独自の不動産投資手法『JINUSHIビジネス』で2000年の創業以来マーケットを切り開いてきた日本商業開発が、2022年、社名を「地主株式会社」に変更した。
同時に、社長も創業者の松岡哲也氏から西羅曜旦氏に交代。今、同社は大きな転機を迎えている。
地主という言葉には、少しネガティブなイメージもつきまとう。それでも「地主」を名乗る背景には、地主という存在自体を変え、「地主リートの成長と共に、日本の大地主を目指す」という同社の覚悟があった。
当社は2000年に創業し、そこからの22年間で、これまで日本になかった『JINUSHIビジネス』(底地)のマーケットを創ってきました。
土地を買う、土地を貸す、貸している土地を売る。これがJINUSHIビジネスです。自ら建物を建てず、土地のみに投資をする、当社独自の新しい不動産投資手法です。
2017年には『地主リート(※1)』を創り、テナントさんからいただく借地料を投資家に配当するという、長期安定の不動産金融商品を提供し、資金を運用してきました。
※1. 地主リートとは、投資家から集めた資金で不動産投資(底地)を行い、そこから得た賃料収入(地代)を投資家に配当する運用スキーム
地主リートは「運用開始5年目に1,000億円以上の資産規模」という当初の目標を達成し、今後は中期で3,000億円への成長を目指しています。
当社の商品は、自然災害やマーケットの価格変動の影響が非常に少ないです。自らは建物を保有しないことで、いろいろなリスクを排除し、長期安定の金融商品を提供できる。
それは、リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍など、さまざまなことがあったこの20年間で証明することができました。変化が激しい時代に、長期安定の新しい不動産金融商品を投資家の皆さまに提供する価値は大きいのです。
そして2022年、当社は「日本商業開発株式会社」から「地主株式会社」へ社名を変更しました。同時に、社長も創業者の松岡から私、西羅に交代しています。
社名を「地主」に変えると発表した時、社内からは反対意見もありました。世の中を見渡しても、地主という言葉自体に良いイメージを持っていない人がいることは理解しています。
それでもわれわれが「地主」を名乗るのは、当社が成長する中で新しい地主像を創っていけると思っているからです。
当社のビジネスを通じて旧来の地主のイメージを払拭し、地主という存在の在り方自体を変えていきたいと思っています。
今、当社が目指すのは「日本の大地主」です。
テナントさんにも、投資家さんにも、施設ができる地域の方にもメリットがあるビジネスを行うことで、みなさんから必要とされる存在になりたいと思っています。
例えばテナントさんの中には、契約満了によりこれまで商売をしていた場所から追い出されてしまったり、住宅に土地を売却されてしまい重要な店舗拠点を失ったりといった状況に直面している方もいます。
そんな中、再開発を狙わずに、テナントさんからいただく借地料を長期安定の金融商品として投資家さんに提供している、安心できる地主としての当社の存在価値はますます大きくなると思っています。もし、私自身がテナントの経営者だったら、当社と組みたい。それだけやっていることへの自信もあります。
実績を積み、地主リートの成長と共に、日本の大地主になれば、関わる皆さんのお役に立てる機会もますます増えるはずです。
地主リートのスタート当初、商品の認知度も当社の知名度もなく、「良さそうだけど、知らないからやらない」となることがほとんどでした。
そこから事業基盤が整い、これからは社名変更を契機にアクセルを踏んでいくタイミング。次の20年の成長を牽引してくれる優秀な方に、どんどん当社へ参加していただきたいと思っています。
JINUSHIビジネスには、大きな可能性があります。
この10年で、底地のマーケットは5倍になりました。次の5年では、さらに2倍以上へと成長するという試算もあります。
また、現状の地主リートの資産規模は2000億円弱ですが、将来的には1兆円規模を目指せる可能性を秘めています。これからは当社が創り出したマーケットをどんどん広げていくフェーズなのです。
日本のみならず、海外でのチャンスもあります。国内の人口減少の流れもあり、当社では10年以上前から海外での投資検証を行い、2018年にはアメリカに拠点を設けました。
かつて日本でマーケットを切り開いてきたのと同じように、アメリカでも実績を積み重ねていく中で、ビジネスを大きくしていきたいと思っています。
中期経営計画では「2026年度に売上高1,000億円」を目標と掲げていますが、自分たちの可能性を信じて着実にやっていけば、その数字はおのずと達成できるでしょう。
2022年からは、新たにESG(※)やSDGsに関する取り組みも開始しました。日本の大地主を目指す中で、当社の物件にこういった観点の設備が設けられ、それが全国に広がることは、社会全体に大きな変化をもたらします。
※Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を合わせた言葉。企業が長期的に成長するために、経営においてESGの3つの観点が必要だという考え方が世界中で広まっている
現在はテナントさんとの賃貸借契約書フォーマットにもESG条項を追加し、電気自動車の充電設備の設置、駐車場や屋上の緑化など、「環境に優しいことをお互いに協力しながらやりましょう」とお伝えしています。好意的に捉えてくださるテナントさんは多く、そういう物件はどんどん増えています。
こういったことができるのは、世の中の変化だけでなく、当社が成長したことが影響しています。「日本の大地主を目指す」と堂々と言える会社になったからこそ、理想だけで終わらず、実行に移せる面もあるのです。
社名が変わり、社長も変わり、社内の雰囲気も変わりました。
今は次の20年の成長を見据え、「日本にない会社をつくろう」という創業の精神を大切にしながら、チームアップをし直している最中です。いわば第二創業のようなイメージですね。
これまでは個の力で事業を推進してきましたが、今後はいろいろな人とチームで動くことで前進できる場面が増えると思っています。
例えば、今までのテナントさんのほとんどは、スーパーマーケットやドラッグストアなど、生活密着型の業種業態でした。
そこから社会的ニーズに合わせて、最近はヘルスケアやホスピス、物流など、これまで接点がなかったテナントさんとのリレーションを増やすことに力を入れています。
その際、営業が別部署と連携したり、銀行さんから顧客をご紹介いただいたりと、新たなビジネスの可能性をいろいろな側面から増やす必要があります。
今までのスタイルにとらわれず、秘められた可能性を見据えながら営業をする。会社全体がそういう意識を持つことが大切であり、そこに大きなチャンスがあるのです。
そのために意識しているのが、スピードとフラットさです。
大企業ではたくさんの人に承認の判子をもらう必要があったり、意思決定者が曖昧だったりすることもありますが、それだと無駄も多いもの。
だからこそ、役職や年次に関係なく、私とメンバーが直接話し、その場で意思決定をしています。各部署に上長はいますが、まずは上長を通さないと社長と会話ができないといったことは全くありません。
新卒1年目の社員も「これはどうしましょう?」と当たり前のように相談しに来てくれますし、私自身も目を通した書類に対して「これどうなの?」と直接話し掛けに行きます。
また、私が社長に就任してからは、自ら企業トップにアプローチをするようにもなりました。
社名変更や社長の交代は、営業の絶好のタイミングです。「社長が変わったのでごあいさつに行きたい」と言えば、自然にアポイントが取れます。
そこで当社が目指していることを説明し、トップ同士、会社同士が理解し合えると、当社のメンバーもお客さまも動きやすくなります。お客さまの稟議決裁が早くなるなど、現場に対して良い効果をもたらすのです。
だからこそ社員のみんなには、「どんどん私を使え」と言っています。「社長」は単なる役割ですからね。
社長の名刺があればアポイントも取りやすいですし、一緒に営業に行くことで、当社の考えがメンバーに改めて伝わることもあります。そうなると、みんなの動き方もより良く変わる。
同時に、当社の歴史を伝えたいという思いもあります。ここ数年で入社したメンバーが増え、当社22年間の歴史を知る人はほとんどいません。
メンバーと一緒に物件を見にいくときは、「ここは昔こういう経緯で案件化できた」「今は好調だけど、しんどい時もあった」など、意識的にそんな話もしています。
最初はトップが自ら営業に行くことの効果に懐疑的だったメンバーも、実際にやってみたことで意味を感じ取っている。結果、アポイントが次々入るようになって、みんな、だいぶ人使いが荒くなりました(笑)
私とメンバーとの接点が増えたことで、相談のタイミングも早まり、無駄な動きも減りました。やるべきことに集中し、最短距離で動けるようになってきているのを感じますね。
繰り返しになりますが、当社は次の20年で、「地主リートの成長と共に、日本の大地主」を目指そうとしています。
そして、その目標達成を牽引するのに、年次は関係ありません。JINUSHIビジネスの可能性を感じ、当社の行動規範からにじみ出る社風を面白いと思ってくれる人と一緒に働きたいと思っています。
「この会社、面白そうだな」
そうやってワクワクしながら扉を開けようとしてくれる方がチャレンジしてくれることを楽しみにしています。
企画・取材・文・編集/天野夏海 撮影/大島哲二