2026/10/31 更新 「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を
変化を味方に付けてきた先駆者5人が出す答え AIが人間の能力を代替し、昨日までの正解が瞬く間に塗り替えられる時代。これから社会に出る学生に必要なのは、特定の企業や仕事でしか通用しないスキルではない。環境がどれほど変わっても、自ら考え、選び、自分の足で歩き続けるための「生き抜く装備」だ。激動の時代を切り開き、代わりの利かない価値を証明し続けてきたビジネスリーダーたちに、変化に翻弄されず、自らのキャリアの手綱を握り続けるための備えを聞いた。
「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を
サイボウズ 1971年生まれ。新卒で松下電工(現パナソニック)に入社し、97年にサイボウズを創業。各省庁の働き方関連プロジェクトの委員等を歴任し、日本企業の組織改革やワークライフバランスの向上に尽力している
代表取締役社長
青野慶久
氏
「正解」を自分で決めるために
高い理想と強い覚悟を持ち続ける
生成AIの台頭によって、まるでSFのような時代がやってきましたね。ワクワクする一方で、これまで企業が使ってきたクラウドサービスのあり方は大きく変わり「SaaS isDead(SaaSは終わる)」と恐れられるようにもなりました。もちろん、これは「サイボウズ is Dead」になる可能性もあるわけです。しかし私たちは、これまでも大きな時代の波を乗り越えてきました。世界的にクラウドシフトが進んだ2011年頃、当社は従来型のパッケージソフト中心のビジネスモデルを見直し、クラウドサービスへ移行する決断をしました。その結果、サイボウズ史上最大のピンチを乗り越え、さらなる成長を実現することができたのです。今回もAIをただの脅威として見るのではなく、人とAIが一緒に働く新しいチームワークをつくるチャンスに変えていきたいと考えています。
どんな時代を生き抜く上でも、私が大切にしているのは「高い理想」を持つことです。例えば、鉄道から自動車の時代へ移るとき、鉄道会社が「自分たちの使命は鉄道を動かすことだ」と考えていたら、事業の縮小は避けられないかもしれません。一方で、「人や物の移動をより便利にすること」が使命だと考えていれば、鉄道にとらわれず、新たな移動手段に挑戦できます。サイボウズが「チームワークあふれる社会を創る」という理念を掲げているのも、過去の成功体験に固執せず、変化に応じて柔軟に進化していくため。会社としてのアイデンティティーを「手段」ではなく「高い理想」に置くことで、予想外の変化の中でも、方向性を見失わずに挑戦し続けられるのです。
高い理想をかなえるには、同時に強い「覚悟」も必要です。私は今でこそ「世界で一番使われるグループウエアメーカーになる」という覚悟を持って仕事をしていますが、創業時はそうではありませんでした。器用貧乏な私は、何事もある程度のところまでできると、満足してしまうきらいがあったのです。しかし、社長としてM&Aの失敗や離職率の増加などを経験し、現状を変えなければならないと強く感じてからは、腹をくくり、本気で仕事に向き合うようになりました。
覚悟を決めると、私の行動は何もかも変わりました。それまでは会議に出ても「みんないいことを言うな」なんてどこか他人事のような気持ちでいたのが、「この会議で結果を出さなかったら世界一になれないかもしれない」と考えるようになる。分からないことがあればすぐ突っ込むし、1時間の会議でもヘトヘトになるほど考える。今でも、この覚悟は毎朝お祈りするように口に出して、自分に言い聞かせるようにしています。本気で目指すものができた瞬間に、人間の行動は大きく変わるんですよね。
そしてこれからのAI時代には、「望む力」を持つことも大切になるでしょう。AIは、望んだことを実現する力はある。でも自分が何を望んでいるのかが分からなければ、今度は人間がAIの言いなりになってしまいかねません。AIの指示に安易に従い続けた結果、いつの間にか人生の主体性を失い、AIの「下請け」のような働き方しかできなくなる事態は避けるべきです。
実は日本の教育は、この力を鍛えにくいところがあります。夏休みの宿題も、先生に出されたものを全部やった子が「偉い」と褒められますよね。でも与えられた課題をこなすだけでは、「望む」訓練にはならないのです。だからこそ意識的に自分自身と向き合い、深く内省することで「望む力」を育まないとなりません。
サイボウズには、自分が望むキャリアや給与を社員自身が宣言する『マイキャリ』という仕組みがあります。その背景にあるのは、社員一人一人の「わがままを引き出す」ことが成長につながるという思想。望むことって、要は「わがまま」ですよね。サイボウズは、それをエネルギーに変えて前へ進もうとする会社なのです。もし配属先の部署が合わなければ、遠慮なく言ってもらって構いません。その代わり、キャリアチェンジの機会は待っているだけでは決して訪れない。自分のキャリアは自分で決める。そんな当社のやり方に、ようやく時代が追い付いてきたと感じています。
学生の皆さんも「どの企業に就職するのが正解だろう?」と思いながら就職活動をしているかもしれませんが、残念ながら「正解の企業」というのはありません。「親に勧められたから」「先輩が良いと言ったから」。そんな理由だけで決めてしまえば、その瞬間から人の意思に沿う人生を歩み始めることになります。うまくいかなかったときに人のせいにできてしまうし、それでは覚悟も決まりません。自分が歩む道は、自身で望んで選ぶしかないのです。
自分の人生の責任を自ら引き受けるのは、確かに少し怖いこと。でも、主体的な仕事人生は、最初の就職先を自分で決めることから始まります。どの会社に入るか以上に、自分の人生を自分でハンドリングしている感覚を持って、覚悟を持って進んでほしいと思います。
「AI の言いなり」を脱して
自分の“わがまま”をエネルギーに
「あなたが言ってくれたことをやります」という下請け的な働き方は避けますね。そういう仕事はAIに代替されやすいですから。むしろ「何でもやっていいぞ」と言われるような環境に身を置きたいですし、若いうちから裁量が大きく、いろいろな挑戦ができるベンチャー企業は魅力的です。一方で、大企業を選ぶという選択肢もあると思います。研修の充実など、大企業だからこそ得られるものもありますからね。
ただ、どちらにせよ下積み期間が長い企業は避けると思います。その間に、自分で考えながら挑戦している人との差がついてしまうのは、ちょっと怖いですから。
それに今の時代、大企業だからといって安定があるとは限りません。私が新卒で入社した頃は、一つの会社で何十年も働くことが普通でした。今ならそこにずっといるというイメージは持たないでしょう。転職やキャリアチェンジも前提にしながら、自分の人生を自分で動かしていくと思います。