2018/11/8 更新 KPMGコンサルティング

【対談】KPMGコンサルティング・宮原正弘氏×慶應義塾大学大学院・高橋俊介氏「人生100年時代のキャリアデザイン論」

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人生100年時代。誰も経験したことがない、予測も計画もできない未来をタフに生き抜く鍵は何だろうか? その答えを求めて、日本のビジネス界を牽引する経営者、KPMGコンサルティング宮原正弘氏と、キャリア学の権威、高橋俊介氏にお話を伺った。

左:慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介氏

東京大学工学部卒業、米国プリンストン大学工学部修士課程修了。日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、1989年にワイアット(現タワーズワトソン)に入社、93年に同社代表取締役社長に就任する。97年に独立し、ピープルファクターコンサルティングを設立。2000年には慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任、2011年より特任教授となる

右:KPMGコンサルティング株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 宮原正弘氏

早稲田大学政治経済学部を卒業し、旧・朝日新和会計社(現・有限責任あずさ監査法人)入所。米国駐在を経て、2010年、IFRS(現アカウンティング・アドバ イザリー・サービス)事業部長、11年、日本・アジア 太平洋地域代表に就任。アジア上場アドバイザリーグループ責任者など要職を歴任した後、17年7月よりKPMGコンサルティングの代表取締役社長兼COOに就任。18年7月より代表取締役社長兼CEO

広く浅い知識に価値はない。物事の本質を深く理解せよ

─人生100年時代と言われています。人の一生が長くなり、社会環境の変化も激しい現代では、キャリア形成のあり方も従来の常識を見直す必要があると思います。お二人のお考えはいかがでしょうか?

高橋 日本では長らくの間キャリアは〝積み上げる〞ものだと考えられていました。けれど、これだけ不確定要素の多い時代に長期計画に基づいてキャリアを積み上げることはもはや不可能。計画的偶発性理論によれば人のキャリアの約8割は偶然によってつくられると言いますが、これからのキャリアは、積み上げるのではなく、〝つなぐ〞ものとなります。そのときに不可欠なのは、深く学ぶ力。短期間で物事の表面だけかじっても、数年後には〝広く浅く〞しか物事を知らない人間になってしまう。うわべだけの知識なんて、今や検索すれば誰でも手に入ります。そういう浅い知識に今は何の価値もありません。だからこそ、与えられた場所でその業界なり産業なりの〝本質〞を深く理解しておくこと。そうして、別のフィールドに移ったときに横展開できるスキルを養うこと。それさえできれば、どんなにキャリアが非連続的になったとしても、各所で得た知見をつないで、自分のバリューにすることができます。

宮原 情報が溢れ、容易に手に入る時代において、コンサルティング業界も、これまでと同じことをやり続けてクライアントからお金をいただける時代ではなくなりました。そこで重要となるのは、業界やテクノロジーがめまぐるしく変化していく中で、他の人よりも一足早くそれらの動きをキャッチし、次の時代の戦略をスピーディーに提案できるかどうかです。クライアントの後塵を拝したら意味がない。こうしたスピード感は、今まで以上に強く求められるようになるでしょう。

高橋 自分のバリューにつながるものは何か、常にアンテナを張っておくことも非常に大切です。私はそれを〝先物キャリア〞と呼んでいるのですが、「これだ」というテーマを見つけたら、とにかく自分でどんどん勉強し、社内外に向けて広く知見を発信してみてほしい。そうすれば、もしそのテーマが世の中のトレンドになったときに、第一人者になれますから。先行者利益というのは大事ですよ。レガシーな分野を狙っても、すでに専門家が大勢いる。だったら、まだ誰も開拓していない未知の分野に目をつけた方がよほど手っ取り早い。20代のうちに、そういうテーマを見つける癖を付けたらいいですね。

宮原 そうした感度を磨くためにも、いろいろなことに好奇心を持って首を突っこんでいくことが大事だと思います。コンサルタントの仕事に置き換えて言うなら、クライアントの状況を俯瞰的に捉えた上で、どんなニーズが今あるのか、CEOやCFOは何に悩んでいるのかを常に考え、検証すること。その蓄積が、先を読む目を鍛えてくれるのです。それから、付け加えるなら、自分が専門とするテーマはなるべく2つ以上あるといいと思います。なぜなら、もう今の時代は専門性が1つでは武器にならないからです。

高橋 例えば、「会計」×「IT」でもいいし、「英語」×「IT」でもいい。2つ以上の異なる専門性をミックスさせることで、自分ならではの強みとなりますね。

仕事は理屈だけでは動かない。タフな心で意思を貫こう

KPMGコンサルティング株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 宮原正弘氏

─今後はAIの普及により単純労働は消滅し、より重要な判断を伴う業務を若いうちから担っていく必要があると予測されています。そんな中で、これからの世代に必要なのは、どんなスキルでしょうか?

高橋 これからの世の中は、大量の事例や情報を網羅的に収集するだけの人材は早晩必要なくなります。請われるのは、複雑な物事を自分の言葉で要約した上で、その〝本質を見抜く力〞です。そのためにもこれからの若い世代は、世の中のありとあらゆる事象に対して、「その本質は何か」と考える思考特性を身に付けておく必要があると思います。例えば、ニュース1つ見ても、それをただ見て終わらせずに、「これはつまりこういうことだ」というのを自分で要約してみるといいですね。

宮原 今後身に付けるべきスキルについて違う角度からお話しするとしたら、私は〝人を動かす力〞を磨いてほしいと思います。まず単純に、一人でやれることには限界がある。大きなテーマに取り組もうとすればするほど、他のチームと連携し、総合力で勝負をしなければならない。そのときに、周りを巻き込み、舵を取れる力があるかどうか。これは人間にしかできない領域なので、意識して磨いておけば、確実に自分の武器になります。もう1つは、意思の強さと柔軟性。物事は、理屈だけで動くものではありません。論理的でないことも山ほどある。コンサルタントの仕事で言えば、どんなにクライアントにとって素晴らしい提案をしても、それが必ず受け入れられるとは限らない。現場の反発で頓挫することもあるし、上司の承認が得られないこともある。そのときに、どれだけタフかつ柔軟な対応ができるか。こういう言い方は今風ではないかもしれませんが、〝めげない力〞というのもまた、より高次な業務を遂行していく上では重要になってきます。

高橋 そのトレーニングの一環として、ぜひもっと学生の皆さんには自分の意見を言うことも含め、アウトプットをすることに取り組んでほしいですね。日本の大学の授業は、インプット型が主流。ですが、ビジネスで重要なのはアウトプット力です。仲間とディスカッションをする場を積極的に設けたり、チームでアウトプットする機会をつくってみたりするといいですね。

不確実な世の中では 自律型のキャリアがベース

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 高橋俊介氏

─KPMGコンサルティングでは、新時代のコンサルタントに必要な素養をどのように伸ばしているのでしょう?

宮原 まずは社会人として力強くスタートを切れることが第一。メンター制度や人事面談などのサポートはもちろん、育成期間の18カ月は約半年ごとに計3つのプロジェクトにアサインし、さまざまな業界やサービスラインを経験してもらうようにしています。その上で、自分自身の進むべきキャリアを考えてもらいたい。当社では、社内だけでさまざまなプロジェクトが動いていますし、サービスラインも多彩なので、興味次第でいろいろな分野に関われるチャンスがあります。何か新しいことをやってみたいと手を挙げれば、積極的に挑戦してもらいます。一社にいながら豊富な経験を積めるという点は、今後のキャリア形成において非常に価値があると思います。

高橋 素晴らしいですね。不確実な時代だからこそ、自律型のキャリア形成がベース。自分のキャリアプランは自分で考えていかなければいけません。ですが、決してそれは自己責任という意味ではない。むしろ個人の自律を促していくためにも、企業のサポートが重要です。一人一人が自分のキャリア形成にコミットできる体制を整えることが、これからの企業の責務だと思います。

【column】良い偶然を呼び込む 5つの習慣って?

計画的偶発性理論によれば、人のキャリアの8割は“偶然”によってできているという。「予測不可能な時代こそ、良い偶然を呼び込む習慣がカギになる」と宮原氏、高橋氏は話す。20代が実践すべき習慣とは?

  • 1.常に自分を主語にして話す

    常に自分を主語にして話す

    世の中のあらゆる問題に対し、自分はどう思うのか、常に持論形成の癖をつけよう。その上で人に「なるほど」と思わせる切り口を見つけられれば、自分のバリューになる。

  • 2.欲望をどんどん口にする

    欲望をどんどん口にする

    新たなサービスの種は、「もっとこうすれば便利なのに」「もっとこうすればいいのに」という人の欲望から生まれる。自分なりの改善策を口にすることは、仕事の基本だ。

  • 3.グローバルな交流を深める

    グローバルな交流を深める

    価値観を磨くためには、自分と異なる価値観の人と話をすることが最善策。特に、文化や価値観の異なる海外の人々とのやりとりは、人間としての幅を広げる上でも有効。

  • 4.情報収集に取り組む

    情報収集に取り組む

    海外メディアの情報に触れるなど、さまざまなメディアから情報を集めてみよう。日本にはまだ持ち込まれていない情報をいち早く見つけ、自分なりの要約で人に伝える練習を。

  • 5.「皆と同じ」を避ける

    「皆と同じ」を避ける

    人と同じことばかりしている人に、ビックチャンスは訪れない。誰も開拓していない道を最初に進んでいく癖付けをしておくと、ビジネスの場でも自分の市場価値を上げやすい。

取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) イラスト/石山好宏

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