自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――?
これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。
第4回は、2016年にBCGデジタルベンチャーズの日本拠点立ち上げに参画した2人の対談。多様なキャリアを経験した後、BCGとは異なる色のチームをリードする2人が、新しい時代のプロフェッショナル像について語ってくれた。
BCGデジタルベンチャーズ(以下、BCGDV)は2014年に米国ロサンゼルスで誕生した、大企業と共にデジタル領域のイノベーションを創出することに特化した組織だ。
デジタルが全てに絡んでくると言っても過言ではない昨今、イノベーションの実現を目指す大企業の変革パートナーとして、さまざまな新しいサービス、事業を次々と生み出している。
2016年、日本のBCGジャパンでパートナー&マネージング・ディレクターを務めていた平井陽一朗氏のリードで、東京にBCGDVの日本拠点が設立された。すでに大企業との変革プロジェクトが複数進んでいる。
――お二人がBCGDV東京オフィス設立の立ち上げメンバーとなったのは、どのような経緯があったのでしょうか?
平井陽一朗氏(以下、平井):
BCGDVは、クライアントである大手企業と進めるイノベーション創造プロジェクトで、アイディアの創出、新事業の戦略立案から、実際のサービス立ち上げまでを手掛ける、コンサルティングとスタートアップベンチャー、ベンチャーキャピタルの機能を併せ持つ組織です。
私はBCGを1度退職したのですが、コンサルタントとして大手通信事業会社の案件に深く関与した経験があり、またその後のキャリアでは、ディズニーやオリコンでエンターテインメントに携わりながらデジタル領域の事業にも関わってきたため、この分野には人一倍思い入れがありました。
ところがBCGに復帰して改めて市場を俯瞰してみると、日本の産業界のデジタル事業は完全に世界の先進勢力から周回遅れの状態でした。グローバル規模で存在感を発揮するようなスタートアップベンチャーもいまだ生まれていません。「何とかしたい」という気持ちが、BCGDV東京オフィス立ち上げ責任者を務めることになった、最も強い動機です。
日本の大企業に変革を起こし、揺り動かしたい。また、日本の大企業には、アセット、つまり豊富な資金と優秀な人材が多く潜在していることを、さまざまな経験を通じて実感していましたから、この「眠れる資産」を引き出してビッグ・ベンチャーを創出し、大きなインパクトを生みたいと考えたのです。
山敷守氏(以下、山敷):
私も「大企業の潤沢なリソースを存分に活かして、大規模なイノベーションを実現させたい」という気持ちがあり、前職を退いていました。そのようなタイミングでたまたま平井と出会い、BCGDV東京オフィス設立時から参画することになったのです。
――BCGDV東京オフィス設立後、約1年が経過しましたが、現状はいかがでしょうか?
平井:
まだ数十名ほどの小さな組織ですが、それぞれ異なる専門分野で力を磨いてきたプロフェッショナルが在籍しています。山敷をはじめ、プロダクトマネジャーたちは、これまで起業や新規事業の立ち上げを経験してきていますし、ストラテジックデザイナーやエクスペリエンスデザイナーの多くはデザイン領域で実績を上げてきた者たちです。そういった多様な専門性を持つメンバーが協働し、プロジェクトに取り組んでいます。
企業からは、我々が驚くほど反響をいただいており、複数の大きなプロジェクトが動き続けています。
山敷:
私自身も今、メディアコマースに関わる長期的なプロジェクトを担当していますが、BCGDVと日本の大企業との間でスタートしている取り組みは、いずれもダイナミックで革新的な内容です。近い将来、市場に大きなインパクトを与える可能性に満ちています。
――プロフェッショナルとして成果を出し続けてきたお二人から見て、これからの時代、ビジネスプロフェッショナルへの成長を目指すのであれば、何が重要だと思いますか?
平井:
プロフェッショナルという言葉にはいろいろな意味合いがあります。コンサルタントやエンジニア、デザイナーなど、職種ベースで何を目指すのか、どんな専門性を磨くのか、という発想で語られることもありますが、ここでは“成果にコミットできる人材”という捉え方でお話しすると、私が大事だと思うのは「自活力」です。
具体的に申し上げると、どこに行っても1人で生きていける力のことです。
例えば、私の周りには学歴や専門知識などとは無関係に、自営業で成功している知人・友人が大勢います。いわゆるエリートではなく、選択肢もある程度限られていたからこそ、情熱を力にして、圧倒的なパワーで目の前の事業を成立させることに成功している。こういう人たちは、まさに自活力があると言っていいでしょう。
では一方で、有名大学を出て学歴的にはいわゆるエリートと言われる人たちはどうかというと、良くも悪くも雑音にさらされやすいと思います。
「やりたい」と思ったことを自分から取りにいかなくても「できますよ」という雑音があちこちから届き、選択肢が無限に広がってしまう。その結果、思い切った選択をする人間がごく少数になっている気がします。
山敷:
確かにそうですね。私はその少数派でしたが、やはり一般的には、ファーストキャリアでは大企業に入るような道を選びがちということは言えると思います。
平井:
実は、私自身がそうでした。このようにお話しすると、大企業に入ることがややネガティブに映るかもしれませんが、大企業に入ったからこそ手に入る「ビジネスを拡大させる力」というものもある。それは、紛れもない事実です。
理想は、「自活力」と「ビジネスを拡大させる力」、この両方を併せ持ち、ブレンドして活用していくことじゃないかと思うのです。
自活力はあるが、ビジネスを拡大できない。ビジネスを興す知見はあれど、成し遂げる自活力がない。どちらか一方だけでは、新しいビジネスやマーケットを作ってイノベーションをリードするプロフェッショナルにはなれないと思います。
山敷:
大企業のように恵まれた環境に入ると、2つのタイプに分かれるような気がします。「安定した収入があるから、それで幸せ」と思える人間と、あえてリスクや責任の重い仕事、例えば新規事業などに果敢にチャレンジしようとする人間。
平井:
前者のような人たちの、そういう生き方も一つだと思いますし、後者のような人であっても、なまじいろいろなことができる環境と立場を手に入れてしまったがゆえに、器用貧乏になってしまうパターンもあります。
こうなると、最初に挙げた自活力がある人たちが持っているような熱量を発揮しないまま、「何がしたかったんだ、自分は?」となって埋没していく人も少なからずいます。
――入りたい会社に入って、やりたい仕事にも就いたけれど、いつの間にか閉塞感を覚えて……というケースは多そうです。
平井:
そうですね。何になってもいいし、どんな会社に入ってもいいけれども、重要なのは、とにかく最初の数年間にどれだけ意志を持って、自活力を磨けるかどうかで後々違いが出てくる、ということです。
ビジネスを拡大させる力は後から強化していける可能性がありますが、自活力は最初を逃すと致命的だと思います。
山敷:
私は学生時代から事業立ち上げに興味があり、いろいろなことにチャレンジしました。
最初に手掛けたのはフリーペーパーの事業です。全然スマートさはなく、足を使って泥臭く営業して広告を取ったり、という感じでしたが、どうにか事業として成立するようになりました。これも自活力の一つだと思うのですが、立ち上げてみると「なんだかスケールが小さいな」という感覚を味わい、もっと大きなビジネスを仕掛けたくなりました。
結果、SNSを運営する会社の立ち上げに参加し、一時期は多少成果も上がったのですが、ベンチャーは経理でも人材採用でも、とにかくあらゆる業務をすべて自分でやらなければならない。サービスだけに集中できる環境じゃないんですね。ヒト・モノ・カネに悩むことのない環境で、思い切り事業に没頭してみたいと思うようになって、最初の会社に入社することを決めたのです。
平井:
もちろん学生起業家で成功して、その会社をどんどん拡大していけるならば、それは素晴らしいことだけれど、必ず壁のようなものが現れる。
山敷が在籍していたメガベンチャーは、次々に新しいことを手掛けていたから、より大きなスケールの挑戦をするには、環境として申し分なかったはずだと思います。
山敷:
私にとっては本当に理想的な場でした。この会社にあるものを好きなだけ使って新しいことをしていい、その代わり成果を上げろ、というような企業でしたから。
1つ新しい事業を軌道に乗せた後、また別の新しい事業にチャレンジしたくなって、さすがにその時はすぐには許可をもらえず、「今の仕事は200%やりますから、こっちもやらせてください!」と直訴して、無理を通したこともありました(笑)。
平井:
私がそもそも三菱商事を辞めてBCGに入社を決めたのも、「頭はいいけどビジネスをやらせたらオレの方が上」なんて思っていた友人がBCGに入社して、久しぶりに再会したら、ものすごくデキるビジネスマンに成長していて、正直それが悔しかったのがきっかけです。BCGという場を最大限有効活用して、自分も大きく成長したいと考えました。
その後も「やりたい」と思える仕事が現れると、後先を考えずに転職したりもしました。それでも大企業という枠組みの中で、その会社が持っているリソースを活用しながら多くのチャレンジをさせてもらえたおかげで、私なりの自活力が手に入ったのだと思います。今、BCGDVでの仕事を心から楽しめているのも、そうしたすべての経験が活きています。
山敷:
私は前職でも、さまざまな新規事業に携わり、一定レベル以上の数字が出るものもありました。が、目指すレベルの成果には程遠かった。「このままではいけない、自分のやり方を根本的に変えなきゃダメだ」という思いから、前職の環境から飛び出し、武者修行をしようと決めたのです。自分の考えが甘いせいなら、それを正したい、というその一心でした。
BCGDVを修行の場として選んだのは、大企業のアセットを活用してベンチャーを立ち上げるというその仕組みを純粋に面白いと思ったことに加えて、まさに自分のこれまでの経験を活かし、かつストレッチできるチャンスがあると確信したからです。
ここは、当然自分も一人のプロフェッショナルとして価値を発揮することを強く求められる環境ですし、その期待に必ず応えようと決意して飛び込みました。
それに、BCGDVメンバーには会社から何かを「与えてもらおう」という発想がありません。常に「利用してやろう」というスタンスで、そこも自分の価値観とフィットしたのです。
平井:
当時の山敷にとっては、立ち上げメンバーの一員としてスタートできることも、魅力の一つだったろうね。
山敷:
そうですね。BCGDVの日本での展開がどうなっていくか、よく分からない状況の時から話を聞いていたので、よりワクワクしました。
自分の場合、この先どうなっていくか、レールが見えてしまうと、いかに終着点まで効率良くたどり着くか、という発想になっていきます。つまり、楽をしたり、手を抜くことを考え始めたりするのです。
それでは仕事は楽しくなくなってしまう。仕事は頑張って無我夢中で走ってこそ楽しいものですから。
平井:
以前、上司に退職意思を伝えた時、「平井君にはこれから出世が約束されているのだから、今辞めてはもったいない」と言われたことがありました。それを聞いた瞬間に、「よし、辞めよう」と即座に決めたのを覚えています(笑)。
ゴールが見えると、途端に目の前の風景が色褪せる感覚は、私も本当に共感できます。
何も、私や山敷のような考え方がベストとは思わないけれども、例えば人生100年のうち、70年近く仕事に携わるとして、70年先まで計画を立てるなんてできるはずがないし、全くの無意味。70年後に後悔しない人生であるために、目の前の5年間で何を選択し、為すべきかを考える方がずっといい。先の見えない時代だからこそ、面白いのです。
精一杯やりたいことに食らいついて、活用できる会社のリソースがあるなら、人でも知識でも何でも遠慮なく活用させてもらうべきです。そうすれば自然と自活力は養われるし、不透明で不確実な時代であってもきっと生き抜いていけると思います。
――最後に、お二人はこれからどんな挑戦をしていきたいとお考えですか?
山敷:
私は初めてFacebookを見た時の衝撃が忘れられません。いつか自分も、世の中に圧倒的なインパクトをもたらす、優れたサービスを自分の手で生み出し、大きな事業に育てていきたい。学生時代からずっとそれを目指してきました。
私にとっては、仕事は自分がやりたいことを実現するための手段です。何歳になっても、自分が誇れるサービスを創り続けていきたいと考えています。
平井:
若いころは物質的な欲望ばかりで、たくさんの収入が欲しいだとか、あの車が買いたいだとか、そういうことばかり考えていました(笑)。
しかし、歳を重ねた今は、社会貢献性の高い、インパクトの大きな仕事を手掛けたいという思いが強くなっています。
BCGDVのミッションは大企業が潜在的に持っている力に火を付け、変革を起こすこと。我々が介在することで、新しい挑戦に踏み出す機動力を失っている大企業に一歩踏み出す成功体験をしてもらい、硬直化した文化を壊していけたら、やがてそれは日本の産業界を変える大きなうねりへとつながっていくかもしれません。
日本企業の未来を変える起爆剤となる。そんな壮大な挑戦を仕掛けていきたいと思っています。
学生の皆さんの中には、今の時点ではやりたいことが明確になっていない人もいることでしょう。長期的な視点をもって5年後10年後を考え、その先役立つであろうことに挑戦しつつ、自分がやってみたいこと、得意なことをつくっていくのでも遅くはない。ただ、変動の大きいこの時代、組織力に依存せずに活躍できる自活力を、ぜひ意識して鍛えていってほしいと思います。
取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴
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