ライフネット生命保険の開業から、もう10年が過ぎました。ところが今でも、周囲の人から「飽きないの?」「いつまでやるの?」と聞かれることがよくあります。そのたびにいつも不思議に思いますね。時に新規事業をけん引したり、海外の株主とガチガチの交渉に臨んだり、かと思えば若い社員たちと交流したり、経営者の仕事は多岐にわたり、全く飽きることなどありません。
何よりも、僕は人が好きなんです。仲間と一緒に何かを成し遂げたい。それも、多くの人の人生に影響を与えるような成果を出して、社会に足跡を残せたらと思っています。そして、どうせ大きなことに挑戦するなら、自分にしかできないことにチャレンジしたい、という気持ちも強くあります。振り返れば、僕はずっとこの3つを追い求めてきました。僕にとってライフネット生命は、まさにこの全てを満たす仕事なのです。
おそらく「飽きないの?」と聞いてくる人は、保険業界は規制に縛られていて不自由だというイメージを持っているのではないかと思います。でも、だからこそ自分たち次第で、いろいろな挑戦ができるのではないでしょうか。
もともとライフネット生命を開業した当初は、「ネットで生命保険を売る」というだけで、随分注目を集めたものです。まだ小さな会社ながら、それまでの常識を打ち破る商品やサービスを次々に打ち出して、世の中にさまざまな問題提起をしてきました。この10年の間、僕たちの存在が、業界に一石を投じ、改革を推し進めるきっかけになったと自負しています。でも10年も経てば、保険をネット販売するなど、それほど珍しいことでもなくなってきました。これからの10年、20年も、社会にインパクトを与える存在であり続けるために、まさに今、新しい挑戦に打って出たところです。
実は先日、会社として初めて、がん保険を発売しました。もちろんがん保険自体は競合他社がすでに多くの商品を販売しています。その中で、自分たちならではの価値は何だろうと改めて考えたのが、「働きながらのがん治療をサポートすること」でした。その象徴が、生活支援サービスです。「体調が悪い時に通院するのが大変だ」「手術の影響で腕が上がらず、調理に時間がかかる」「副作用で容貌が変わってしまうのがつらい」など、当事者の話をよく聞くと、治療しながらの生活にはさまざまな困難が生じることが分かりました。子育て世代、つまり働く人々にとっては、ことさら切実な問題です。
そこで、家事代行やタクシーなど、各分野の企業と提携して、必要なサービスを受けられるようにしたのです。これまでの保険会社が「保険料をお預かりして保険金をお支払いする」だけだとしたら、僕らはプラスアルファの部分もカバーしていきたい。単なるお金のやりとりにとどまらず、お客さまの生活までサポートしていこうと考えています。なぜならお金は、生活するための手段に過ぎないのですから。
最近では「フィンテック」という言葉も話題ですが、テクノロジーを活用した新しい金融サービスという意味では、僕らはまさに「元祖フィンテック」。今、お客さまとスマートフォンで最も身近につながっている生命保険会社は、創業以来ネットでサービスを提供し続けてきた僕たちだと胸を張って言えます。
極論すれば、スマホを介してお客さまと僕たちは24時間つながれるわけです。従来の保険サービスは、保険金の支払い時という「点」でしかお客さまと接点を持たないケースがほとんどです。が、僕たちはそうしたお客さまとの関係性をガラリと変えられる可能性を持っている。有事の際もそうでない時も、常に「保険×情報・サービス」による生活サポートを提供できる存在へと進化していきたいと思っています。
たまたまタイミングが重なったのか、創業から10年を超えて、今いろいろなことが新たに動き出しています。最近は、久しぶりに“攻めている”実感がありますね(笑)。
社内的にも大きな変化を迎えました。一緒に会社を立ち上げた出口(治明氏)が2017年をもって会長職を退き、経営陣には30代の新取締役が2名加わりました。
15万人ものお客さまからの信頼と、従業員とその家族の生活、社会からの期待。背負っているものの重みを、改めてかみしめています。でも同じくらい「よし、やってやるぞ」という気持ちも湧き上がっています。
きっと今後も予想外の出来事がたくさん起こることでしょう。僕はそれにとてもワクワクしています。結末の分かっている小説を読んでもつまらない。明日何が起こるか、1年後どうなっているか分からない人生の方がずっと楽しいと感じています。