「働く」を誤解していた
先輩たちが「失敗」から学んだこと
AIの登場により、私たちは瞬時に「正解」を得られるようになった。一方で、仕事には、効率やタイパだけではたどり着けない学びもある。
一足先に社会人になった先輩たちは、どんな失敗や経験を経て“仕事の本質”を知っていったのか。等身大のエピソードを通じて、「検索して得た正解」をなぞるだけでは見えてこない、働くことのリアルをひも解いていく。
調査役
顧客の利益追求だけが全てではなかった
農林水産業や地域への貢献こそが真の使命
仕事でどんな失敗した?
私が失敗したのは、入庫1年目のことです。当時担当していたのは、農業法人などへの融資提案や経営支援。「収穫量を増やすために土地を買いたい」「生産量拡大のために保管倉庫を増やしたい」といった思いを持つ事業者に、資金面での支援を行っていました。そんな中、とある案件で「日本の食と暮らしを支える」という農林中央金庫の使命を、自分がまだ果たしきれていないことを痛感します。当時、私の中にあったのが、前職のメガバンク時代に形成された価値観。「成長余力のある企業には惜しみなく融資し、さらなる成長を後押しする」という考え方こそが正攻法だと思い込んでいた私は、あるとき売上数十億円規模の農業法人に対し、大型農機具の購入資金として融資提案を持ちかけたのです。ところが、社長から返ってきたのは思いもよらない言葉でした。「農林中央金庫は農家のための金融機関ですよね。うちにお金を貸す余裕があるなら、もっと困っている農家に貸してあげてください。」̶̶思わずハッとしました。その一言で、自分は目の前の顧客だけを見て仕事をしており、地域や産業全体を支えるという視点が欠けていたことに気付かされたのです。この出来事を通じ、農業従事者が大切にする地域のつながりや、産業全体の最適解まで考慮した上で、顧客に価値を提供することの重要性を学ぶことができました。
仕事への取り組み方はどう変わった?
目先の事象だけでなく、地域や産業全体も見渡し、第1次産業の未来にとって最善な判断を心掛けるようになりました。その一例が、担当先の肉牛農家への融資案件です。経営難に陥っていたその牧場は、決算書だけを見れば融資は極めて難しい状況でした。しかし私は、この牧場がなくなれば数千頭の肉用牛がいなくなり、地域の畜産業に与える影響は計り知れないと判断。上司と相談した末、融資を実行したのです。また、資金提供だけでは根本的な解決にはならないため、健全な経営体制の構築を目指して、JAの方とも連携しながら経営改善を実行。金融支援にとどまらず、地域の産業を守るという視点で伴走しました。
今後どんな仕事に挑戦したい?
将来的には、食料の流通・加工を担う商社や食品メーカー、販売を担うスーパーマーケットなどへの出資・融資業務に携わり、食と農を支えるサプライチェーン全体の発展に貢献したいです。これまで多くの農業従事者と関わる中で、後継者不足をはじめとする日本の農業が抱える深刻な課題を目の当たりにしてきました。一方で、国産回帰やコスト削減を背景に、自社で農園を持つ企業が増えるなど、企業の農業参入が広がっていることに大きな可能性を感じています。生産現場で培った農業の知見と、金融機関で磨いた視点を掛け合わせ、生産者と食農関連企業が共に成長できる仕組みづくりを支えていきたいです。

入庫後7年程度にわたり複数のビジネス領域を経験した後、『ジョブグループ制度』により、食農・リテール・投資の中から、自身が専門性を磨きたい分野を選択することができます。さらに、1週間単位で他部署の業務を体験できる『社内インターンシップ制度』や、海外拠点で経験を積む『海外支店トレーニー制度』など、職員一人一人の挑戦を後押しする取り組みも充実。このように、多様な側面から第1次産業と関わる機会があるからこそ、幅広い視野を養い、産業や地域の未来につながる本質的な課題解決力を培うことができるのです。


