2023/4/24 更新 グローバルリーダー達はどのように育ったのか P&Gが描く成長戦略とは

P&Gジャパン人事に聞く、入社初日から新卒に裁量を与える理由「権限を与えて専門性を高めることが、グローバルリーダーの育成につながる」

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グローバルで活躍するビジネスリーダーを数多く輩出するP&Gジャパン(以下、P&G)。その理由は、早期に人を育成する仕組みと風土があるからに他ならない。

同社では、会社の将来を担う幹部を社内で育てる内部昇進制を徹底し、誰もが若いうちから大きな裁量権を与えられる。

それは入社1年目の新卒社員も例外ではなく、Day1(入社初日)からリーダーシップを発揮することが求められる。

新卒研修を経てから現場での実務に入る企業がほとんどの中で、P&GではなぜDay1から新人が活躍できるのだろうか。人事担当者の2人に聞いた。

P&Gジャパン合同会社
Human Resources(人事部) シニア・マネージャー
山崎洋満氏(写真左)

日系・外資のIT企業で営業マーケティングを経て、2016年、P&Gジャパンに人事として入社。新卒・中途を含めた採用マネージャーを務める

人事部 新卒採用担当 マネージャー
金 愛梨氏(写真右)

韓国出身。留学のため来日し、慶應義塾大学を卒業後、2022年4月、P&Gジャパンに新卒入社。人事部で新卒採用チームのリーダーを務める

※社名、所属部署名、および役職名については取材当時のものです。


専門性を持ったプロの育成が、グローバルリーダーの育成につながる

——P&Gでは、職種別の新卒採用を行い、入社後はそれぞれの領域でキャリアを築いていきます。その意図はどこにあるのでしょうか。

山崎:私たちが目指しているのは、一人一人が強い専門性を持ったプロフェッショナルになることです。

ダイバーシティーこそイノベーションの源泉であり、例えばセールス、マーケティング、研究開発(R&D)など、各職種の分野のプロがぶつかりあうことで生じる摩擦をむしろ歓迎しています。その上で会社の目標やプロダクトのライフサイクルに応じた全体最適を探すことが会社の成長につながる。それが、当社の考え方です。

また、世界を見渡しても、「総合職」という形態でバランス型に重きをおいた人材育成を目指している国は日本以外にありません。グローバルで活躍するリーダーを育てる意味でも、それぞれの分野のプロを目指してキャリアを築いてもらうことを重視しています。

——いわゆる“配属ガチャ”がないメリットがある一方、社会人経験がない状態で、最初からキャリアの領域を決めることに不安を感じる人もいそうです。

金:私は2022年に人事として新卒入社しましたが、本当にこの道が自分に合っているのか、不安がなかったわけではありません。

でも、それ以上に不安だったのは、自分で自分のキャリアを決められないことでした。将来的に他の道に進みたいと思うことがあったとしても、自分が選択した結果であれば、後悔することはないだろうと考えていました。

山崎:人事としても、どの職種が自分に合っているのかを学生の皆さんが考えられるよう、選考プロセスでは会社や職種について、できる限り透明性を持って説明することを心掛けています。

具体的には、本人が仕事を理解し、納得した上で選択してもらうために、できる限り現場のリアルな課題に触れてもらうことを意識しています。

金:私はインターンシップに参加しましたが、インターンシップ用のプログラムではなく、P&Gが持つ実際の課題解決に取り組めたことがキャリアを決める上でとても参考になりました。

社員としてどのような動きやアウトプットが期待されているのかを、リアルなケースをもって入社前に体験できたのは、貴重な経験だったと思います。

山崎:一方で、当社としても一人一人としっかり向き合うことを大切にしていますので、面接では長い時間をかけて対話を重ねます。その結果、本人の志向に応じて、希望職種とは別の職種を紹介することもありますね。

どの職種であっても重視しているのは、答えがない課題に対して、どのようにアプローチして解決に向けて進めていくのかです。P&Gが企業として成長を続けるには、既存の商品やプロセスに甘んじることなく、次々に新しい「もの」を生み出す必要があります。だからこそ、その人らしさを発揮しながら、困難に向き合う姿勢を見ています。

入社式で上司から言われた一言「来年はあなたが入社式をリードしてね」

——P&Gは、新入社員にも裁量権を与えることで知られています。「Day1(入社1日目)から」という言葉も社内ではよく使われているようですね。

山崎:そうですね。規模はさまざまですが、Day1から何かしらのプロジェクトやプロダクトの当事者として権限が与えられ、自分の仕事にオーナーシップを持って取り組むことが求められます。

キャリアを積むにつれて、さらに大きなプロダクトを担当したり、日本だけでなくアジア全体を担当したりと、より影響力の大きな仕事を手掛けて行くイメージです。

社内では「自分の仕事には、自分の刻印が押されている」という表現をよく使うのですが、自分が発案し、計画を立て、自ら働き掛けてプロジェクトを成功させた経験からは、大きな達成感が得られます。それは新人であっても同じです。

金:Day1という言葉通り、私も入社式当日に上司から、「来年はあなたが入社式をリードすることになるから、よく見ておいてね」と言われて驚きました(笑)

入社4日目には6月の内定者向けイベントの企画と、翌年度の新卒採用業務がスタートし、与えられた予算の中で何をやって、誰を巻き込むのか、試行錯誤しながら進めていきました。

無事にプロジェクトを完遂するには、リーダーシップを発揮し、多くの人を巻き込んでいく必要があります。自ら企画を考え、プロジェクトを主導することによって、「何が必要で、どういう人たちにヘルプを求めなくてはいけないのか」を必死に逆算して考えるようになりました。

山崎:一人で完遂する業務はありませんから、自分なりの方針を関係者や承認者に説明し、多くの人の賛同を得て、同じ方向に向けて一緒に取り組んでもらうことが大切です。「裁量権を持つ=自由気ままにやっていい」というわけではなく、そこには責任が伴うのです。

それはもちろん簡単なことではないですが、入社1年目の若手であっても十分にできることだと私たちは考えています。

金:心理的にプレッシャーを感じることもありますが、決して一人で放り出されているわけではなく、きちんと見守ってもらっている感覚があります。

例えば、上司からは、こう言われたことがありました。

「何も言われなくても心配しなくていい。うまく進んでいるから介入していないだけであって、もし間違った方向に進んでいると思えば、決して見過ごしたりせずに声を掛ける。だから、安心して自分のやりたい方向に進んでほしい」

その言葉通り、困った場面でヘルプをもらえなかったことは一度もありません。一人で行き詰まってしまったときも、声を上げれば、誰もが快く相談に乗ってくれます。

山崎:P&Gでは内部昇進制を基本としており、会社の将来を担う人材は、社内で育てることを徹底しています。というのも、P&Gには「お金、ブランド、資産がなくなっても社員がいれば、10年で全てを元通りに再建できる」という言葉があります。

そのため、自分たちで会社の将来を担う人材を育成する内部昇進制を基本としています。だからこそ、早期に人を育てる仕組みが整備されており、それを支える文化が醸成されているのです。

山崎:先輩や上司も同じようにDay1からリーダーシップを発揮する経験をしてきているので、リスクやつまずきそうなポイントは理解しています。

その上でコーチングしながら若手をサポートしていますし、失敗を恐れないカルチャーが会社に根付いているからこそ、信頼して任せることができています。この「失敗を恐れない」というのは、「自ら発信していく」と同義語だと思っています。立場は上司であれど、部下のアイデアから学ぶことの多さには、日々驚かされます。

各国の事例やアイデアをシェアし、グローバルで協力し合う

——ただ仕事を任せるばかりではなく、遂行するためのサポートもあるのですね。

山崎:仕事に対する責任は求めますが、職場環境は協力的で、お互いの成功と成長を願うファミリーのような雰囲気があります。

人事制度としても、個人の業績だけでなく、いかに所属するチームや会社全体など、組織の成長に貢献したかが評価の指標になっており、年次が上がるほど後者の比重が増えていく仕組みです。

金:協力的な雰囲気はグローバル全体にありますよね。過去の事例やアイデアをシェアしてほしいとグローバルに投げかけたり、情報交換やディスカッションをしたりすることは頻繁にあります。

先日は私の出身国である韓国の採用チームとアイデア交換をしました。日本の採用チームだけで考えていたら出てこなかったであろう斬新なアイデアを得ることができ、とても参考になっています。これもまた、イノベーションの一つのかたちだと気付かされました。

山崎:たいていの課題は日本特有のものではなく、各国がそれぞれ事例を持っていることがほとんど。全ては会社の重要な資産ですから、それをグローバルで共有し、最大限有効活用するのは当然のことです。

社内では公用語を英語としていますが、学生からは「なぜ日本なのに英語を使うのか」とよく聞かれます。実際に日常的なメールのやり取りや資料作成も全て英語で行っていますが、転送ボタン一つで他の国へ情報を共有できることに、グローバルカンパニーとしての優位性があると思っています。どこの国も積極的に情報をシェアしていますね。

——裁量の大きな仕事を任せてもらえるということは、それだけ忙しいということでもあると思います。働き方について、会社としてどのような取り組みをしていますか?

山崎:「会社の利益と個人の利益は不可分である」という自社のポリシーに基づき、特にここ数年は、より柔軟で健康的な働き方の実現を目指しています。

日々変わる社会情勢や社員のニーズを、人事はもちろんこと、経営層としても積極的にキャッチし、社内制度を進化・拡充したいという想いが強いです。多様な社員一人一人が最大限に能力を発揮できるよう、長年にわたって柔軟な働き方を推進してきました。

その一例として、フレックスタイム制やリモートワークを取り入れており、働く時間や場所を個人が選択することができます。

もちろん、仕事の内容によっては出社や特定の地域に住むことが必要条件ともなりえますが、画一的に会社単位では定義せず、「個人および上司の裁量で判断してよい」としています。

また、外資系企業の多くが導入しているみなし残業制を撤廃し、一人一人の労働時間を正確に把握することによって業務量の適正化を図っています。

さらに、上司との対話も重視しており、半年に一度はキャリアや成長のビジョンを基に業務を見直す場を設けています。それぞれのライフイベントやキャリアステージを踏まえて、「今はアクセルを踏みたい」「育児のために働き方を調整したい」など、個別に相談することが可能です。

——働き方についての裁量も本人にあるということですね。最後に、就活中の学生にメッセージをお願いします。

金:就活で大切なのは、本当に自分に向いている会社や仕事を見極めることだと思います。

面接などで「学生時代に力を入れたこと」を聞かれることは多いと思いますが、学生の皆さんには就活のためではなく、自分を知るために、ぜひあらゆることにチャレンジしてほしいですね。

勉強でも、旅行でも、課外活動でも、何でも経験してみて、自分が興味を持てることは何か、自分の価値観はどういうものなのか、考えるきっかけにしてください。

山崎:就活は、今後の人生のあり方を決める重要なフェーズの一つです。だからこそ、目先の内定だけでなく、長い目で見て「どういう自分になりたいか」を考えることが重要でしょう。

せっかくの就活という機会をうまく活用して、思い込みに縛られず、いろいろな業界や会社を見て回って、「目指したい自分」に近づける選択をしていただきたいと思います。


取材・文/瀬戸友子 撮影/鈴木 迅 編集/天野夏海

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