2023/5/15 更新

Try&Learnの時代が到来

なりたい自分になるための
未来戦略
描き方

働き方にもキャリアにも、たった一つの正解はない。そこでこの特集では、プロティアン・キャリア協会の栗原和也氏が「なりたい自分」になるための未来戦略の描き方について解説。インターンシップ参加の前に、これからの働く世界の変化や「いいキャリア」を築くために必要なマインドについて学ぼう。

取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太 イラスト/石山好宏
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栗原和也氏
一般社団法人
プロティアン・キャリア協会
CGO 最高事業成長責任者
栗原和也

外資系総合ITサービス企業にてエンジニア、コンサルタントを経験した後、新卒採用担当としてエンジニア採用をリード。2021年7月にプロティアン認定ファシリテーター資格を取得し、22年10月より現職

インターンシップ前に知っておきたい
後悔をしないキャリア選択を
するための五つのポイント

インターンシップ参加を自分にとって有意義なものにするために、事前に準備すべきことは? 「いいキャリア」のスタートを切るためにやっておきたい五つのことを紹介しよう。

働く目的は「変わる前提」でいい
目指したい姿を仮置きしよう

インターンシップ参加の前に、近い将来目指したい姿を仮置きしましょう。そのベースがあれば、情報を集めたり、関心を広げたり、企業に質問をしたりと行動を起こすことができます。動きながら目的を整理し、時に立ち止まり、振り返る中で、自分の目指したい姿はどんどんクリアになっていくもの。キャリア目標は永遠のベータ版です。当初の考えと変わっても構いません。行動しながら理想像を探っていきましょう。

企業が取り組む課題に着目し
その課題と自分が重なる部分を探す

企業が解決しようとしている課題に着目し、自分の仮置きしたありたい姿と重なる部分を探してみてください。多くの企業がホームページのIR情報や採用ページなどに今後のビジョンを載せているはずです。それと自分の経験や強みを照らし合わせ、どう貢献できるかを考える。重なる部分がないと、サッカーチームの面接で甲子園出場経験をアピールするようなアンマッチが起きかねません。

「STAR」に基づき
過去の経験を整理する

具体的な行動を起こす際に、自分の過去の経験を振り返ることが大切です。当時の状況(Situation)、課題(Task)、それに対する行動(Action)、成果や結果(Result)を掘り下げ、整理しましょう。これはそれぞれの頭文字をとって「STAR」といわれ、面接官が採用候補者に質問をするときに使うフレームワークです。選考を受ける中で役立つだけでなく、「自分自身が何者か」を考える上でも有効です。

ネットは参考程度
一次情報を取る意識を

得る情報の量と質によってキャリア選択の幅は変わります。企業説明会やインターンシップ、就職活動サービスなどを使い、効率的な情報収集をすることは重要です。そこで注意すべきは、ネットの情報をうのみにしないこと。「この会社は口コミ評価が低い」といった先入観が働くと、会社が本来持つ魅力を見過ごしかねません。ネットの情報は他人の意見。「自分にとって良い会社」を選ぶために主体的に一次情報をひろいに行きましょう。

就職活動とキャリア開発は団体戦
自分一人だけで考えるのをやめよう

変化に適応するためには、周囲との関係構築(社会関係資本)が肝心です。個人の内省だけでなく、第三者との対話を通じて気付きを得ながら、周囲とともに磨き合う意識を持ちましょう。インターンシップも参加して終わりではなく、同じ立場の仲間と共有してみてください。情報交換をして効率的に情報を得ることはもちろん、悩みを共有することで心が軽くなります。就職活動のモチベーション維持にも効果的です。

栗原和也氏

地道で主体的な試行錯誤が
変化の時代に適応する力を育む

コロナ禍を経て変わる
就職活動後の「安定」の定義

最近の就職活動のキーワードの一つは「リアル」。学生の働く目的は多様化し、自分の希望を率直に伝える人が増える一方、企業も情報発信を強化して透明性を担保しようとしています。双方がリアルな姿を見せようとしている点は、今よりも形式的だった従来の就職活動と比べて大きな変化です。

学生が企業を知る機会として存在感を増しているのがインターンシップ。背景には、企業ブランドや待遇以上に、その会社で働くことで「自分の市場価値が高まるか」を重視するようになった学生の志向の変化もあります。コロナ禍をはじめ、急激な環境変化を目の当たりにし、「今までの働き方は通用しなくなるかもしれない」と不安を抱える学生は多く、「自分に力を付ける=安定」という考えに変わっている。そういった環境の有無を確かめるために、インターンシップで就業体験をする意識が高まっているのです。

一方、膨大な情報の中で身動きが取れなくなっている学生も目にします。「良い会社」とは何か、画一的な軸で測れなくなったからこそ、自分が「何をしたいか」が不明確なままでは就職活動が進まない。結果、取りあえずインターンシップに参加する、待遇や口コミ評価などの他人軸で企業を判断するといった行動に陥りがちです。

これからはTry&Learnの時代
変化を前提に「仮置き」の意識を

とはいえ、現時点でやりたいことが明確な学生は少数でしょう。そもそも学生時代にやりたかったことがずっと変わらない人はほとんどいません。社会に出ないと知り得ないことが多いからこそ、働く中で考え方は変わります。従来の評価は年功序列だったので最初の職業選択がその後のキャリアに影響しましたが、時代が急激に変化する今は理想を固定する方がリスク。変化を前提に、近い将来自分はどうなりたいかという「キャリア目標のベータ版」を持つことが重要です。

これからはTry&Learnの時代です。外にある正解を目指すのではなく、自ら理想をつくり出すのだと考えれば、試行錯誤するのも、その都度目指す姿が変わるのも当たり前。「将来どうなりたいか」という未来戦略を描き、仮置きした目標に対して今すぐにできることから行動を開始する。その繰り返しが、組織や変化に適応できる力(アダプタビリティー)を育みます。

試行錯誤する中で無駄に見えるものは、全て上質な学びです。これからのキャリアは「選択」ではなく「蓄積」が重要。DX(デジタルトランスフォーメーション)などが進み従来のスキルが使えなくなったときに役立つ力は、試行錯誤の過程で培われるものです。コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)といった言葉を好んで使う学生は多いですが、最短距離を選ぶことで、力を蓄積する機会を失う可能性があることは考えた方がいいでしょう。100ある経験を100生かせればキャリアの選択肢も広がります。変化の時代において最適解に一発でたどり着けるという考えは幻想だと思った方が賢明です。

私が所属する協会の名前にある「プロティアン・キャリア」とは「変幻自在なキャリア」という意味。変化にしなやかに適応し、周囲との良好な関係を主体的に築く自律的な姿を表します。自分らしいキャリアは、何歳からでも築くことができます。人生で一番若いのは「今この瞬間」です。その時々の理想に向かって行動すれば人間関係やスキルは養われていきます。最初から答えがあるものでも、組織や他人に決められるものでもない。主体的な意志と行動によって築き上げるものこそが、自分らしいキャリアなのです。