私がオイシックスを起業したのは2000年のこと。最初の4年間はとにかく経営が苦しく、思い描いていた像とはかけ離れた日々でした。マッキンゼーでコンサルタントをしていた時代はそれなりに実績も上げていたし、うまく経営もできると思っていたんですよ。でも現実は違った。全然売上は立たないし、そもそも野菜の仕入先も確保できない。ITバブルがはじけて資金も底を尽き、リーダーシップも取れず自信喪失。何もかもうまく行かず、溢れるほどのストレスを抱えていました。
しかし、はたと気付いたんです。まだ誰も成功していないことで成功したい、と起業を決め、ケモノ道さえない状態を好きこのんで選んだのは自分じゃないか。問題と直面し続ける人生を、誰かに強制されたわけでもなく、自ら選択しておきながら、うまく行かないと悩むなんて自分は本当に馬鹿じゃないのか、と(笑)。
起業の一番根源的な理由は、「社会を良くしている自分たちが好き」だから。「社会を良くしたい」と言うと何だかいい人っぽいですが、要は自分たちのエゴです。多くの人に喜ばれ、感謝されたら、とても気持ちが良いだろうな、というのが情熱の源泉なんですよ。だからこそ、枯れることがない。誰かが喜んでくれる限り、やりがいは途絶えません。少数であっても確実に喜んでくれている人がいれば、その手応えが適度な達成感となる。そして、もっと多くの人に喜んでもらいたい、まだまだ足りない、と次なるチャレンジの原動力になる。その繰り返しです。
私は起業当時から、「社会において自分は“何係”なのか?」と自分に問い続けてきました。2011年3月の東日本大震災をきっかけに、その答えが一つ見えた気がしています。自分は“やる係”なんだと。
震災直後、私たちは食品の安心・安全を保障する目的で、食品流通業としておそらく日本で最も早く放射性物質検査を始めました。当時は賛否両論あり、物議を醸しましたが、その後、スタンダードな取り組みとして定着しました。このことを通じて、自分は頭脳戦で議論を深めていく係ではなく、先陣切ってまずやる係なのだと改めて思いました。やってみて初めて何かを見いだし、周りを巻き込む力を得られる。だからこそ、私は“やる力”をもっと磨かねばならない、と腹落ちしたのです。
私は何事も緻密にプランニングするのは苦手です。だから、“行き当たりばったり力”を高めていきたいんですよ。本業に関わる分野で一般社団法人を設立したり、経済同友会の東京オリンピック・パラリンピック2020委員会の委員長を務めたり、いろいろな活動に参加していますが、どれも全力で取り組んでいます。すると、縁があってたまたまやっていたことから、思いもよらぬチャンスや道が拓けてくることもある。
人生はよく登山に例えられます。山頂にたどり着くのが目的で、山を登るのはそのための手段だと。でも起業から17年目を迎えた今、私が実感しているのはその逆です。坂道を上ることそのものが目的で、そのための手段としてあえてゴールを設定するのだと考えるようになりました。
私は坂道を夢中で上り続けていたい。しかも通ったことのある道ではダメです。チャレンジングな道でないとパフォーマンスが落ちます。歯を食いしばって一心に上ってこそ面白い。そういう「夢中時間」率の高い人生を過ごしていきたいのです。
数々の失敗を重ね、私は随分と偏りのある人間なのだと自覚しました。昔は自分は結構何でもデキると思い込んでいましたが(笑)、自分よりも優れた人は大勢いる。苦手なことを人並みにする努力より、やや得意なことをもっと伸ばす方がいい。弱点を補い合える仲間と、強いチームをつくっていきたいと思います。
オイシックスは2017年10月より大地を守る会と経営統合し、オイシックスドット大地と名前を変え、新たなスタートを切りました。もともと競合他社ではなく“同業他社”として交流を続けてきた相手です。「いつかは結婚するかも」と思いながら一緒にいて、今まさに決断をしたという感じでしょうか(笑)。
安心・安全でおいしい食品を提供するビジネスモデルは、これまで意識の高い一部のユーザーを対象とするニッチ市場と言われてきました。が、安心・安全な食がニッチな社会はおかしいと思います。両社が力を合わせ、より多くのユーザーにサービスを提供していく必要がある。大きなインパクトをもってマーケットを拡大していくことが使命であり、大いなる挑戦だと捉えています。
社会を良くするために、私たちがワンチームとなることは必然でした。オイシックスドット大地の創業1年目は幕を開けたばかり。これからの新たな山登りが楽しみでなりません。
※2017年11月1日発売のtype就活プレミアム・マガジンの情報を転載しています。記事内の情報は取材当時のものです。