自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――?
これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。
第6回のテーマは「グローバルキャリア」。業種や企業規模に関わりなく、あらゆる企業が国際市場での成功を目指す今、グローバル人材の育成は経営の至上命題ともなっている。果たして「世界で活躍する人材」になるためには、どのようにキャリアを形成すれば良いのか? ユニ・チャームのグローバルマーケティング部門で活躍中の横関秀憲氏と、BCGで数多くのグローバル案件を担う滝澤琢氏に、実体験に基づくアドバイスをもらった。
――20代からグローバルビジネスに携わってこられたお二人ですが、「グローバルで活躍したい」という意向はいつごろから持っていたのでしょうか?
横関秀憲氏(以下、横関):
正直なところ、入社当時の私の関心は国内にありました。もちろんユニ・チャームがアジアを筆頭に海外での業績をどんどん伸ばしていることは知っていましたが、私自身は成熟した日本市場での事業に魅力を感じていたんです。グローバルマーケットのことをろくに知りもしないで「日本が一番」なんて思っていたんですよ。
ですから、異動で今の部門に入り、アジアでのベビー向け紙おむつ事業に携わることになって初めて、成長市場でビジネスを展開することの醍醐味に触れ、強烈に魅力を感じるようになりました。
滝澤 琢氏(以下、滝澤):
私は逆に、就活をしている時から「グローバルなビジネスに携わりたい」という志向で、それが就職先選びの軸でもありました。ですからトヨタのようなグローバルメーカーのほか、総合商社なども応募していましたし、トヨタ入社時の配属先希望でも「海外事業に携われる部署へ」と強く主張しました。
願いが叶って海外市場向けの商品企画を担当し、そこでのオペレーションを一通り覚えた後は、より経営に近い領域でグローバルビジネスに携わりたいと考えるようになり、BCGへの転職を決めました。もちろん前職での経験も、今の仕事にとても活きていると実感しています。
――「グローバルなキャリアを形成したい」という学生は多くいます。実際に海外での仕事に携わっているお二人は、その醍醐味や魅力を特にどういう場面で感じるのでしょう?
滝澤:
現地に足を運び、現物に触れ、人と出会って初めて遭遇できる新鮮な驚き。それが一番ですね。
私が前職で参画したあるプロジェクトでは、ヨーロッパで販売する小型車の商品企画を担当することになりました。同じ車に乗るのでも、その使われ方や生活シーンは日欧で全く違うのではないか、という発想から現地に飛び、現地スタッフと共に車を走らせて何日もヨーロッパ内を移動したんです。
例えば大型量販店の駐車場などで買い物客の動向を観察したり。大きな商品を購入した人が、それをどうやって自分の車に乗せるのか。どんなふうにシートを倒して、どう自分たちが乗り込んでいくのか。そういう何気ない日常の生活シーンを見るだけでも、日本と全く違っているのです。日本にいるだけでは見えてこない、小さな発見の一つ一つからインサイトを得ていく過程が実に面白いんですよ。
横関:
ああ、すごく分かります。私は今まさに東京とアジアの複数の都市を行ったり来たりしているんですが、対象が紙おむつという毎日の消耗品の場合でも同じですね。
日本とは使用頻度など、使われ方が全然違いますし、同じアジアでも国によって違いがあったりします。それを知っていくだけでもワクワクしますよね。
滝澤:
はい。現地・現物こそがマーケティングの基本、という発想は何も当時のトヨタや自動車産業に限ったことではなくて、今私がBCGで携わっているさまざまな企業の多様なプロジェクトでもベースになっています。
泥臭いと思う人もいるかもしれませんが、あらゆる製品やサービスが、世界各国でそれぞれ独特の使われ方、親しまれ方をしている。世界を見渡せば、想像もつかない、知らないことだらけです。だからこそグローバルな仕事は面白いし、やりがいもある。
横関:
もちろんアンケート調査などもします。日本に居ながらにして取得できるデータもありますが、やっぱり現地に行かないと見えてこないことがたくさんある。
それに、アジアの新興国では急速に成長している地域も多いので、同じ街であっても去年行った時と今年とでは生活ぶりがガラッと変わっているケースがあります。
生活者の所得水準が低くて、紙おむつが高価な商品だった時には「紙のおむつを使うのは夜寝る時に1枚だけ」だったのが、急激な経済成長でより身近な商品に変わっている、などということも珍しくありません。
滝澤:
成熟市場である日本では経験できないような変化のダイナミズム。それと向き合う醍醐味もグローバルビジネスの面白さの一つですよね。
私の場合、前職時代にも中国市場を担当した経験があったのですが、その後BCGで中国関連のプロジェクトを担当し、何年ぶりかで向こうに行ったんですよ。そうしたら、まさに横関さんが仰った通り、現地の様子が経済成長のおかげで一変していてとても驚きました。
――「グローバル」というキーワードが出ると、必ず英語をはじめとする語学力が話題に出ます。お二人はどの程度、外国語を習得しているのでしょうか?
滝澤:
もともと英語は苦手でした(笑)。何とか通じる程度でしかなくて、ほとんどがOJT、仕事で必要に迫られる中で少しずつ覚えていきました。
横関:
私なんていまだに苦手です(苦笑)。それでも、なるべく自分で話すようにはしています。現地では通訳の方に入ってもらう場面もありますが、現地の人の心に飛び込んでいかないと、先ほどお話をしたような実態にも触れられません。ですから、下手でもいいからなるべく自分で話すようにしています。
アジアだと相手側も英語が流ちょうなわけではありませんので、カタコトながらも現地の言葉を使ってコミュニケーションしてみることも多いですね。
滝澤:
同感です。アジアだろうとヨーロッパだろうと、大切なのは言語ではなくて、どれくらい相手の懐に飛び込み、相手と同じ目線になれるかです。
ですから、グローバルなキャリアを目指す学生の皆さんにも、まずは物怖じしないメンタリティーを持つことをお勧めしたいです。
横関:
私は最初の数年間、日本市場と向き合いながら仕事を覚えていきましたが、そこで得た教訓の一つが「悩んだら消費者に聞け」ということです。それは海外でも同じで、分からないことがあったら、現地の人に聞くのが一番。
「外国だから」とか「語学に自信がないから」といって、自分で壁を作っていたらビジネスなんて前に進みませんよね。
滝澤:
仰る通りですね。私の場合、BCGのミュンヘンオフィスに赴任した際に実感しました。
クライアントはドイツ人で、ドイツ人のコンサルタントばかりのプロジェクトチームに、ごく当たり前にメンバーとして組み込まれる。メーカーでの若手時代と違って、一人のプロフェッショナルとして価値を出すことが常に求められる状況です。私が英語やドイツ語を話せるかどうかなんてことは関係ありません。問答無用での武者修行でした(笑)。
しかし、そういう環境があったおかげで、少なくとも現地で通用するだけのメンタリティーを養っていくことができました。
――物怖じせずに飛び込んでいく姿勢の他に、何かグローバル人材に必要な素養や資質があれば教えてください。
滝澤:
プロジェクトをリードする立場を任されるようになると、クライアントの経営幹部クラスと話をする機会が増えていきます。その時、痛感するのが思考様式の違いです。
グローバル企業の経営幹部は物事をストラクチャー化(構造化)して捉えた上で、ロジカルに判断する方が多いです。非常に忙しい中で、スピーディーに決断を下すのが当たり前の環境がそうさせるのでしょうね。そうした経営幹部クラスと対峙するには、自分の言いたいことを、分かりやすくシンプルに伝える力が問われます。もたもたしていては「いいから、早く結論を言え」と言われかねない。
横関:
すごく分かります。アジア市場の場合、日本のメーカーの人間が行くと、向こうの人たちは何か重要な意思決定ができる存在が来た、と思って迎えます。判断を仰がれた時、「社に持ち帰って検討します」と答えればすむような状況ではないことが、非常に多いですね。求められるスピードが違う。
滝澤:
日本のビジネスにはスピード感がない、みたいな話がよく出ますけれども、実際のビジネスのスピードに差があるわけではなく、思考プロセスの速度の違いが大きい気がしています。
ですから国内での仕事に携わりながら、いつか海外を目指したいという方は、日本にいるうちから物事を構造化して捉え、言いたいことをシンプルに分かりやすくまとめるというスタイルを常に意識し、鍛えていくといいのではないでしょうか。
横関:
私はまさに日本での仕事経験を積んでからグローバルビジネスに携わるようになりましたが、滝澤さんが仰る通り、日本という恵まれた環境にいる間に、学んでおけることがたくさんありますよね。
滝澤:
私は国内での仕事は、人材育成視点で見たときの“道場”のような存在だと思っています。国内のビジネスは、企業にしても商習慣にしても長い歴史の上で確立されてきたものであり、深い学びが得られます。ここで修行を重ねて“ビジネスをする力”を養った上で、グローバル市場に出てストレッチされると、より大きな成長が得られるのではないでしょうか。
ユニ・チャームさんのように海外で成功している企業の場合、当然グローバル部門に人気が集まりますよね? 横関さんのように抜擢されるためには一定の基準のようなものがあるのでしょうか?
横関:
明確な基準は聞いたことがありませんが、やはり国内のビジネスで一定の実績を上げることは必要だと思います。
とはいえ、新卒入社2~3年目の若手がいきなり大きな成果を挙げられるはずもありません。大事なのは、自分で目標設定をし、それを達成するという小さな成功体験を積み上げることです。そしてそれらの経験を通して、社内外の幅広い人たちとの間に信頼関係を築いていくことも重要です。
私自身は20代で、「お得意先に『横関さんを』とご指名をいただけるようになること」、「何かのテーマで『全国で一番』の成果を挙げること」という2つの目標を立て、どちらもクリアすることができました。そのための数々の地道な努力や行動が、自分の自信になり、その後のキャリアの広がりへ繋がっていると思います。
――これまでのグローバルな取り組みの中で、特に成長できたと思える経験について教えてください。
滝澤:
BCGに入って3年目に、グローバル展開をしているあるクライアントからの依頼で、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国という4つの地域を対象に、消費者インサイトを調査するプロジェクトを担当しました。
それぞれ異なる市場特性を持つ地域で個別に成功していくための手立てを考えるのではなく、この4エリアの特性を踏まえた上で、グローバル全体でどういう方針を取るべきかを導き出すチャレンジでした。
当然、とても難しいテーマです。単に固有の複雑性を持つ各エリアの特徴をピックアップして、最大公約数的な結論を出しても、実際のビジネスに役立つ価値にはなりません。しかし、これこそが本当の意味でのワールドワイドな取り組みですから、難問ではありましたが、自身を成長させる機会になりました。
横関:
私も似たような経験を今現在していて、成長を実感しているところです。2018年以降に発売する計画の新製品についてのマーケティングプロジェクトで、今リーダーを務めているのですが、パッケージやPR用のコピーなどを作っていくオペレーションだけでなく、原価計算から事業すべての設計まで任されています。
ここまで大きな裁量を任されるのは私にとって初めての挑戦で、経営陣から叱咤激励を受けつつ(苦笑)、今までとは比べものにならないほど複雑多様な人たちと向き合って仕事をしているところです。
私もまた多様性の中で調整能力を発揮して結果を出す、という試みをしているところなので、これを乗り越えたらまた一つステップアップできるのではないかと思っています。
滝澤:
やはりグローバルな仕事には、複雑性や多様性が必ず付いて回りますよね。文化も価値観も異なるし、スピード感や意思決定プロセスも違う中で、次々と知らないことや驚きに出会う。
新しい体験の連続ですから、知的好奇心が大いに刺激されます。それを面白いと思えれば、国内で得られるものよりも数段大きな成長が実現できるのではないでしょうか。
横関:
そうですね。国内市場にも独特の成熟度や深みがあるので、学べることはたくさんあるけれども、世界に出てみれば知らないことの方が圧倒的に多いです。それを知るのが面白いと思えれば、少々しんどくても自分を高めていくことができます。しかも成果のスケールも大きい。
私の夢は世界中の「不快」をユニ・チャームの製品で「快」に変えていくことなので、これからもさらに成長していかないと、と思っています。
滝澤:
素晴らしいですね。私も30代は経営視点でビジネスに携わりたいという強い思いを持ってBCGに入社しました。実際、自己を高める多くのチャンスが広がっている環境ですから、新しいものをどんどん吸収して、コンサルタントとしてさまざまな領域でクライアントに貢献できるよう頑張ろうと思っています。
(取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)