――お2人が所属するシステム・プロセス・アシュアランス(以下、SPA)部門はPwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)が推進する“守りのコンサルティング”の最前線だと聞いています。具体的にどのようなお仕事を担っているのでしょうか?
糸久祐子氏(以下、糸久)
監査法人が担う役割は、市場の番人として、クライアント企業の実情をしっかりととらえ、経営やビジネスプロセスにおけるリスクおよび課題を明確にすることで、高品質な監査を実施し、クライアントの永続的な発展に寄与することです。
SPAはその名前が示す通り、システム・業務プロセス・組織・データ分析の領域において、内部統制監査を通じて得た知見を活かして、保証業務のみならず、経営課題解決のためのアドバイザリーサービスも提供している部署となります。
下城未月紀氏(以下、下城)
ビジネス領域におけるIT技術の導入は急速に進んでいますので、監査法人においても情報システムに関わる知見はどんどん重要性を増しています。
今はITを深く知る存在がなければ、企業の実情を正しく把握することも不可能な時代。SPAはまさにこの分野に特化したチームなんです。
糸久
ITの価値は、ともすると売上の増進や事業の確立など、経営の“攻め”の部分で語られがちだと思うのですが、例えば日々の業務を着実にこなしていくための業務システムや、経営の根幹を担う会計システムにも複雑多様なIT技術が用いられています。
そこに潜むリスクや課題を早期に把握して、改善すべきものは改善していくこと、つまり“守り”の部分でのIT強化もまた事業会社には強く求められています。
経営における“攻め”の領域ではコンサルティングのプロフェッショナルが、そして“守り”の領域ではリスクアシュアランスの担い手である監査法人が機能していくことで、企業の成長や競争力向上に貢献していけるのです。
下城
PwCグループにはPwCコンサルティング、PwCアドバイザリーが存在し、主に“攻め”の領域で価値を提供していますが、“守り”の領域での価値提供を期待していただいているのが私たちPwCあらたであり、SPAはとりわけITにおける“守りのコンサルティング”を提供しているわけです。
――監査法人の仕事というと、どうしても公認会計士をはじめとする数字のプロフェッショナルが企業の経営を監査していくもの、というイメージが強いのですが、SPAではITに関する知見が強く求められるわけですね?
糸久
ビジネスの根幹となる会計と業務プロセス、そしてITを見ていくのが私たちの使命です。
私自身は、学生時代からずっと会計の領域に軸足を置いて自分のキャリアを築いていこうと考えておりましたが、ITについても強い関心を持っていました。
そのため、就職活動の際にPwCあらたのSPAの存在を知った時には、大いに魅力を感じました。ここでなら、ビジネスパーソンの三種の神器と言われている「IT・会計・英語」のすべてを身に付け、プロフェッショナルとして成長していくことが可能だと思い、入社を決意しました。
下城
私と糸久は同期入社で現在4年目なのですが、SPAの新卒採用第1期生でもあります。
ビジネスの世界でどんどんIT化が進む中、監査法人として情報システムに注力していくチームの存在に、私もまた強く惹かれて入社することを決めたんです。
“守りのコンサルティング”を自認する以上、会計ばかりでなくITやクライアント企業の多様な業務プロセスを理解していなければいけません。学ぶべきことは非常に多いのですが、その分、ほかでは経験できない成長や達成感を手に入れることができています。
――SPAのメンバーが多くの学びを必要とすることは理解できたのですが、お2人は当初から会計以外の分野についても学んでいたのでしょうか?
下城
実際の業務では、例えばクライアント企業が用いているシステムの中身をチェックしたり、プログラミングを自分でも実行していく局面があります。
監査法人がそこまでITに精通する必要があるのか、と驚かれることもあるのですが、もともと私も糸久も、ITについてはゼロからのスタートでした。
糸久
先ほど三種の神器のお話をしましたが、入社時には「現時点で高度な知識や経験を持っていなくてもいい。大切なのは向上心だ」と明言されました。
今になって振り返ってみれば、自分でもその通りだと思います。下城ともよく話をするのですが、今の仕事で用いている知見の大部分はPwCあらたの一員になってから吸収したものばかりです。
勉強は重要だとは思いますが、学生時代の知識よりも、実際に働いて、現場で学び取っていくことの方がずっと大事ですし、当社は向上心を持って臨めば多くのインプットが得られる環境だと感じています。
下城
先日も糸久とランチでつくづく話したんです。「入社前のイメージと、入ってからの実像の間にまったくギャップがなかったよね」と(笑)。
――入社前のイメージ通りだった、というのは、例えばどのような部分ですか?
糸久
例えば面接などを通じて「風通しの良い職場だ」という話を聞いていました。実際に入ってみると本当にその通りで、年齢や職階に関係なく意見を尊重される“Speak up”のカルチャーが根付いていたんです。
若手の発言を職階が上の人間が積極的に取り上げてくれる。こういうことが「風通しの良さ」の本質なんだ、と入社して改めて実感しました。
下城
監査という業務の性質上、日々の仕事において、一つ一つの事象にきちんと判断を下し、その判断の根拠を明確に伝えることが求められます。「どっちでもいい」という曖昧な判断はあり得ません。
“Speak up”のカルチャーは、自分の意見をはっきりと持ち、なぜそう考えたかという理由を伝えることを習慣付けてくれますから、実業務にもとても活きていると思いますね。
糸久
SPAでは1つの案件に対して、少なくとも最高責任者・管理職・現場責任者の三者を立て、プロジェクトを進めていきます。早ければ2年目から現場責任者を任され、クライアントとディスカッションをする機会も数多くあります。
会計、IT、ビジネスプロセス、リスクマネジメント等、多様な学びを進めていきながら、同時に若手であっても一人の専門家としてクライアントの管理職クラスと対峙することになるわけですから、大変といえば大変です(笑)。
下城
でもそれが醍醐味でもあります(笑)。
糸久
もちろん、チームにはさまざまな領域に精通したエキスパートの先輩や上司がいますから、その背中を見て学び、相談に乗ってもらいながら成長していくことができます。
当社にはあらゆる業種のクライアントが存在し、それぞれの企業でリーダーを務める「この道何十年」という管理職の方々と対峙していくわけですから、毎回のように緊張もします。しかし、早い段階で高い視点を身に着けることができるからこそ、SPAのメンバーは急速に成長していけるのだと思います。
下城
早い段階から責任ある役割を任せてもらえる、というのはとても大きな喜びです。それがあるから、責任を果たすために、精力的に学んでいこうという気持ちにもなります。
向上心さえあれば、学びのプログラムも豊富にあるし、PwCというグローバルなグループが持つ知見や人的ネットワークを活用して、幅広く学びを得ることができますから。
糸久
クライアントとの間で議論が分かれるようなタフな局面もあります。
「どこにリスクがあるのか」「それは本当にこの会社にとってリスクなのか」「もしもリスクなのだとしたら、クライアントにとってどう対処するのがベストなのか」等、判断が求められるケースは無数です。
もちろん、こちらの提案についてディスカッションを重ねていくことも数多くありますが、そうした過程を共にした結果、クライアントの皆様に納得と満足をしていただけた時には言葉では表現できない喜びが待っています。
下城
「次もまたあなたに担当してほしい」と言っていただけた時には、本当にこの仕事をしていて良かったと感動しますよね。
――最後にお2人の今後について聞かせてください。どのようなキャリアビジョンや目標を持っていますか?
糸久
私は就職活動の時から「なりたい自分」を明確にして、それを目指せる場に参画したい、と考えていました。
そうして選択したのがPwCあらただったわけですが、私にとっての「なりたい自分」とは、”自身の成長に責任を持つ”プロフェッショナルとして常に成長し続け、人生のイベントで仕事を離れる時があったとしても、また仕事をしたいと思った時に必要とされるような人財になることです。
監査やITに関わる仕事をする女性は少数派だ、というイメージが今でも世の中にはあるようですが、少なくともここは違います。尊敬できる女性の先輩や上司が多数いますし、そうしたロールモデルから吸収できることがたくさんあります。
また、SPAではIT知識や特定の業務領域など、専門性を磨くことができるので、自分ならではの価値を高めていくことが可能です。育休等でブランクが空くことがあっても、きっと必要としてもらえるプレイヤーへ成長していけると確信しています。
そのためにも、今後は最新の知見や技術を学び続けながら、自身の強みを養うことでプロフェッショナルとして成長していきたいと考えています。
下城
私は就職時には、なりたい将来像がはっきりしていませんでした。でも今は少しずつ見えてきた気がしています。
SPAでは、個としてプロフェッショナルに成長していくことが求められますから、「個人事業主の集合体」と表現されることがよくあります。しかし、だからといって仕事の仕方が個人プレーばかりというわけではありません。チームでタッグを組んで戦っていく局面ももちろんあります。
最近になって、こうした個の力を最大化し、高いパフォーマンスを挙げられるチーム作りに貢献したいという思いを持つようになってきました。私自身、まだまだ個としての力を磨いていかなければ、と考えてはいるのですが、将来のために少しずつマネジメント力も鍛えていけたらと思っています。
自分らしいと思える、将来のビジョンが描けるようになったこと。それが私にとっての一番の成長なのかもしれませんね。
(取材・文/森川直樹、撮影/大島哲二)