2017/11/1 更新 トップの決断

【ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント代表取締役社長/桐谷重毅氏】クライアントファーストを掲げ、長期的な視点で商品を開発する

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トップの決断
ビジネス環境の変化に柔軟に対応し、エクセレントカンパニーとして名を馳せる企業各社の経営トップインタビュー。逆境または好機のタイミングにどんな経営判断を下し、成長を続けてきたのか? その打ち手の数々から、各社が大事にする価値観、行動理念を探ってみよう。

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社
代表取締役社長
桐谷重毅氏

徹底した顧客志向と意思統一が事業の成長を加速する

 私は、もともとゴールドマン・サックス証券でマーチャント・バンキング部門の責任者を務めていました。2011年にゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(以下、GSAM)の社長に就任した当時の状況を振り返ってみると、08年に起こったリーマンショックの打撃からグループ全体が立ち直り始めていた頃でした。

 GSAMが担当するアセットマネジメント(顧客資産の管理・運用)事業も、苦境の中にありながらも復活の糸口を模索していました。リーマンショック以降、自己投資から利益を得るトレーディング・ビジネスだけでなく、顧客へサービスを提供する対価として報酬を受け取るフィー・ビジネスへの戦略的な収益構造の構築がグローバル規模で進む中で、日本だけが停滞しているわけにはいきません。

 当時の私の使命は、低迷する国内のアセットマネジメント事業をいかに成長させるか、その一点に集約されているといっても過言ではありませんでした。

長年にわたる経験と実績を信頼醸成の糧に

 日本に進出する外資系企業に共通する課題があるとするなら、それはおそらく、物理的距離がもたらす時間と言葉の壁、つまりコミュニケーション不足に起因する課題だと思います。

 当時のGSAMも、米国本社と日本法人との間には、信頼関係を醸成するという課題が横たわっていました。投資部門から経験のないアセットマネジメント部門に移ってきたばかりの私にとって、この課題を乗り越えるのは容易なことではありませんでした。

 しかし私には1つ強みがありました。それは良い時も悪い時もゴールドマン・サックスで懸命に働き、数々の苦難を乗り越えた経験があること。

 外資系金融機関というと、いわゆるスター人材ばかりが評価されるのではないかというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ゴールドマン・サックスはそうではありません。チームワークを重視し、長きにわたってパフォーマンスを発揮する人材を評価する会社です。さらに個人の実績や仕事の評判が部門や国境を越え、信用の裏付けとなってくれる会社でもあります。

 私はこれまでに培った個人的な信用をベースに、自分のメンバーやチーム、部門、法人全体へと、信頼を広げることで、米国本社との間にあったギャップを埋め、グローバルとの一体感を高めていきました。それが今日のアセットマネジメント事業の成長につながっているのだと思います。

アセットマネジメントこそ金融業界における成長分野

 今、日本社会は少子高齢化による労働力減少という未曾有の危機に直面しています。むろん金融業界もそうした問題と無縁であるはずもなく、危機感を共有していますが、ことアセットマネジメント領域においては、こうした問題がかえってビジネスの追い風になることをご存じでしょうか。

 日本における家計の金融資産はおよそ1800兆円、企業の金融資産は約1100兆円に上るといわれています。しかし日本では資産に占める現金や預金の割合が高く、投資に回せる余地はまだまだ広がっています。しかも今後、若い労働人口の減少がより顕著になってくれば、投資によって資産を増やす、つまり「お金に働いてもらう」ことなしに、国力の維持はかないません。だからこそアセットマネジメント領域は金融業界における成長分野であり、少子高齢化は追い風になると言われるのです。

 しかしこれまで日本市場では、投資効率を最大化する上で、必ずしもベストとは言えない金融商品が横行していました。見た目の分配率は高いけれども元本からの払い出しを伴う商品がはやるなど、グローバルな観点から見るとかなり特異なトレンドがありました。

 しかし我々は、どんなに市況が厳しくても、一時の流行に左右されることなく、20年、30年と着実に資産を増やせる商品を提供することが王道と考え、2016年から、より一層この方針を強く打ち出すようになりました。これこそフィデューシャリー・デューティーの徹底(受託者が顧客の利益にかなう商品を提供する責務)であり、世界の金融市場で経験を積んだ我々の責務でもあるからです。

 これからの社会を担う若者に1つアドバイスをするなら、それは成長業界で働くことの重要性を知っていただきたいということ。縮みゆく業界を選択し成長を遂げようとすると、志を同じくする仲間がいても仕事を取り合わないといけません。しかし、アセットマネジメント市場は年々確実に成長しており、そうした心配は不要です。金融業界で成長したい、新しいスタンダードをこの手で生み出したいという大志を抱く若者にとって、刺激的な環境が提供できると考えています。

PROFILE
きりたに・しげき/1985年、京都大学法学部卒業後、大和証券(現・大和証券グループ本社)に入社。国内営業部門、海外子会社、人材部門などを経て、90年にカリフォルニア大学バークレー校経営大学院へ留学し、MBAを取得。92年に帰国し、総合企画室課長代理、日本証券経済研究所ニューヨーク事務所のシニア・アナリスト(アメリカ大和証券からの出向)、アメリカ大和証券コマーシャル・モーゲージ部課長を務め、98年にゴールドマン・サックス証券入社。戦略投資部、マーチャント・バンキング部門責任者などを経て、2011年から現職

【会社の沿革DIGEST】

●1998年 日本で資産運用業務を開始
ゴールドマン・サックスが日本で資産運用業務を展開するため1998年設立。2002年に現社名へ
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●2011年 信頼関係を構築し成長
リーマンショック後、桐谷氏がGSAM社長に就任。NY本社との信頼関係を深め、収益拡大に貢献
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●2016年 顧客第一を徹底し商品を選定
フィデューシャリー・デューティーの徹底を進め、顧客の利益にかなう金融商品の提供に力を入れる

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