これからのビジネストレンドから探る
「働く」と「成長」の新常識
グロービス・デジタル・プラットフォーム
マネジング・ディレクター
埼玉大学教育学部卒業後、サイバーエージェントに入社。その後、ビルコムの創業に携わる。グロービス参画後は、現職と並行し『GLOBIS 学び放題』の事業リーダーも務める
AIに思考と創造性が代替されても
ビジネスの原理原則は変わらない
従来、テクノロジーの進化とは効率化を追求するためのものが中心でした。しかし生成AIの誕生によって、思考や創造性の一部をテクノロジーが代替するようになりつつあります。これまで人間が行ってきた「考えるプロセス」を初めて人間以外が担うようになる。これは大きな転換点です。生成AIをはじめ、新しいテクノロジーの社会実装に向き合う必要があります。
これからの10年で、ほぼ全ての産業や職種が変化すると言えるでしょう。注目すべきは、仕事に求められる特性。反復作業や情報収集、プロセス通りの正確さが求められる作業は機械化されていくと考えられます。一方、創造的な作業や集めた情報の解釈、問題を自分で設定し、解決する仕事の全てが代替されることはありません。また、AIはロジックを立てるのは得意ですが、相手の考えを想像することは苦手。接客業など、人の気持ちをくみ取る仕事の重要性は増していきそうです。
大きな変革が起こるとはいえ、根底にあるビジネスの原理原則は変わりません。顧客の課題を解決するサービスを届け、喜んでもらい、収益モデルを作る。私たちが働く意味は、変わりゆく世の中においても不変なのです。
あらゆる業界・業種で進む
生成AIの利活用
今後は業界を問わず、多様なサービスに生成AIが実装されていく。それによってこれまでにない規模での業務改革が起きるとともに、新たなビジネスが生まれる時代が訪れる。生成AIは新しいテクノロジーだからこそ、若手人材が活用する場合でも社会人歴の浅さがディスアドバンテージにならない。アイデア次第で誰にでもチャンスがある
企業の姿勢が問われる
サステナビリティーへの理解
近年、各国がグリーントランスフォーメーションに投資し、産業が立ち上がりつつある。今はまだ局所的だが、この先は全ての企業で、サステナビリティーを理解したビジネスを行う必要性が高まっていくだろう。すでに投資家は環境・社会・ガバナンスの観点で企業を評価するようになっており、サステナビリティーへの姿勢が資金と優秀な人材を集めることにも直結し始めている
テクノロジーで可能性が広がる
ウェルネス・ヘルスケア分野
「自分らしく生きたい」という人々の欲求が強まる中、それに付随して健康への意識が社会全体で高まっている。一般に普及しつつあるウェアラブルデバイスによってヘルスケアデータの取得が可能になったことで、新しいサービスも続々誕生。テクノロジーの進化により取得できるデータ数や処理能力が高まると考えれば、ウェルネス・ヘルスケア分野の盛り上がりは今後も続くだろう
社会全体にインパクトをもたらす
自動運転の実用化
物流や公共交通機関を自動運転に切り替えるには、町そのものを再開発する必要があり、そこにはあらゆる業界・業種が関連する。よって、自動運転が実用化されれば、自動車業界のみならず社会全体に大きな変化が訪れるだろう。社会的なニーズと自動運転技術を掛け合わせることで、移動しながら楽しめるエンタメサービスなど、全く新しいビジネスを創出するチャンスも豊富にある
サイバーセキュリティーが
全社会人の必須科目へ
生成AIや自動運転など、テクノロジーをベースとしたあらゆるサービスの根幹にあるのは膨大なデータ。重大な個人情報を含むデータを会社が扱うにあたり、情報流出やサイバー攻撃に対するセキュリティーの重要性が高まっている。専門家であるセキュリティーエンジニアの需要が増していくのはもちろん、セキュリティーの基本的な理解は全社会人にとって必須要件となりそうだ
予測可能性の低い社会で
成長し続けるための二つの習慣とは?
成長し続けるための二つの習慣とは?
右の図は2015年に求められていた能力と、2050年に求められると予測されている能力を比較したものです。大きな違いは、予測可能性の有無。2015年は、オペレーションが変わらない前提でミスなく業務を回すことが重要であり、情報を集めて上司に判断を仰ぐなど、集団の「らしさ」に沿う振る舞いが求められていました。片や2050年の世界は、変化のスピードが速く、その都度求められるものも変わっていきます。つまり、物事の正解が分からないことが前提となるのです。
そこで必要とされるのが、問いの設定力と、決める力、そしてリーダーシップです。AIのアイデアがどれだけ良くても、それに従いたいと思うかどうかは別の話。思考の一部がAIに代替されるからこそ、起点となる問いを自ら設定し、AIの提案を参照しつつ意思決定することが大切です。また、その決定にリスクが伴う場合であればあるほど、人々の行動を促せるリーダーの重要性が増します。「この人ならやり切るだろう」という期待が持てるリーダーに人は付いていくもの。そのためには、ブレない姿勢の軸となる「自分らしさ」も必要となっていくでしょう。これまでイノベーションは一部の天才が起こすものと捉えられがちでしたが、個人の「らしさ」から出てくるクリエーティビティーからもイノベーションは生まれていくはずです。
「自分らしさ」を見つける鍵は
学びと、リスクを取った挑戦にある
自分らしさとは何か。どう見つければいいのか。その解は外ではなく、自分の内側にあります。過去を棚卸しし、感情が動いた出来事をラベリングして整理をするなど、とことん自分と向き合う覚悟が問われるのです。
また、自分らしさを養いつつ成長を続けるためには、二つの習慣を付けることが重要になります。一つ目が、「学び続ける」こと。2050年に求められる能力はあくまで予測です。正解がない世の中だからこそ、その時々の状況に応じて学ぶべきことを見極めなければなりません。何事にも好奇心を持って、新しいものは積極的に使ってみる。そうやって毎日インプットの時間を確保していきたいものですね。
もう一つ習慣にしてほしいのは、「否定されるかもしれないリスクを取ってでも、意見を言う」というチャレンジです。否定されるのはしんどいですが、フィードバックをもらえれば再考できます。勇気を持って意見をぶつけることを繰り返せば、考えはどんどんブラッシュアップされていく。そうやって考えるサイクルを回すことをお勧めします。何より、強い思いを持って「こうしたい」と言い続けている人のことは、周囲も応援したくなるもの。自分と向き合い、考えを人に伝え、そこで得られたフィードバックを基にまた考え……と繰り返すうちに、自分の中にある軸にも気が付くのだと思います。
今後、働くことと生きることはどんどん密接になっていくでしょう。会社から言われた通りに働く時代ではなくなった今、自分の物差しで物事を判断する力が求められます。これは見方を変えると、若い方にとって大きなチャンスです。変化を前提にキャリアを築くことができるので、従来のように「〇年間はこの経験を積まなければいけない」といった順番待ちをしなくていい。時代の変化を捉えて学び続け、自分で物事を判断し、納得して行動することで、自分らしく成長していけるのです。