2026/10/31 更新 「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を

「To Do」ではなく自分の「WILL」に従う 物事の起点を生み出す力こそが人間の武器

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変化を味方に付けてきた先駆者5人が出す答え

「選ばれる準備」より「生き抜く装備」を

AIが人間の能力を代替し、昨日までの正解が瞬く間に塗り替えられる時代。これから社会に出る学生に必要なのは、特定の企業や仕事でしか通用しないスキルではない。環境がどれほど変わっても、自ら考え、選び、自分の足で歩き続けるための「生き抜く装備」だ。激動の時代を切り開き、代わりの利かない価値を証明し続けてきたビジネスリーダーたちに、変化に翻弄されず、自らのキャリアの手綱を握り続けるための備えを聞いた。

佐藤可士和氏のプロフィール画像

クリエイティブディレクター

佐藤 可士和 氏

1965年生まれ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科卒業後、博報堂に入社。2000年に独立し、SAMURAIを設立。ユニクロ、楽天、セブンイレブンなど日本を代表する企業のブランディングを多数手掛ける

「To Do」ではなく自分の「WILL」に従う
物事の起点を生み出す力こそが人間の武器

どんなにAIが進化しても、全てのビジネスパーソンが絶対に持っておかなければいけないもの。それは「何がしたいのか」という自分の意思、つまり「WILL」です。なぜなら、AIは意思や欲望を持たないから。仮に持ったとしても、それは人間がプログラミングしたに過ぎません。

これまでは物事を実現するために何をすべきかを考え、実行に移す力が必要でした。しかし、これからはその「ToDo」の部分はAIでも考えられる。そもそもの指示を出すのは人間の役目であり、そこには人間の意思がある。「WILL」こそが物事を生み出す起点であり、原動力になるのです。

とはいえ、自分が何をしたいか、「WILL」をはっきり言える人はそう多くありません。そのとき大事なのは「したいこと」を考えるのではなく、「自分はどんな感覚が最も好きなのか」に目を向けることです。例えば、サッカーがしたい。絵が描きたい。そうした「したいこと」だけを考えていると、それを取り上げられてしまったら何もできなくなってしまいます。仮にサッカーがしたいのなら、試合に勝つのが好きなのか、コツコツと練習をしている時間が好きなのか、チームで何かを成し遂げることが好きなのか。自分はどのフィーリングのときに満たされていると感じるのかを細分化することで、自分の本当の意思が見えてくるでしょう。

僕のWILLは「新しい意味を設計すること」です。今までにない新しい考え、価値観に触れた時に心の底から感動する。ただ、そんなに感動できるほど新しいことは世の中にそう多くありませんから、自分の手でつくるしかないと思い、クリエイターという生業を選びました。

今までの価値観を一変させるようなイノベーションを起こすことが、僕の追求する「新しい意味の設計」です。例えば、もう20年もの間クリエイティブディレクターを務めさせていただいているユニクロで『LifeWear』というブランドコンセプトが誕生したのも、その一つ。日本発のカジュアルウェアブランドを簡潔な言葉で表現する中で、ユニクロとはどういうブランドなのか。ただのカジュアルウェアでもなければコモディティーでもない。ユニクロがつくっているものの本質は何なのか。ユニクロ代表の柳井(正)社長と何度も話し合う中で、『LifeWear』という言葉が出てきた時、ユニクロが持つ「究極の普段着」をブランド化する新しい意味をつくることができたと思いました。

僕はこの仕事を始めて37年になりますが、単にロゴなどのビジュアルをデザインするのではなく、社会に向けて新しい意味を設計することそのものが「WILL」だったからこそ、ブレずに仕事を続けてこられたのです。

身体知は、AIに代替されない人間だけの能力
直感によるひらめきが、世の中の常識を変えていく

もう一つ、人間が当たり前に持っていて、AIが持つことのできないものがあります。それが、身体性です。自分の身体を通じて得られる感覚、つまり「身体知」こそが、AI時代に僕たち人間が大切にしていく感覚ではないでしょうか。

例えば「腑に落ちる」とか「腹の虫」「腹落ちする」といった、脳で考えるのではなく内臓で感じることを形容する言葉があるように、昔から人の感覚は身体に結び付けられていました。ただ、こうした身体知は個人的な直感と見なされ、ビジネスの世界においては信頼性を獲得することが難しかった。だからこそ、多くのビジネスパーソンは論理的分析力やそれらを言語化する力をトレーニングしてきたわけです。でもむしろこれからは従来の左脳型の解決能力より、右脳型の直感からくるひらめきこそが、AIには到達できない斬新で革命的な解決策を生み出す力になると思います。

この身体知を磨くには、とにかく自分の肌でいろいろなものを感じるしかありません。そのために、若いときに常識や自分の価値観を根本から覆されるような、理屈抜きの感動や衝撃を体験しておくことが大切です。

僕の場合は、フランスの美術家であるマルセル・デュシャンとの出会いがそうでした。美大への進学を考えていた高校2年生の時、男性用の便器に『泉』というタイトルを付けて美術展で発表したデュシャンのことを知って、衝撃を受けました。なぜならそれまでの僕は、アートとは絵画や彫刻のように、自らの手でゼロから何かをつくり出すことだと思い込んでいたからです。しかしデュシャンは、すでに存在する既製品(レディメイド)に自ら手を加えることなく、タイトルを付け、鑑賞の場に置くことで「作品」に変えてしまいました。手で物をつくるのではなく、「問いや概念を提示することこそがアートである」という彼のレディメイドの思考に出会い、僕は「前提を疑う」ということを知ったのです。

多くの人は既存のシステムの枠組みの中で物事を見てしまいますが、重要なのはシステムの外側から見ること。世の中が当たり前だと思っていることに対し、「本当にそうなのだろうか」と疑ってみる。疑った上で正しければそれでいいし、もしやっぱりおかしいと感じたなら、その違和感こそが新しい概念を生み出す切り口になる。僕はそうやって、システムの外側に視点を持つことを常に心掛けています。特に近年はSNSや広告のアルゴリズムによって、自分と同じ意見や価値観を持った人の声ばかり目に触れるようになっている。そんな時代だからこそ、既存のシステムから飛び出し、あえて一歩引いた視点から物事を見ることを強くおすすめします。

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自分の五感を研ぎ澄まして
身体知から生まれる「WILL」に気付こう

AIはとても便利です。クリエイティブの領域に限らず、ビジネスにおいてもAIを否定する必要はありませんし、どんどん上手に活用していけばいい。ただし、AIが提示するものは、あくまでデータの組み合わせに過ぎません。そして、その組み合わせは何らかの秩序によって成立しています。でも、人間の身体知はそんな決められた秩序から大きく外れた、皮膚感覚によっていろんなものを感じ取っている。そして、世の中の常識をひっくり返すひらめきというのは、そういった身体知から生まれてくるものです。

だから、まずは自分の五感を研ぎ澄ましてみてください。自分は何がしたいのか、心の声に耳を傾けてみてください。そうして、体の奥から湧き上がる「WILL」の正体に気付くことが、長いキャリアの出発点となるはずです。

システムの外側に視点を持ちながら
脳ではなく「内臓」で衝撃を感じよう

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もし私が28卒の学生だったら

おそらく就職活動はせずに、最初から起業する道を選びますね。僕は大学卒業後、就職した時からいつかはクリエイターとして独立するつもりで働いていました。ただ、当時は今ほど新卒で起業するというルートが一般的ではありませんでしたし、何よりそれだけの人脈や実績を学生時代のうちに築くことが難しかった。結果、博報堂に入ったことでたくさんの面白いプロジェクト、優秀な先輩方や素晴らしいクライアントに出会えましたし、一人では成し遂げられなかった仕事もできたので、自分の選択は大変良かったと思っていますが、今のこの時代なら就職活動よりも迷わず起業です。

なぜなら、今は当時に比べ制作環境も劇的に変わりましたし、WebやSNSをはじめ自己発信できるメディアもそろっています。学生も社会人も関係なく、自分のクリエイティブを世界中の人たちに見てもらえる場があり、認めてもらえるチャンスがある。これを活かさない手はないですよね。

僕なら学生時代の間から作品をバンバン作り、SNSで発表して活動します。そして起業し、やりたいことを実現していく。就職するという前提を疑ってみることも、自分の可能性を広げるチャンスだと思います。

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