2021/9/17 更新 イベントレポート

「まさにフロンティア」AI、データサイエンスで劇的な変化を遂げる自動車開発の現場【日産自動車】

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今、自動車業界は100年に一度とも言われる大変革の時を迎えている。その背景にあるのは、移動にまつわる価値観の変化と技術革新だ。

特に、技術分野で業界の先端をいくのが日産自動車だ(以下、日産)

日産が誇る『GT-R』シリーズ。写真は、『GT-R Black edition』

世界に先駆けて量産型の電気自動車の開発に成功した同社は、デジタル、IT、AI、データサイエンスなどを駆使して「新しい移動のカタチ」を生み出すことに取り組んでいる。

2021年5月29日に開催された日産のオンラインセミナー「技術力によって生まれ変わる業界~自動車業界が創る新しい常識とは?~」(type就活主催)には、同社常務執行役員の土井三浩氏、データサイエンス/AI_高度AI技術開発領域エキスパートリーダーの上田哲郎氏、計測技術領域・エキスパートリーダーの大西孝一氏がスピーカーとして登壇。

日産の挑戦、自動車開発に用いられる先端技術、数々のゲームチェンジが起こる自動車開発の現場で働く醍醐味について、三者の視点で語った。

大西孝一氏【写真左】
日産自動車株式会社 計測技術領域 エキスパートリーダー

土井三浩氏【写真中央】
日産自動車株式会社 常務執行役員 アライアンスグローバルVP、総合研究所所長

上田哲郎氏【写真右】
データサイエンス/AI_高度AI技術開発領域エキスパートリーダー

CO2排出ゼロの車・ゼロの生産工程を実現し 「未来の移動」をデザインする

講演の冒頭でスピーカーを務めた土井氏は、「みらいの移動をかんがえる」というテーマで、自動車業界で今まさに起きているパラダイムシフトについて解説。

自動車メーカーはこれまで「一人でも多くの人に自動車を所有してもらうこと」を目的に車の製造・販売を行ってきたが、日産においては今後、「CO2を出さない車」「CO2を出さない生産」「新しい移動とまちづくり」の実現が事業成長のキーワードだと明かした。

「日産は世界に先駆けて量産型の電気自動車『リーフ』を発表しましたが、CO2を出さない車、CO2を出さない生産方法の確立は、われわれが引き続き注力している課題の一つです。

例えば、電気自動車のデータは、全てテレマティクスでデータセンターに送られています。このデータから、バッテリーの劣化スピードやライフサイクルでのCO2排出量を管理し、次世代のエコカー開発に生かしていくのです。そして、これらの膨大なデータがCO2を出さない車の製造にも役立てられていきます」(土井氏)

2021年末に発売される新型クロスオーバーEV『ARIYA(アリア)』。同車種は、日産が培ってきた電気自動車のノウハウと最新のコネクテッド技術を融合させたスタイリッシュで革新的なクロスオーバーEVとして注目を集める

さらに日産は、「複雑な生産ラインの制御」「CO2排出量のトラッキング」「デジタル技術を活用した新工法の確立」などに取り組み、生産工程におけるCO2排出ゼロの実現を目指す。

「今後、技術の発展とともに、CO2を一切排出しない画期的なプロセスが出てくるはず」と土井氏は自信をのぞかせる。

さらに、「新しい移動のカタチ」を模索する一手として、ゲーム・エンターテインメント事業などを手掛ける株式会社ディー・エヌ・エーと協業し、将来の無人運転車両による交通サービスを目指した『Easy Ride』を開始。さらに2021年9月からは株式会社NTTドコモと自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験を始めている。

地方自治体やその他の民間企業と協力しながら、街の交通全体をデザインする取り組みを各地で進めている。

「なぜ人は移動するのか。その本質を問い直すと、街はどうあるべきかという課題に行き着く。未来の街はどうあるべきか、その中で電気自動車はどのような存在になっているか、『車づくり』だけでなく、生活の中でとても重要な要素である『移動』をデザインするのがわれわれの仕事です」(土井氏)

AI、データサイエンスでかなえる「自動車のオールフリー化」

続いて「データと車」というテーマで講演を行ったのは、同社でデータサイエンスや高度AI技術開発領域のエキスパートリーダーを務める上田氏。

上田氏は現在、「自動車のオールフリー化」というビジョンの実現に向けて研究開発に取り組んでいる。

では、この「自動車のオールフリー化」とは一体何なのか。上田氏は「フリーには二つの意味がある」と解説する。


「フリーには『無い』という意味と、『自由』という意味がありますよね。例えば『無い』の方だと、先ほど土井の話でも出てきた通り『CO2排出ゼロ』。あとは、交通渋滞や交通事故を無くすという理想も実現したい未来です。

さらに、『自由』という意味では、エンジニアリングの面で設計の自由度が高まることやデザインの自由度が高まること、ドライバーがもっと自由なドライブを楽しめるようになることを追求していきたい。これらをひっくるめて、『自動車のオールフリー化』と呼んでいます」(上田氏)

また、この「自動車のオールフリー化」を実現するカギは、デジタル、IT、AI、データサイエンスだと上田氏は続ける。

自動車の走行性能に大きな影響を与えるエアロダイナミクス。かつてスーパーコンピューターで一つのモデリングを空力計算するのに24時間を要したが、AI技術の発展で現在は同じ計算がたった2秒で実現できるようになっている。推定性能はほぼ同じだが、時間性能は10万倍にもなる

「AI技術の進化は、自動車づくりのエンジニアリング、デザインに大きなインパクトを与えました。まさに『ゲームチェンジ』が起きていると言えます。これまでは技術力が及ばず実現しなかった理想も、今ようやくカタチにできる時が到来しているのです」(上田氏)

また、近年は生成系AIの発達も目覚ましい。2017年時点では、AIがデザインした車はまだどこかいびつさがあるものの、2020年にAIがデザインした車はまさにリアルな車体ばかりだ。

いずれもAIがデザインした車。左上部は2017年、右下部は2019年にデザイン。いずれもこの世には実在しない

「『かっこいい車』『ごつい車』などの言葉の誘導や、簡単なラフがあれば、AIが次々にリアルでなおかつそのメーカーらしい自動車のデザインを生み出すことができるようになりました。すると今後は、人間のデザイナーとAIの関係性にも新たなゲームチェンジが起こることになるでしょう」(上田氏)

AIやデータサイエンスを起点に、あらゆるゲームチェンジが次々に起きている自動車開発の現場を、「まさにフロンティアだと思う」と上田氏は表現する。


また、そのような現場で働くということは、「世界初」を連発できる可能性があること、「これからの100年」を決定付けるような仕事ができること、自由度の高い状況下で研究開発ができることを意味するという。

「この100年に一度とも言われる貴重な機会を、現場に身を置きぜひ体感してほしいです」(上田氏)


データサイエンスを駆使して生み出す、安心・安全な車

講演の最後に登壇したのは、車両実験部で開発に携わる大西氏だ。


大西氏は、「測る」というキーワードが日産の自動車開発で非常に重要な役割を持っていると語る。

「日産では、『測れないものは進化しない』と常々言ってきました。ProPILOT2.0(※)のような高度な技術を搭載した車を量産し、普及させることがわれわれに可能なのは、計測技術も大きく貢献していると思う。長い年月をかけて蓄積してきた膨大な車両や乗り手に関するデータを、全ての自動車づくりに生かしているのです」(大西氏)

(※)日産が開発した運転支援システム。世界で初めて、高速道路のナビ連動ルート走行と同一車線でのハンズオフ機能を同時に採用した

ProPILOT1.0搭載の日産の新車種『AURA(オーラ)』

続けて、ProPILOT2.0の開発に用いた実験技術を紹介した大西氏。

複雑な交通状況における車線変更動作の検証や、乗員の感覚に合った車両挙動の設定と検証など、安全を保証するためのありとあらゆる検証を重ねていることを明かした。

「例えば、複雑な交通環境の中で問題なく車線変更をすることができるか。いくつかのセンサーが機能しなくても大丈夫か。そして、動いたからいいというのではなく、車両挙動が乗員の感覚に合っているかなどを多くのことを検証していきます」(大西氏)

日産では長さ45メートル・幅15メートル・高さ10メートルにもなる大型のドライビングシミュレーターを保有。交通や車両の制御などを忠実に再現できるコンピューターシステムを構築し、安全な自動車開発をかなえるための実験に役立てている

テストコースでの実験をクリアしたら、ProPILOT2.0搭載の車を実際に高速道路で走らせ、さらにデータを集めて検証を重ねる。

高速道路走行の実験では、乗員の生体信号を取得して疲労度の変化を確認。生体信号は個人差が大きいため、相対評価を重ねるビックデータ処理を行う。


「データサイエンスを駆使することで、自動車・人・社会という複雑なシステムをよりよく変えていくことが可能になります。自動車という実際に存在する物体と、サイバー空間で行われるデータサイエンスが、目の前でつながる現場は非常に面白いですよ」(大西氏)

長い歴史を持つ自動車製造に成熟産業というイメージを持っている人は多いかもしれない。しかし、3人の話からは「まさにフロンティア」、真新しく自由な発想で取り組める開発の舞台が広がっているということだった。

わたしたちをあっと驚かせる「世界初」を次々に世に送り出してきた日産の今後にますます期待が高まる。

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取材・文/高田秀樹 栗原千明(編集部) 撮影/竹井俊晴

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