就職情報サイトのキャリタスを展開するディスコによると、6月1日時点の内定率は63.4%。前月5月1日時点の調査では、37.5%という数字だったので、この間に多くの学生が新たに「内定」を得ている。複数内定も含めればかなりの数になっていると思われる。
就職活動で3月広報解禁・6月選考開始というスケジュールは今年2年目。だがスケジュール相場はかなり固定化しつつある。
3月1日の募集告知後、3月中に会社説明会とエントリーの募集、4~5月に選考と内々定出しをする企業が主流となってきている。しかし、経団連加盟企業は6月1日以降に選考を開始しているという体裁にしたいので、面接という名目で学生を呼び出し、「内々定」を出すパターンを取っていた。
そして目立ってきたのが、この6月1日、面接ではなく「内々定式」を行うケースだ。学生のSNSなどへの書き込みには、「今日は内々定式がありました」といった表現が並んだ。企業は内々定を得た学生を集めて、内定式や入社式に近いセレモニーを開催。そうした名称を使っていなくても、内定者同士や企業の先輩たちとの懇親会を行い、一堂に会する機会をつくっていたのである。
そもそも内々定とはなにか。経団連が定めた「採用選考に関する指針」や政府が経済界や業界団体に向けて出している要請文書には、「正式な内定日は、卒業・修了年度の 10 月1日以降」としている。そのためこの日まで正式な内定を出すことはできない。しかし、就活はかなり早くから進んでおり、10月1日まで内定を出さないでおくというのは、実質的にかなり難しい。そこで、内々定という、事実上の内定を企業が学生に出している。
実際に「6月1日に内々定式を行った」と打ち明けるのは、あるエンターテインメント企業の人事担当者。5月末に学生に内々定を出し、当日は担当役員が出席する「内々定授与式」や、内定者の交流会、人事主催の懇親会などを1日かけて行ったという。
「6月1日は一斉に面接や内々定が出されるタイミング。他社の最終面接などとバッティングするが、わが社への入社の本気度を確認するために開催した」(同社の人事担当者)。6月1日に他社の最終面接や内々定式といった会合に向かわせないように、学生を会社に引き留めておく機会をつくったわけだ。
採用コンサルタントの谷出正直氏は、「売り手市場である限り、内々定式が今後も続くと思われる。大手は6月1日の夕方に、中堅・中小企業は6月中旬以降に、行っていく可能性がある」と語る。囲い込みの策のひとつとして、来年以降も拡大すると予想する。
内々定式のメリットは物理的事情だけではない。大きいのは学生へのメッセージだ。学生を大事にしているという企業の姿勢を見せることができ、「わざわざ式典を開催してくれた」という気持ちを抱かせ、心理的に内定を辞退しにくくする効果をもたらす。「選考を通じて信頼関係がつくれていれば問題はないが、見せ方ややり方で多少の印象が変わるので、企業としては押さえておきたいセレモニーだ」(谷出氏)。
また、「内々定式があるから参加できますか?」と、やわらかい形で内定承諾を求めることができ、同時に他社への就活の終了を迫る”就活終われハラスメント(オワハラ)”を避けることもできるという。内々定式で同期となる人たちと顔合わせをしてもらい、お互いをフォローし合う環境をつくることで、内定辞退の防止につながる。
採用スケジュールが固定化される中、内定者フォローの一環として内々定式を活用する動きが今後も広がると思われる。ただ、一方で、「5月までに内々定を出し、6月1日は内々定のセレモニーの日」というような形になり、就活の早期化を助長する懸念もある。
10月1日が正式な内定日となっているのは、高校生の選考開始日が3年生の9月からというのもあるが、1990年代まであった就職協定のなごりという側面が強い。当時は大学4年生の10月まで内定が出せなかったが、それ以前に内定を出す企業が増えてしまったため、形骸化した。内々定式の浸透は6月1日の選考活動解禁日を形骸化させていく可能性がある。
建前と裏腹に既成事実化する内々定式。単に内定出し手続きが二段階化してしまうだけでなく、就活スケジュールそのものが、すでに形だけのものになっているのかもしれない。
(取材・文/宇都宮 徹 [東洋経済 記者])