2026/10/31 更新 「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を
変化を味方に付けてきた先駆者5人が出す答え AIが人間の能力を代替し、昨日までの正解が瞬く間に塗り替えられる時代。これから社会に出る学生に必要なのは、特定の企業や仕事でしか通用しないスキルではない。環境がどれほど変わっても、自ら考え、選び、自分の足で歩き続けるための「生き抜く装備」だ。激動の時代を切り開き、代わりの利かない価値を証明し続けてきたビジネスリーダーたちに、変化に翻弄されず、自らのキャリアの手綱を握り続けるための備えを聞いた。
「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を
アパホテル 福井県立藤島高等学校を卒業後、福井信用金庫に入社。営業として活躍後、元谷 外志雄氏と結婚。1971年、夫が起業した信金開発(現アパ)に入社。94年、アパホテルの取締役社長に就任。アパグループは54期連続黒字を継続
取締役社長
元谷 芙美子
氏
人間どう考えるかで人生は決まる
「ピンチはチャンス」の思考で逆境を楽しんで
私はね、人生で一度も苦労なんてしたことがないの。世間さまから見ればピンチだと思われるような場面でも、「神様が私を試してくださっているのね」と思うと、ワクワクドキドキして「よし、頑張ろう!」と奮い立つ。だから何があっても苦労とは思わず、全てを楽しむことができるんです。
もちろんアパグループも、未曾有の危機と言われるほどの大きな社会変動に何度も直面してきました。1971年の創業以来、オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックと、時代ごとにホテル業界は逆風にさらされてきたんです。
しかも私たちの場合、財閥系や鉄道系と言われる超大手がひしめく既存優位のホテル業界で、北陸で起業した小さな会社が裸一貫で勝負しなければいけなかった。だから神様に試される機会はたくさんありました。
でもね、それが良かったんだと思うの。アパグループが創業以来、一度も赤字を出さず、54期連続で黒字経営を続けてこられたのは、常に「ピンチこそ最大のチャンス」と捉え、果敢に行動してきたから。ずっと何事もなく毎日平穏に過ごしていたら、私自身が社長として磨かれることはなく、会社が飛躍する好機も逃していたでしょう。
だからといって、自分の会社さえ良ければいいと考えたことはありません。むしろ私は、世のため人のためにお役に立ちたい気持ちが人一倍強いんです。
2020年にコロナ禍が拡大した際に、アパホテルがいち早く軽症者や無症状者を受け入れたのも、一人でも多くの方を救いたかったからです。当時はまだ新型コロナウイルスがどんなものかがはっきりせず、受け入れにはリスクが伴いましたが、私たちは国からの要請を受けて即断即決しました。
社長に就任した時から、私の目標は「ホテル業界のジャンヌ・ダルクになること」。まさに今がそのチャンスだと思ったのです。私たちが真っ先に受け入れを表明すれば、他のホテルも後に続くかもしれない。誰かが火中の栗を拾うのであれば、それは自分しかいないという強い使命感がありました。
アパホテルがここまで大きくなれたのは、社会の皆さまのおかげです。その感謝を忘れず、私にできることがあればいつでも恩返しをしたい。その思いがあるから、どんな難局でも逃げることなく、前へ前へと突き進めるのです。
こうした人間らしい心こそ、AIにはない私たちの強みじゃないかしら。感謝の気持ちや思いやり、おもてなしの心などは、AIがどれだけ発達しても持ち得ないものです。だから人間がAIに駆逐されることはない。私はそう確信しています。
誤解しないでほしいのですが、私はAIやITも大好きなのよ。最先端のホテルであり続けるには、新しい技術を勉強し、会社経営に取り入れることが必要ですから。アパホテルが業界に先駆けてスマートホテル化を推進し、公式アプリや「1秒チェックイン・1秒チェックアウト」などのDXサービスを導入できたのも、先進技術の活用があってこそ。ただしこれらは単なる効率化やコスト削減の手段ではなく、あくまでお客さまへのおもてなしとして提供しています。
なぜならどれだけ時代が変わっても、サービス業の本質は「お客さまの幸せを願う心」にあります。お客さまに喜んでいただくために、相手の気持ちの奥深くまで洞察し、それぞれの方が求めるおもてなしをご提供する。それは人の幸せを願う心を持った人間にしか生み出せない価値であるはずです。
学生の皆さんもAIに頼っていたら、卒業論文の内容や入社試験の答えも全員似たり寄ったりになって、差がつかないでしょう? だから今こそ、AIに負けない独自の思考や発想を鍛える絶好のチャンスと考えればいいんです。
アパグループ創業者である夫の元谷 外志雄は、「人間どう考えるかで人生は決まる」が座右の銘でした。これは私も全くの同感。結局のところ、人生は自分の考え方次第なんですよ。
最近では就職活動でも、条件や効率だけで会社を選び、「入った会社が合わなければ、転職して次へ行けばいい」と考える人が多いようですね。でもそれは、外部環境のせいにして逃げているだけ。自分の人生を誰かに委ねたくないなら、「まずは与えられた場所で誰よりも輝こう」という覚悟を持ち、目の前の仕事に全力投球すること。隣の芝生は青く見えるものですが、どの会社に就職しようと、自らチャンスをつくり出せる人だけが、人生の可能性を無限に広げていけるのです。
仕事に全力で取り組んだ結果、失敗したって大丈夫。失敗すれば必ず学びがあり、もっと大きく成長できますから。しかも会社という組織に守られながら失敗させてもらえるなんて、ぜいたくでおいしいデザートを目の前に出されたようなもの。怖がらずにパクッと食べちゃえばいいんですよ。
皆さんもぜひ何事もポジティブに考えてください。前向きに考えるだけなら、税金もかからないからお得です(笑)。自分の可能性を信じて仕事人生を歩み出す皆さんを、私も応援しています!
失敗はぜいたくでおいしいデザート
怖がらずにパクっと食べちゃって
私が今ファーストキャリアを選ぶなら、「マニュアルやAIの指示通りに動く仕事」ではなく、「自分の頭で考え、自分の言葉でお客さまの心を動かせる環境」を基準にします。ですから人間力や感性が最大の武器になる、アパホテルのような会社を選ぶでしょうね。
職種を選べるなら、自分が得意な営業で勝負したいです。私はそれほど器用なタイプではありませんが、営業だけは誰にも負けないという気概でここまでやってきました。ですから、若いうちから挑戦の場に立たせてくれる会社に入り、社会人1年目は現場で失敗を重ねながら、とにかく素直な心で何でも吸収すると思います。人の3倍動き、1秒でも長くお客さまと向き合って、基礎を自分に叩き込む1年にするでしょう。
その行動量と経験値の差が、誰にも追いつけない圧倒的な力量として、2年目以降に現れます。自分が最も鍛えられる環境にあえて身を投じることが、世界で通用するプロフェッショナルになるための道だと思いますから。