2019/1/29 更新 就活コラム

豊かな人生を送るための働き方

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豊かな人生を送るための働き方を考える時に、最初に思い浮かぶキーワードは、ワーク‐ライフ・バランスでしょう。これまでの仕事中心の生き方から仕事以外の時間を充実させることで、クオリティ・オブ・ライフをより高いものにしていこうとする考え方は、いまでは非常に一般的なものになっています。働く環境をよりよいものにすることがリテンション(良い人材をつなぎ留めておく)に有効であり、またパフォーマンスの向上にも効果が見込めるとして、企業も積極的に取り組むようになっています。また、より多くの学生に興味をもていただけるキーワードであることも承知しているので、会社説明会でもかならず取り上げられるトピックスの一つになっています。

確かにワーク‐ライフ・バランスは、人生を豊かにするためにとても重要な考え方だとおもっています。

しかし、仕事に真剣に取り組むことを悪いことであるかのように語り、楽な仕事選ぶ方がよいというような考え方に私は全く賛同できません。新卒採用の担当者として学生の方と話をしていても、“楽に仕事をする”、“仕事はお金のため”、“自分の時間を楽しむ”といったような考え方で、仕事を適当に片づけてそこそこの地位と報酬さえもらえれば十分、といったような価値観が見え隠れすることが多くなってきたように思います。こうした考え方は、非常に危険で正しいものではありませんし、決してクオリティ・オブ・ライフを高めることにはなりません。

理由は大きく二つあります。
一つ目は、休みが多く働く時間が短くても、仕事は人生の可処分時間(自分の意思で使える時間)の多くを占めるものであるということです。いくら仕事以外の時間が充実していても、人生の多くの時間を占める仕事そのものが充実していなければ、それは人生の多くの時間を無駄にしていることになりますし、仕事が楽しくなければ、それ以外の時間も楽しむことは難しいでしょう。とはいえ、キャリアを追い求めたり、休むことなく遅くまで残業するような働き方を勧めているわけではありません。仕事をしている時間を『充実感や達成感を得られるようなものにすること』が重要なのです。自分のやりたい仕事ではないことをさせられたり、思い通りにならないこともきっとあるでしょう。しかし、それを理由にして仕事に真剣に取り組むことから逃げてしまうのは、あまりにももったいない気がします。
確か20年近くも前、私が30代だったときのことです。ある料理家の女性の方へのインタビューを、偶然テレビで拝見しました。「これだけ沢山の料理をしていると、失敗作も多くあったのではないですか?」という質問に対して、「失敗はありましたが、失敗作はありません。確かに、料理を作っているうちに本来作ろうと思ったものとは程遠いものになることはあります。でも、そのあと工夫をしてちゃんと美味しい別の料理に仕上げるようにします。ですので、私がつくった料理で失敗作はありません。」

これは、仕事も同じだと思いました。やりたくない仕事はやりたくなる仕事にすればいい、面白くない仕事は面白い仕事にすればいい、仕事をするのは自分自身なのだから。そう考えたのです。それ以降は仕事そのものに対してのネガティブな感情はほとんど持たなくなりました。どうにもならないことを嘆いても仕方ないので、自分の力でできることに全力で取り組む。それだけで仕事は楽しく充実したものになります。

二つ目の理由は、仕事を充実させることで将来の選択肢の幅を広げることができる、というものです。今の自分にとって何が最善であるかを決めることは、難しいことですが、可能です。一方、未来の自分や自分に起こるかもしれない何事かについての最善の策を、今の自分が決めることはほぼ不可能です。それでも今の自分にできる有効な手段が一つだけあります。それは、その時のために可能な限り多くの選択肢を持てるように準備をすることです。そして仕事は、選択肢を多くするための非常に有効な手段となります。日々の仕事を充実させ、楽しみながらやっていくことで、自ずとキャリアは高くなっていきます。仕事の内容も、権限も、役割も、関係者からの信用も、報酬も、本人の能力も、仕事に関連するあらゆることがより高いレベルになっていきます。将来、何事か対処しなければいけないことが起こったときに、そのための選択肢は、キャリアが高いほど多いものになります。理由は簡単で、自分の選択肢は自分のキャリアを超えることができないのですから、高ければ高いほど選択肢が増えるからです。

私もワーク‐ライフを考えて二度大きな決断をしました。一度目は、あまりにも仕事に使う時間が多すぎて、家族との時間を作るために転職したことです。結果、私は十分な家族との時間と、世の中一般からすれば十分な報酬と役職を両立させることができました。二度目は、つい最近ですが、自営業になったことです。自営業になった理由は、一人になった実家の母親との時間を持つことと、思い出のある生まれた街のために仕事をしたい、という二点です。これらを実現させるために自営業となりました。それでも会社員でいた間に前向きに、積極的に仕事に取り組んでいたおかげで、自営となってからも十分に生活できるだけの仕事をいただけるようになりました。当時一緒に働いてくださった多くの方々に助けていただいています。今は、実家のある街で新しい取り組みをするために準備をしています。周りの人からは“もったいない”といわれたこの二度の決断ですが、それまで仕事を充実させてきたからこそ実現が可能であったと思っています。

誤解を恐れずに言えば、仕事をすることは間違いなく個人の価値を上げていくための研鑽の場であるといえます。価値が高くなるほど将来の選択肢は増えてゆき、人生の多くの事に対処できる可能性が高くなります。そのためにも、仕事には真剣に前向きに取り組むべきです。与えられる環境に大きな違いはありません。違いがでるのは、その環境で自分がどのように振る舞い、取り組むかということによるものです。仕事なんてどうせ面白くないと思う人は、楽しい仕事に巡り合うことはありません。仕事なんて適当でいいと思う人は、仕事で充実感を得ることはありません。仕事なんて思う通りにならないと思う人には、思い通りの仕事ができるチャンスは訪れません。仕事をないがしろにして余暇のみを楽しむ人たちは、余暇以上に時間を使う仕事が充実していないので、全体として考えたときにはクオリティ・オブ・ライフは決して高いとは思えないと考えます。

仕事には、面白くないこともあるのは確かです。だからと言って、仕事を余暇のための時間にしてしまうのは、勿体ないと思いませんか?どうせやらなければいけないのなら、積極的に、前向きに、楽観的に、楽しみながら、(少しだけ)わがままに、そのほうが充実した時間を過ごせるとは思いませんか?

  • 黛 武志
    採用コンサルティング 黛/MaYuZuMi 代表
  • 大学4年秋に内定していた企業の親会社が社会的問題を起こし内定を辞退。担当教授に卒論を不可にしてもらい、就職留年。卒業後大手日本企業の人事に”不本意ながら”配属されるが、その仕事に魅了され以後一貫して人事のキャリアを歩む。SAPジャパンの採用責任者、メットライフ生命保険の採用部長などを歴任。現在は、採用全般についてのコンサルティングを行っている。日本人材マネジメント協会で採用についてのセッションを担当、LinkedInでいくつかの記事を公開し、”元採用部長”の名でNote にも執筆中。