2026/10/30 更新 「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を

サイゼリヤだけが生き抜いても意味がない。本気の「世のため人のため」が最強の装備

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変化を味方につけてきた先駆者5人が出す答え

「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を

AIが人間の能力を代替し、昨日までの正解が瞬く間に塗り替えられる時代。これから社会に出る学生に必要なのは、特定の企業や仕事でしか通用しないスキルではない。環境がどれほど変わっても、自ら考え、選び、自分の足で歩き続けるための「生き抜く装備」だ。激動の時代を切り開き、代わりの利かない価値を証明し続けてきたビジネスリーダーたちに、変化に翻弄されず、自らのキャリアの手綱を握り続けるための備えを聞いた。

松谷秀治氏のプロフィール画像

サイゼリヤ
代表取締役社長

松谷秀治 氏

1958年生まれ。84年サイゼリヤ入社。資材部長を経て2010年、取締役執行役員就任。マーチャンダイジング・戦略インフラ・総務の各本部長を歴任。22年、代表取締役社長に就任し、低価格戦略を推進

サイゼリヤだけが生き抜いても意味がない
本気の「世のため人のため」が最強の装備

レストランチェーンは、何のために存在するのでしょうか。突き詰めれば「暮らしを豊かにするため」にあると私は考えています。そして、サイゼリヤは、この存在意義を何よりも大切にしています。どんな人でも差別なく、価格を気にすることなく、気軽に外食を楽しめる。そんな豊かさを社会に提供することだけを考えて経営してきたので、自分だけが「生き抜く」なんていうことは考えたことがありません。しかし、サイゼリヤの国内の来店客数はこの4年間で約1.6倍、客単価も15%増加と、ありがたいことに、多くのお客さまに選んでいただいています。そう考えると、「世のため人のため」を建前でなく、本気でやり抜くことが、結果的に「生き抜く装備」につながるのではないかと思います。

もともとファミリーレストランというのは、上流階級の人たちだけが楽しんでいた外食文化を、一般家庭でも楽しめるようにするために生まれたのが始まりです。しかし、今からおよそ3年前、原材料費やエネルギー価格が高騰し、外食産業は軒並み値上げへと舵を切りました。それでは、人々の暮らしは豊かにならない。そう考えた私は、「価格据え置き」を宣言しました。多くの人が「暮らしが苦しい」と感じている中、誰もが普段使いできる価格を維持するべきなのは自明のことでした。いくら原価が上がっているからといって、何の努力もせずに値上げを行うのは、私たちの存在意義に反することだったのです。

何を変えれば「価格据え置き」を実現できるのか。私が注目したのは、店舗のオペレーションでした。例えば、テーブルの片付けにまで手が回らないと、空席があってもお客さまが入店できません。すると、お客さまは入店を諦めて帰られてしまいます。こうした機会損失を減らすため、お客さまの入店から退店まで、全てのプロセスにおいてやりづらい作業を一つ一つ改善し、徹底的に無駄を削減しました。その結果、一般的なファミリーレストランよりも3~5割ほど安い価格帯を実現し、独自路線のレストランとなったわけです。

もっとも、「自分たちがもうけることよりも、お客さまの暮らしを豊かにすることを優先する」という信念は、今回の価格据え置きで生まれたものではありません。サイゼリヤが創業以来、大切にしてきた考え方です。それを象徴するのが、1999年の『ミラノ風ドリア』値下げです。一般的に、原材料費や人件費、家賃などのコスト、ライバル店の価格を勘案し、利益を織り込んで価格を決めるでしょう。しかしサイゼリヤは逆です。まず、お客さまが気兼ねなく楽しめる価格を設定し、そこから逆算して、どうしたら利益が出せるかみんなで知恵を絞る。ミラノ風ドリアを480円から290円に値下げした時もそうでした。実現方法を考える前に、値下げが決まったのです。ミラノ風ドリアは、当時から一番の売れ筋商品。値下げをすればオーダー数は増えるでしょうが、そのままでは利益は出せません。また、コストを下げるため品質を落とせば、お客さまに安かろう悪かろうというイメージを与えてしまい、いずれ売上の落ち込みは避けられなくなるでしょう。

そこで、私たちはメニューの絞り込みやサプライチェーン全体の再構築を図りました。良質な米が集まる福島に精米工場を建て、ドリアに最適なホワイトソースを調達するためオーストラリアに工場を建設。単にコストを削るのではなく、効率化と品質向上を同時に追求した結果、ミラノ風ドリアのオーダー数は値下げ前の5倍になり、290円でも利益が出せる体制をつくることができました。

今も地域紛争や円安による原材料費、人件費の高騰は続いています。飲食業界にとって厳しい状況は続きますが、皆さまが値段を気にせずに外食を楽しめる文化を守るため、私たちは努力を続けていきます。

ビジネス=金もうけだと思っていた新人時代
現会長の「お前にはできないよ」の一言で目が覚めた

「暮らしを豊かにすることにつながるか」を軸に経営を行ってきた私ですが、最初からこう考えていたわけではありません。入社したての頃の私は、ビジネスとは金もうけのためにやるものだと思っていましたし、自分が出世することばかりを考えていました。そんな私に対して、当時店長だった現会長は「お前に『世のため人のため』の仕事はできない」と言い放ちました。「人間は誰しも自分が一番かわいいもの。それでも人の役に立ちたいという気持ちがあるのなら、人生の51%を世の中のために尽くせる人を目指しなさい」。その言葉に、目が覚める思いがしたものです。今も経営者として決断を下す際には、「お客さまのためと言いつつ、自分のためになってはいないか」と自問自答しています。

AIの登場により、世の中は目まぐるしく変化を続けています。しかし、どんなにAIが進化しても、人間の「こうしたい」という意思や熱意、意欲が世の中をつくっていくことは変わりません。「豊かな世の中にしたい」そんな強い意思で、社会を良くしていけるのは人間だけなのです。だからこそ学生の皆さんには、自らの意思を起点に、価値を生み出せる仕事を選んでいただけたらと願ってやみません。

その判断は建前になってないか
迷ったときこそ原点に立ち返れ

松谷秀治氏sub

もし私が28卒の学生だったら

仕事は人生の中で、最も多くの時間を費やす活動の一つです。どの業界に進むにせよ、自分が成長できると思える会社を選ぼうとするだろうと思います。また、自分だけでなく会社の成長も見込めることが大切です。会社の成長が止まれば、自分の能力を発揮する場もなくなってしまいますが、伸びる会社であれば、ポジションが増え、任される仕事の幅も広がり、質も磨かれます。能力を高められるステージがあるか、どれだけ伸びる可能性がある会社なのか、そうした視点でじっくりと時間をかけて、会社を見極めようとするでしょうね。

どの企業も似たような理念を掲げていますし、会社の本当の姿を見極めるのは容易ではありません。それでも、会社説明会やインターンシップ、先輩社員と話す機会といったチャンスを活かして、「建前」と「本音」にギャップがないか、掲げている理念に対してどれだけの覚悟があるか、自分自身の目で確かめることを大切にするだろうと思います。

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