自分らしいキャリア&ライフを確立したい。が、どうすればできるのか――?
これから社会へ出た後、20代~30代でぶつかるであろうキャリア選択の課題について戦略コンサルティングファーム・BCGのコンサルタントを中心に、第一線で活躍中のプロフェッショナルたちにその解決策や思考法を聞く。より良い人生を送るために、仕事とどう向き合い、キャリアを切り開いていくべきか、本質思考で考えてみよう。
第1回は、2016年までBCG日本代表として同社の指揮を執った水越豊氏に、2020年以降のビジネスシーンで必要とされるキャリア構築のヒントについて聞いた。
2020年という節目の年を間近に控え、「これからどんな時代になるのか」と問われる機会が増えてきましたが、私の考えは随分前から全く変わっていません。「不確実性の時代ですよ」というのがその答えです。
実はこの言葉、今から40年も前にアメリカの経済学者だったジョン・ケネス・ガルブレイス氏が記した著書のタイトル。1970年代の終わりから80年代にかけて、世界的なベストセラーとなった本なのですが、それから半世紀近くが経過した今も、私は「不確実」な時代がずっと続いていると考えています。
例えば、今からちょうど10年前にアップルが最初のiPhoneを発売しましたが、その後スマートフォンが全世界に普及し、暮らしにもビジネスにも巨大な影響力を持つようになる、と予測できた人が当時どれだけいたでしょうか? 限りなくゼロに近かったはずです。こうした予測不能な事象は、技術革新が目まぐるしく進んでいる今、ますます加速していくでしょう。
また直近の話題でいえば、米国の新大統領にトランプ氏が選ばれることも、英国の国民投票がEU離脱を選択することも、多くの人は予想していませんでした。先が読めず、何が起こるか分からない時代は今なお続いていますし、むしろその不確実性は今後さらに増していくと見ています。
いきなりこんな話をされたら、これから社会人になろうとしている学生の皆さんは、不安を感じるかもしれません。「先が見えない時代に、どんな仕事をして将来のビジョンをどう描けばいいんだ?」と。
一つ言えるのは、「先行き不透明なのは皆さんだけではない」ということです。例えば10年後に栄えているのは、どの国や地域なのか。どんな産業が発展し、どういう職種が脚光を浴びるのか。これらもまた厳密には分かりません。
つまり、絶対確実なものなどないのですから、これまで以上に我々は“自分ブランド”というものを、自分の責任で磨いていくしかないのです。「この会社に入れたらもう安心」「こういう仕事ができたら給料も良いし、カッコいい」などというステレオタイプな発想から脱却しましょう。
では、自分ブランドを磨くにはどうすればいいか?
私がお勧めしたいのは「自分の力を高めてくれる場で働くこと」。どんな場が自分を高めてくれるのかといえば、素晴らしい人と共に働ける場です。より具体的な話にするために、我々ボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)を例にとってご紹介しましょう。
今、BCGでは最新の領域に活動の場を広げて、そこでの知見を深め、お客さまと共に新しい価値を生み出そうとしています。最新の領域とは、例えばAIでありロボティクスであり、デジタルやフィンテック、生命科学やエネルギー改革といった領域です。こうした新しいものに触れる機会を持つことで人は大いに成長しますし、不確実な時代を突き破るような新しい可能性も膨らんでいきます。
そして、未知の世界に触れて知識を得ること以上に、それぞれの業界の先端で活躍する素晴らしい人たちと出会い、共に働くことそのものが、刺激を受け成長を得る機会になるのです。
コンサルティングファームは、人こそが唯一の財産です。BCGのメンバーそれぞれが自分ブランドを高めるチャンスを得て、より大きなインパクトを生み出す。それがBCGの力となる。この好循環を創出すべく、果敢に新しいビジネスフィールドへ挑戦を続けているともいえます。
結局のところ、人を成長させるのは、やはり人。どんな上司がいて、どんな同僚がいるのか。お客さまである企業のどのような人々と向き合うのか。不確実な時代だけに、「何を仕事にするのか」よりも「誰と仕事をするのか」がより一層重要になってくるのです。
だからこそ、自分自身の姿勢も強く問われることを忘れないでください。自分ブランドを高めたい、という強い成長欲求を持つこと。そして、知的好奇心を貪欲に発揮し続けることが成長をかなえる条件になります。
何事にも関心を持ち、新しい学びを得たときに喜びを感じる。分からないことに出会ったときには、「なぜ? どうして?」という疑問を解決するため、徹底追求していく。そんな知的好奇心に満ちた日々は、大切なものに気付かせてくれるはずです。
一つは、自分が持つ“可能性”です。自分という人間が何を得意にしていて、どんなことをしたら人よりも成果を上げられるか、学生である皆さんの20数年という人生の中では、見えていないことがまだまだあるでしょう。それが当然だと思いますし、実際私自身を振り返ってもそうでした。
仕事を通じてさまざまなことにチャレンジをしてくことは、自分の本当の可能性や才能を見いだすことにつながります。「自分の可能性も分からないのに就職活動をしなければいけないなんて」とネガティブに考えず、「自分の中の未知の可能性と巡り合えるような働き方ができる環境はどこか?」をとことん追い求めてみてください。
そしてもう一つ。知的好奇心をもって仕事に取り組むことで、高いレベルの“問題解決能力”が養われていることを、やがて自覚すると思います。
コンサルタントに限らず、営業職でも、研究職でも、職種を問わず、知的好奇心を刺激される仕事であれば、課題を発見し、新たな知見に触れ、自分なりの解を導き出すという一連の作業に常日頃から明け暮れているはず。その試行錯誤の積み重ねによって、ビジネスプロフェッショナルの基礎スキルとなる問題解決能力はおのずと磨かれます。そのためにも、若いうちから知的好奇心をもって仕事に取り組む習慣を付けることを強くお勧めしたいです。
私は20代の時、新日本製鐵にいました。非常におおらかで、高い視座をもって人を育ててくれる会社にいたおかげで、大いに成長することができました。
新卒入社の頃は社会人としての基本動作や考え方から覚えていきましたが、仕事に習熟していくうちに自信も付き、いつしか「水越はマンエツだ」と言われるようになりました。「マンエツ」とは「僭越」が過ぎるという意味の皮肉です。「せんえつ」の10倍生意気だから「まんえつ」ということ(笑)。
それでも部署を移る際には盛大な送別会を開いてくれて、先輩諸氏の懐の深さに感激したものです。生意気だろうが何だろうが、言われたことだけこなすことはしない。自分なりに現状の問題を発見し、その解決の仕方を考え、主張していたことを認めてもらったのだと思いました。また、そう考えて仕事に臨んだことで成長できたのだと自負しています。BCGに来てからも、同様のおおらかさを感じました。
業種や規模を問わず、あらゆる企業が勝機をつかもうとしていますが、コンサルタントはそうした企業のさらに半歩先を行く洞察と提案、実行によって結果を出さねばなりません。
一昔前のコンサルタントは、戦略プランのプレゼン時だけクライアントが思いもつかないようなアイデアでサプライズすれば評価されることもありました。今はそうではなく、プロジェクトの結果がもたらすクライアントへのインパクトでサプライズを起こすことが強く求められます。ですから、コンサルタントというと「大変そうな仕事だ」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、それは否定しません。
が、それでも私が入社したころ30数名だった日本法人は、今や約580人から成る組織へと拡大しています。タフな仕事と分かっていながらもこれだけ多くの人材が集まるのはなぜか? その背景には、もちろん人材教育の体制整備や働き方の改善などに着手してきたこともあります。しかしそれ以上に、自らを高めようという志の持ち主たちがBCGという環境や仲間を自らの成長の場として選んだこと。これこそが組織拡大の最大の原動力と考えています。
20年以上コンサルタント一筋なので、「他のことがしたくなりませんか」などと聞かれることもありますが、飽きるヒマなどないくらいに、次々と新鮮な驚きや刺激的な人物に出会えます。共に働く仲間はいずれも優秀で、侃々諤々の議論も厭わず、同じように新しい驚きや刺激を喜んでいるから、互いの意見を尊重し合う包容力がある。お金や地位を求める人の集団だったら、こうはいきません。
不確実な時代はこれからも続きます。そんな中で確実なのは、自らを磨いた者だけが魅力的な人と出会い、そこでまた成長を手に入れ、自分の価値を向上していけるということです。
自分の可能性を今から決め打ちせず、隠れた才能を開花させることができる場をじっくりと選び取ってください。それができるのは、学生である今だけです。そのチャンスを活かさぬ手はありませんよ。
(取材・文/森川直樹、撮影/竹井俊晴)