2018年卒採用はひと山越えて、2019年卒(現大学3年生)向けにインターンシップの説明会、選考が始まっている。そうした中で最近注目されるのは、「男子学生向け身だしなみセミナー」だ。6月29日に千葉工業大学は、男性化粧品メーカーのマンダム社と共同で、3年生の男子学生向けに「就活身だしなみセミナー」なるものを開催した。 千葉工大が「就活身だしなみセミナー」を開催するのは、今年3月に続いて2回目。3月といえば、就職活動が本格的にスタートした時期だ。就職課に身だしなみの相談に来る学生が多いことから、セミナーを開催したところ盛況だった。そこで今回は、インターンシップに行く前の学生に向けたセミナーとなったのである。 女子学生向けの身だしなみセミナーは珍しくない。が、男子学生向けのセミナーとは、実際いかなるものか。JR総武線津田沼駅近くにある千葉工大キャンパスを訪問した。会場ではマンダムの担当者2人が同社の製品を実際に使いながら講義を実施した。学生が最も気にするのは髪型である。「どんな髪型にすればいいのかわからない」という学生が多い。講師の片岡東氏によれば、就活では「短髪が大前提」とのこと。前髪や襟足が長いと「遊んでいそう」「責任感がなさそう」といったイメージを与えてしまう。 また、面接では顔の表情も重要だが、前髪が長すぎると目が隠れて表情がよくわからず、マイナス評価になってしまう。 それでは短髪ならば、どんなスタイルでもいいのか。若者の間ではここ数年、上の方は長めにして裾を極端に刈り上げる、「ツーブロック」というヘアースタイルが流行している。ただ、短髪ではあるが、ツーブロックはネガティブな印象を与えるという。 なぜなら、「学生気分が抜けない」「遊んでいそう」「芸能人気取り」などの印象を、面接官に与えてしまうから。どうしてもツーブロックにしたい場合は、刈り上げ部分を小さくしたほうがいい。 ワックスなどで”凝った”ヘアスタイルを作り込むのもあまりよくないという。マンダムでは自然な感じで髪をまとめられる整髪剤を勧めている。面接でお辞儀をするたびに前髪が乱れるのを防ぐため、ヘアスプレーで前髪を固定するのもいい。また男子学生は女子学生に比べ、スキンケアへの関心が低い。しかし、ニキビ肌やくすみのある肌は、不規則・不摂生な生活が連想され、面接ではマイナス材料になる。講師の奥啓輔氏は「実は女子よりも、男子のほうが肌が荒れやすいので、男子こそスキンケアが必要」という。男子は日常的に化粧をしないので、外気や紫外線の影響を受けやすい。紫外線はシミ、シワ、炎症の原因となる。女子と比べて皮脂分泌量も多い。とりわけ、額から鼻にかけてのTゾーンは皮脂が過剰なため、テカテカしている人も目立つ。 一方で、あごの周辺は乾燥しているので、ヒゲソリのダメージを受け、カサカサになってしまう。ベタベタとカサカサが同居した状況を放置しておくと、さまざまなトラブルを引き起こすとされる。 人間の肌は約28日間かけて生まれ変わる。肌荒れの学生が次の日の面接のため、肌を整えようとしてもすでに手遅れなので、できるだけ日々のスキンケアが欠かせないだろう。 スキンケアの基本は、毎日の洗顔だが、洗顔にもコツがある。まずは人肌程度(30~35度)のぬるま湯で洗う。温度が高いと皮脂を除去しすぎて、肌が荒れてしまうことがある。夏は暑いからといって、冷たい水で洗顔することもあるが、水温が低いと洗浄力が落ちる。 ソープは泡を立ててから使用するべきだが、泡を立てないでソープを顔に塗るような洗い方をしている学生も少なくない。これでは洗顔の効果が小さい。洗顔した後はすすぎが重要だ。実は、多くの人がすすぎ不足によって肌荒れを招いており、洗顔の意味がない。 日中に就活で動き回っているときは、洗顔できないので、フェイシャルペーパーを常備して使おう。面接前にTゾーンを拭いておけば、テカテカ感が消えて印象が良くなるだろう。 夏の日焼けも禁物。マンダムでは男子も日頃から、日焼け止めを使用することを勧めている。日焼け止めというとベタベタしたイメージがあるが、男性用はサラサラした製品もある。 中でも男子の意識が低いのが「体臭」だ。オフィスでは体臭が大きな問題になっていて、”スメルハラスメント”、略して”スメハラ”という言葉もあるほど。だが男子学生は、あまり体臭に気をつかわないことが多い。2016年11月にマンダムがビジネスパーソン向けに実施した調査では、男性新入社員の身だしなみでいちばん気になるのは、実は服装や髪型ではなく体臭だった。新入社員に対する評価基準は、採用試験での評価基準とほぼ同じ、と見ていいだろう。 日本人は欧米人に比べると、体臭が弱い印象があるが、現実にはそんなことはない。マンダムはこれまで12年間、体臭の研究をしており、日本人男性の3%は「非常に強いワキ臭」があるという。非常に強いワキ臭とは、その人が去った後、においが残るというレベル。33%には「強いワキ臭」がある。強いワキ臭とは、すれ違っただけでにおいがする、というレベルだ。体臭はワキだけでなく、頭皮や胸・腹部からも発生する。 これは皮脂や汗そのものがくさいのではなく、皮脂や汗が雑菌と接触することで嫌なにおいが発生する。そこで体臭を予防するには、皮脂や汗を洗浄するとともに汗を抑え、さらに皮膚についている細菌を殺菌しなくてはならない。 さまざまなデオドラント剤があるが、朝は脇に直接塗り込むタイプがいい。このタイプは消臭の持続力が高いからだ。昼間の就活中は、洗浄・殺菌・制汗の3機能を持つ、ボディペーパーが便利。ボディペーパーで体を拭けば、体臭を抑えるだけでなく、面接前に気分をリフレッシュさせることもできる。 暑い中、オフィス街をスーツで動き回れば、スーツが汗まみれになる。そんなときには、ウエア用のデオドラントスプレーを使う。においを消すだけでなく、クールダウン効果もある。 参加した学生からは、「日本人の体臭が強いとは知らなかった」「今日のセミナーで聞いたことをインターンシップ選考に生かしたい」、といった声が挙がっていた。 面接時の身だしなみは重要。加えてそれと同じくらい、証明写真撮影の身だしなみも重要だ。男性用化粧品「uno」を展開する資生堂では、サイト上で髪型やスキンケア方法などを提案している。 サイト上ばかりではない。実際、同社の総合美容施設「SHISEIDO THE GINZA」(銀座)では、「就活用証明写真プラン」を用意している。 普通のフォトスタジオでは写真の補正はしても、就活生向けメーキャップやヘアスタイリングまで手掛けるところは少ない。撮影枚数はほんの数枚というところだろう。SHISEIDO THE GINZAでは、ヘア&メーキャップアーティストが就活生の顔立ちに合わせた、ヘアスタイリングとメーキャップを行う。資生堂が広告撮影などで培ってきた撮影技術で証明写真を撮影してくれるのだ。 アーティストも立ち会い、ヘアやメーキャップを微調整している様子は、モデルや芸能人を撮影しているかのよう。最近は男子学生も、この就活用証明写真プランを利用している。 就活情報サイト「マイナビ学生の窓口」が2016年9月、企業の採用担当者を対象に実施した調査によると、就職選考で「身だしなみがかなり重要」と答えた採用担当者が25%だった。「まあまあ重要」との回答の63.3%と合わせると、約9割の採用担当者が身だしなみを重要視している。「男は外見でなく、中身で勝負」といっていたのはもはや昔話。今では外見も重要であることがよくわかる。 インターンシップ選考も、就活本番の選考も、蒸し暑い時期に行われる。ぜひとも身だしなみには気をつけて、外見でマイナス評価をされないように気をつけていただきたい。 (取材・文/田宮 寛之 [東洋経済 記者])
2018年卒学生の就職活動は一段落し、すでに2019年卒学生のインターンシップが始まっている。インターンシップとはいえ、事実上の就活スタートだ。これから何をすればいいのか、不安に思っている就活生は少なくない。 そこで、大手企業からの内定を獲得、すでに就活を終了した2018年卒の就活「勝ち組」の学生に向けて、匿名を条件に集まってもらった。いったい何が他者と勝敗を分けたのか。 (取材協力:ディスコ)出席してもらった参加学生(進路先業界) A:青山学院大学 文系・女子(大手金融) B:お茶の水女子大学 文系・女子(大手電機) C:東京大学 文系・男子(総合商社) D:東京外国語大学 文系・男子(総合商社) E:早稲田大学 文系・男子(大手保険) ――今年は昨年よりも早期化が進んだと聞きます。実際にいつごろから就活を始めたのですか。 A:大学3年生の6月、インターンシップ用の就職サイトがオープンすると同時に、エントリーを開始。有名企業ばかりにエントリーしたが、選考に落ちてしまったので、選考なしで参加できる企業2社でインターンシップをした。不動産会社と生保会社の1日型インターンシップだったものの、参加したことで「私は不動産には向かない」とはっきりわかったため、参加した意義はあった。 私は大学の授業を重視していたので、秋のインターンには参加せず、冬は金融3社の5日型に参加した。とてもハードな内容だったが、業界研究と就職情報収集の両方に役立った。 B:もともと公務員志望だったので、大学2年生の2月から公務員予備校に通っていた。しかし、3年生になってから「このままでいいのか」と思い、6月からインターンシップ先を探して、夏休みには1日型に3社、5日型に1社行った。 ある官庁でインターンシップをしたとき、「官庁では歯車のひとつになってしまう。つまらない」と直感的に感じ、民間企業に進む決意をした。冬には人材ビジネス会社でインターンシップをした。 C:大学3年生の前半はクラブ活動に専念していた。しかし、夏休み明けに「自分は出遅れている」と感じて、就活をスタート。総合コンサルティング会社は早めに内定を出してくれると思ったので、外資系3社で秋のインターンシップに参加、そのうちの1社からは12月に内定をもらった。 コンサルティング会社以外では、11月~翌年1月にかけて、不動産やメーカーなど、3社のインターンシップに行った。D:就職を意識したのは、イギリス留学中だった2016年4月。人材会社ディスコが主催する、ロンドン・キャリア・フォーラムに参加したのがきっかけだ。このフォーラムは、私より1学年上の2017年卒の日本人留学生を対象にしていたが、帰国すれば就活をするのだと思って、私もフォーラムへ行ってみた。 そこで、「ちゃんと準備しないと大変だ」と危機感を持ち、6月末に帰国してから、就職サイトを通じてインターンシップのエントリーを開始した。 「総合商社や大手コンサルは格好いいなあ」と思ってエントリーしたのだが、全部落ちてしまい、結局受かったのは、やや規模の小さい日系コンサルティング会社と一応受けた金融だった。結局、夏休みは5日型に2社、1日型に4社参加した。 秋は夏のインターンシップ先の決め方がミーハーだったことを反省、知名度の低いメーカーを中心に7社行った。そして、冬は再度、総合商社にチャレンジすると同時に、メーカーにも参加した。夏から合わせると全部で約20社に参加したことになる。 E:大学3年生の5月からインターンシップの合同企業説明会に参加していた。夏休みは4社のインターンシップに参加し、その中で業界を絞っていった。秋には5日型を1社、1日型を2社やった。秋のインターンシップは授業と重なるので、毎日大学に行かなくても済むように工夫して履修した。 年が明けてからは、無名企業のインターンシップにも行き、2月からは合同企業説明会に出席していた。経団連ルールでは3月から説明会の開始とはいえ、実際には多くの説明会が開催されていたと思う。 インターンシップ先を見つけるために活用したのは、フェイスブックやツイッター。就職サイトのインターンシップサイトは活用しなかった。 ――インターンシップは就活の一部のように見えますが、インターンシップ参加は有利になりましたか。 C:私は就職先の企業のインターンシップに落ちたが、本番の選考で受かっている。必ずしもインターンシップが有利になるとは、言い切れないと思う。A:就職先の金融機関のインターンシップ後、社員2人との面談に3回呼ばれた。面談ということだったが、あれはリクルーター面接だったと思う。そして、6月になると、面談に呼ばれた学生の選考が他の学生よりも早く始まった。 別の金融機関では、インターンシップ後の5月中、人事部との面談が3回あった。この金融機関の場合、インターンシップに参加した学生は、面接が1回免除される特典があった。 E:有利に働いた人もいると思う。私は、インターンシップ参加者限定のリクルーター面接には落ちてしまったが、6月から始まる通常ルートの選考で受かった。 ただ、インターンシップをしておくと、その企業に対する情報量がものすごく増えるので、通常ルートの選考で他の学生よりも圧倒的に強かったと思う。 D:インターンシップ参加者をかなり優遇する企業があり、中には面接の回数が半分になるケースもある。しかし、何より重要なのは、インターンシップの選考のため、ES(エントリーシート)を書いたり、面接を受けたりといった経験を積むことだろう。この経験が6月の選考で生きてくる。 B:冬のインターンシップに参加した人材ビジネス会社は私のことを覚えていてくれて、6月の選考では面接1回だけで内定が決まった。しかし、私は就職先の電機メーカーのインターンシップには参加していないし、会社説明会にも1回しか出席していない。インターンシップに参加しなくてもチャンスはある。私の場合、電機メーカーにOG訪問はしたので、それは評価されたと思う。 ――他のみなさんはOB・OG訪問をしましたか。 A:私の所属ゼミは20年ぐらいの歴史があるので、まずはゼミの先輩を訪問した。また私の大学では「就職アドバイザー登録」という制度があり、後輩の訪問を受け付けますというOB・OGが、キャリアセンターに、氏名・勤務先・メールアドレスを登録している。 登録しているOB・OG約50人にメールを出した。年が離れたOB・OGよりも、3歳ぐらい年上の先輩に、会社と就活について話を伺ったのが有意義だった。質問は5つぐらい用意し、そこから深掘りして聞くようにした。 業務内容の初歩的なことを聞いていたのでは、OB・OG訪問が実りあるものにはならない。会社状況や業務内容を把握したうえで質問すれば、レベルの高い話を聞くことができる。全部で10人のOB・OGを訪問した。D:私もまずは、クラブ活動やゼミのOB・OGを訪問した。抽象的な話にならないようにするには、会社についてだけでなく、仕事の内容についても知っておくべきだと思う。OB・OGの名前を検索することで、どんな仕事をしているのか、わかることもある。企業のプレスリリースに名前が載っていることもある。こんなときにはプレスリリースをとっかかりに話をすればいい。 私の大学は少人数なので、OB・OG訪問の相手を探すのが大変だったが、いざOB・OGに会うと、歓迎してくれて、そこからさらに違うOB・OGを紹介してくれることもあった。 C:私は全部で32人のOB・OGを訪問した。まずゼミの名簿を活用して、OB・OG4人を訪問し、そこからゼミに関係なく、OB・OGを紹介していただいた。 あいさつや服装をきちんとして、本気度が高いことを見せるようにした。また、メールの返信を早くすることや、日程を幅広く設定することで好印象を持たれるようにした。 B:私の大学はOGの数が少ないうえ、就職先は教員、金融、公務員が多い。こうした業界を志望していなかったので、大学のOG名簿はほとんど使用せず、「VISITS OB」や「Matcher」など、OB・OG訪問支援サイトを利用して企業の人に会っていた。 E:私はOB・OG訪問をしなかった。就活中にサークル活動も継続していたので時間がなかったし、サークルの先輩は私が希望する業界に就職していなかった。 ――筆記試験対策はどのようにしていましたか。 A:2~3月は毎日SPI3の勉強をしていた。使用した問題集は、『史上最強SPI&テストセンター超実践問題集』(ナツメ社)。問題が難しめに作られているので、学生の間では、「何回もやって問題に慣れておけば本番で大丈夫」との評判がある。『これが本当のSPI3だ』(SPIノートの会)は、問題の解き方を知るにはいいが、実際に問題練習をするには物足りないレベルだ。 B:私は公務員試験の勉強をしていたが、公務員試験の中の「数的処理」がSPI3に似ていたので、特に民間企業の筆記試験対策はしていない。ただ、いきなりSPI3に臨むのは大変だと思ったので、ネットでSPI3の問題を見ておいた。 C:実際に問題を解くことが重要だと思ったので、テストセンターでSPI3を受験して問題に触れた。そして友人約20人とLINEで問題を共有した。何回かSPI3を受けているうちに、見たことがない問題がなくなった。 ――これから就活を始める学生にアドバイスをお願いします。 D:新卒採用でも転職サイトの活用を勧める。私は「Vorkers」などの転職サイトに登録して見ていた。OB・OG訪問の目的は、働く人の本音を聞くことだと思う。しかし、”本音の本音”を聞くのは難しい。ところが、転職サイトは、働く人のリアルな意見を聞くことができるのでお勧めだ。 A:金融の場合、セミナーがものすごく多くて、スタンプラリーといわれるほどだ。私の就職先は10回もあった。企業は出席状況で学生の本気度を見ているのだろうが、回数稼ぎだけを目的に参加するのではもったいないと思う。 セミナーごとにテーマが異なるので、しっかり聞いて、ESやOB・OG訪問に活かしてほしい。また、メモを取るだけでなく、同時に自分の感想も書き込むようにしていた。C:私が就活で心掛けたのは、企業に媚びないことと、自分自身の勝負の仕方を考えること。私は面接で自分の意見をはっきり言ったし、黒いスーツも着なかったし、髪型もパーマで前髪を垂らしていた。いわゆるリクルートスタイルをする必要はない。 クラブ活動で自分をPRする方法もあったと思うが、自分の強みを考えて、論理的な思考や話し方で勝負した。 B:就活というと、就活サイトで効率的に行うのがよい、とされる傾向がある。が、効率が悪くてもいいから多くの企業人に会い、そのときに感じたフィーリングを大事にしてほしい。効率を追い求めないほうがいい。 E:飾らずにありのままでいることが重要。これは面接のときだけでなく、企業選びでもいえることだ。人気業界や人気企業が自分に合っているのか、じっくり考えてほしい。私が就職先を決定したのは、この会社でインターンシップを数回行い、社員の雰囲気などが自分に合っていると思ったからだ。 (取材・文/田宮 寛之 [東洋経済 記者])
就職情報サイトのキャリタスを展開するディスコによると、6月1日時点の内定率は63.4%。前月5月1日時点の調査では、37.5%という数字だったので、この間に多くの学生が新たに「内定」を得ている。複数内定も含めればかなりの数になっていると思われる。就職活動で3月広報解禁・6月選考開始というスケジュールは今年2年目。だがスケジュール相場はかなり固定化しつつある。 3月1日の募集告知後、3月中に会社説明会とエントリーの募集、4~5月に選考と内々定出しをする企業が主流となってきている。しかし、経団連加盟企業は6月1日以降に選考を開始しているという体裁にしたいので、面接という名目で学生を呼び出し、「内々定」を出すパターンを取っていた。 そして目立ってきたのが、この6月1日、面接ではなく「内々定式」を行うケースだ。学生のSNSなどへの書き込みには、「今日は内々定式がありました」といった表現が並んだ。企業は内々定を得た学生を集めて、内定式や入社式に近いセレモニーを開催。そうした名称を使っていなくても、内定者同士や企業の先輩たちとの懇親会を行い、一堂に会する機会をつくっていたのである。 そもそも内々定とはなにか。経団連が定めた「採用選考に関する指針」や政府が経済界や業界団体に向けて出している要請文書には、「正式な内定日は、卒業・修了年度の 10 月1日以降」としている。そのためこの日まで正式な内定を出すことはできない。しかし、就活はかなり早くから進んでおり、10月1日まで内定を出さないでおくというのは、実質的にかなり難しい。そこで、内々定という、事実上の内定を企業が学生に出している。 実際に「6月1日に内々定式を行った」と打ち明けるのは、あるエンターテインメント企業の人事担当者。5月末に学生に内々定を出し、当日は担当役員が出席する「内々定授与式」や、内定者の交流会、人事主催の懇親会などを1日かけて行ったという。「6月1日は一斉に面接や内々定が出されるタイミング。他社の最終面接などとバッティングするが、わが社への入社の本気度を確認するために開催した」(同社の人事担当者)。6月1日に他社の最終面接や内々定式といった会合に向かわせないように、学生を会社に引き留めておく機会をつくったわけだ。 採用コンサルタントの谷出正直氏は、「売り手市場である限り、内々定式が今後も続くと思われる。大手は6月1日の夕方に、中堅・中小企業は6月中旬以降に、行っていく可能性がある」と語る。囲い込みの策のひとつとして、来年以降も拡大すると予想する。 内々定式のメリットは物理的事情だけではない。大きいのは学生へのメッセージだ。学生を大事にしているという企業の姿勢を見せることができ、「わざわざ式典を開催してくれた」という気持ちを抱かせ、心理的に内定を辞退しにくくする効果をもたらす。「選考を通じて信頼関係がつくれていれば問題はないが、見せ方ややり方で多少の印象が変わるので、企業としては押さえておきたいセレモニーだ」(谷出氏)。 また、「内々定式があるから参加できますか?」と、やわらかい形で内定承諾を求めることができ、同時に他社への就活の終了を迫る”就活終われハラスメント(オワハラ)”を避けることもできるという。内々定式で同期となる人たちと顔合わせをしてもらい、お互いをフォローし合う環境をつくることで、内定辞退の防止につながる。 採用スケジュールが固定化される中、内定者フォローの一環として内々定式を活用する動きが今後も広がると思われる。ただ、一方で、「5月までに内々定を出し、6月1日は内々定のセレモニーの日」というような形になり、就活の早期化を助長する懸念もある。 10月1日が正式な内定日となっているのは、高校生の選考開始日が3年生の9月からというのもあるが、1990年代まであった就職協定のなごりという側面が強い。当時は大学4年生の10月まで内定が出せなかったが、それ以前に内定を出す企業が増えてしまったため、形骸化した。内々定式の浸透は6月1日の選考活動解禁日を形骸化させていく可能性がある。 建前と裏腹に既成事実化する内々定式。単に内定出し手続きが二段階化してしまうだけでなく、就活スケジュールそのものが、すでに形だけのものになっているのかもしれない。 (取材・文/宇都宮 徹 [東洋経済 記者])