DTCの今後を担う若手に求められる高いコンサルティング力とは、どんな仕事を通して磨かれていくのか? 4年目のコンサルタントと、その成長を支えるマネジャーに話を聞いた。
シニアマネジャー
尾山耕一氏
2005年入社。自動車産業を中心に、次世代車の開発や新規事業立ち上げのプロジェクトに参画。その後、新設のソーシャルインパクトユニットに移り、シニアマネジャーとして環境経営や水素社会の実現をテーマに活動中
─まずはお二人の、現在のお仕事の内容を教えてください。
尾山耕一氏(以下、尾山) 私はもともと自動車関連のプロジェクトを数多く手掛けてきたのですが、現在はソーシャルインパクトユニットに所属し、水素社会の実現や環境経営の実践といったテーマで社会課題の解決につながる活動を進めています。
直井聡友氏(以下、直井) 私は2015年に入社後、学生時代から環境領域に関心があったこともあり、2年ほど前に自ら手を挙げてソーシャルインパクトユニットに参加させてもらうようになりました。
─具体的にどのようなプロジェクトを手掛けているのでしょうか。
尾山 最近では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)ガイドラインへの対応が中心です。これは、企業が気候変動の影響を把握し、その情報を開示していこうという国際的な提言のことで、日本でも金融庁や環境省をはじめ、賛同を表明する企業が増えています。プロジェクトでは、このガイドラインに沿って具体的に何をするのか、クライアントとともに検討を進めています。
直井 中央省庁からの受託事業や個別企業からの依頼で、並行して複数のプロジェクトが走っています。業種別では、製造業など比較的CO2排出量の多い産業が真剣に取り組んでいます。
─これまでの環境対応の取り組みとは何が違うのでしょうか。
尾山 もちろん従来多くの企業が環境負荷削減に取り組んできましたが、世界の年平均気温は上昇を続け、異常気象も各地で起こっています。新興国も含めて今後さらに世界経済が成長していけば、環境問題が深刻化していくことは明らかで、よりアグレッシブな対策を取っていく必要があります。
直井 気候変動に真剣に対応することが企業の経営そのものを変えていくのです。社会的に大きなインパクトを持つプロジェクトと言えます。
尾山 資本主義社会では、企業が利潤を追求するのは当然のことです。しかし、これまではそれを優先するあまり、環境負荷などのマイナスの影響が見落とされてきた面もあります。今後は、公益性を確保しながら利潤を追求する経営スタイルへの変革が求められます。将来的には、企業活動が環境に負の影響を与えない、むしろポジティブな影響を与えるような社会にしていければ理想ですね。
─壮大な目標ですね。どうすればそれが実現できるのでしょうか。
尾山 社内の仕組みを変革したり、ディスクロージャーの制度を整備するなど、多角的なアプローチが必要です。さらには、個々の企業を支援するだけでなく、投資家や金融機関、NGOや国際機関との連携も重要でしょう。企業活動に影響を与える重要なプレーヤーと連携することによって、複数の企業の変革が進むような働き掛けも進めています。
シニアコンサルタント
直井聡友氏
学生時代から環境問題や社会課題の解決に興味があり、2015年入社。製薬会社に携わるプロジェクトなどを経て、16年からソーシャルインパクトユニットに所属。尾山氏のもとで、社会課題の解決に尽力する
直井 TCFDはそうした社会を創るための第一歩であり、他にもさまざまな取り組みを進めているところです。13年からスタートした「水素社会実現の研究会」では、我々は事務局を務め、政財界の有志メンバーによるさまざまな課題検討を支援しています。
─難易度が高そうですが、若手でも活躍できるのでしょうか。
尾山 実際、各ランクのメンバーが活躍しています。まだ経験の浅いビジネスアナリストは、コーチングやトレーニングを並行して行いながら、リサーチや資料作成の支援から始めて、基本的なコンサルティングスキルを身に付けていってもらいます。
コンサルタント、シニアコンサルタントには一定領域を任せ、担当部分に関しては、責任を持ってやり遂げてもらいます。マネジャーになると、自らが中心となって、個別の活動を推進する。それを束ねるのがシニアマネジャーの役割。ランクごとにチャレンジの幅が広がります。
─直井さんはシニアコンサルタントとして担当を任されていますね。
直井 そうですね。担当クライアントとのコミュニケーションや、プレゼンテーションを担当しています。自分なりに課題を整理して、ビジネスアナリストにリサーチワークを依頼したり、あがってきたリサーチの結果をもとにクライアントに何をどう伝えるかなど、提案資料を作り込んだりしています。企業の部長クラス以上の方々が相手ですから、当然高いレベルが求められます。責任ある仕事を任せられることで、自身の成長につながっていると感じますね。
尾山 直井には、コンサルタントとして自分の価値をどんどん高めていってほしいと考えています。例えば正確に資料を作るだけでなく、それを使って誰に何を訴えるのかが重要になります。
─仕事で難しさを感じることはありますか。
直井 先進的なテーマを扱っていることもあって、いくらリサーチしても正解が見つからないことも少なくありません。その中でもファクトを拾い上げてロジックを構成して、自分なりの考えをまとめていくのは苦労することもあります。以前、尾山に資料を確認してもらった際、「自分のクライアントだけにとどまらず、その先にあるクライアントのお客さまの視点も持った方がいい」というアドバイスを受けました。もっと多角的な視点で深みのある提案ができるようになりたいですね。
尾山 今はまさに正解がない世界で、自分たちの手で新しいメソッドをつくっていこうとしているところ。変革につながるインパクトを周囲に与えていけるよう、個人としてのパワーをどんどん強めてほしいと期待しています。
─最後に、この仕事を目指す学生へのアドバイスをお願いします。
尾山 難しさはあるけれど、これまで誰もやったことがないことに挑みたいと思う人は、思い切って飛び込んできてください。そのために、学生時代はたくさん遊んで、たくさん勉強して、いろいろな経験を積んでおけば十分だと思います。
直井 企業経営のあり方を変える現場に立ち会えるのはとても刺激的です。私自身は海外の大学院に留学して、日本の国や企業を相対的に眺めたことが、この仕事を選ぶきっかけになりました。社会人になる前に広い世界を見ておくのはお勧めです。
取材・文/瀬戸友子、大室倫子(編集部) 撮影/赤松洋太