2021/12/9 更新 ソフトバンク

孫正義が未来を“ちょっと先読み” 人と「スマボ」が共に働く世界

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2021年9月、ソフトバンクなどが主催する『SoftBank World 2021』が開催された。基調講演に登壇したソフトバンクグループ代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏は、「ロボットが日本の成長戦略のかなめになる」と発表。
労働人口減少、生産性の低下など、世界市場で競争力を失いつつある日本の立て直しにはスマートロボット、略してスマボの活用が欠かせないと語った。
では、あらゆる産業でスマボの活用が進んだら、私たちが働く世界はどう変わるのか。就職後に訪れる、未来の社会の姿を想像してみよう。

ソフトバンクグループ
代表取締役 会長兼社長執行役員
孫 正義氏

1957年8月、佐賀県鳥栖市生まれ。81年、日本ソフトバンク設立。96年ヤフー社長、2006年ボーダフォン日本法人(現ソフトバンク)社長、13年米スプリント会長に就任。17年、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立し、世界のAI関連企業に投資する。同年から現職

労働人口の減少、生産性の低下。日本の競争力は落ち続けるだけなのか

先日、テスラが人型ロボット『Tesla Bot』を発表しましたね。これを見て、胸が躍りました。近い未来に、本格的にロボットがわれわれの暮らしの中に溶け込んでくる。すると、人間とロボットの関わり方、共存の仕方も変わってくることでしょう。

そして、私はこのロボットこそが、日本が競争力で世界一に返り咲く、成長戦略のかなめになると信じています。

皆さんは、社会学者エズラ・ヴォーゲル氏の著書、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』をご存じでしょうか。高度経済成長以降、世界をけん引する存在となった日本について論じた同書は、当時日本でベストセラーになりました。

自動車、エレクトロニクス、半導体……あらゆるテクノロジーが次々と生まれ、世界市場における日本の競争力は世界一に。国内総生産(GDP)もがんがん上がり続ける。そういう勢い真っ盛りの時期があったのです。

では、その後どうなったのか。同書の出版から10年もたつと、日本の競争力はあっという間に低迷しました。日本のGDPはアメリカに次いで2位でしたが、現在は中国に抜かれ、3位です。「まだ3位か」という人もいるかもしれませんが、競争力が低迷しているということは、GDPも低下する。これは、日本にとって危機的な状況です。

そもそも競争力とは何か。シンプルに言えば、「労働人口×一人あたりの生産性」です。日本は少子高齢化社会を迎えていますから、労働人口は減っていく一方なのは明白ですが、生産性はどうか。こちらも、残念ながら低下しています。

労働力人口が減り、生産性も落ちている……となれば、日本の競争力は下がるしかありません。でも、労働人口は急に増えません。このまま、日本は衰退していくしかないのか。そう問われたら、皆さんはどう思いますか。

衰退するのは避けられないけれど、小さくても美しい国であればいいのではないか。そう言う人もいるかもしれません。でも、経済の復活がなければ、日本人の生活は本当の意味では豊かにはならない。私はそう思うのです。

スマホが一瞬で人類の未来を変えたように
「スマボ」が世界の常識を塗り替えていく

では、日本復活のカギは何なのか。それは、「スマボ」です。私の造語ですが、「スマートロボット」の略です。

われわれはかつて、日本の通信の世界がガラケー一色だったところに、あのスティーブ・ジョブズと組んで、iPhoneを導入しました。当時、日本の通信企業の社長や役員、専門家、メディアの方たち皆に言われたのは、「iPhoneなんて売れない」ということ。こんなよく分からないものが世界最先端の携帯大国で売れるか、と非難されたのです。

でも、スティーブがiPhoneの試作機を初めて見せてくれた時、私は感動で言葉を失いました。そして、両膝はガクガクと震えた。まさに“ガクブル”状態。その、自分の感動を信じたのです。

結果は皆さんもご存じの通り。この、スティーブのたった一発の発明が、その後の人類の未来を変えました。ガラケーからスマホの時代に、一瞬で塗り替わったのです。今、それと同じことが起きようとしています。

これまで日本はロボット大国だといわれていました。世界の製造現場で最も使われているのは、日本で作られたロボット。あらゆる製造現場で日本のロボットが活躍しています。

しかし、これは「ガラボ」です。つまり、ガラケーと同じようなロボット。これからの時代は、スマホが一瞬で世の中を変えたように、スマボがロボットの世界を塗り替えていく。私はそう考えています。

ガラボとスマボの違いをご説明しましょう。

ガラボは人がいちいちプログラムしなければいけません。重たいものを持ち上げる、正確にスクリューを回すなど、どこで、どんな速さで、どんな動きをさせるか、人間がいちいち取り決めて設定する必要があります。「まるであの人、ロボットみたい」という言葉に象徴されるように、決まりきったことしかできない不器用なロボです。

一方、スマボはどうかというと、AIで自ら学習します。臨機応変に、見て・聞いて・学んで、自分で動作を変更する。いちいち細かいプログラミングをする必要がありませんから、ありとあらゆる産業で使われていく可能性を秘めています。

機械的な人間の方が、柔軟に学習するスマボに比べてよほど機械的。フレキシブルに変化し続けるスマボは、人と比べてより人間的に進化する――。ロボットのように働く人間と、人間のように働くスマボ。双方の特徴が逆転してしまうような世界がやってきそうです。

スマボの普及で人が人らしく働ける世界をつくる

私は2014年の『SoftBank World』でも、「これから人とロボットが共に働く時代がやってくる」とお話しました。でも、当時はまだ、AIといってもディープラーニングは普及しておらず、AI自体が実用的なものに進化してはいない時代。ガラボがスマボに生まれ変わる、ちょうどその入り口のような時期でした。

世間からは「孫正義は自分では何も作ったことがない」と言われることがあるのですが、私は、「時代の流れを人よりもちょっと早く、ちょっと的確に読む」というのが昔から得意でして。インターネットを一人一人が当たり前のように使う時代がやってくるぞ、ということや、通信に関しては固定電話からモバイルの時代へ変わるぞ、ということを予見し、先手を打ちました。

そして、同じモバイルでも、ただの通話機ではなくインターネットマシンとしてのモバイルが重要になると読んで、iPhoneの導入に踏み切った。それと同じ用に、AIの時代が来る、ロボットの時代が来ると申し上げてきました。

そして今、その二つを掛け合わせて、「これからはスマボの時代が必ずやって来る」と確信しているわけです。

労働時間は人間の約3倍で、生産性は3.5倍
1億台のスマボ導入で10億人相当の労働力に

スマボは、あらゆる労働人口に置き換わる可能性を秘めています。人間は労働時間8時間で週休1~2日という場合が多いですが、スマボは1日24時間365日働き続けることができます。さらに、AIの活用で生産性も3.5倍にもなるという試算も出ている。

1日あたりの労働時間は人間の約3倍で、生産性は3.5倍ですから、約10倍の競争力をスマボは持っていることになりますね。単純な計算ですが、1億台のスマボを日本に導入したら労働人口で10億人に匹敵するのです。

ソフトバンクグループは、今後このスマボの普及にさまざまなかたちで貢献していきたいと考えています。

そして、私が目指したいのは、新しい時代を切り開いていく「情報革命の資本家」であること。お金を集めるのではなく、未来をつくる資本家になる。これが私の願望であり夢です。

そのためにこの5年間は、数々の未上場のAI・ユニコーン企業に資本提供をしてきました。それらは、国内企業に限らず、世界各地に本拠地を構える企業です。

そして、われわれのビジョンファンドが資本を提供しているAI・ユニコーン企業は300社まで拡大。そのうち、スマボ企業は18社あり、世界最先端のスマボ企業が集うグループになっています。

何度でも言います。日本の復活のカギ、それはスマボです。スマボの普及によって、光り輝く日本の未来がこれからやって来る。「どうせ日本は衰退する」なんて、悲観したり、諦めたりしなくていいのです。少なくとも私は、情報革命の最先端で未来をつくっていく企業や起業家たちを資本の面から応援することで、明るい未来をつくっていきます。

情報革命で、人々を幸せに――。心の底からそう願っています。

取材・文/栗原千明(編集部)
撮影/桑原美樹(※2019年のSoftBank World撮影時のものを使用しています)