想だけでは問題を解決できません。人を巻き込み、動かすためのソフトスキルを融合させていく必要があります。 BCGの環境が素晴らしいなと思ったのは、そういう自分の不足分をしっかりカバーしてくれるプロフェッショナルな仲間がいること。コンサルタントとして経験豊富なシニアだけでなく、さまざまな領域で研鑽を積んだ中途入社の方もいる。 こうした仲間とチームを組み、共にディスカッションを重ねていくことで、多様な視点や意見が融合されて問題解決の答えにつながっていくのが、自分にとっては驚きでもあり面白さでもありました。 上山: そうですね。私もコンサルタントとして働いてみて初めて、チームで考えるからこその思考の厚みという価値を、より強く実感するようになりました。研究は基本的に1人で考えていましたから。 それぞれ違う強みを持つ人と共にチームで取り組む中で、人の馬力の引き出し方や動かし方も学びましたね。 上野山: 私が入社間もなく驚いたもう一つの点が、新人だろうとなんだろうと、議論で意見を言わない者は価値がない、という文化です。実績豊富なシニアが会議で発した意見に、若手が反論をすると、とがめるどころか褒めてくれる。今もその風土は残っているんですか? 上山: もちろん変わっていません。まあ、褒めてもらえるかどうかは反論の内容と質次第ですが(笑)、「1年目なんだから発言できなくても許される」というような甘さがない代わりに、1年目からでもどんどん発言させてもらえる。大変ですが学びがあります。 上野山: 「偉いか偉くないか」なんて関係なく、「議論の中で意見しない者はコンサルタントとして価値がない」という考え方が面白かったし、すごく勉強になりました。 コンサルティングファームは、「新人だから下積みからスタートする」という考え方ではなく、最初からプロジェクトのいちメンバーとして役割を担う。それをシニアや中途の方にフォローしてもらえる、という仕組みなので、とけ込んで行きやすいとも思いました。 もう一つ、入社後に実感したのが1週間の密度の圧倒的な濃さですね。学生時代の1カ月分に当たる刺激量が5日間に凝縮されているイメージです。1日の中で大きく自分の考えや価値観が変わるなんてことも日常茶飯事でした。 知的好奇心や成長欲求の強い人には、とても恵まれた環境だと思います。脳に入る刺激量が違う。振れ幅がとてつもなく大きかったことを鮮明に記憶しています。 上山: 分かります。短期間でさまざまなレベルの未知なるモノが自分の中にどんどん取り込まれていく感覚。先輩やパートナークラスの上司たちから日々助言やフィードバックをもらいつつ、グローバルな見識や異領域の発想なども、多様な人員構成の中で当然のように触れる毎日ですからね。 短時間で自分という人間が猛スピードで進化している感覚を私も感じました。今なら修士論文だって3カ月で書き上げる自信があります(笑)。 上野山: それ、本当ですよ。自慢話みたいになってしまうんですが、BCGを退職後に大学へ戻り、博士課程に進んだ時、1本目のジャーナル論文を実際3カ月で書き上げました(笑)。 これはもう間違いなく、BCGで学んだおかげです。コンサルタント時代に、絶対的な頑張りが必要な時の尋常でない馬力の出し方を学びましたから。自分の能力の上限はBCG時代に圧倒的に引き上げられました。――お2人は1980年代生まれの30代ですが、「今の20代にとってのキャリア選択」について、どうお考えですか? 上山: 私は今この時代に安定を志向している大学生を見かけると、人ごとながら彼らのキャリア観に危機感を覚えます。これほど猛スピードで世の中が変化している時代に、「この会社に入って、こういうキャリアをたどれば安定した生活が……」などと発想しても意味がないのではないでしょうか。 皆が自分のキャリアを自分で描かなければいけない時代です。いち早くビジネスの本質に触れて、汎用性の高いスキルを養い、どのような環境下でも自身の力を発揮できるようになることが、本当の意味での安定を得ることにつながると思います。 そうした意味では、私にとってはコンサルティングの世界で経験を積むことがそのスキルを得る最短ルートだと考えています。 上野山: 冒頭で、学生時代の私が「短期スパンで最も“没入”できる仕事に就きたい」と考えていたと話しましたが、まさに今、上山さんがおっしゃったことと同じ発想があってのことでした。 特に今という時代においては、私の学生時代以上に変化が激しいわけです。世の中をまだ知らない学生が「10年後、15年後の自分」を想像して、先々までプランニングをしたところで、おかしな結論にたどり着きかねない。 それならば、1年後や3年後など、手の届く範囲の未来を一区切りと捉え、その間とにかく全力投球できることに取り組む方が、結果的に後のキャリアに有効な成長が得られるはずです。 それともう一つ、私や上山さんの世代と、今の10代、20代との間には決定的な“価値観の違い”があると思っています。 私がBCGに入社した2007年というのは、Google が初めて日本で新卒社員を採用した年であり、Webビジネス界にとっては節目とも言える年でしたが、当時はまだ「Webは怪しい世界」などという風潮がありました。上山: 分かります(笑)。「中高生になる頃にはスマホを持っていた」という現代のデジタル・ネイティブ世代とは違いますよね。 上野山: そうなんです。一方で2008年にはリーマンショックが起きて、それまでのビジネスの常識のようなものに、大きな疑問が生まれた時代でもあります。 私や上山さんは、インターネット以前の時代のビジネスと、インターネットが当たり前になってからの時代のビジネスとのちょうど狭間を生きてきた世代。今の50代以上の発想も何となく分かるし、20代のデジタル・ネイティブ世代の気持ちも何となく分かる。 上山: 我々の世代が「両世代の橋渡しをしなければ」ですね? 上野山: そう、それです。私の会社にも20代の社員が多くいるんですが、「たまには(高い)うまいものでも食べに行くか?」と聞くと「いや、別にいいです。(高い)うまいもの、興味ないです」と言われたりしてしまう(笑)。 彼らには世間一般から「良い」とされている事やモノよりも、自分の好きなものを大事にする価値観が根付いている。インターネットやスマートフォンが浸透したことで、旧来のマス的な価値観にとらわれていないわけです。世の中が大きく変わり始めていることを実感しています。 恐らく私たちは今、新旧の異なる2つのパラダイムが共存する、不思議なタイミングに生きているのだと思います。 上山: 個人が好きなものを見つけて、それを存分に追求できるようになったのはいいことですよね。昨今誕生しているスタートアップ・ベンチャーでも、マスではなく個人の小さなニーズにフォーカスしたWebサービスを展開していたり、テクノロジーを活用して大きな資本を必要とせずにビジネスとしてある程度成立しているケースが珍しくなくなってきています。 しかし、若い世代の価値観だけで創られたビジネスに、「それだけではないでしょ?」と思うことがあるんです。 上野山: そう、どんなに時代が変化していても、ビジネスを形作っているのはインターネットが浸透する以前からずっと存在する人であり組織であり会社なわけですね。そうした世の中を形成する大手企業のビジネスを間近で見たことのない世代は、自身が持つデジタル・ネイティブ世代ならではの価値観やテクノロジーを、そこでどのように活かすことができるのかにどうしても気付きにくい。世代の異なるパラダイムのすり合わせがしにくいのです。 しかし、私はこの旧来のビジネスフィールドと、今の時代ならではの価値観や情報技術との接点を生み出し、融合させるところにこそ、大きなビジネスチャンスがあると考えています。 狭間の世代としては、前の世代と後の世代の橋渡しをしたい、と思いますし、若い世代にはせっかくチャンスがあるのだから、自分たちの住む世界だけに目を向けてばかりいたらもったいない、と思ってもいるんです。 上山: 実はBCGで開催しているインターンシップにも、上野山さんがおっしゃったような気付きを得てもらいたいという思いが込められています。 学生たちにもっと社会のダイナミズムを知ってもらい、彼らが持っている知識や経験、志向が世の中にどんなインパクトを与え得るのか、少しでも体感してもらえるようなプログラムになっているんですよ。 ――具体的にはどんなことをするのでしょうか? 上山: あえてビジネス寄りではない課題が出されたりしています。学生たちはやはり実際のビジネスを経験していませんから、売上や利益の話をしてもピンとは来ません。そういうものは入社後からでも覚えられる、と考えられています。 ですから、お題として提示されるのは、例えば「2020年にオリンピックが東京で開催されるが、社会にどんなメリットやデメリットが生まれるか、皆で考えてほしい」といったもの。つまり、ビジネスよりももっと大きな枠組み、社会的な現象というものに触れてもらおう、という主旨です。 非常に面白いのは、こういうざっくりとしたお題を前にした学生たちが、「自分たちの持っている力が役に立つかもしれない」と考え始めたりするんです。 例えば理系の学生ならば、「今自分が研究している内容が、もしかしたら世の中のこういう部分に使えるんじゃないか」という発想を得る。社会との接点を見つける。そういう機会になってくれたらうれしいと思います。上野山: それ、いいですね。私も自社の採用活動をする中で多くの若い方とお会いします。当社のビジネスがAIや機械学習の領域をベースにしていることもあって、ほとんどの方が情報技術の世界にいるわけですが、何より伝えたいのが「あなたが好きでやってきた情報技術はこんなにも社会に役立つし、ビジネスとして期待されているんだ」ということ。 「入りたい会社が見つかりません」なんて言っている学生もいるんですが、そういう人にこそ理解してほしいんですよね。自分の力が世の中に大きなインパクトを与えるんだという面白さを。 ――これからの社会やビジネスに情報技術は必要不可欠。そうした意味ではテクノロジーのバックグラウンドを持つ理系学生は、今後のキャリアの広がりに、よりアドバンテージがあると言えそうです。最後に、これからキャリアを切り拓こうとしている学生たちへアドバイスをお願いします。 上野山: マサチューセッツ工科大学のMITメディアラボ所長である伊藤穣一さんの言葉に、「地図よりもコンパスを持て」があります。キャリアを切り拓いていくのに、プランニングは意味を成さず、“コンパス”つまり「何をしたいのか」という自分の軸が大事になってくるということです。 私はもともと情報技術を軸に社会へインパクトを与えるビジネスを手掛けていきたいと考えていました。 PKSHA Technologyを創業し、その思いをかなえるにあたって、BCGで得た知見や経験が大きな力になったことは間違いありません。先に述べた通り、世の中のビジネスの主戦場に立つ大企業の論理というものを理解していることは、事業を進める上でも大きな強みになりました。 2030年には、ビジネスも働き方も仕事も、世の中全体が予測もつかぬほど変わっていることでしょう。そのような中で、PKSHA Technologyの事業領域もどんどん広がっていくと思います。 私自身は今後、PKSHA Technologyを「アルゴリズム・サプライヤー」として成長させ、社会に大きなインパクトを与えていきたい。 AIやIoTの浸透によって、今後ソフトウエアはどんどん知能化し、高度化していきます。そこで鍵を握るのがアルゴリズム。そのクオリティーや機能を強化していくことで、社会の神経網を形作っていくことができると信じています。 上山: 私も、この激動の時代に、自分が情熱を持ってやりたいと思えるビジネスを定めて挑戦したいと考えています。 こうした夢を追うための力を付ける場として、理想的な環境がBCGにはあります。「自分の未来を創るためのコンパス」を見つけ、磨きをかけていける場所だと私自身が実感しています。だからこそ、同じように「情熱を傾けるもの」を探し求めている学生の皆さんに、どんどんチャレンジしてほしいと願っています。 上野山: そうですね。私もBCGがキャリアの起点になったことは、本当に良かったと思っています。 今は「やりたいことが分からない」という人も、まずは熱量を持って仕事に没入する経験をしてほしい。多様な人と協働する中で、人との違い、自分ならではの固有性がクリアになっていく。それが、自分ならではのコンパスを見つけることにつながっていくはずです。 私は「意味」とは「生成」されるものと考えます。やっていない状況では意味など何もないし、分からない。やった結果、意味は生成され、分かるのです。 学生たちには、社会人としてまずは夢中になれる3年間を経験することを目標に、もっとアグレッシブに自分の知らない世界へ飛び込んでほしいですね。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴) =関連リンク= ■不確実な時代だからこそ自分を磨く! “自分ブランド”こそがビジネスパーソンの確実な財産に ■10年後、20年後にどう生きたいか――。「自分らしく働く」を見つける就活とは?【学生×20代コンサルタント座談会・前編】 ■就職して分かる“成長”の奥深さ。ビジネスの現場で求められる本当に必要な力とは?【学生×20代コンサルタント座談会・後編】 ■ボストン コンサルティング グループの企業情報 =外部リンク= ■ボストン コンサルティング グループ公式Webサイト ■ボストン コンサルティング グループ採用トップページ ■PKSHA Technology公式Webサイト
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第2回は、若手コンサルタントが学生たちの質問に答えていく形で、就職活動のあり方や、20代の時期に挑むべき「成長」について、自由に語り合ってもらった。 ――まずは、コンサルタントのお2人の就職活動時のお話を聞かせてください。どんな経緯でボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)への入社を決めたのですか? 千田秀典氏(以下、千田): 私は大学、大学院と、一貫して航空宇宙工学を学んでいました。ずっと航空機開発エンジニアになることを目指していたのですが、就活を始めようかという時期、航空業界をはじめ日本の製造業が厳しい状況に陥っていました。 そのような中で、いちエンジニアとして技術の部分で付加価値を出すことだけではなく、もっと別の立場から業界全体の復興に寄与することはできないかと考え始めたんです。 そうしてたどり着いたのが2つの選択肢です。一つは経済産業省などの一員になって、行政の立場から産業界に貢献していく道。もう一つはコンサルタントとして、戦略策定やその実行支援によって企業に貢献していく道。 迷った末に、最終的に選んだのがコンサルタントの道でした。 サカイ シュンスケさん(以下、サカイ): 私は千田さんと同じく大学院生で理系専攻です。どうしても研究などに時間を取られがちで、就活を進める時にどうタイムマネジメントしていこうかと考えてしまいます。千田さんはどうしていたんですか? 千田: 私も就活中のタイムマネジメントの難しさは感じました。その点からも、夏のインターンシップ前には、2つの選択肢に絞り込むことにしたんです。インターンは官公庁とコンサル業界のみ参加することにして、選考を受ける会社も数社に限定しました。 細かいスケジュール管理やプランニングはあまりしていませんでしたが、早い時期に集中して自分の進むべき道をゆっくり考えて吟味する時間を取っておいたことで、その後の就活は効率的に進められました。 数打ちゃ当たる方式の就活をやらなかったから、研究と両立することができたんだと思っています。 シラカワ アユキさん(以下、シラカワ): 僕はパブリックセクターへ進むべきか、コンサルタントを目指すべきかで今迷っています。 何となく、官公庁が指示を出したり決済権を持ったりする上の立場で、コンサルや一般企業がそれに従って現場で動く下の立場、みたいなイメージでいるんですが……。 千田: どちらかが上で、どちらかが下ということではなく、そこは役割の違いかなと思います。 サッカーに例えるなら、プレーヤーが動きやすいようにコートの外でルールを決めるのがパブリックセクターで、コートの中のプレーヤーをどのようにサポートするかを考えているのがコンサルタント。関わり方は違うけれど、共により良い試合を行うために貢献しています。上下の序列というよりは、それぞれ違う役割を担いつつ、共に産業や企業の発展をサポートしているんです。 シラカワ: なるほど。では、千田さんはそこでなぜコンサルタントの方を選んだんですか? 千田: 「法律や制度に軸足を置くのではなく、ビジネスの側面からダイレクトに関わっていく方が面白い」と感じたことが最大の理由です。これはもう直感というか、自分自身の好みの問題ですね(笑)。 もう一つ挙げるとすれば「現場主義・成果主義」であること。つまり、現場で起きているファクトをベースにして企業に寄り添った戦略を練り上げ、その成果がすぐに目に見えて求められるコンサルティングのスタイルが、私には合っていると思えたんです。 また、BCGのように世界中のあらゆる業界のコンサルティングを手掛けるファームに入れば、個人的な思い入れがある航空業界に限らず、さまざまな産業や企業と向き合い、知見を得ながら、短期間で成長できると考えたんです。 日浦瞳子氏(以下、日浦): 私もBCGへ入社を決めた最大の理由は、ここでなら成長できると確信できたからです。 私は大学にいる間、ずっとアメリカンフットボール部のマネジャーをしていて、学生時代のほとんどの時間を部活に捧げていました(笑)。 ですので、毎日それはもう忙しく過ごしていたのですが、就職活動を始める時にはいったん立ち止まって、目の前のことだけでなく、「10年先、20年先の長いスパンで自分の将来を考えてみよう」と思ったんです。 文系の学生でしたから、専門性や突出した強みを持っているわけではありません。やりたいこともまだ分からない。だから「働き方」を軸に、自分がどうありたいかを考えていきました。 女性ですので、やはり出産・育児のことも視野に入れておきたい。ちょっと大げさかもしれませんが、就活をきっかけに人生設計をしてみたんですね。 10年後、20年後、自分はどう生きていたいか? まず、仕事は続けていたい。 とすると、ライフイベントがある前の20代前半は一番仕事に没頭できる重要な期間になる。それなら男女差なく成長チャンスが得られるフラットな環境で、思い切り力を付けたい。 そんなふうに考えて、就活当初は「女性社員がたくさん活躍していそうだから」という理由で、消費財メーカーや化粧品メーカーを中心に情報収集していました。 ですが、たまたま参加した合同企業説明会で初めてコンサルティング業界という存在を知り、その仕事内容や環境に魅力を感じて、複数社受けてみたんです。――消費財や化粧品メーカーからコンサルティング業界へ志望業界が変わるとは、大きなシフトチェンジでしたね。 日浦: 実は、コンサルティング業界の仕事を知って、就職先選びに対する考え方がガラリと変わったんですよ。 それまで私は、10年後も20年後も活躍できる環境へ身を置くべき、と思って就職先選びをしていたのですが、そうじゃないと気付いたんです。10年後も20年後も活躍するためには、そもそもその時点で活躍できるだけのスキルや能力を自分が持っていないとダメなんだって。 それには、20代でいろんなことを吸収して成長し、やりたいことを見つけられる環境を就職先として選ぶ必要がある。それがかなうのが、まさにコンサルタントの仕事だなと思ったんです。 ただ、最初はコンサルティング業界やコンサルタントについてほとんど知識がなかったので、中長期で続けていける仕事なのかを確かめるために、複数の会社の方々に話を聞いてみました。同じコンサルティングファームの方でも、会って話を聞くと、各社それぞれカラーが全然違います。私には、BCGのカラーが一番フィットしているなと思い、入社を決めました。 ユアサ チヒロさん(以下、ユアサ): 外資系コンサルティングファームのカラーの違いってどういう差なんですか? 確かに、お2人を見ていると、私自身がファームに抱いていたイメージとは違う気がするんです。あの、「いい意味で」ですけど(笑)。でも、お2人はまたそれぞれ違うタイプの方ですよね。そうすると、BCGのカラーって一体何なのだろうと思いますし……。 千田: いわゆる「外資系」とか「コンサルティングファーム」という言葉からイメージすると、ロジカルな口調で話すクールな人ばっかりがいそうに思いますよね? 私も同じようなイメージを就活していた頃に抱いていました。 もちろんそういうカラーのファームも存在します。ところがBCGはそうではないんですよ、「いい意味で」(笑)。 日浦: そうですね。私も学生時代は、外資、コンサルというと、自分のキャラクターとは遠く離れたスマートで華やかなイメージを持っていました(笑)。でもBCGには、気取らない人が多くて、私のように「ガッツで頑張ります」みたいな人も普通にいます。 千田: むしろ、そういう多様性がBCGの特質だし、定義しにくいところこそがBCGのカラーなのだととらえてくれたらうれしいです。 BCGは、人の個性や文化、発想の違いというものに対する許容度が高い。もちろん仕事に対する価値観や理想は共有していますが、似たようなタイプの人が集う集団ではなく、本当の意味で多様性が根付いているんです。 シラカワ: 商社もコンサルティングファームと同じく、経営に近い仕事の一つだと思うのですが、就活の時に商社は考えなかったのですか? 千田: 商社に就職した場合、恐らく特定の業界の中で長く経験を積んで行くことになるんだろうと思います。 それはそれで特定の領域で自分の力を高めたり、業界に貢献したりする上で意義のある形だと思いますが、私の場合は、そもそも航空業界や製造業に貢献したいというアスピレーション(願望)がベースにあったので、プロジェクト単位でさまざまな業界のサポートに携わることのできるコンサルを選びました。より自分のアスピレーションに近いプロジェクトに関わるチャンスに恵まれるだろうと。 それと私自身、大人しい気質なもので、商社のパワーに溢れたタフな文化よりも、コンサルの方が性に合うと感じたこともありました(笑)。 ユアサ: お2人とも、就職先の選択肢ってたくさんあったと思うんです。その中で1社を選ぶための判断軸ってどうやって定めていったんでしょうか? きっとご自身の価値観に照らし合わせて整理していったと思うんですけど。 日浦: 私は学生時代に部活で辛かったこと、成功したこと、それぞれから何を得られたかを洗い出していきました。今までの人生の中で、自分が意思をもって決断したことの基準は何だったかも、改めて考えましたね。千田: 死ぬ時に「この人生良かったなぁ」と思いたい。では、何ができていたらそう思えるのか?と自問自答しましたね。 結果、「自分ならではの社会貢献ができる」「人に感謝される」「自分が楽しいと思える」、この3つを満たす仕事をしていたいという答えに、私はたどり着きました。 好きなものは何か。問題意識を持つポイントはどこか。 自分の人生を豊かに過ごすためにどうするべきかを考える時間をしっかり持ってみたら、おのずと判断軸は整理されてくると思いますよ。 ウカイ ジュンヤさん(以下、ウカイ): 大学で学んだことの中で、自分の強みになったことってありますか? 就活時に役に立ったものとか。 日浦: 働き始めてから気付いたんですが、学生時代に何かにものすごく打ち込んでいた経験を持つ人が周囲にたくさんいるんですよね。 翻って考えると、つまりはそういう経験の持ち主が入社しているということ。勉強でも、活動でも、学生時代にこれに力を注いできましたと断言できる何かがあることは、就活でもきっと活きてくるんじゃないでしょうか。 ――ご自身の就職活動を振り返って、これから就活を始める学生たちへ、今お2人が改めて伝えたいことは何でしょうか? 千田: 昔のような終身雇用の時代ではありませんから、新卒時の就職をそれほど重々しくとらえていない人もいるはずです。実際、転職したりして、幾度か大きな分岐点を経ていく人も多いでしょう。 けれども、だからといって就職を「ファーストステップでしかない」かのように軽くとらえてはほしくないのです。 せっかくこれからの人生を考える良い機会なのだから、「自分は何がしたいのか、何を面白いと感じるのか」、「何を大切にして生きていこうか」というように、自分を見つめながら進めてほしいと思います。 半面、「自分はこうなんだ」と決めつけてシャットアウトしてしまわずに、就活を通じて出会う人やチャンスから、自分の新しい可能性を広く見いだしていってほしいですね。 日浦: 私も同じく、「どの会社に入るか」と考える前に、「自分はどんな風に生きていきたいか」という人生のビジョンを描いてみてほしいです。そして、自分のキャリアを数十年先までいったんイメージしてみてください。人生のどの時期に、仕事にどのくらいのパワーをかけたいかまでを考えてみると、未来が少し具体化してきませんか。 それと、就活を進める中で、ついブランドに引かれて一流企業にばかり目が行ってしまうこともあると思います。でも、それは決して本質ではありません。自分の人生設計に相応しい、自分が求める成長を遂げるために必要な“材料”は何か。それを忘れずにいれば、きっと自分らしく働ける場所にたどり着けると思います。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第2回は、若手コンサルタントが学生たちの質問に答えていく形で、就職活動のあり方や、20代の時期に挑むべき「成長」について、自由に語り合ってもらった。 ――就活を経て、実際にBCGでコンサルタントとして働くようになってから、どんな経験を積んでいるのですか? 千田: 私は2014年に入社した後、1カ月間の基礎的な研修を経て、すぐにプロジェクトに入りました。私の場合は「製造業のお客さまのプロジェクト」を希望したところ、願いがかない、1プロジェクト目はメーカーの収益基盤強化プロジェクトに入ることになりました。 BCGでは、プロジェクトアサインの際に、新入社員でも参加したいプロジェクトの希望が出せます。必ずしも毎回希望通りになるわけではないものの、個人の興味や成長、プロジェクトで求められる能力などが考慮された上で、アサインが決定します。 現在に至るまで6~7件のプロジェクトに従事してきましたが、製造業が多いものの幅広い業種のプロジェクトの経験をしていると思います。プロジェクト内容も、金融機関の店舗展開の戦略案件であったり、メーカーでの製品開発加速化支援であったりと、さまざまです。 サカイ: 自分が望んだわけではないプロジェクトに入ることもあるわけですよね? そういう場合でも、モチベーションが下がったりしないものですか? 千田: 私の場合は将来的には航空業界に貢献することが夢ですから、もちろん特に製造業に強い関心があります。 とはいえ、今は自分自身の知見を増やして成長するためにも、幅広い業種・案件の経験を積むべきだと考えているので、むしろ製造業以外のプロジェクトにアサインされるとワクワクしますね。また一つ、新しい経験ができるチャンスだ!と(笑)。 ですから、案件によってモチベーションが下がるなどということはまずないです。 むしろ毎回、期待されている結果にプラス・アルファの、自分ならではの付加価値を付けてやるぞ、というファイトがわいてきます。 日浦: 私は2015年4月に入社しましたが、入社直後の流れは千田と同様です。1カ月の研修の後、プロジェクトにアサインされ、実務を通じてコンサルタントの仕事を学んでいきました。 コンサルタントはプロジェクトベースで仕事をします。3カ月程度のものもあれば、もっと長期にわたるものもあり、解決すべき課題もプロジェクトの規模も毎回違います。また、一緒に働く仲間や先輩、リーダーも変わります。 こうした環境は、飛び抜けたスキルをまだ持っていない私にとっては、とてもありがたいことだと感じています。短期間のうちに多様な経験をして、数多くの優秀な先輩やお客さまと触れ合いながら、「これから自分は何を極めていきたいか」を模索することができるからです。 千田: 我々コンサルタントは、プロジェクトの期間内で成果を上げること、言ってみれば、短いスパンで次々に異なる課題と向き合うことが求められます。それによって自分の能力がストレッチされますし、必ずしも自分の得意分野ではない領域にも携わることになるので、知見の幅をどんどん広げていける。 スピード感をもって自身の成長を実感できるのが、コンサルタントの醍醐味の一つと言えるでしょうね。 ウカイ: 仕事はOJT中心なんですよね? とにかく現場に出て覚える方式なんでしょうか? 千田: そうですね。実際に仕事を現場で経験していくのと並行して、新入社員にはインストラクターと呼ばれる先輩社員がマン・ツー・マンで寄り添ってくれる仕組みになっています。 プロジェクトは数カ月単位で変わっていきますが、インストラクターはずっと同じ先輩が付いてくれるので、前のプロジェクトと比較しての自分の成長度合いや課題など、中長期的な視点も踏まえつつ、アドバイスやフィードバックがもらえるんです。 プロジェクトごとにメンバーが変わったとしても、このインストラクターのおかげで、その時点での経験を振り返り、積み重ねながら成長していくことができます。 日浦: 私なんて入社当初はExcelだってまともに使いこなせませんでした(苦笑)。 他にも社会人1年目の人間が直面するさまざまな問題や悩み、能力的に不足している部分など、インストラクターにはあらゆる相談に乗ってもらいましたし、もちろんExcelについてもみっちり教えてもらいました。 実は今度私も後輩社員のインストラクターになるのですが、私自身の成長にもつながる経験だと思って楽しみにしています。 ――お2人はご自身の将来について、今どのようなキャリアビジョンを描いていますか? 千田: まだまだ学ぶことは無限にありますが、いずれはコンサルタントとして一人前になってクライアント企業により大きな貢献がしたいと思っています。さらにその先でいえば、コンサルタント以外の立場で、プレーヤーとして企業や産業に携わっていくことも視野に入れています。 シラカワ: コンサルタントは、プレーヤー=当事者にはなりきれない、という気持ちがあったりするんでしょうか? 千田: コンサルタントといえば、かつては経営課題を解決するための戦略を描いて伝えるところまでが主な仕事でしたが、今は違います。 戦略を実行するために、時には企業内に深く入ってお客さまと一緒に完遂するところまでコミットしているので、コンサルタントという立場であっても、プレーヤー=当事者としての経験を十分に積むことができていると感じます。 その上で、必ずしもコンサルタントという立場だけが自分がプレーヤーとして最も機能する形であるとは限らない、と思っているんです。 今は人材流動性の高い時代ですし、友人やクライアントを見ても、一つの組織にずっといることがスタンダードではなくなっています。キャリアチェンジも、フラットに選択肢の一つとして考えているんですよ。 いずれにせよ、経験やスキルを身に付け、自分が最も価値が出せる場所を常に選択していきたいと思っています。 日浦: 私は実を言うと、まだ将来のビジョンが固まっていません。だからこそ、今から10年以内に「これだ」と言えるものを見つけ出そうと考えているんです。 BCGでの仕事の面白さは、プロジェクトが1つ終わるごとに、新しい自分を発見できること。意外と得意なことや苦手なこと、それまで考えもしなかったことを面白いと思えること、知らなかった自分の一面をどんどんキャッチアップして、強みを確立していきたいです。 近い将来、「この分野なら日浦だ」と言ってもらえるようになるために、今は成長あるのみですね。 ウカイ: 確かにコンサルタントの仕事は成長できそうだなと思います。でも、ちょっと聞きにくいですが……、やっぱりコンサルって激務なんですか? 日浦: 私も就活中は、そこが気になっていました(笑)。 でも、入社してみて実感したのは「確かに忙しい時は忙しいけれども、激務ではない」ですね。 千田: もちろんお客さまの存在があるし、プロジェクトのフェーズ次第で大変な時もあります。「メリハリがはっきりしているなあ」という感覚です。 1日単位ではなく、ロングレンジでワークライフバランスを見たら、むしろ恵まれている気がします。プロジェクトとプロジェクトの合間に長めの休みを取ることも普通に定着していますし。 日浦: そうですね。かつて、コンサルタントが戦略策定だけを求められていた時代には、短期集中型のプロジェクトで最大の価値貢献をするべく、昼夜を問わずがむしゃらに仕事にまい進するスタイルが求められていたのだと思います。 でも今は、お客さまへの価値貢献の形も変わってきました。瞬間最大風速ではなく、継続的に成果を出し続けることが、コンサルタントに求められるようになってきています。 私たちコンサルタントが継続的に力を発揮できるよう、BCG全体が会社として社員のタイムマネジメントに力を入れているので、ワークライフバランスはしっかり取れていると思いますね。 サカイ: コンサルタントは激務と競争の中で猛烈に仕事をこなす、というイメージでしたが、もっと長期的に成長を続けながら働ける環境なんですね。 ユアサ: 日浦さんは出産後も働きたいとおっしゃってましたよね。今は、その具体的なイメージってわいてるんでしょうか? 日浦: もちろん! 私が就活中に話を聞いたBCGの女性コンサルタントも、まさに仕事と育児の両立をしていましたし、今参加しているプロジェクトの女性リーダーも、ライフイベントに応じて仕事の量や進め方を制御しながらも結果をきちんと出していて、理想的なロールモデルが近くにいます。 スキル、経験、信頼を積み重ねてきたからこそ、仕事とプライベートの比重を変えたいと思ったときに、それを実現できる能力と環境が手に入れられる。その実例を数々見ていますから、私もその時のために今は成長するべきなんだ、と迷いなく仕事に集中できています。 ウカイ: お2人が一番成長を実感できた、失敗談とかハードだった局面とかがあれば教えてください。 日浦: 失敗って概念はあまりないです。もちろん小さなミスや行き届かないことはたくさんありますけど、ファクトとしての間違いであれば必ず正しい答えを出し直しますし、プロセスの話であれば「次はこうしよう」と考えて取り組むので、最終的に失敗したまま終わるものってないんですよね(笑)。 千田: そうそう。失敗って、つまりは自分がコミットしてないことに起こるものだから。自分の力の足りなさを実感して改善策を打てないまま終わるものが“失敗”なんです。でもコンサルタントの仕事はフルコミットで臨むものですから、取り返すまでやり続けるので、基本的に失敗なんてないんですよ(笑)。 個人的に成長したと感じるエピソードとして思い出すのは、あるメーカーのプロジェクトですね。 海外のエキスパートを誘致して、新商品開発チームを立ち上げていたのですが、ミーティングで私がファシリテーターを務めていたら、お客さまサイドで意見が分かれてしまったんです。 たまたま上司のプロジェクトリーダーも不在の時で、何が何でも私が議題をまとめなければならなかったのですが、ロジックだけではヒトを動かせない状況に、皆さんに「何とかお願いします!」と頭を下げて、最終的には目的完遂できたという経験をしたことがあります。お一人お一人の思いや状況に向き合う人間力を試された場でしたね。 日浦: 分かります。私もある企業の営業改革プロジェクトで、新たなプログラムの導入をする際に、営業所の皆さんの理解をなかなか得られないことがありました。 それでも諦めず、ヘコたれずに毎日通い続けていたら、最後には「また来たのか!」と冗談交じりに笑って迎えていただけるようになりました。人を巻き込み、動かすために、いかに自分の本気や誠意を伝えていくことが大事かを思い知ったプロジェクトでした。 千田: もちろんロジックや効率性は極めて重要で外せない要素ですが、最終的にお客さまと正しい方向に向かって進むために、時には「足と時間と感情で稼ぐ」というところも大いにあると思っています。戦略の実行段階では、皆さんが思っている以上に泥臭いことをやっていますよ。 日浦: 入社前は、きらびやかな世界かと思っていたんですけれどね(笑)。シラカワ: 意外です。僕はコンサルタントに対して、正直偏見があったんです。もっとガチガチにロジックばかりをぶつけてくるような人たちばかりだと(笑)。 お2人の話を伺う中で、人柄に触れ、結局本当に能力が高い人たちは楽しそうに仕事をするんだなってことが分かりました。うれしい誤算です。自分の将来をもう一度真剣に考えてみようと思います。 ユアサ: 私もお2人が、私のボンヤリした質問の意図を的確にくみ取って答えてくださるのに感激しました。お話の仕方もすごく分かりやすくて。コンサルタントは優秀な人というイメージだけはありましたが、こんなに短い時間の中で自分の実体験としてそれを感じることができて良い経験になりました。 千田: 私もインターンに参加した時、コンサルタントに同じことを感じたのを思い出しました(笑)。 コンサルタントはクライアントの真意をくみ取り、真剣に向き合うのが仕事なので、そう言っていただけるととても光栄です。 ――お2人は就活時から、成長するためにスキルや知見を得たいとお考えでした。思い描いていた通りの成長を今、実現されていますか? 千田: そういう意味では、思い描いていた以上の成長ができていると感じます。 働き始める前は、課題解決力やリーダーシップ、ロジカルシンキングなど、分かりやすいビジネススキルや能力、知識を身に付けることが成長だと思っていました。でも、戦略を実行し、イノベーションを起こすためには、人を巻き込み、動かすことが最も重要だと知った今、それだけでは成長は語れないと気付きました。 人の機微を見抜き、組織を読み解き、自身のスタンスをぶらすことなく、ここぞというときには異論もぶつけられる、そんな絶妙かつ深いコミュニケーション力や粘り強さが、ビジネスの現場では必要とされます。ロジックだけでヒトは動かない。仕事の経験を積み重ねる中で、人間の本質の部分を磨くことこそが、成長なのでしょうね。 日浦: 私も、学生時代にイメージしていた成長はぼんやりとしたもので、仕事のスキルに偏ったものを想定していました。実際働いてみて、私もまた、スキルだけではないもっと本質的なものが必要だと実感させられています。 クライアントに価値を提供したいと、心の底から本気で思えるようになること。主体的に考え、勇気を出して動くこと。言葉にすると簡単ですが、社会人になり、責任を負ってみて初めて、その重みが分かった気がするのです。 学生の皆さんも、仕事を始めてからきっと、自分が求めていた“成長”の奥深さに気付くと思います。そうして初めて、本当の意味での自分の成長戦略が描けるようになるはずです。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第1回は、2016年までBCG日本代表として同社の指揮を執った水越豊氏に、2020年以降のビジネスシーンで必要とされるキャリア構築のヒントについて聞いた。 2020年という節目の年を間近に控え、「これからどんな時代になるのか」と問われる機会が増えてきましたが、私の考えは随分前から全く変わっていません。「不確実性の時代ですよ」というのがその答えです。 実はこの言葉、今から40年も前にアメリカの経済学者だったジョン・ケネス・ガルブレイス氏が記した著書のタイトル。1970年代の終わりから80年代にかけて、世界的なベストセラーとなった本なのですが、それから半世紀近くが経過した今も、私は「不確実」な時代がずっと続いていると考えています。 例えば、今からちょうど10年前にアップルが最初のiPhoneを発売しましたが、その後スマートフォンが全世界に普及し、暮らしにもビジネスにも巨大な影響力を持つようになる、と予測できた人が当時どれだけいたでしょうか? 限りなくゼロに近かったはずです。こうした予測不能な事象は、技術革新が目まぐるしく進んでいる今、ますます加速していくでしょう。 また直近の話題でいえば、米国の新大統領にトランプ氏が選ばれることも、英国の国民投票がEU離脱を選択することも、多くの人は予想していませんでした。先が読めず、何が起こるか分からない時代は今なお続いていますし、むしろその不確実性は今後さらに増していくと見ています。 いきなりこんな話をされたら、これから社会人になろうとしている学生の皆さんは、不安を感じるかもしれません。「先が見えない時代に、どんな仕事をして将来のビジョンをどう描けばいいんだ?」と。 一つ言えるのは、「先行き不透明なのは皆さんだけではない」ということです。例えば10年後に栄えているのは、どの国や地域なのか。どんな産業が発展し、どういう職種が脚光を浴びるのか。これらもまた厳密には分かりません。 つまり、絶対確実なものなどないのですから、これまで以上に我々は“自分ブランド”というものを、自分の責任で磨いていくしかないのです。「この会社に入れたらもう安心」「こういう仕事ができたら給料も良いし、カッコいい」などというステレオタイプな発想から脱却しましょう。 では、自分ブランドを磨くにはどうすればいいか? 私がお勧めしたいのは「自分の力を高めてくれる場で働くこと」。どんな場が自分を高めてくれるのかといえば、素晴らしい人と共に働ける場です。より具体的な話にするために、我々ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)を例にとってご紹介しましょう。 今、BCGでは最新の領域に活動の場を広げて、そこでの知見を深め、お客さまと共に新しい価値を生み出そうとしています。最新の領域とは、例えばAIでありロボティクスであり、デジタルやフィンテック、生命科学やエネルギー改革といった領域です。こうした新しいものに触れる機会を持つことで人は大いに成長しますし、不確実な時代を突き破るような新しい可能性も膨らんでいきます。 そして、未知の世界に触れて知識を得ること以上に、それぞれの業界の先端で活躍する素晴らしい人たちと出会い、共に働くことそのものが、刺激を受け成長を得る機会になるのです。 コンサルティングファームは、人こそが唯一の財産です。BCGのメンバーそれぞれが自分ブランドを高めるチャンスを得て、より大きなインパクトを生み出す。それがBCGの力となる。この好循環を創出すべく、果敢に新しいビジネスフィールドへ挑戦を続けているともいえます。 結局のところ、人を成長させるのは、やはり人。どんな上司がいて、どんな同僚がいるのか。お客さまである企業のどのような人々と向き合うのか。不確実な時代だけに、「何を仕事にするのか」よりも「誰と仕事をするのか」がより一層重要になってくるのです。 だからこそ、自分自身の姿勢も強く問われることを忘れないでください。自分ブランドを高めたい、という強い成長欲求を持つこと。そして、知的好奇心を貪欲に発揮し続けることが成長をかなえる条件になります。 何事にも関心を持ち、新しい学びを得たときに喜びを感じる。分からないことに出会ったときには、「なぜ? どうして?」という疑問を解決するため、徹底追求していく。そんな知的好奇心に満ちた日々は、大切なものに気付かせてくれるはずです。 一つは、自分が持つ“可能性”です。自分という人間が何を得意にしていて、どんなことをしたら人よりも成果を上げられるか、学生である皆さんの20数年という人生の中では、見えていないことがまだまだあるでしょう。それが当然だと思いますし、実際私自身を振り返ってもそうでした。 仕事を通じてさまざまなことにチャレンジをしてくことは、自分の本当の可能性や才能を見いだすことにつながります。「自分の可能性も分からないのに就職活動をしなければいけないなんて」とネガティブに考えず、「自分の中の未知の可能性と巡り合えるような働き方ができる環境はどこか?」をとことん追い求めてみてください。 そしてもう一つ。知的好奇心をもって仕事に取り組むことで、高いレベルの“問題解決能力”が養われていることを、やがて自覚すると思います。 コンサルタントに限らず、営業職でも、研究職でも、職種を問わず、知的好奇心を刺激される仕事であれば、課題を発見し、新たな知見に触れ、自分なりの解を導き出すという一連の作業に常日頃から明け暮れているはず。その試行錯誤の積み重ねによって、ビジネスプロフェッショナルの基礎スキルとなる問題解決能力はおのずと磨かれます。そのためにも、若いうちから知的好奇心をもって仕事に取り組む習慣を付けることを強くお勧めしたいです。 私は20代の時、新日本製鐵にいました。非常におおらかで、高い視座をもって人を育ててくれる会社にいたおかげで、大いに成長することができました。 新卒入社の頃は社会人としての基本動作や考え方から覚えていきましたが、仕事に習熟していくうちに自信も付き、いつしか「水越はマンエツだ」と言われるようになりました。「マンエツ」とは「僭越」が過ぎるという意味の皮肉です。「せんえつ」の10倍生意気だから「まんえつ」ということ(笑)。 それでも部署を移る際には盛大な送別会を開いてくれて、先輩諸氏の懐の深さに感激したものです。生意気だろうが何だろうが、言われたことだけこなすことはしない。自分なりに現状の問題を発見し、その解決の仕方を考え、主張していたことを認めてもらったのだと思いました。また、そう考えて仕事に臨んだことで成長できたのだと自負しています。BCGに来てからも、同様のおおらかさを感じました。 業種や規模を問わず、あらゆる企業が勝機をつかもうとしていますが、コンサルタントはそうした企業のさらに半歩先を行く洞察と提案、実行によって結果を出さねばなりません。 一昔前のコンサルタントは、戦略プランのプレゼン時だけクライアントが思いもつかないようなアイデアでサプライズすれば評価されることもありました。今はそうではなく、プロジェクトの結果がもたらすクライアントへのインパクトでサプライズを起こすことが強く求められます。ですから、コンサルタントというと「大変そうな仕事だ」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、それは否定しません。 が、それでも私が入社したころ30数名だった日本法人は、今や約580人から成る組織へと拡大しています。タフな仕事と分かっていながらもこれだけ多くの人材が集まるのはなぜか? その背景には、もちろん人材教育の体制整備や働き方の改善などに着手してきたこともあります。しかしそれ以上に、自らを高めようという志の持ち主たちがBCGという環境や仲間を自らの成長の場として選んだこと。これこそが組織拡大の最大の原動力と考えています。 20年以上コンサルタント一筋なので、「他のことがしたくなりませんか」などと聞かれることもありますが、飽きるヒマなどないくらいに、次々と新鮮な驚きや刺激的な人物に出会えます。共に働く仲間はいずれも優秀で、侃々諤々の議論も厭わず、同じように新しい驚きや刺激を喜んでいるから、互いの意見を尊重し合う包容力がある。お金や地位を求める人の集団だったら、こうはいきません。 不確実な時代はこれからも続きます。そんな中で確実なのは、自らを磨いた者だけが魅力的な人と出会い、そこでまた成長を手に入れ、自分の価値を向上していけるということです。 自分の可能性を今から決め打ちせず、隠れた才能を開花させることができる場をじっくりと選び取ってください。それができるのは、学生である今だけです。そのチャンスを活かさぬ手はありませんよ。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)