DeNAは、常に新しいことに挑み続ける「永久ベンチャー」。ただし、挑戦を重ねていく中では失敗もたくさんあり、特に2016年のキュレーションサイトの問題では、世の中に大きなご迷惑をお掛けしてしまいました。
私が代表取締役に復帰したのは、そうした反省も踏まえ、重要な経営判断を複数の視点で行うことによって、常に社会の信頼に応えられる企業をつくっていきたい、という思いからです。けれども、それは守りに入るという意味ではありません。むしろ、世の中に歓迎されることは前提として、思い切った挑戦をますます加速できるような環境を整えるのが私の役割だと考えています。リスク管理やチェック機能の整備を進めたり、そもそも私たちはどういう価値を世の中に提供していくのかを、より強く意識することも必要です。
DeNAがミッションとして掲げている「Delight and Impact the World」に立ち戻り、我々は誰を喜ばせたいのか、世の中にどんな驚きを与えたいのか、改めて確認し合い、チームの力をさらに引き出していければと考えています。一方で、組織が大きくなればなるほど、皆で同じ方向に熱を持って向かうことが難しくなってくる。そこで最近新たに『Shake Hands制度』というものを導入しました。一言で言えば、社内の部署同士で、人材の引き抜きを奨励する制度です。例えばリーダーは、社内ネットワークやミーティングなどさまざまな場を通じて、自分たちのチームが何を目指しているかを熱くメンバーにプレゼンテーションする。そこに共感した人たちは、自分がそこにどう貢献したいかを事業部長に直接アピールする。お互いのニーズが合致したらShake Hands、がっちり握手をして異動が決まるというものです。人事部も、メンバーが所属する部門の上司も、それを止める権限はありません。
DeNAのリーダーは誰もが優秀だし、情熱を持っているけれど、この制度の下では、それを表に出してもっともっと熱く語っていかなくては、メンバーがどんどん自分の元から去っていってしまうことになります。メンバーは、自分のパッションに従って仕事を選ぶ。リーダーは常に意義のあることをやり続けて、自分のパッションを発信し続ける。「やりたいこと」に向かっている時の人ほど強いものはありませんから、純粋にパッションでつながるチームでなら最大限の成果を上げられるはずです。
私がなぜそこまで新しいことへの挑戦にこだわるかといえば、シンプルに「挑戦する人生の方が面白いから」としか言いようがありません。「ああ、楽しかった」で終わる遊園地での面白さとは違い、本気の仕事からは、ヒリヒリするような痛みと、それ以上の達成感を得られます。とても乗り越えられそうにない高い壁を前に、皆で知恵を出し合って何度も何度もトライして、ようやく突破口を見つけて「ここだ!」と皆で一気に突進していく。そうすると、一人では到底得られないほどの大きな成果を手にすることができるのです。
「安定」や「守り」とは今ある資源を使って現状を維持する、要は引き算の考え方です。しかし、挑戦は新しいものを得る足し算の行為です。挑戦を重ねれば重ねるほど、個人にとっても企業にとってもかけがえのない経験、資源が増えていくと思います。
最近よく「ワークライフバランスを重視したい」と言う人がいますよね。仕事も趣味も完璧にこなしてしまう器用な人も実際にいます。それも本人の人生の選択であり、尊重されるべき生き方です。ただ、ワークとライフを切り分けて考えると、ワークがまるで生活のための苦役のように思えてしまうのではないかというのが私の考え。それはあまりにももったいない気がします。何も人生を仕事中心に考えるべきだと言いたいわけではありません。例えばライフの中でも、家族と過ごす時間を、自分の人生の大切なひとときだと考えるのと、仕方なくやらなくてはいけない「家族サービス」と考えるのと、どちらが幸せでしょうか。同じように、ワークも大切なライフの一部だと考えた方が、より豊かな人生が送れるのではないかと思うのです。
また、人生のある局面においてはアンバランスなほどの集中をすることが、人を大きく成長させることもあります。一流スポーツ選手を見れば分かるように、高い目標を掲げて自分を律し、一つのことをとことん突き詰めた人には、底知れぬ深みと迫力が備わるものです。
若い時にしかできない挑戦もあるので、一つのことに夢中になれるのも、素晴らしいことなんだよと自信を持って伝えたいですね。