進路に迷う理系学生の中には「最新のAI技術に携わってみたい」と考える人も多いだろう。
しかし、AIと一言にいってもその種類はさまざま。仕事でAIに関わる方法も、AIエンジニアになる道、研究者になる道、AIを使ったサービスを企画したり提案したりする道と、あらゆる選択肢が存在する。
そのため、就職後どのようにAIに関わっていくのかイメージしきれない学生も少なくないはずだ。
そこでお話を伺ったのは、サイバーエージェント常務執行役員でAI関連事業を統括する内藤貴仁氏。
内藤氏は「新卒なら、“社会実装力”の高い会社でAIビジネスに挑戦するといい」と話す。その理由と、20代のうちからAIビジネスを仕事にする醍醐味について聞いた。
一昔前は企業がAIを導入しただけでニュースになっていましたが、今やAIをビジネスに活用することは当たり前になりました。
それに伴い、AIに求められるイノベーションのハードルもどんどん高くなっています。今は、「AIをいかに導入するか」ではなく、「AIでいかに大きなビジネスインパクトを出すか」を強く意識しなければならない時代なのです。
ではどうすれば、大きなビジネスインパクトを出せるのか。可能性が高いのは、できるだけ産業規模の大きな領域でAIを活用することです。代表的なのは、自動運転や創薬。この他にも、AI実装による大きな変化が見込まれている既存産業は多く存在します。
その中でサイバーエージェントのAI事業本部が最も力を入れているのは、当社のもともとの強みでもある広告事業の領域です。
かつて広告業界では、「30代女性」「40代男性」といった、属性に基づくターゲティングが行われていました。ところが現在は、Webサイトの閲覧履歴やGoogleの検索履歴などの情報に基づき、より個人のユーザーにパーソナライズされた広告配信が可能となった。そのため当社は、より細分化した、それぞれのユーザーに対応するクリエイティブを大量に制作するAI技術の開発に力を注いでいます。
この技術が広告業界にもたらすビジネスインパクトは相当な規模です。単純な話、CTR(広告のクリック率)が1.5倍になれば、広告主の売上げは1.5倍になる可能性があるわけですから。
その他にもサイバーエージェントでは、チャットボットによるオンライン接客や店頭接客のAI実装などにも取り組んでいます。労働人口が減少する中、社会にロボットを導入することによって生まれる経済効果は非常に大きなものとなるはずです。
この記事を読んでいる学生が、少しでも「AIに関わる仕事がしたい」と思っているなら、今このタイミングでAIビジネスの世界に入ることをおすすめします。
先ほども言った通り、AIの分野は「どれだけビジネスインパクトを出せるか」のフェーズに移行し始めていることもあり、若手がビジネスの世界のベテラン選手を倒すチャンスがまさに“今”だからです。
AIビジネスの世界で行われているのは、まだ誰もやったことがない研究開発です。誰もが比較的同じスタートラインで勝負できる土壌でありながら、ライバルはまだそこまで多くはない。これは若手にとって有利な状況であることは間違いありません。
AIやデータサイエンスなどの新興分野では、ベテランよりも新卒の方が急角度で伸びている印象があるんですよ。新卒は固定概念がない分、新しいチャレンジに対しても柔軟に取り組めるのだと思います。
しかし、どの分野でもそうですが、技術の成熟に連れてビジネスの難易度は上がっていきます。だからこそ、AIビジネスの世界でも「できるだけ早く参入すべき」なのです。
では、新卒からAIビジネスに挑戦する場合、どのような基準で会社選びをするべきか。そのキーワードは「社会実装力」です。
せっかくAI技術を使ったサービスを研究・開発しても、「作ったものが世に出ない」「フィードバックを得られない」といった環境では、大きな成長はできません。少し前のAI分野であればそれが当たり前だったのかもしれませんが、そのフェーズはもう古いと思います。
貴重な20代の時間を無駄にしないためにも、手掛けた仕事をきちんと世に出せる「社会実装力」の高い会社に入ること。キャリアの初期では特に大切な戦略です。
サイバーエージェントの場合は、もともと新規事業を次々と立ち上げるカルチャーがありますから、AI事業本部でも、自分たちが研究開発した技術を使ってたくさんのプロダクトを生み出してきました。
世の中の反応をすぐに見られるので、メンバーの成長スピードは速いですね。研究ではサービスの実データを基に論文を執筆するので新しい発見も多くありますし、国際カンファレンスでの論文採択が続々と増えるなどアカデミックの世界からの評価も高まっています。
サービスを世の中に出せる職場で働くと、自分が携わったサービスのビジネスインパクトを明確に認識できるので、仕事のやりがいにも直結しますよね。成果を売上げという数字で把握できるのは、「社会実装力」のある会社で働く最大のメリットだと考えています。
当社の若手社員が手掛けた中で、実際に大きなビジネスインパクトをもたらしたサービスの一つが、広告効果の予測ツール「極予測AI」です。
これまでの一般的な広告効果を予測するAIは、大量に制作された新規クリエイティブ同士で広告効果の予測値を競わせた結果、高スコアのバナーを企業に納品するものでした。
しかし「極予測AI」は、今までとは全く違う、新しい制作プロセスで広告をつくるシステムで、AIによる効果予測値が既存1位よりも上回った新クリエイティブのみを配信する仕組みです。
つまり「極予測AI」は「勝てる広告クリエイティブ」を高確率で作り出せるAI機能です。
サイバーエージェントでは、大学との共同研究も多く行いながらビジネス開発をしています。「極予測AI」に続いてリリースした、効果的な広告文の自動生成ツール「極予測TD」は、東京工業大学と「広告文の自動生成」に関する研究を行いながら開発しました。
今も研究を継続しながら日々性能の改善を進めており、「極予測AI」や「極予測TD」で億を超える成果も出ています。
こうしたサービスが生まれる「社会実装力」のある職場には、サイバーエージェントに限らず、次の三つの要素があります。
一つ目は、低リスクの領域を選定していること。広告業界ではどんなに失敗しても、極端に例えたとして人命に影響するような事態は考えにくく、積極的にAI技術の活用チャレンジができる。次々とサービスを世に出していくためには、そういった新しい技術の挑戦に寛容な領域であることが大切と言えます。
二つ目は、研究開発に集中できる環境があること。例えばIT業界には「データ土方」という言葉があるように、膨大なデータを扱う企業では、それだけデータ加工作業が発生してしまいがち。エンジニアや研究者が、その段階で労力を割くなど余分な時間を使わなければいけない環境も少なくありません。
言わずもがな、エンジニアが本来の仕事に集中できる環境が整っている方が、イノベーションは生まれやすくなるでしょう。
そして三つ目は、技術の社会実装を「何より重視するカルチャー」です。企業文化として実装を重視する土壌がないと、メンバー全員が向いている方向性にズレが出てしまいますよね。
当社ではエンジニアや研究者の間で「それってビジネスインパクト出るの?」という会話が日常的にされており、全員で社会実装に向けたビジネス視点を持って研究開発に取り組むことができています。
サイバーエージェントのAI事業本部では、近い将来「人間の複製」を実現したいと考えています。それは、この技術がこれからの広告業界に必要とされているものだから。
本来、広告の効果に誠実に向き合うならば、効果が低いと分かった時点で配信を止めて内容を修正する必要があります。しかし、広告にタレントを使用している場合は撮り直しが難しいため、効果の低い広告が流され続けてしまう。
こうした状況を改善するために、サイバーエージェントでは著名人の「分身」となるデジタルツインをキャスティングするサービス「デジタルツインレーベル」を発表しました。
著名人の全身の3DCGデータ・身体的特徴を捉えるモーションデータ・音声データなどから、ご本人の「分身」となる高精細なデジタルツインを制作し、広告プロモーションなどへのCGキャスティングや、デジタルツインを起用した企画立案などを実施します。
目標は、2023年までに著名人500人のデジタルツインの制作およびキャスティングを実現すること。この技術は、広告業界全体にかなりのインパクトをもたらせると確信し、取り組んでいます。
これからサイバーエージェントに新しく加わる新卒の皆さんとは、一緒に大きなビジネスインパクトを出せるようにアイデアを練りながら、社会実装を進めていきたいですね。
当社のAI事業本部の特徴の一つは、研究職とビジネス職の距離の近さです。自分も研究者や若手メンバーとは頻繁にディスカッションをしていますし、新しいアイデアが日々生まれている。そんな環境ですから、自分たちの手で日本初、世界初を生み出せる可能性は大いにあると感じています。
「AIビジネスに携わってみたい」と考えている学生の方は、ぜひサイバーエージェントのような社会実装力の高い会社を選んでもらいたい。自分の仕事が世の中に与える影響を実感できる環境で、AIビジネスの醍醐味を存分に味わってほしいと思います。
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取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹