2023/11/10 更新 グローバルリーダー達はどのように育ったのか P&Gが描く成長戦略とは

人材輩出企業・P&Gジャパンの思想
「ブランドや資産がなくなっても、社員さえいれば全て元通りにできる」

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テクノロジーの進化や社会の変化に伴い、時代が求めるリーダー像も変わっていく。

そのような中、P&Gジャパン(以下、P&G)では昔も今も変わらず世界で活躍するプロフェッショナルが数多く誕生している。

その鍵を握る同社の人材戦略とは?

一人一人のポテンシャルを引き出し、多様なキャリア形成を支援する風土や仕組みについて、人事戦略本部 シニアディレクターの市川薫氏に聞く。

P&Gジャパン合同会社
人事戦略本部 シニアディレクター
市川薫氏
1997年P&G営業統括本部入社。小売店・卸店営業担当、カテゴリー担当営業企画、店頭販促支援チームリーダーのほか、スイス・ジュネーブ赴任などセールスとして幅広い経験を積む。現在はセールス部門の人事責任者を務めるとともに、経営層によるEquality & Inclusion リーダーチームの一員としてインクルーシブな職場づくりに尽力している

※社名、所属部署名、および役職名については取材当時のものです。

制度と文化の両面からプロフェッショナル人材の育成を推進

——P&Gは人材輩出企業として知られています。まずは人材に対する考え方についてお聞かせください。

P&Gでは、人材こそが最も重要な資産であると考えています。

「われわれの持っているお金、ブランド、資産がなくなっても、社員さえいれば、10年で全てを元通りに再建できる」

1950年頃にアメリカ本社の会長が言ったこの言葉は、今でも受け継がれているのです。

——具体的には、どのような人材戦略を描いているのでしょうか。

大きく二つの特徴を挙げることができるでしょう。

一つは職種別採用です。P&Gでは専門性の高いプロフェッショナルな人材を育成することを重要視しています。

この考え方に基づき、当社では職種別採用制度を運用しており、事前に職種内容を明確にし、本人が納得した上で応募いただくかたちを取っています。入社後はブランドやマーケットなど、担当領域などを変えながら、その道のプロフェッショナルとしてキャリアアップを目指していただきます。

P&Gジャパンでは50年前から職種別のキャリア形成を支援してきました。早い時期から主体的にキャリアを築いていきたい、自分の専門性を確立してプロフェッショナルを目指したいという人にとって、成長できる環境が整っているということです。

——多様な人材が各分野のプロフェッショナルとして活躍していくために、具体的にはどのような環境を整備しているのでしょうか。

制度と企業文化の両面から環境を整えています。

制度面で象徴的なものは、内部昇進制です。一般に外資系企業は人の入れ替わりが激しいと言われており、ある日突然、外からやってきた人が上司になるなどという話も聞きます。

しかしP&Gでは、将来のリーダーを社内で育成するのがグローバル共通の原則です。

もちろん中途入社の人もたくさんいますが、どれだけキャリアがある人でも最初は新卒入社者と同じ職位からスタートし、いきなり部下を持つポジションに就くことは基本的にはありません。

また、当社の社内トレーニングのほとんどは内製であり、講師を務めるのも管理職以上か専門知識を持つ社員です。マーケティングであろうとファイナンスであろうと営業であろうと、管理職になったら何かしらの研修の講師として、将来のリーダーを育成することが人事評価として組み込まれています。

社内講師だからこそ、教科書的な知識の伝達に終わらず、生身の経験に基づいた豊かな知見を伝えることができると考えています。トレーニングが終わって通常の業務に戻ってからも、身近に講師陣がいる分、行動変容につながりやすいのです。

——企業文化の面ではどうでしょうか。

個人を尊重し、能力を最大限に発揮してもらうことを重視しています。それを表すのが、三つの言葉です。

一つ目は、「Feedback is a gift」。「フィードバックは大切な贈りものである」という考え方で、社内でとても使われます。

フィードバックは必ずしもネガティブな指摘ばかりではなく、また上司が部下に送るものとも限りません。その人の成長のために、部門や役職を超えて、お互いにフィードバックをし合うカルチャーがあります。

だから面談の場だけでなく、日常的に「さっきのミーティングの進め方よかったよ」などと声を掛ける。そうやってフィードバックをすることによって、その人の成長の助けになればという思いが根底にあるのです。

二つ目の「Share and Reapply」もよく使われる言葉です。

これは自分が得た学びや発見はどんどん周りの人に共有していこう、また他者の経験や学びを取り入れようという、互いに伝え学び合う考え方。

業務の学びを自分のものとして属人化するのではなく、互いに共有し学び合うことを通じて、チームや組織全体としてより良い結果を出そうというものです。

例えば、「新製品の商談で、こういうアプローチをしたらうまくいった」という報告をセールスが社内ネットワークに公開すると、それが全社に広がり、他のセールスも自分のクライアントに対して同じようにアプローチをする。

そうやって自分の成功体験が日本のみならずグローバルに横展開されることが日常的に起きています。また、社長から「Great!」と直接フィードバックを受けることもあり、そういったこともやりがいや喜びにもつながっています。

そして三つ目は「Learn from Failure」。「失敗から学ぶ」という意識が浸透しています。

P&Gでは、将来のリーダーを育てていくために、Day1(入社1日目)から裁量権を与えますが、会社からすれば、経験の浅い人に仕事を任せるのはそれなりのリスクを伴います。

ただ、たとえうまくいかないことがあっても、「どうすればいいか」を真剣に考えて行動することによって成長スピードは加速されるというのが当社の考え方です。

それに、経験が浅いがゆえに先入観を持っていないのは若い人の強み。そのアドバンテージを生かして変革につなげていくことを期待しています。

このような考え方に基づき、新入社員として入社した時から大きな裁量権を与え、プロジェクトやビジネスをリードすることを任せています。

多様性を尊重するのは、ビジネス戦略の一つ

——もう一つの人材戦略の大きな特徴は何でしょう?

多様性です。ダイバーシティやインクルージョンという言葉は盛んに使われるようになりましたが、当社としても非常に重要なキーワードと考えています。

強調したいのは、P&Gにとって多様性を尊重するのは、ビジネス戦略であるということ。

家族の形態やライフスタイル、個々の価値観も多様化する今、全世界の何十億人もの消費者を相手に、生活に根ざした日用品を提供していくには、多様な個性や価値観を持った社員の存在が不可欠です。

P&Gは、一人一人の違いがもたらす力、そして価値観や目的を共有して団結したときにできる強い絆がもたらす力を信じ、「平等な機会とインクルーシブな世界の実現(Equality & Inclusion)」を経営戦略として掲げています。

そうした想いのもと、例えば過去にはヘアケアブランド『パンテーン』が「#HairWeGo」のスローガンを掲げ、150社近い賛同企業とともに、「画一的な就活ヘアから自由になろう」というキャンペーンを展開するなど、社会課題への問題提起を行ってきました。

また私たち自身が多様性を体現する会社であるために、例えば柔軟な働き方を可能とする制度運営を通じて多様な働き方を可能にするなど、多様な人が活躍できる環境・カルチャー作りを行っています。

どれだけ経験を積んでも、挑戦する場は尽きることがない

——P&Gが求める人物像について教えてください。

大切にしている要素は「リーダーシップ」「オーナーシップ」「グロースマインドセット」。

まず、私たちが考えるリーダーシップとは、高い目標に向かって物事を引っ張る力、クリアなビジョンを掲げ、周囲を巻き込み、一人一人の強みを生かして実現する力を指します。「学生時代に何百人規模のサークルの会長をしていた」など、カリスマのように人を率いるリーダー像とは異なります。

オーナーシップは、主体性を持って積極的に課題に取り組む姿勢のこと。Day1から大きな裁量権を与えられるからこそ、「自分が責任をもって取り組んでいくんだ」という意識を持ち、主体的に考え行動することが非常に大切です。

そして、グロースマインドセットとは、自分の限界を決めつけず、「自分次第でもっと向上できる」という姿勢です。

主体的に学び、挑戦し続けることによって、ずっと成長し続けることができる。

これは若い人に限った話ではなく、管理職や経営者も同じです。P&Gでは社長になってもトレーニングがありますし、役職に関係なくフィードバックを受けていますから。

——P&Gに入社したらどのようなものが得られるか、最後に就活生の皆さんにメッセージをお願いします。

P&Gは最も重要な資産である人への投資を惜しまない会社です。

充実した育成システムが整っており、個人を尊重する企業文化が浸透していますから、本人次第で圧倒的に早いスピードで成長できるはずです。

グローバルな活躍のステージも広がっているので、どんどん挑戦していくことによって、誰もが世界に通用するプロフェッショナルを目指していけると思います。

そして、どれだけ経験を積んでも、挑戦する場は尽きることがありません。

私自身も新卒で当社に入社してから20数年がたち、長く営業の仕事をしていましたが、その中でもさまざまな業務を担当し、海外赴任も経験しました。数年前に人事の仕事に移り、まだまだ新たに学ぶことがたくさんあります。

主体的に成長のチャンスを掴むには、会社との相性も重要です。

自分の価値観と合致する会社であれば、納得して仕事をすることができ、主体性を持って働くことができます。それによって成長スピードも増しますから、就活生の皆さんには、ぜひ自分に合った会社を見つけてほしいと思います。

自分が本当に大切にしたいものはなにか、それに対して会社はどんなポリシーを重視しているのか。しっかりと見極めて、自分にとってベストな選択をしてください。


取材・文/瀬戸友子 撮影/吉永和久 編集/天野夏海

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