自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第2回は、若手コンサルタントが学生たちの質問に答えていく形で、就職活動のあり方や、20代の時期に挑むべき「成長」について、自由に語り合ってもらった。 ――まずは、コンサルタントのお2人の就職活動時のお話を聞かせてください。どんな経緯でボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)への入社を決めたのですか? 千田秀典氏(以下、千田): 私は大学、大学院と、一貫して航空宇宙工学を学んでいました。ずっと航空機開発エンジニアになることを目指していたのですが、就活を始めようかという時期、航空業界をはじめ日本の製造業が厳しい状況に陥っていました。 そのような中で、いちエンジニアとして技術の部分で付加価値を出すことだけではなく、もっと別の立場から業界全体の復興に寄与することはできないかと考え始めたんです。 そうしてたどり着いたのが2つの選択肢です。一つは経済産業省などの一員になって、行政の立場から産業界に貢献していく道。もう一つはコンサルタントとして、戦略策定やその実行支援によって企業に貢献していく道。 迷った末に、最終的に選んだのがコンサルタントの道でした。 サカイ シュンスケさん(以下、サカイ): 私は千田さんと同じく大学院生で理系専攻です。どうしても研究などに時間を取られがちで、就活を進める時にどうタイムマネジメントしていこうかと考えてしまいます。千田さんはどうしていたんですか? 千田: 私も就活中のタイムマネジメントの難しさは感じました。その点からも、夏のインターンシップ前には、2つの選択肢に絞り込むことにしたんです。インターンは官公庁とコンサル業界のみ参加することにして、選考を受ける会社も数社に限定しました。 細かいスケジュール管理やプランニングはあまりしていませんでしたが、早い時期に集中して自分の進むべき道をゆっくり考えて吟味する時間を取っておいたことで、その後の就活は効率的に進められました。 数打ちゃ当たる方式の就活をやらなかったから、研究と両立することができたんだと思っています。 シラカワ アユキさん(以下、シラカワ): 僕はパブリックセクターへ進むべきか、コンサルタントを目指すべきかで今迷っています。 何となく、官公庁が指示を出したり決済権を持ったりする上の立場で、コンサルや一般企業がそれに従って現場で動く下の立場、みたいなイメージでいるんですが……。 千田: どちらかが上で、どちらかが下ということではなく、そこは役割の違いかなと思います。 サッカーに例えるなら、プレーヤーが動きやすいようにコートの外でルールを決めるのがパブリックセクターで、コートの中のプレーヤーをどのようにサポートするかを考えているのがコンサルタント。関わり方は違うけれど、共により良い試合を行うために貢献しています。上下の序列というよりは、それぞれ違う役割を担いつつ、共に産業や企業の発展をサポートしているんです。 シラカワ: なるほど。では、千田さんはそこでなぜコンサルタントの方を選んだんですか? 千田: 「法律や制度に軸足を置くのではなく、ビジネスの側面からダイレクトに関わっていく方が面白い」と感じたことが最大の理由です。これはもう直感というか、自分自身の好みの問題ですね(笑)。 もう一つ挙げるとすれば「現場主義・成果主義」であること。つまり、現場で起きているファクトをベースにして企業に寄り添った戦略を練り上げ、その成果がすぐに目に見えて求められるコンサルティングのスタイルが、私には合っていると思えたんです。 また、BCGのように世界中のあらゆる業界のコンサルティングを手掛けるファームに入れば、個人的な思い入れがある航空業界に限らず、さまざまな産業や企業と向き合い、知見を得ながら、短期間で成長できると考えたんです。 日浦瞳子氏(以下、日浦): 私もBCGへ入社を決めた最大の理由は、ここでなら成長できると確信できたからです。 私は大学にいる間、ずっとアメリカンフットボール部のマネジャーをしていて、学生時代のほとんどの時間を部活に捧げていました(笑)。 ですので、毎日それはもう忙しく過ごしていたのですが、就職活動を始める時にはいったん立ち止まって、目の前のことだけでなく、「10年先、20年先の長いスパンで自分の将来を考えてみよう」と思ったんです。 文系の学生でしたから、専門性や突出した強みを持っているわけではありません。やりたいこともまだ分からない。だから「働き方」を軸に、自分がどうありたいかを考えていきました。 女性ですので、やはり出産・育児のことも視野に入れておきたい。ちょっと大げさかもしれませんが、就活をきっかけに人生設計をしてみたんですね。 10年後、20年後、自分はどう生きていたいか? まず、仕事は続けていたい。 とすると、ライフイベントがある前の20代前半は一番仕事に没頭できる重要な期間になる。それなら男女差なく成長チャンスが得られるフラットな環境で、思い切り力を付けたい。 そんなふうに考えて、就活当初は「女性社員がたくさん活躍していそうだから」という理由で、消費財メーカーや化粧品メーカーを中心に情報収集していました。 ですが、たまたま参加した合同企業説明会で初めてコンサルティング業界という存在を知り、その仕事内容や環境に魅力を感じて、複数社受けてみたんです。――消費財や化粧品メーカーからコンサルティング業界へ志望業界が変わるとは、大きなシフトチェンジでしたね。 日浦: 実は、コンサルティング業界の仕事を知って、就職先選びに対する考え方がガラリと変わったんですよ。 それまで私は、10年後も20年後も活躍できる環境へ身を置くべき、と思って就職先選びをしていたのですが、そうじゃないと気付いたんです。10年後も20年後も活躍するためには、そもそもその時点で活躍できるだけのスキルや能力を自分が持っていないとダメなんだって。 それには、20代でいろんなことを吸収して成長し、やりたいことを見つけられる環境を就職先として選ぶ必要がある。それがかなうのが、まさにコンサルタントの仕事だなと思ったんです。 ただ、最初はコンサルティング業界やコンサルタントについてほとんど知識がなかったので、中長期で続けていける仕事なのかを確かめるために、複数の会社の方々に話を聞いてみました。同じコンサルティングファームの方でも、会って話を聞くと、各社それぞれカラーが全然違います。私には、BCGのカラーが一番フィットしているなと思い、入社を決めました。 ユアサ チヒロさん(以下、ユアサ): 外資系コンサルティングファームのカラーの違いってどういう差なんですか? 確かに、お2人を見ていると、私自身がファームに抱いていたイメージとは違う気がするんです。あの、「いい意味で」ですけど(笑)。でも、お2人はまたそれぞれ違うタイプの方ですよね。そうすると、BCGのカラーって一体何なのだろうと思いますし……。 千田: いわゆる「外資系」とか「コンサルティングファーム」という言葉からイメージすると、ロジカルな口調で話すクールな人ばっかりがいそうに思いますよね? 私も同じようなイメージを就活していた頃に抱いていました。 もちろんそういうカラーのファームも存在します。ところがBCGはそうではないんですよ、「いい意味で」(笑)。 日浦: そうですね。私も学生時代は、外資、コンサルというと、自分のキャラクターとは遠く離れたスマートで華やかなイメージを持っていました(笑)。でもBCGには、気取らない人が多くて、私のように「ガッツで頑張ります」みたいな人も普通にいます。 千田: むしろ、そういう多様性がBCGの特質だし、定義しにくいところこそがBCGのカラーなのだととらえてくれたらうれしいです。 BCGは、人の個性や文化、発想の違いというものに対する許容度が高い。もちろん仕事に対する価値観や理想は共有していますが、似たようなタイプの人が集う集団ではなく、本当の意味で多様性が根付いているんです。 シラカワ: 商社もコンサルティングファームと同じく、経営に近い仕事の一つだと思うのですが、就活の時に商社は考えなかったのですか? 千田: 商社に就職した場合、恐らく特定の業界の中で長く経験を積んで行くことになるんだろうと思います。 それはそれで特定の領域で自分の力を高めたり、業界に貢献したりする上で意義のある形だと思いますが、私の場合は、そもそも航空業界や製造業に貢献したいというアスピレーション(願望)がベースにあったので、プロジェクト単位でさまざまな業界のサポートに携わることのできるコンサルを選びました。より自分のアスピレーションに近いプロジェクトに関わるチャンスに恵まれるだろうと。 それと私自身、大人しい気質なもので、商社のパワーに溢れたタフな文化よりも、コンサルの方が性に合うと感じたこともありました(笑)。 ユアサ: お2人とも、就職先の選択肢ってたくさんあったと思うんです。その中で1社を選ぶための判断軸ってどうやって定めていったんでしょうか? きっとご自身の価値観に照らし合わせて整理していったと思うんですけど。 日浦: 私は学生時代に部活で辛かったこと、成功したこと、それぞれから何を得られたかを洗い出していきました。今までの人生の中で、自分が意思をもって決断したことの基準は何だったかも、改めて考えましたね。千田: 死ぬ時に「この人生良かったなぁ」と思いたい。では、何ができていたらそう思えるのか?と自問自答しましたね。 結果、「自分ならではの社会貢献ができる」「人に感謝される」「自分が楽しいと思える」、この3つを満たす仕事をしていたいという答えに、私はたどり着きました。 好きなものは何か。問題意識を持つポイントはどこか。 自分の人生を豊かに過ごすためにどうするべきかを考える時間をしっかり持ってみたら、おのずと判断軸は整理されてくると思いますよ。 ウカイ ジュンヤさん(以下、ウカイ): 大学で学んだことの中で、自分の強みになったことってありますか? 就活時に役に立ったものとか。 日浦: 働き始めてから気付いたんですが、学生時代に何かにものすごく打ち込んでいた経験を持つ人が周囲にたくさんいるんですよね。 翻って考えると、つまりはそういう経験の持ち主が入社しているということ。勉強でも、活動でも、学生時代にこれに力を注いできましたと断言できる何かがあることは、就活でもきっと活きてくるんじゃないでしょうか。 ――ご自身の就職活動を振り返って、これから就活を始める学生たちへ、今お2人が改めて伝えたいことは何でしょうか? 千田: 昔のような終身雇用の時代ではありませんから、新卒時の就職をそれほど重々しくとらえていない人もいるはずです。実際、転職したりして、幾度か大きな分岐点を経ていく人も多いでしょう。 けれども、だからといって就職を「ファーストステップでしかない」かのように軽くとらえてはほしくないのです。 せっかくこれからの人生を考える良い機会なのだから、「自分は何がしたいのか、何を面白いと感じるのか」、「何を大切にして生きていこうか」というように、自分を見つめながら進めてほしいと思います。 半面、「自分はこうなんだ」と決めつけてシャットアウトしてしまわずに、就活を通じて出会う人やチャンスから、自分の新しい可能性を広く見いだしていってほしいですね。 日浦: 私も同じく、「どの会社に入るか」と考える前に、「自分はどんな風に生きていきたいか」という人生のビジョンを描いてみてほしいです。そして、自分のキャリアを数十年先までいったんイメージしてみてください。人生のどの時期に、仕事にどのくらいのパワーをかけたいかまでを考えてみると、未来が少し具体化してきませんか。 それと、就活を進める中で、ついブランドに引かれて一流企業にばかり目が行ってしまうこともあると思います。でも、それは決して本質ではありません。自分の人生設計に相応しい、自分が求める成長を遂げるために必要な“材料”は何か。それを忘れずにいれば、きっと自分らしく働ける場所にたどり着けると思います。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第2回は、若手コンサルタントが学生たちの質問に答えていく形で、就職活動のあり方や、20代の時期に挑むべき「成長」について、自由に語り合ってもらった。 ――就活を経て、実際にBCGでコンサルタントとして働くようになってから、どんな経験を積んでいるのですか? 千田: 私は2014年に入社した後、1カ月間の基礎的な研修を経て、すぐにプロジェクトに入りました。私の場合は「製造業のお客さまのプロジェクト」を希望したところ、願いがかない、1プロジェクト目はメーカーの収益基盤強化プロジェクトに入ることになりました。 BCGでは、プロジェクトアサインの際に、新入社員でも参加したいプロジェクトの希望が出せます。必ずしも毎回希望通りになるわけではないものの、個人の興味や成長、プロジェクトで求められる能力などが考慮された上で、アサインが決定します。 現在に至るまで6~7件のプロジェクトに従事してきましたが、製造業が多いものの幅広い業種のプロジェクトの経験をしていると思います。プロジェクト内容も、金融機関の店舗展開の戦略案件であったり、メーカーでの製品開発加速化支援であったりと、さまざまです。 サカイ: 自分が望んだわけではないプロジェクトに入ることもあるわけですよね? そういう場合でも、モチベーションが下がったりしないものですか? 千田: 私の場合は将来的には航空業界に貢献することが夢ですから、もちろん特に製造業に強い関心があります。 とはいえ、今は自分自身の知見を増やして成長するためにも、幅広い業種・案件の経験を積むべきだと考えているので、むしろ製造業以外のプロジェクトにアサインされるとワクワクしますね。また一つ、新しい経験ができるチャンスだ!と(笑)。 ですから、案件によってモチベーションが下がるなどということはまずないです。 むしろ毎回、期待されている結果にプラス・アルファの、自分ならではの付加価値を付けてやるぞ、というファイトがわいてきます。 日浦: 私は2015年4月に入社しましたが、入社直後の流れは千田と同様です。1カ月の研修の後、プロジェクトにアサインされ、実務を通じてコンサルタントの仕事を学んでいきました。 コンサルタントはプロジェクトベースで仕事をします。3カ月程度のものもあれば、もっと長期にわたるものもあり、解決すべき課題もプロジェクトの規模も毎回違います。また、一緒に働く仲間や先輩、リーダーも変わります。 こうした環境は、飛び抜けたスキルをまだ持っていない私にとっては、とてもありがたいことだと感じています。短期間のうちに多様な経験をして、数多くの優秀な先輩やお客さまと触れ合いながら、「これから自分は何を極めていきたいか」を模索することができるからです。 千田: 我々コンサルタントは、プロジェクトの期間内で成果を上げること、言ってみれば、短いスパンで次々に異なる課題と向き合うことが求められます。それによって自分の能力がストレッチされますし、必ずしも自分の得意分野ではない領域にも携わることになるので、知見の幅をどんどん広げていける。 スピード感をもって自身の成長を実感できるのが、コンサルタントの醍醐味の一つと言えるでしょうね。 ウカイ: 仕事はOJT中心なんですよね? とにかく現場に出て覚える方式なんでしょうか? 千田: そうですね。実際に仕事を現場で経験していくのと並行して、新入社員にはインストラクターと呼ばれる先輩社員がマン・ツー・マンで寄り添ってくれる仕組みになっています。 プロジェクトは数カ月単位で変わっていきますが、インストラクターはずっと同じ先輩が付いてくれるので、前のプロジェクトと比較しての自分の成長度合いや課題など、中長期的な視点も踏まえつつ、アドバイスやフィードバックがもらえるんです。 プロジェクトごとにメンバーが変わったとしても、このインストラクターのおかげで、その時点での経験を振り返り、積み重ねながら成長していくことができます。 日浦: 私なんて入社当初はExcelだってまともに使いこなせませんでした(苦笑)。 他にも社会人1年目の人間が直面するさまざまな問題や悩み、能力的に不足している部分など、インストラクターにはあらゆる相談に乗ってもらいましたし、もちろんExcelについてもみっちり教えてもらいました。 実は今度私も後輩社員のインストラクターになるのですが、私自身の成長にもつながる経験だと思って楽しみにしています。 ――お2人はご自身の将来について、今どのようなキャリアビジョンを描いていますか? 千田: まだまだ学ぶことは無限にありますが、いずれはコンサルタントとして一人前になってクライアント企業により大きな貢献がしたいと思っています。さらにその先でいえば、コンサルタント以外の立場で、プレーヤーとして企業や産業に携わっていくことも視野に入れています。 シラカワ: コンサルタントは、プレーヤー=当事者にはなりきれない、という気持ちがあったりするんでしょうか? 千田: コンサルタントといえば、かつては経営課題を解決するための戦略を描いて伝えるところまでが主な仕事でしたが、今は違います。 戦略を実行するために、時には企業内に深く入ってお客さまと一緒に完遂するところまでコミットしているので、コンサルタントという立場であっても、プレーヤー=当事者としての経験を十分に積むことができていると感じます。 その上で、必ずしもコンサルタントという立場だけが自分がプレーヤーとして最も機能する形であるとは限らない、と思っているんです。 今は人材流動性の高い時代ですし、友人やクライアントを見ても、一つの組織にずっといることがスタンダードではなくなっています。キャリアチェンジも、フラットに選択肢の一つとして考えているんですよ。 いずれにせよ、経験やスキルを身に付け、自分が最も価値が出せる場所を常に選択していきたいと思っています。 日浦: 私は実を言うと、まだ将来のビジョンが固まっていません。だからこそ、今から10年以内に「これだ」と言えるものを見つけ出そうと考えているんです。 BCGでの仕事の面白さは、プロジェクトが1つ終わるごとに、新しい自分を発見できること。意外と得意なことや苦手なこと、それまで考えもしなかったことを面白いと思えること、知らなかった自分の一面をどんどんキャッチアップして、強みを確立していきたいです。 近い将来、「この分野なら日浦だ」と言ってもらえるようになるために、今は成長あるのみですね。 ウカイ: 確かにコンサルタントの仕事は成長できそうだなと思います。でも、ちょっと聞きにくいですが……、やっぱりコンサルって激務なんですか? 日浦: 私も就活中は、そこが気になっていました(笑)。 でも、入社してみて実感したのは「確かに忙しい時は忙しいけれども、激務ではない」ですね。 千田: もちろんお客さまの存在があるし、プロジェクトのフェーズ次第で大変な時もあります。「メリハリがはっきりしているなあ」という感覚です。 1日単位ではなく、ロングレンジでワークライフバランスを見たら、むしろ恵まれている気がします。プロジェクトとプロジェクトの合間に長めの休みを取ることも普通に定着していますし。 日浦: そうですね。かつて、コンサルタントが戦略策定だけを求められていた時代には、短期集中型のプロジェクトで最大の価値貢献をするべく、昼夜を問わずがむしゃらに仕事にまい進するスタイルが求められていたのだと思います。 でも今は、お客さまへの価値貢献の形も変わってきました。瞬間最大風速ではなく、継続的に成果を出し続けることが、コンサルタントに求められるようになってきています。 私たちコンサルタントが継続的に力を発揮できるよう、BCG全体が会社として社員のタイムマネジメントに力を入れているので、ワークライフバランスはしっかり取れていると思いますね。 サカイ: コンサルタントは激務と競争の中で猛烈に仕事をこなす、というイメージでしたが、もっと長期的に成長を続けながら働ける環境なんですね。 ユアサ: 日浦さんは出産後も働きたいとおっしゃってましたよね。今は、その具体的なイメージってわいてるんでしょうか? 日浦: もちろん! 私が就活中に話を聞いたBCGの女性コンサルタントも、まさに仕事と育児の両立をしていましたし、今参加しているプロジェクトの女性リーダーも、ライフイベントに応じて仕事の量や進め方を制御しながらも結果をきちんと出していて、理想的なロールモデルが近くにいます。 スキル、経験、信頼を積み重ねてきたからこそ、仕事とプライベートの比重を変えたいと思ったときに、それを実現できる能力と環境が手に入れられる。その実例を数々見ていますから、私もその時のために今は成長するべきなんだ、と迷いなく仕事に集中できています。 ウカイ: お2人が一番成長を実感できた、失敗談とかハードだった局面とかがあれば教えてください。 日浦: 失敗って概念はあまりないです。もちろん小さなミスや行き届かないことはたくさんありますけど、ファクトとしての間違いであれば必ず正しい答えを出し直しますし、プロセスの話であれば「次はこうしよう」と考えて取り組むので、最終的に失敗したまま終わるものってないんですよね(笑)。 千田: そうそう。失敗って、つまりは自分がコミットしてないことに起こるものだから。自分の力の足りなさを実感して改善策を打てないまま終わるものが“失敗”なんです。でもコンサルタントの仕事はフルコミットで臨むものですから、取り返すまでやり続けるので、基本的に失敗なんてないんですよ(笑)。 個人的に成長したと感じるエピソードとして思い出すのは、あるメーカーのプロジェクトですね。 海外のエキスパートを誘致して、新商品開発チームを立ち上げていたのですが、ミーティングで私がファシリテーターを務めていたら、お客さまサイドで意見が分かれてしまったんです。 たまたま上司のプロジェクトリーダーも不在の時で、何が何でも私が議題をまとめなければならなかったのですが、ロジックだけではヒトを動かせない状況に、皆さんに「何とかお願いします!」と頭を下げて、最終的には目的完遂できたという経験をしたことがあります。お一人お一人の思いや状況に向き合う人間力を試された場でしたね。 日浦: 分かります。私もある企業の営業改革プロジェクトで、新たなプログラムの導入をする際に、営業所の皆さんの理解をなかなか得られないことがありました。 それでも諦めず、ヘコたれずに毎日通い続けていたら、最後には「また来たのか!」と冗談交じりに笑って迎えていただけるようになりました。人を巻き込み、動かすために、いかに自分の本気や誠意を伝えていくことが大事かを思い知ったプロジェクトでした。 千田: もちろんロジックや効率性は極めて重要で外せない要素ですが、最終的にお客さまと正しい方向に向かって進むために、時には「足と時間と感情で稼ぐ」というところも大いにあると思っています。戦略の実行段階では、皆さんが思っている以上に泥臭いことをやっていますよ。 日浦: 入社前は、きらびやかな世界かと思っていたんですけれどね(笑)。シラカワ: 意外です。僕はコンサルタントに対して、正直偏見があったんです。もっとガチガチにロジックばかりをぶつけてくるような人たちばかりだと(笑)。 お2人の話を伺う中で、人柄に触れ、結局本当に能力が高い人たちは楽しそうに仕事をするんだなってことが分かりました。うれしい誤算です。自分の将来をもう一度真剣に考えてみようと思います。 ユアサ: 私もお2人が、私のボンヤリした質問の意図を的確にくみ取って答えてくださるのに感激しました。お話の仕方もすごく分かりやすくて。コンサルタントは優秀な人というイメージだけはありましたが、こんなに短い時間の中で自分の実体験としてそれを感じることができて良い経験になりました。 千田: 私もインターンに参加した時、コンサルタントに同じことを感じたのを思い出しました(笑)。 コンサルタントはクライアントの真意をくみ取り、真剣に向き合うのが仕事なので、そう言っていただけるととても光栄です。 ――お2人は就活時から、成長するためにスキルや知見を得たいとお考えでした。思い描いていた通りの成長を今、実現されていますか? 千田: そういう意味では、思い描いていた以上の成長ができていると感じます。 働き始める前は、課題解決力やリーダーシップ、ロジカルシンキングなど、分かりやすいビジネススキルや能力、知識を身に付けることが成長だと思っていました。でも、戦略を実行し、イノベーションを起こすためには、人を巻き込み、動かすことが最も重要だと知った今、それだけでは成長は語れないと気付きました。 人の機微を見抜き、組織を読み解き、自身のスタンスをぶらすことなく、ここぞというときには異論もぶつけられる、そんな絶妙かつ深いコミュニケーション力や粘り強さが、ビジネスの現場では必要とされます。ロジックだけでヒトは動かない。仕事の経験を積み重ねる中で、人間の本質の部分を磨くことこそが、成長なのでしょうね。 日浦: 私も、学生時代にイメージしていた成長はぼんやりとしたもので、仕事のスキルに偏ったものを想定していました。実際働いてみて、私もまた、スキルだけではないもっと本質的なものが必要だと実感させられています。 クライアントに価値を提供したいと、心の底から本気で思えるようになること。主体的に考え、勇気を出して動くこと。言葉にすると簡単ですが、社会人になり、責任を負ってみて初めて、その重みが分かった気がするのです。 学生の皆さんも、仕事を始めてからきっと、自分が求めていた“成長”の奥深さに気付くと思います。そうして初めて、本当の意味での自分の成長戦略が描けるようになるはずです。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)
自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――? これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。 第1回は、2016年までBCG日本代表として同社の指揮を執った水越豊氏に、2020年以降のビジネスシーンで必要とされるキャリア構築のヒントについて聞いた。 2020年という節目の年を間近に控え、「これからどんな時代になるのか」と問われる機会が増えてきましたが、私の考えは随分前から全く変わっていません。「不確実性の時代ですよ」というのがその答えです。 実はこの言葉、今から40年も前にアメリカの経済学者だったジョン・ケネス・ガルブレイス氏が記した著書のタイトル。1970年代の終わりから80年代にかけて、世界的なベストセラーとなった本なのですが、それから半世紀近くが経過した今も、私は「不確実」な時代がずっと続いていると考えています。 例えば、今からちょうど10年前にアップルが最初のiPhoneを発売しましたが、その後スマートフォンが全世界に普及し、暮らしにもビジネスにも巨大な影響力を持つようになる、と予測できた人が当時どれだけいたでしょうか? 限りなくゼロに近かったはずです。こうした予測不能な事象は、技術革新が目まぐるしく進んでいる今、ますます加速していくでしょう。 また直近の話題でいえば、米国の新大統領にトランプ氏が選ばれることも、英国の国民投票がEU離脱を選択することも、多くの人は予想していませんでした。先が読めず、何が起こるか分からない時代は今なお続いていますし、むしろその不確実性は今後さらに増していくと見ています。 いきなりこんな話をされたら、これから社会人になろうとしている学生の皆さんは、不安を感じるかもしれません。「先が見えない時代に、どんな仕事をして将来のビジョンをどう描けばいいんだ?」と。 一つ言えるのは、「先行き不透明なのは皆さんだけではない」ということです。例えば10年後に栄えているのは、どの国や地域なのか。どんな産業が発展し、どういう職種が脚光を浴びるのか。これらもまた厳密には分かりません。 つまり、絶対確実なものなどないのですから、これまで以上に我々は“自分ブランド”というものを、自分の責任で磨いていくしかないのです。「この会社に入れたらもう安心」「こういう仕事ができたら給料も良いし、カッコいい」などというステレオタイプな発想から脱却しましょう。 では、自分ブランドを磨くにはどうすればいいか? 私がお勧めしたいのは「自分の力を高めてくれる場で働くこと」。どんな場が自分を高めてくれるのかといえば、素晴らしい人と共に働ける場です。より具体的な話にするために、我々ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)を例にとってご紹介しましょう。 今、BCGでは最新の領域に活動の場を広げて、そこでの知見を深め、お客さまと共に新しい価値を生み出そうとしています。最新の領域とは、例えばAIでありロボティクスであり、デジタルやフィンテック、生命科学やエネルギー改革といった領域です。こうした新しいものに触れる機会を持つことで人は大いに成長しますし、不確実な時代を突き破るような新しい可能性も膨らんでいきます。 そして、未知の世界に触れて知識を得ること以上に、それぞれの業界の先端で活躍する素晴らしい人たちと出会い、共に働くことそのものが、刺激を受け成長を得る機会になるのです。 コンサルティングファームは、人こそが唯一の財産です。BCGのメンバーそれぞれが自分ブランドを高めるチャンスを得て、より大きなインパクトを生み出す。それがBCGの力となる。この好循環を創出すべく、果敢に新しいビジネスフィールドへ挑戦を続けているともいえます。 結局のところ、人を成長させるのは、やはり人。どんな上司がいて、どんな同僚がいるのか。お客さまである企業のどのような人々と向き合うのか。不確実な時代だけに、「何を仕事にするのか」よりも「誰と仕事をするのか」がより一層重要になってくるのです。 だからこそ、自分自身の姿勢も強く問われることを忘れないでください。自分ブランドを高めたい、という強い成長欲求を持つこと。そして、知的好奇心を貪欲に発揮し続けることが成長をかなえる条件になります。 何事にも関心を持ち、新しい学びを得たときに喜びを感じる。分からないことに出会ったときには、「なぜ? どうして?」という疑問を解決するため、徹底追求していく。そんな知的好奇心に満ちた日々は、大切なものに気付かせてくれるはずです。 一つは、自分が持つ“可能性”です。自分という人間が何を得意にしていて、どんなことをしたら人よりも成果を上げられるか、学生である皆さんの20数年という人生の中では、見えていないことがまだまだあるでしょう。それが当然だと思いますし、実際私自身を振り返ってもそうでした。 仕事を通じてさまざまなことにチャレンジをしてくことは、自分の本当の可能性や才能を見いだすことにつながります。「自分の可能性も分からないのに就職活動をしなければいけないなんて」とネガティブに考えず、「自分の中の未知の可能性と巡り合えるような働き方ができる環境はどこか?」をとことん追い求めてみてください。 そしてもう一つ。知的好奇心をもって仕事に取り組むことで、高いレベルの“問題解決能力”が養われていることを、やがて自覚すると思います。 コンサルタントに限らず、営業職でも、研究職でも、職種を問わず、知的好奇心を刺激される仕事であれば、課題を発見し、新たな知見に触れ、自分なりの解を導き出すという一連の作業に常日頃から明け暮れているはず。その試行錯誤の積み重ねによって、ビジネスプロフェッショナルの基礎スキルとなる問題解決能力はおのずと磨かれます。そのためにも、若いうちから知的好奇心をもって仕事に取り組む習慣を付けることを強くお勧めしたいです。 私は20代の時、新日本製鐵にいました。非常におおらかで、高い視座をもって人を育ててくれる会社にいたおかげで、大いに成長することができました。 新卒入社の頃は社会人としての基本動作や考え方から覚えていきましたが、仕事に習熟していくうちに自信も付き、いつしか「水越はマンエツだ」と言われるようになりました。「マンエツ」とは「僭越」が過ぎるという意味の皮肉です。「せんえつ」の10倍生意気だから「まんえつ」ということ(笑)。 それでも部署を移る際には盛大な送別会を開いてくれて、先輩諸氏の懐の深さに感激したものです。生意気だろうが何だろうが、言われたことだけこなすことはしない。自分なりに現状の問題を発見し、その解決の仕方を考え、主張していたことを認めてもらったのだと思いました。また、そう考えて仕事に臨んだことで成長できたのだと自負しています。BCGに来てからも、同様のおおらかさを感じました。 業種や規模を問わず、あらゆる企業が勝機をつかもうとしていますが、コンサルタントはそうした企業のさらに半歩先を行く洞察と提案、実行によって結果を出さねばなりません。 一昔前のコンサルタントは、戦略プランのプレゼン時だけクライアントが思いもつかないようなアイデアでサプライズすれば評価されることもありました。今はそうではなく、プロジェクトの結果がもたらすクライアントへのインパクトでサプライズを起こすことが強く求められます。ですから、コンサルタントというと「大変そうな仕事だ」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、それは否定しません。 が、それでも私が入社したころ30数名だった日本法人は、今や約580人から成る組織へと拡大しています。タフな仕事と分かっていながらもこれだけ多くの人材が集まるのはなぜか? その背景には、もちろん人材教育の体制整備や働き方の改善などに着手してきたこともあります。しかしそれ以上に、自らを高めようという志の持ち主たちがBCGという環境や仲間を自らの成長の場として選んだこと。これこそが組織拡大の最大の原動力と考えています。 20年以上コンサルタント一筋なので、「他のことがしたくなりませんか」などと聞かれることもありますが、飽きるヒマなどないくらいに、次々と新鮮な驚きや刺激的な人物に出会えます。共に働く仲間はいずれも優秀で、侃々諤々の議論も厭わず、同じように新しい驚きや刺激を喜んでいるから、互いの意見を尊重し合う包容力がある。お金や地位を求める人の集団だったら、こうはいきません。 不確実な時代はこれからも続きます。そんな中で確実なのは、自らを磨いた者だけが魅力的な人と出会い、そこでまた成長を手に入れ、自分の価値を向上していけるということです。 自分の可能性を今から決め打ちせず、隠れた才能を開花させることができる場をじっくりと選び取ってください。それができるのは、学生である今だけです。そのチャンスを活かさぬ手はありませんよ。 (取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)