2018/10/30 更新 就活コラム

売り手市場と呼ばれる時代に就職活動をするということ

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売り手市場の状態が続く現在は、新卒採用を行っている企業にとっては非常に厳しい状況といえます。多くの大手人気企業でさえ採用予定数に満たない人数しか採用できていません。こうした状況で学生の皆さんはどのような気持ちで就職活動をされているのでしょうか。内定を取るのは簡単、選び放題、難関企業といわれるところでも入社できる、などなど総じて就職活動そのものについて容易であるかのように考えている方が多いのかもしれません。しかし、”就職”という点でとらえれば、それは確かにその通りかもしれませんが、実はキャリアを考えたときには、就職活動はこれまで以上に難しくなってきているといえます。このコラムの連載の皮切りとして、今回は皆さんがおかれている”売り手市場と呼ばれる時代に就職活動をする”という状況について、私の考えを述べさせていただきたいと思います。

私はいわゆるバブル世代で、超売り手市場といわれる中での就職活動でした。証券、保険、銀行、不動産など当時隆盛であった金融業界へ、だれもが応募し多くの割合で採用される時代です。当時はインターネットも携帯電話もありませんでしたので、就職活動についての情報収集の方法は非常に限られており、現在と比較するとベンチャー企業や中堅・中小企業などの情報を取得することが難しいため、大卒者の就職先の選択肢は狭くなり、当然に応募は大手企業に集中しました。 それでも、多くの大手企業が採用予定数に満たない数しか採用できていませんでした。

そしてその後バブルの崩壊を迎え、いまでは私達バブル世代は、世間で”お荷物世代”といわれるようになってしまっています。(正直、かなりいいすぎだと思いますが) こうした状況がうまれてしまったのは、売り手市場という環境で企業も学生も就職(新卒採用)活動を点で考えてしまったことと、それが学生の企業の選択に大きな影響をもつことが大きな理由であるといえます。現在のような売り手市場であれば、皆さんは間違いなく自分が志望するいくつかの企業すべてから内定を得ることができるでしょう。 その時どのような基準で最終的な選択をされるでしょうか?いずれも人がうらやむような、少し前では内定をもらえない企業たちです。

当時の私達もおなじような状況であったといえます。その時、私達の多くは、ある種共通した過ちを犯しました。 それは、“その時の企業をその時の条件で選択した”ことです。景気がいい業界、利益が出ている企業、初任給の高い会社、有給が多い会社、福利厚生の厚い会社、などなど。 そしてその後、30年の間にバブルの崩壊があり、その時の優良企業の多くがなくなってしまい、日本の社会環境も経済活動も様々な変化がありました。 そして、その時の選択のための基準であったそうしたものは、ほぼ全て意味を失ったのです。企業の業績も、高かった初任給も、厚い福利厚生も、当時に約束されていた将来は結局のところすべて反故にされてしまったのです。新卒採用の時に提示される諸条件は、あくまでその時の一瞬のものであるとは理解せず、将来的にも約束されたものではないことを理解していませんでした。

今後、少子高齢化が加速度的に進み、企業の人材獲得競争はより厳しくなることは間違いないでしょう。そういう状況であるなら、企業が提供する諸条件が悪くなることはないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それは間違いです。 企業は経済的成功を達成するためには、あらゆることを行います。人材競争が激化することによって高騰する人件費を黙ってそのままにしておくことは絶対にありません。 RPAやAIなどのテクノロジーは、間違いなく人件費を低く抑えるための手段となるでしょう。また、企業の競争力を維持するために自身を効率化していく圧力はこれまで以上に強くなっていきます。それが進んでゆくと、人材を企業に保有する(雇用する)ということに見切りをつけることも十分に考えられます。

結果、人材は3極に分かれることになります。比喩的な表現でいえば、テクノロジーを使う人としての経営職と一握りの専門職、そしてテクノロジーに使われる人です。 このうち社会的にも経済的にも高いポジションとなるは、経営職と専門職です。テクノロジーに使われる人たちには、多くの能力は求めませんので当然に報酬を含む諸条件は悪くなっていきます。この構造はおそらく業界を問わないことになるでしょう。 ですので、企業が現在提供している報酬等の諸条件が今後悪くなることはない、などと考えることはできせん。 お分かりでしょうが、売り手市場であるからといって“良い企業”選びをすることは意味がありません。そもそも、誰にとっても良い企業などは存在しないといえます。 例えばGoogleなどの人気企業であっても、Googleでは満足できないという理由で一定数の自己都合退職者は存在しますし、それは自律したキャリア意識を持つ人たちにとっては健全なことなのです。

変化がより大きく激しくなる今後の日本において、自分のキャリアや成長は、企業に依存するのではなく、その時々に自分自身で決めて実行していくしかありません。 となると、選ぶべき企業は、依存する目的としてのいわゆる“良い企業”ではなく、“将来的に自分の選択肢を増やすことができる企業”ということになります。 それは“自分の価値を高めることができる企業”とほぼ同義です。ただ、それは研修が充実した企業を意味するものではありません。そもそも企業が提供する研修は、社員の能力の底上げを目的としていて個々人の価値を上げることを目的にはしていません。 自分の価値を高める方法はいくつかあります。人のやりたがらないことをやる、専門的な領域やスキルを持つなどです。が、いずれも社会的に必要性があるものでなくてはなりません。

“自分の価値を高めることができる企業”を選ぶ、そうした企業選びは売り手市場の今だからこそ可能なのです。まだ、時間はあります。広く世の中を見渡し、自分自身の価値をどこで高めていくべきか、じっくり考えてみてください。

  • 黛 武志
    採用コンサルティング 黛/MaYuZuMi 代表
  • 大学4年秋に内定していた企業の親会社が社会的問題を起こし内定を辞退。担当教授に卒論を不可にしてもらい、就職留年。卒業後大手日本企業の人事に”不本意ながら”配属されるが、その仕事に魅了され以後一貫して人事のキャリアを歩む。SAPジャパンの採用責任者、メットライフ生命保険の採用部長などを歴任。現在は、採用全般についてのコンサルティングを行っている。日本人材マネジメント協会で採用についてのセッションを担当、LinkedInでいくつかの記事を公開し、”元採用部長”の名でNote にも執筆中。