2021/8/1 更新 デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社

デロイト トーマツ グループ・マネジャー鼎談「今、求められるコンサルタントの価値」

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デロイト トーマツ グループでは、アナリティクスサービスの提供をいち早く始め、グループ横断の専門家集団「デロイトアナリティクス」を通じて、より品質の高い提言や新たな価値創出を実現している。

あらゆる業種や職域でデータ活用の重要性が高まる中、プロジェクトの現場ではどのような変化が起こっているのか。同グループ3社のマネジャーに聞いた。

デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー 老川正志氏【写真左】

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー シニアヴァイスプレジデント 寺尾宣彦氏【写真中央】

有限責任監査法人トーマツ マネジャー 毛利研氏【写真右】

アナリティクスの助言だけでは、クライアントの期待には応えられない

−−−−まずは、皆さんの現在の役割や主な担当業務について教えてください。

老川:デロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)で、幅広いお客さまに対してAIをテーマにしたオファリングを提供しています。

前職のIT企業でもDTCに移ってからも、システム構想策定などITコンサルティングに携わっていましたが、実はAIには全く関わっていませんでした。ただ、学生時代にAIの研究をしていたこともあり、数年前にDTC内で本格的にAIビジネスを展開していくとなった際に自ら手を上げ、立ち上げから関わり、現在にいたっています。

寺尾:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(以下、DTFA)のAIラボラトリに所属しています。AIラボラトリは未来予測にフォーカスし、グループ内のさまざまなノウハウやナレッジを抽出し、うまくAIと組み合わせることによって外部向けの汎用性の高いサービスを開発しています。

私はもともと日系のシンクタンクにいたのですが、積極的にデータを活用して新しいビジネスを生み出していこうとするDTFAの姿勢には魅力を感じています。

毛利:インターネット企業のAI研究所を経て、有限責任監査法人トーマツで、自然言語処理や機械学習を活用したDX案件を中心に担当しています。前職時代を含め、早くからアナリティクスに携わっていたこともあり、主にクライアントのアナリティクス組織の立ち上げに関わっています。

現在はそのケイパビリティーを広げるべく、サイバーセキュリティー、気候変動(カーボンニュートラル)、宇宙ビジネスなど幅広く手掛けています。

−−−各社ともデータを活用した多様な取り組みを推進していますが、顧客からはどのようなニーズがあるのでしょうか。

寺尾:例えば、DTFAで独自に開発した『Finplus』というAIサービスは、企業のBS・PLデータから、M&Aに必要な財務諸表分析、株式価値分析、経営分析のレポートが作成できます。個別の案件を通じて蓄積されたバリュエーションやデューデリジェンスの知見を集めて、誰にでも使える仕組みを作り、外部に提供しているわけです。

多くの企業でM&Aへの感度が高まっている中、具体的なファクトデータから、未来に向けて何が必要かが見えるようになり、顧客からも非常に好評です。現在、DTFAのM&A案件ではもちろん、DTCのコンサルティングの現場でも活用されています。

老川:最近、企業の現場でよく聞かれるのが、「データがあってもうまく使えていない」という話です。ある工場では、設備の種類が何千にも及び、装置が壊れると修理の仕方も膨大な数にのぼるということで、暗黙知の見える化が課題でした。

ノウハウをヒアリングするのは時間が掛かり過ぎますが、実はその工場には、過去のトラブル発生時の対応記録が残っていたんです。一つ一つはメモのようなものですが、テキストマイニングの技術でデータに起こし、トラブル対応のフローを作成しました。技術自体はそれほど難しいものではないので、スキルトランスファーをしてお客さま自身に作業していただくことで、大幅なコスト削減につながりました。

毛利:誰もが日常的にAIをはじめとするアナリティクスを用いて業務に取り組む時代、The Age of With “人とAIの協調する社会” が今後ますます進んでいくことは間違いないとデロイト グローバルでは考えております。あらゆる分野でデータ活用が進んでいくと、アナリティクスに関わる助言だけではクライアントの期待には答えられません。「企業のポジショニングをどう変えたいのか」、「自社のビジネスがどう変わるのか、サービスを受けるユーザの価値体験をどのように向上させるのか」という根本的な問いから、費用対効果そして経営へのインパクトの算出を求められる場面も増えていますね。

専門性が掛け算で求められる時代に

−−−裾野が広がっているということですね。

毛利:その通りです。マネジャークラスになれば、それぞれ専門領域を確立しているものですが、つい最近まではアナリティクスに関わる要素技術単体でもクライアントへの課題に対応できたものが、今は専門的なスキルや知見が掛け算で求められています。そういう意味ではコラボレーションが必須ですから、グループ横断のデロイトアナリティクスが求められる理由は、まさにここにあります。

老川:DTCでも、会計や経営リスク管理のプロジェクトテーマでは、デロイトアナリティクスに応援をお願いすることが多いですね。もともとデロイト トーマツ グループでは、組織内の垣根を感じることがほとんどありません。普段から分からないことがあったときには「こんな事例はありませんか」と聞きまくっています。誰かしら手を挙げて話を聞かせてくれますね。

毛利:しかもそれは日本に限った話ではありません。経歴も専門領域も異なるさまざまな人がいて、APACリージョンのみならずグローバルでナレッジを共有しています。

寺尾:従来、そういったやりとりは個別にしていたのですが、今はグループ全体でカバーできる新たな仕組みを作ろうとしています。人物相関図のようなイメージで、個々にどのようなつながりがあり、どこにどのようなスキルや知見を持つ人がいるのか、簡単に探せるようにしたいと思っています。

−−−−グループ内の連携がさらに進みそうですね。実際のところ、デロイトアナリティクスのようなグループ横断の取り組みにやりにくさを感じたり、意見がまとまらなかったりすることはないのでしょうか。

老川:プロジェクトの中で、クライアントのためにどうするのが最適か、さまざまな意見が出ます。議論を戦わせることはありますが、それはグループ横断であってもなくても関係なく、クライアントのために当然のことだと思います。

毛利:意見の対立があったとしても、それは建設的な議論の一環です。実際、DTCが率いる案件であっても、DTFAの案件であっても、プロジェクトのゴールに向かってメンバー全員が一致団結し、惜しみなく力を尽くすことに変わりはありません。

寺尾:顧客からすると“ワン・デロイト(One Deloitte)”ですからね。むしろ連携はメリットの方がずっと大きい。例えば、DTFAとしては今までタッチできなかったクライアントと、デロイトアナリティクスを通じて接点が生まれると、この先DTFA単体でも仕事につながる可能性が開けます。

寺尾:個々のメンバーにとっても、多様な人々と接点を持ち、多岐にわたる分野の専門家とともに仕事をすることで大いに刺激を受けると思います。ここでしっかりとグループ内での信頼を得ることができれば、自分の存在感を示すことができ、いろいろなプロジェクトにアサインされる可能性が開けてきます。むしろチャンスは広がりますよね。

技術よりも大切なのは、確固たる自分の意思

−−−−では、活躍できる若手とは、どのような人でしょうか。

老川:ビジネス(青)とテクノロジー(赤)の能力を持ち合わせた“Purple People”にならなくてはいけないという話はよくしますね。特にAIのような新しい分野を扱っていると、テクニカルなことにばかり関心が偏りがちです。しかし、業務の理解がなければクライアントに満足してもらうだけの成果を上げることはできません。

寺尾:専門性と同時に、多様な視点を持つことは重要ですよね。特定の領域しか知らないと、なかなか新しいアイデアやイノベーションは生まれてこない。自分の専門領域に関しても、別の領域にあてはめたらどうなのか、異業種から見たらどうなのか、幅広い視点から物事を見られる人が活躍しています。

毛利:周りから信頼されるという意味でも、自分ならではの専門性を持っている人は強いと思います。それはいろいろな経験を積みながら高めていくものですから、やはり好奇心を持って裾野を広げることが大切。そのために、若手のうちは一つのジョブにとどめることはせず、ローテーションを行っています。例えば、新人をチームに迎えた時、誰よりも現場のことを知っているという自負を得るまで、分析結果や分析に使ったデータを隅から隅まで確認を怠らないように教育したところ、クライアントから信頼を得て経営幹部に最終報告するまで急成長するのを見守ったこともあります。

−−−−最後に、若手に対して期待することを教えてください。

寺尾:若手の場合、技術的なバックグラウンドはあまり関係がないと思っています。それよりも「どのような考えを持っているのか」という芯の部分が大切です。本質的な部分がしっかりしていないと、浅い考えしか出てこなかったり、適当なものしか作れなかったりする。自分の考えをしっかりと持ってほしいと思います。

老川:全く同感です。誤解を恐れずに言えば、AIだって現在のトレンドに過ぎず、5年後には違うテーマになっているかもしれません。移り変わりが激しいからこそ、自分の意思を持っていることは非常に大切です。

毛利:私たちのミッションは、テクノロジーを提供することではなく、ビジネスを俯瞰してクライアントに適切な助言や提案を行うことです。そのためにはただ解決方法を述べるだけでなく、「物語」を作らなくてはいけない。クライアント以上にクライアントの業務を理解しながら、自分の意思を持って、皆が納得感を持って受けとめられるような「物語」を描いて伝えていくことが重要だと思います。

企画・編集/天野夏海 取材・文/瀬戸友子 撮影/竹井俊晴

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