ビジネスパーソンの転換点を深掘り
キャリアの成長 Before/After
効率や最短ルートの追求だけが「いい仕事」なのか? ビジネスパーソンとしての成長は、試行錯誤を必要とする困難や挑戦を乗り越えた先にあるはずだ。
本特集では、各企業の第一線で活躍する社員のキャリアにおける成長のBefore/Afterを深掘り。彼らが壁を乗り越え、飛躍を遂げたリアルな姿から、効率だけでは語れない仕事の奥深さと、確かな成長イメージを学ぶ。

副調査役


社会の未来を見据えた構想を推進する
産・官・学あらゆる立場の意見を集約し、
脱炭素社会の実現に向けた地域の未来を描く日々
政府系金融機関である日本政策投資銀行(以下、DBJ)は、短期的な収益にとらわれず、社会的意義の高い取り組みに対して長期的な視点で支援を行う組織です。官公庁・地域・企業など、多様な立場の間に立ち、社会課題の解決や地域の持続的成長を支えています。私が入行3~4年目に担当した、東北地域でのカーボンニュートラル推進の取り組みは、そうしたDBJの姿勢を表す事例であると同時に、「課題解決のために、自ら局面を動かす」という仕事の本質に初めて触れた転換点になりました。
対象地域は、製造業の工場が集まる工業地域。そのためCO₂の排出量が多く、環境面での大きな課題を抱えていたのです。自治体や地場企業もその課題を認識していたものの、関係者が共通の方向性を持ち、連携して取り組むための体制は十分に整っていない状況にありました。そこでDBJが中心となって、議論の推進とそのための体制づくりをすることになったのです。私はまず、地域内外のステークホルダーの声に丁寧に耳を傾け、課題や論点の整理から着手しました。自治体や企業を一つ一つ訪ね歩き、想いや懸念に向き合いながら情報を収集。そこから得た知見をもとに、目指すべきビジョンと関係者間で議論すべき観点を明らかにしていきました。その過程では企業の取締役や自治体の管理職と対等に意見を交わす場面も多く、年次の浅い自分の言葉がDBJの意思として受け止められる重責を感じる瞬間も。そうした局面ではDBJ内の他部署の専門家にも積極的に支援を仰ぎ、行内に蓄積された知見やノウハウを活かしながら準備を重ねて議論に臨んでいました。
初期段階はなかなか議論の輪が広がらず、手応えを感じにくい日々が続きました。それでも地道な訪問を重ねる中で、取り組みに強く賛同してくださる地元企業の方と出会えたことが転機となります。その方の後押しによってさまざまな立場の関係者をつなぐ場をつくることができ、根気強く対話を重ねたことで多くの方が今回の取り組みに共感してくださり、最終的には地域で将来の方向性を議論するための基盤を築くことができました。地域全体の構造や将来像を見据え、自ら目指すべき方向を定めた上で、多様な関係者を巻き込みながら実行していく。その一連のプロセスに主体的に関わる中で、自分の思考にも大きな変化が生まれました。複数の視点を持ち、相手の立場や背景をくみ取りながら議論の質を高めていく姿勢も、この現場で自然と身に付いたように感じています。
こうした経験を積めた背景には、DBJの年次の浅い若手にこそ挑戦を託す社風があります。入行後7~8年はジョブローテーションで幅広い経験を積む制度があり、私自身も「多様な関係者と地域課題に向き合う業務に携わりたい」と志望し、異動直後にこのような案件を任せていただきました。
今後も地域やテーマを限定することなく、複雑化する社会課題に対して、持続可能な解決の基盤を整えるような仕事に挑み続けたいと考えています。そのためにも、若手のうちは産業・地域・ファイナンスの各分野で幅広い経験を重ね、社会を俯瞰する視座と多様な専門性を培っていきたいです。