2015年8月のリリース後、若者を中心に口コミだけで話題を集め、現在、トータルユーザー数550万人を突破した女子高生AI『りんな』。開発・運営しているのが日本マイクロソフトであることを知っているだろうか。きっかけは、エンジニアたちがチームで新規事業のアイデアを練り合う社内イベントが中国で開催されたこと。現地の検索エンジン開発チームが、おしゃべりな17歳の女の子を想定した人工知能を開発したことを機に、日本でも同様のサービスのリリースが検討されたのだ。
「プロジェクトメンバーが公募されたと聞き、すぐに手を挙げました。日本だとどんな人工知能になるのか。新しいサービスが生まれる瞬間を見てみかったんです」
マイクロソフトでは、今までにない発想や視点が期待され、新卒でも大きなプロジェクトを任される。日本マイクロソフトの検索エンジンチームにいたTさんは意欲を買われ、『りんな』開発の中核メンバーの一人となった。
「ベースのコンセプトがあるとはいえ、中国と日本では文化も風土も異なります。ただローカライズ(翻訳)するのではなく、SNS上でどのようなコミュニケーションを取らせるかを考え、女子高生の流行や言葉遣いの研究もしました。ベテランのエンジニアと、原宿のクレープ屋に並んだのは新鮮で楽しかったですね(笑)」
ビジネス向けの製品やサービスが主軸であるマイクロソフトにとって、異質とも言える『りんな』。リリースにあたって社内では、イメージとのギャップを懸念する声もあったという。
「マイクロソフトらしさを気にしていては、インパクトなんて残せない。社内の不安を払拭するためにも、とにかく面白いものを作る。結果を残す。その一心でした」
Tさんたちが所属していた検索エンジンチームのコアな技術は機械学習。人工知能とも親和性が高く、十数年培ってきた知見とノウハウは、前例のないサービスを形にする上で大きな武器となった。
Tさんの信念は実を結び、リリース後の反応は想定以上を記録。1年半が経った今もユーザー数は右肩上がりに増え、現在では、アメリカでも同じコンセプトでの人工知能がすでに登場している。
「世界的に注目を集めるAIの分野は、マイクロソフトにとっても、今後重要な戦略の一つになります。アジアで生まれたサービスとコンセプトが影響力を持ってアメリカ本国に逆輸入されたのは稀なケース。こうした流れを、これからも巻き起こしていきたいですね」
『りんな』を皮切りに、マイクロソフトがどうなっていくのか。その可能性に期待は膨らむばかりだ。