デジタル革命が進む中で、今はあらゆる産業が、変革の時を迎えています。お客さま一人一人の要望に素早く応えられない企業は、生き残れない。僕たちも、もう一度会社を創業する気持ちで、変革を進めているところです。
最近では、新しいグローバルヘッドクォーターとして、東京・有明に『UNIQLO CITY TOKYO』をオープンしました。ただ単に「オフィスを新設しました」という話ではなくて、「有明プロジェクト」と銘打ち、数年前から取り組んでいる大改革の一環。会社を挙げてのチャレンジです。
UNIQLO CITY TOKYOは、物流倉庫と一体となっており、オフィスには商品企画、マーケティング、生産など各部門をワンフロアに集約しています。「MADE FOR ALL」から「MADE FOR YOU」へ。これまでは部門ごとの縦割り組織だったものを、お客さまを中心としてチームを組み、お客さまと直接対話しながら商品をスピーディーに作ってお届けできる体制に変えていくためです。
今、我々が目指しているのは、「製造小売業」からさらに一歩進み、お客さまの声に反応して皆が動いていく「情報製造小売業」です。そのためには、デジタル化、グローバル化の時代に合った働き方に向けて、社員全員が意識を変えていく必要があると思っています。そしてこれは、ワークスタイル改革でもあるのです。
もともと我々は、「グローバルワン・全員経営」という考え方を掲げてビジネスをしてきました。マネジャーの指示に従って動くのではなく、世界中で活躍する社員の全員が経営者としての意識を持って、自ら考えながら行動していく。その中で最も成果の上がった方法を、皆で共有しながら実践していこうというものです。
だから僕は常々、うちの社員には、「世界中のどこに行っても、食っていけるような人になってほしい」と伝えています。自分の仕事に関して、それぞれが世界の第一人者となって、相手が誰であろうと自信を持って仕事について語れるようになってもらいたいと期待しているんです。
僕は人の成長を加速させるものは、危機感だと思っています。特に、未来のある若い人たちほど、「健全な危機感」を抱いてほしい。ところが残念なことに、人口も経済も明らかに縮小していく日本の未来に、「このままではまずい!」と本気で危機感を抱いている若者がどれだけいるでしょうか。
長く企業経営をやってきて痛感していることがあります。それは、「このままでいいや」と思った瞬間に、会社は崩壊していくということです。生き残れるのは、時代の変化に素早く適応した企業だけ。企業を取り巻く環境もお客さまのニーズも常に変化し続けていくのですから、挑戦するとかしないとか選ぶ余地などなく、そもそも安定すること自体が終わりを意味するのです。
それは、個人に応用しても同じことが言えるでしょう。もはや、「大企業に入れば安泰」という時代でないことは皆さんもよくご存じのはずです。国だって、どうなるか分からない。いずれにしても、誰かがごちそうを用意して「さあ、召し上がれ」と与えてくれることはありません。
新約聖書に「求めよ、さらば与えられん」という言葉があります。何事も自分から求めて取りに行かない限り、手に入れることはできないというのは、いつの時代にも通じる真理です。
目をそらしても、気付かぬふりをしても、危機自体が消えてなくなるわけではありませんから、そのまま放置していると、どんどん目の前の困難が大きくなっていく。不思議なもので、困難は避けようとするほど追い掛けてきます。
では、どうするか。正面突破するしかありません。恐らく誰もが何となくは、これが危機だと気付いているはず。そのときに、「困った」、「どうしよう」と嘆いて、できないことばかりを考えても、絶対に答えは見つかりません。ますます悩みが深くなるだけでしょう。
むしろそんなときこそ、逃げ道も回り道も作らずに、何が問題でどう解決するかをとことん考えるのです。そのために今日すべきこと、今週すべきこと、今月すべきことを具体的に書き出してみる。問題を発見できれば、問題解決の半分は終わりだと言われるように、とことん自分が抱く危機感と正面から向き合っていけば、ほとんどの問題は解決できるはずです。
分からないことは本を読んだり、インターネットを活用すれば、大抵のことは調べられます。その分野に詳しい人に、話を聞いて聞いて聞きまくってみるのもいいでしょう。
もちろん、自分一人の力で解決できないこともあります。そんなときでも自分が正しい道を進んでいると思えば、堂々と訴えて助けを求めればいいんです。その人が危機感を持って何かを良くしようと一生懸命仕事をしていたら、「助けてやろう」という人が周りに必ず出てきます。
僕らも株式上場を目指している時、メイン銀行が心配して、資金を引き上げると言ってきたことがありました。どれだけ利益を上げても資金が回らなければ企業は倒産してしまいますから、経営者にとっては最大の危機です。その時は「これはおかしいのではないか」と何度も担当者に説明して、最後は支店長を飛び越えて、取締役の営業本部長の所に直訴に行きました。その営業本部長が理解してくれたおかげで、何とか融資を受けることができ、首の皮一枚つながったのです。
人間、本気で危機感を持ち、尻に火が付いた状態になれば、「火事場のバカ力」を発揮するもの。必死に仕事に取り組んでいるうちに、最初はとてつもなく大きな壁だと思えていた困難も、気が付いた時には乗り越えていたりもします。
僕はよく「ビジネスは一勝九敗」と言うんですが、自分自身を振り返れば、一勝九十九敗と言った方が正しいくらい、圧倒的に失敗の方が多い。それでも今、「世界一の情報製造小売業を目指す」と言えるところまで来たのですから、若い皆さんにできないことなんて、あるはずがないんです。
そもそも若い頃の僕は、経営者なんて全く向いていないと思っていました。それどころか、できれば仕事をしないで一生を過ごせる方法はないかと、本気で考えていたくらいでした。
大学を卒業して故郷の山口県に戻り、父親の経営していた紳士服店を受け継いだものの、当初は理想も志もないただの若造でしたから、一人を残して従業員が全員辞めてしまうという失態も犯しました。結局、スーツのブラシ掛けから接客、お金の勘定、人の採用まで、全て自分一人でやらざるを得なくなりました。
もう後がない。この失敗が、まさに僕の尻に火を付けてくれた。誰も手伝ってくれる人がいないので、自分が何もしなければ即倒産です。ところが、いざやってみると、「ああ、意外と自分にも商売ができるんだな」と気付いたんです。こう見えて、僕は結構掃除もうまいんですよ(笑)。
スポーツと商売はよく似ていて、最初は失敗しても、日々研さんを積んでいけばうまくできるようになるとも気付きました。それに、やってみて初めて経営の面白さも感じるようになりました。
そうした小さな達成感を手にすると、あれもできるんじゃないか、これもできるんじゃないかと、どんどん夢が広がっていく。今度はカジュアル衣料だ、製造小売業だ、上場だ、グローバルだと、次々に新しい目標が見えてきたのです。
仕事は本当に面白い。うまくいくことばかりではないけれど、自分のやったことが確かに社会の役に立っていることを実感でき、多くの人に喜んでもらえるのは、とても幸せなことだと思います。さらに、社員が成長して、より世の中に貢献できて、それが利益となって返ってきたら、経営者としてこれほどうれしいことはありません。
まだ若い人たちには実感が湧かないかもしれませんが、人生には終わりがあり、限りがあるのです。誰もがいつかは死ぬことを受け入れなくてはなりません。ならば、せめてその間は、精一杯生きていきたい。
自分は何者で、何のために生きているのか。若い人には、自分の人生でなすべきことを見つけてほしいと思います。しかもできるだけ早く。自分の天命を早く見つけられると、そのゴールに向かって最短距離を進むことができますし、豊かで意義のある時間を多く過ごすことができると思うからです。マネジメントの権威であるピーター・ドラッカーの著書にも、子どもの頃、教師から「50歳になっても自分が何者なのか答えられないと、人生を無駄に過ごしたことになる」と教えられたという話が登場しています。
中には、就職を前にして「自分のやりたいことが分からない」と思い悩む人もいるかもしれませんね。でも、考えるより前にまずは何かやってみることの方が大事だと言いたい。頭の中で空想するだけでは、やりたいことなど見つかりません。
人は経験の中から自分の進むべき道を選び取っていくものです。実際に社会に飛び込んで、いろいろな人たちにもまれて初めて、「意外と自分にはこういうことが向いているんだな」、「こんなに面白い仕事があるのか」ということに気付く。自己実現を求める前に、まずは目の前のお客さまのために頑張ってみると、自分が誰かの役に立って、喜んでもらえることの幸せが実感として分かります。そうした積み重ねが、天命の発見に結び付いていくはずです。
いきなりエベレストの登頂に挑戦するのは難しくても、隣町にある丘に登ることはできる。千里の道も一歩からと言いますが、その小さな一歩が、これからの人生を大きく、豊かなものに変えるかもしれません。
就職活動に臨む学生は、今が売り手市場だからと安心しないでほしい。改めて言いますが、「安定」などこの国のどこにもありません。真剣に自分のなすべきことを探してください。最初は小さな一歩でもいいから、今よりも高い所を目指し、あえて険しい道に挑んでほしいと思います。後で振り返った時に、全く想像もしていなかったような景色が見えることでしょう。
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