今では外資系のみならず、多くの日本企業が“グローバル人材”を求めています。グローバルにビジネスを展開する、グローバルにパートナーと協業する、グローバルに生産拠点を構えるなど、ビジネス活動のあらゆる場面で“グローバル人材”が求められています。今後日本の人口が減少し市場も小さくなっていくことを考えれば、その傾向がより強くなることはあっても、弱くなることはないでしょう。
では、日本における“グローバル人材”というのは、いったいどのような人材のことをいうのでしょうか。ビジネスを中心とした活動の中で求められる人材という点を考慮すると、英語など日本語以外の言語が利用できる、というだけでは足りません。 私自身も調べてみて、いくつかの定義をみつけましたが、そのうち政府が設立した「グローバル人材育成推進会議」のものが一番わかりやすく整理されており、最も的をえているように思いましたので、ご紹介させていただきます。
「グローバル人材育成推進会議」によるグローバル人材
要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー
言葉としてはとても簡単で当たり前なことにように思えますが、実はこれらを高いレベルで備える人材は、今の日本では非常に少数であり、その数はむしろ減少しているのではないかと私は考えています。
それぞれの要素について、私なりに少し解説を加えたいと思います。
要素Ⅰはスキルです。
そもそも意思疎通ができなければ何事も始まりませんので、語学力は必須といえます。語学、特に英語については大学生の方も努力をされる方々が増えているようで、その点は非常に良いことであると思います。ビジネスではコミュニケーション力とは、お互いの意思を理解する力だと私は考えています。ですので、うまく話をする、話題が豊富である、口数が多い、というもの意味するのではありません。相手の考えていることを理解し自分が考えていることを理解してもらうことができるかどうかがとても重要です。この要素Ⅰはスキルですので、いずれも本人の努力によってより高いレベルにすることが可能であるといえます。
要素Ⅱはコンピテンシー(行動様式)、です。コンピテンシーとは、行動をするうえで基本となる価値観や特性のことを指します。与えられるのではなく獲得する、難しいと思われることもあきらめない、同じ目的を達成するために協力しあう、自分の考え方に固執しない、そして最後まであきらめない、ということを意味します。いずれも一般的な言葉ではありますが、これを高いレベルで実現することは容易であるとは言えません。特に責任感・使命感については、わかってはいてもなかなか維持し実行するのは難しいかもしれません。社会にでれば、自分ではいかんともしがたい条件の元で目的を達成しなければいけないことが多々あります。その時に“○○を変えることができないんだからこれは実現しない”、とあきらめてしまうのではなく、あらゆる手段と可能性を探って何とかして粘り強く取り組み、目的を達成することが求められます。
これは、仕事も同じだと思いました。やりたくない仕事はやりたくなる仕事にすればいい、面白くない仕事は面白い仕事にすればいい、仕事をするのは自分自身なのだから。そう考えたのです。それ以降は仕事そのものに対してのネガティブな感情はほとんど持たなくなりました。どうにもならないことを嘆いても仕方ないので、自分の力でできることに全力で取り組む。それだけで仕事は楽しく充実したものになります。
そして最後の要素Ⅲ、“異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー”は、私はもっとも重要な要素であると思います。“グローバル人材”という言葉を考えたときに、どうしてもスキルやコンピテンシーにばかり目が行きがちで、多くの“グローバル人材”の定義は、この要素Ⅲの部分を考慮していないものが多くみられます。そういう意味では、「グローバル人材育成推進会議」のメンバーの方々は“グローバル”と“人材”のことを大変よく理解されていらっしゃるのだと思います。
“異文化に対する理解”というのは、知識や経験として異文化を知っている、ということとは意味が違います。いわゆるDiversity(多様性を受け入れる)のことを指しています。私たち日本人は幸運なことに(不幸かもしれませんが)、ほぼ同じ価値観をもつ人たちの中で生活をしています。そうすると自然にその生活の中で、暗黙の基準・標準(あたりまえ)がうまれ、共通の価値観がうまれます。その価値観を共有している人たちとの生活は非常に快適なので、そこから外れてしまう価値観を排除したり無視したりしてしまいます。ところが、日本の外に目を向ければ、本当に多種多様な価値観があることがわかります。グローバルな環境で働くときには、自分の日本人としての価値観(暗黙の標準・基準)は意味をもちません。日本人として当たり前であることがわからない人たちはたくさんいます。その状況で、“なんでこんなことがわからないんだ”と、その価値観とは異なる考えを持つ人たちに対してネガティブな感情を持ったり、その価値観を否定してしまうことは、自分を孤立させることになり、それこそ仕事になりません。大切なのは、自分と違う価値観があることを理解しそれを受け入れることです。そしてその異なる価値観には、それぞれの国ごとに背景や理由があるので、それも理解し受け入れることが重要です。
そしてこの“異文化に対する理解”と表裏一体となって“日本人としてのアイデンティティー”があります。「グローバル人材なのだから、日本に帰属するということを意識しない方がよいのではないか」という意見を聞くことがありますが、私はそうではないと思います。実際、私がいろいろな国の方々と仕事をするときに最も時間と労力を割いたのは、日本を説明することです。私たちが他者の価値観を理解し受け入れようとするのと同時に、他社も私たちのことを理解したいのです。その時、日本人である自分が日本のことを説明する責任が生じます。それには、“日本人としてのアイデンティティー”が必要となります。私は“グローバル人材”は自分がなにものであるかを説明できる人であると思っています。それができないと相互に理解しあい受け入れあうことができないからです。
“異なる価値観を受け入れ理解し、自分がなにものであるかを語ることができる”、これこそが“グローバル人材として最も重要なことであると、私は思います。
大学4年秋に内定していた企業の親会社が社会的問題を起こし内定を辞退。担当教授に卒論を不可にしてもらい、就職留年。卒業後大手日本企業の人事に”不本意ながら”配属されるが、その仕事に魅了され以後一貫して人事のキャリアを歩む。SAPジャパンの採用責任者、メットライフ生命保険の採用部長などを歴任。現在は、採用全般についてのコンサルティングを行っている。日本人材マネジメント協会で採用についてのセッションを担当、LinkedInでいくつかの記事を公開し、”元採用部長”の名でNote にも執筆中。