自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――?
これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について経営コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。
第5回は、「より良い社会の実現につながる仕事とは何か?」に迫る。官公庁はもとより、NPOやコンサルティングファームがさまざまなアプローチで社会変革と密接に関わり始めている今、「仕事を通じた社会変革」の在り方をどのように捉えるべきか? 三者三様のキャリアの持ち主による座談会から読み解いてほしい。
――まずは皆さんがファースト・キャリアを選択した経緯を教えてください。
石田春菜氏(以下、石田):
学生時代から「どんな職業を選んでも1日の多くの時間を仕事に費やすことに変わりはない。それならば社会に何かしらでもインパクトを出せる仕事がしたい」と考えていました。
当時の私の発想では、国で働くことが一番社会へのインパクトを創出しやすいと思えましたし、幼い頃から海外に興味を持っていたので、単純かもしれませんが最初の就職先は「外務省」という答えにたどり着きました。
小沼大地氏(以下、小沼):
私の場合、学生時代は体育会系一色で生きてきたこともあり、「教職に就き、何らかの部活の顧問になりたい」と考えていました。そして「教師になる者が社会を全く知らないままなのは良くないだろう」という考えから、大学院を一旦休学して青年海外協力隊への参加を決めたのです。
シリアでの活動に参加する中で、コンサルティングファームで働く方と出会ったのですが、その方のキャリアについての考え方に強く影響を受けました。「これからは社会貢献とビジネスとがクロスオーバーする領域でこそ、大きなインパクトを生み出せるはずだ」と言うのです。
教師志望だった私は、それまで「ビジネスなんて、ただの金儲けじゃないか。興味ない」などと感じていたのですが、「何か面白そうだぞ」と、俄然興味を持ち始めたのです。シリアで出会った方への憧れもあり、コンサルタントになろうと決め、マッキンゼーにに入社し、約3年間働きました。
菊池沙織氏(以下、菊池):
私は法律家を目指すべくロースクールに通っていたのですが、事後の紛争解決に奔走する法律家ではなく、未然に事を防ぐために企業をサポートするビジネス・ロイヤーのような職業に就くことを、最初は何となくイメージしていました。しかしその後、当事者の視点から法律を解釈するよりも、法律や社会の仕組みそのものを作りたいと考えるようになったんです。
もともと暮らしやすい日本が大好きだったので、少しでも日本のためになる仕事がしたいという気持ちもあり、「日本が国際的な発言力を持っている背景には経済力がある。経済にばかり頼るのもどうかとは思うけれども、やはり最低限の経済力がなければ、国の幸福度は上がっていかない。これからの日本はどのように経済力と発言力を維持していけばいいのだろう」などと考えるうちに、このような課題と真正面から向き合いたくなっていきました。
そこから先は石田さんの学生時代と少し似ています(笑)。単純に「それなら経済産業省だろう」と思い、入省を決めたのです。
――小沼さん、石田さんのお二人がキャリアチェンジをした背景にはどのような思いがあったのでしょうか?
小沼:
私の場合「国や世の中をこの手で変えるぞ」というような崇高で壮大な志を持っていたわけではありません。今も胸の内にあるのは、「一隅を照らす存在でありたい」という思いです。国とか世の中というスケールではなく、自分の身の回りにいる人たちの役に立ちたい、という気持ちでNPO(クロスフィールズ)も設立しました。
この団体で提供している『留職』プログラムは、日本企業の方々をアジアの新興国に一定期間派遣して、ご自身が持っている専門性や仕事で得た知見を活用しながら現地の社会課題の解決に貢献してもらう、という内容です。この仕組みを考えたきっかけも、周囲の同年代の友人たちが社会に出て数年経ち、仕事への情熱ややりがいを失い始めている姿を見て、「どうにかしたい!」と思ったことでした。
一足飛びに「国を変える」ようなことはできなくても、日々の仕事を通じて身近な人たちの役に立てたり、周囲の環境を少しずつ良くしたりすることはできる。そう気付けば、どのような仕事をしていても確かな手応えを感じて、前向きに生きていけるのではないか。自分の仕事の意義を再確認する場として、留職を活用してほしいと考え、スタートしたのです。
石田:
役人になるとか、コンサルタントになるとか、そういう特定の職業を選択した人だけが社会を変えるのではなくて、どのような仕事をしていても一人一人の心持ち次第で社会的意義は生まれてくる、という発想ですよね? 私もすごく共感します。
小沼:
何の仕事を選ぶかで「社会を変えられるかどうか」が決まるのではなく、どのような仕事であっても「少しでも世のためになれたら」という思いを込めて青臭く働くことはできるし、皆がそうするだけで世の中はもう変わり始めると思うんですよね。
菊池:
私もそう思います。すべての仕事は社会につながっていますものね。
小沼:
だからこそ、菊池さんも参加している『次官 若手プロジェクト』の報告書にはドキッとしました。今後の社会貢献について、いろいろ触れられていましたから。
菊池:
短期間で100万以上ダウンロードされ、賛否両論のいろいろな反響がありましたから、作成した私たち自身も驚いたのですが、多くの方に反応してもらえたことはやはりうれしかったです。
調査をしていて気になったのは、今の若い世代が「社会に貢献したい」と思っていながら、「自分が社会を変えられる」と思っている人は少数派だった点ですね。
中には「社会を住みやすく変えるのは官の責任。なのに問題提起に終始していて解決策が提示されていない」というご意見もありました。もちろんそこは厳粛に受け止めたのですが、逆に「官も民も一緒になって取り組めたら、もっと変えられる」という思いがより一層強くなったのも事実です。ですから、先ほどの小沼さんや石田さんのご意見には、私も強く共感します。
石田:
私は官庁に9年勤めてからBCGに転職しましたが、官庁での仕事に限界を感じて辞めたわけでは決してありません。オリンピックの招致など本当に面白くてやりがいのある仕事をいくつも経験させてもらいました。少しは世の中に貢献できたはず、という自負も持っています。
転職を決めた理由は家庭の事情もあってのことですが、公務員として働く中で、むしろ「社会に貢献するためのアプローチは、何も官庁でしかできないわけではない」と気付いたことが大きいですね。
コンサルティングは企業の経営課題を解決する仕事ですが、クライアントのビジネスをより良くすることで、その先にあるクライアントの顧客により高い価値を提供できる。結果、クライアントを通して社会に大きな貢献ができていることを実感しています。
小沼:
その通りですね。私がマッキンゼーを退職した理由も、「コンサルタントという職業には社会的意義がないから」ではありません。むしろ大ありなのだと在職中に学びました。
私はちょうどリーマンショック直後に入社したため、「クライアントの収益をどう確保するか」が至上命題ではありましたが、そこに終始せず、すべてのコンサルタントが「産業を復興させることで社会を甦らせて、幸せな世の中を取り戻そう」と真剣に考え、議論していました。
たまたま私は、シリアで得た「社会貢献とビジネスを融合させる」というテーマに挑むという目標があり、当初から「学びの場として3年間コンサルタント経験を積もう」と計画していたので、時期が来て次のステップへ進んだというだけのことです。
石田:
外資系コンサルティングファームで働いていると言うと、いまだに「お金を稼ぐため」とか「出世競争がすごい」といった誤解や偏見を受けることがあります(笑)。
しかし、公務員の世界から来た私が驚くぐらい、コンサルタントたちは皆、社会のあるべき姿やそこに向けた変革への情熱を持っていて、日々の仕事を通してより良い世の中を実現することに意欲的です。実際、コンサルティングファームは今、多くの官庁と社会変革プロジェクトを進めていたりもします。
菊池:
そうですね。協業することも多いですよね。私たちパブリック・セクターにもコンサルタント出身者は少なくありませんし、逆に石田さんのように官僚からコンサルタントになる方もいます。
コンサルタントの間違ったイメージ同様、官僚もまた誤解されているところが多いと思います。経済産業省も本当に多様な人間が集っていますし、世の中のあるべき姿やそうしていくための方策論などを年中議論しています。世間に思われている以上に、自由闊達で風通しの良い組織ですよ。
――「より良い社会の実現につながる仕事とは何か?」という問いに対して、皆さんは「職業で決まるわけではない」という共通見解をお持ちです。では、どのような働き方をすれば、より良い社会を創る担い手になれると思われますか?
小沼:
私たちNPOの間で最近よく語られるリーダーシップ論の一つに「トライセクター・リーダー」があります。簡単に説明すると、非営利団体、民間企業、公共機関の3つのセクターの特性や強みを熟知していて、三者の融合を図れるリーダーが社会変革を成功させる、というものです。
このトライセクター・リーダーの発想をもう少し拡大して解釈すると、複数の“場”をまたがって経験した人こそが、これからの時代のリーダーにふさわしい、と理解することもできます。ここで言う“場”とは、全く違う視点やスキルを持つ立場という意味です。
実はクロスフィールズの留職も、企業人のセクターを広げ、異なるセクターとの接点を提供することで、成長を実現してもらうプログラムだと言うことができるんです。
石田:
特殊なキャリアや立場に就いていなくても、セクターを広げたり、またいだりする経験はできるし、そこで貴重な体験を得れば、「より良い社会の担い手」になれる、ということですね?
小沼:
そうです。留職を通して私たちが提供したいのは、「自分」と「仕事」と「社会」という3つのセクターが一直線につながっていることを体感すること。これが後のキャリア形成の“原体験”となると考えています。
例えば初期の留職プログラム参加者の中に、電機メーカーの方がいらっしゃるのですが、この方はベトナムの無電化地域に派遣されました。すると、持ち前の知識や技術を応用して太陽光を利用した家電の改良に携わり、大いに現地の方々に喜ばれました。
その方自身も「自分の仕事が、こんなにもダイレクトに社会の役に立つのか」と改めて実感でき、それまでとは仕事への向き合い方が一変したそうです。その後、現地での気付きを活かしてIoT家電領域で新たな製品を考案し、現在はその新規事業をリードされています。
菊池:
すごく興味深いお話ですね。私は以前所属した新規産業室という部門で、「どうすれば日本の大企業がベンチャーのような斬新な発想による新規事業でイノベーションを起こせるのか」について頭を悩ませていた経験があります。
年功序列などの古い慣習の名残がある大規模な組織の中で、個人が埋没せずにアイデアを形にして、それを組織が取り上げ、膨らませていく営みは、なかなか成功事例に結び付きません。もしかしたら働き方や、原体験の持ち方によって、この問題は打開できるかもしれないし、そもそも大企業で働く方の意識自体が変わりますよね。小沼さんが例に出された家電メーカーの方のようなケースが増えれば、社会は確実に変わっていくと思います。
石田:
私はBCGで海外企業との合弁事業に関連するプロジェクトを多く担当していますが、企業の経営陣もグローバル展開を進める中で、他企業とのコラボレーションを通し、「セクターを越える」チャレンジを積極的に進めようとしています。トライセクター・リーダーのお話がありましたが、各方面で着実に何かを変えようとしているのは間違いないですよね。
――最後に「世の中に貢献したい」という気持ちで就職活動時期を迎えている学生に、皆さんからアドバイスをお願いします。
菊池:
現代の若者は変化の時代の荒波の中、「ただお金を稼ぐためだけでなく、少しでも社会に貢献できる働き方をしよう」という層と、「こんなにリスクだらけで先が見えない世の中なのだから、何かにしがみついて静かに生きていこう」という層に、二極化しつつあるのではないでしょうか。
もしも皆さんが前者であるなら、「何になったらできる」とか「どういう機関にいないとできない」というような固定観念にとらわれず、どんな立場でも「どういう社会にしたいのか」を考え続けてほしいと思います。そして後者であっても、皆さんを取り巻く社会への関心を失わないでほしいです。
高齢化も相まって人生二毛作、三毛作の時代と言われています。1つのキャリアで全てを達成しなくとも、「いつからいつまではこの価値観で社会を見てみる」「もし足りなければ違うアプローチを試してみる」というような柔軟な発想と、緩やかな計画性を持って社会に出たら、きっと巡り合う仕事の一つ一つを面白く感じるはずです。
石田:
私は、今という時代には2つの「ソウゾウリョク」がとても大事だと思っています。イマジネーションの“想像力”と、クリエーティブの“創造力”です。
まずは「今手掛けている自分の仕事は、一体何のためにあるのだろう。社会の何につながっているのだろう」という想像力を発揮する。そして、その答えらしきものが見えてくれば、その時点から創造力の方をフルに使って、自分ならではのアプローチをすればいい。
こうして2つのソウゾウリョクを駆使していけば、どのような仕事でも、社会を良くすることにつながっていく。そう私は考えています。
小沼:
先ほどもありましたが、「この職業に就いた人だけが社会を変えていく」というわけではありません。自分と仕事と社会とを一直線でつなぐことができたら、誰だって、どんな職業に就いていたって、社会変革につなげていくことは可能です。
「でも、どういった仕事に挑戦すればいいのか分からない」というのであれば、とにかく何かに飛びこんでしまえ、と言いたいですね。極端な例かもしれませんが、石田さんがおっしゃったような想像力を持ち合わせていなかった学生時代の私は、電車の中で広告を見つけて、青年海外協力隊に飛び込みました(笑)。けれども、飛び込んだことで次のキャリアにつながる出会いや学びを得たのです。
何もしないで考え込んでいるくらいなら、思い切った場面に自分を投げ込んでみる。そこで五感を研ぎ澄ませながら体験を重ねていけば、ようやく鈍かった想像力が稼働するかもしれない。私の場合はそうでした。まず行動。そこでキャリアについての解像度を上げていく。先が見えない時代だからこそ、そのようなアプローチで挑戦してもいいのではないかと私は思います。
石田:
キャリアの違いこそあれ、お二人の考えに共感できることが多くて驚きました。逆に立っている場所が違うからこそ、それぞれの強みや特徴を活かしたアプローチで社会変革や課題解決につなげることができるとも思います。
仕事を通して想いを社会につなげていく。世の中に役立ち、良い方向に変えていく。これから社会に出て行く学生の皆さんにもこの想いを持ってそれぞれの仕事に向き合っていただけたら、未来の社会を変革する原動力になると信じています。
(取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)
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