2024/4/10 更新

これからのビジネストレンドから探る
「働く」「成長」新常識

新しいテクノロジーの台頭により、ビジネストレンドや社会人に求められるスキルはどう変わるのか? 社会人向けにビジネススクールなどを運営するグロービスの鳥潟幸志氏に聞いた。
取材・文/天野夏海 撮影/吉永和久 イラスト/石山好宏
  • インターン
  • キャリア
  • グロービス
  • ビジネス
  • 生成AI
グロービスグロービス・デジタル・プラットフォームマネジング・ディレクター 鳥潟幸志氏
グロービス
グロービス・デジタル・プラットフォーム
マネジング・ディレクター
鳥潟幸志

埼玉大学教育学部卒業後、サイバーエージェントに入社。その後、ビルコムの創業に携わる。グロービス参画後は、現職と並行し『GLOBIS 学び放題』の事業リーダーも務める

AIに思考と創造性が代替されても
ビジネスの原理原則は変わらない

従来、テクノロジーの進化とは効率化を追求するためのものが中心でした。しかし生成AIの誕生によって、思考や創造性の一部をテクノロジーが代替するようになりつつあります。これまで人間が行ってきた「考えるプロセス」を初めて人間以外が担うようになる。これは大きな転換点です。生成AIをはじめ、新しいテクノロジーの社会実装に向き合う必要があります。

これからの10年で、ほぼ全ての産業や職種が変化すると言えるでしょう。注目すべきは、仕事に求められる特性。反復作業や情報収集、プロセス通りの正確さが求められる作業は機械化されていくと考えられます。一方、創造的な作業や集めた情報の解釈、問題を自分で設定し、解決する仕事の全てが代替されることはありません。また、AIはロジックを立てるのは得意ですが、相手の考えを想像することは苦手。接客業など、人の気持ちをくみ取る仕事の重要性は増していきそうです。

大きな変革が起こるとはいえ、根底にあるビジネスの原理原則は変わりません。顧客の課題を解決するサービスを届け、喜んでもらい、収益モデルを作る。私たちが働く意味は、変わりゆく世の中においても不変なのです。

予測可能性の低い社会で
成長し続けるための二つの習慣とは?

仕事に必要な能力に対する需要の変化の表
各職種で求められるスキル・能力の需要度を表す係数は、56項目の平均が1.0、標準偏差が0.1になるように調整している。
(出所)2015年は労働政策研究・研修機構「職務構造に関する研究II」、2050年は同研究に加えて、World Economic Forum “The future of jobs report 2020”,Hasan Bakhshi et al.,“The future of skills: Employment in 2030”等を基に、経済産業省が能力等の需要の伸びを推計。
(出典)未来人材ビジョン「56の能力等に対する需要」(経済産業省)

右の図は2015年に求められていた能力と、2050年に求められると予測されている能力を比較したものです。大きな違いは、予測可能性の有無。2015年は、オペレーションが変わらない前提でミスなく業務を回すことが重要であり、情報を集めて上司に判断を仰ぐなど、集団の「らしさ」に沿う振る舞いが求められていました。片や2050年の世界は、変化のスピードが速く、その都度求められるものも変わっていきます。つまり、物事の正解が分からないことが前提となるのです。

そこで必要とされるのが、問いの設定力と、決める力、そしてリーダーシップです。AIのアイデアがどれだけ良くても、それに従いたいと思うかどうかは別の話。思考の一部がAIに代替されるからこそ、起点となる問いを自ら設定し、AIの提案を参照しつつ意思決定することが大切です。また、その決定にリスクが伴う場合であればあるほど、人々の行動を促せるリーダーの重要性が増します。「この人ならやり切るだろう」という期待が持てるリーダーに人は付いていくもの。そのためには、ブレない姿勢の軸となる「自分らしさ」も必要となっていくでしょう。これまでイノベーションは一部の天才が起こすものと捉えられがちでしたが、個人の「らしさ」から出てくるクリエーティビティーからもイノベーションは生まれていくはずです。

「自分らしさ」を見つける鍵は
学びと、リスクを取った挑戦にある

自分らしさとは何か。どう見つければいいのか。その解は外ではなく、自分の内側にあります。過去を棚卸しし、感情が動いた出来事をラベリングして整理をするなど、とことん自分と向き合う覚悟が問われるのです。

また、自分らしさを養いつつ成長を続けるためには、二つの習慣を付けることが重要になります。一つ目が、「学び続ける」こと。2050年に求められる能力はあくまで予測です。正解がない世の中だからこそ、その時々の状況に応じて学ぶべきことを見極めなければなりません。何事にも好奇心を持って、新しいものは積極的に使ってみる。そうやって毎日インプットの時間を確保していきたいものですね。

もう一つ習慣にしてほしいのは、「否定されるかもしれないリスクを取ってでも、意見を言う」というチャレンジです。否定されるのはしんどいですが、フィードバックをもらえれば再考できます。勇気を持って意見をぶつけることを繰り返せば、考えはどんどんブラッシュアップされていく。そうやって考えるサイクルを回すことをお勧めします。何より、強い思いを持って「こうしたい」と言い続けている人のことは、周囲も応援したくなるもの。自分と向き合い、考えを人に伝え、そこで得られたフィードバックを基にまた考え……と繰り返すうちに、自分の中にある軸にも気が付くのだと思います。

今後、働くことと生きることはどんどん密接になっていくでしょう。会社から言われた通りに働く時代ではなくなった今、自分の物差しで物事を判断する力が求められます。これは見方を変えると、若い方にとって大きなチャンスです。変化を前提にキャリアを築くことができるので、従来のように「〇年間はこの経験を積まなければいけない」といった順番待ちをしなくていい。時代の変化を捉えて学び続け、自分で物事を判断し、納得して行動することで、自分らしく成長していけるのです。