ヤフー株式会社は、2016年10月3日より新卒一括採用を廃止し、通年採用の実施に踏み切った。
新卒、既卒、第二新卒など、経歴に関わらず30歳以下であれば応募できる「ポテンシャル採用」を新設。エンジニアやデザイナー、営業職など全ての職種を対象に、年間で300名程度を採用予定とした同社の発表は、各種メディアで報道され、話題を集めた。
しかし実際、“通年採用”とは学生にとってどんなメリットがあるのだろうか?
ニュースを目にしたことはあっても、自分事として捉え、具体的に活用の仕方をイメージできている学生は少ないだろう。
2017年4月、ヤフーはポテンシャル採用における初の選考通過者となる新卒入社組をすでに迎え入れており、2018年4月以降の新卒入社者は、全員がポテンシャル採用枠となる。
いよいよ本格稼働フェーズへと移行する同社の通年採用。その背景と実態を探ると、就職活動の本質が見えてきた。
なぜ、皆一律に同時期から就職活動を始めねばならないのか? 日本固有の新卒一括採用システムに疑念を抱いたことのある学生も少なくないはずだ。
通年採用は、そんな旧来の価値観に一石を投じる施策であることは間違いない。ここ数年、ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、通年採用に切り替える企業は増えつつあるとはいえ、全体で見ればまだ少数派。今後、拡大が見込まれるものの、今はまさに過渡期だ。
こうした中、ヤフーが通年採用へのシフトを決断した理由を、同社クリエイター人財戦略室の金谷俊樹氏はこう語る。
「大学院生は研究で忙しい時期と就活シーズンが重なってしまったり、留学生は帰国する頃には企業のエントリーがもう締め切られていたり。タイミングが合わず、思うように就職活動ができない学生が年々増えてきています。通年採用によって、こうした個々のニーズに応える体制を整えたいと考えたことが一番大きな理由なんですよ。学生の皆さんには、安心して勉強に励んでほしい。そう強く思っています」
実際、2017年4月入社および10月入社予定の新卒者たちは、院生や海外留学生たちが多くを占めている。また、第二新卒の応募者も増えているという。
「短い就活期間の中で一生働きたいと思える会社を選ぶのは難しいことです。自分に本当に合う仕事や会社とはどんなものか、働いてみて初めて分かることもあるでしょう。第二新卒応募者の大半は、就活時には当社を受けていなかった方です。当時は気付けなかったけれど、働き始めて改めて当社の仕事の面白さを見いだしてくれた方もいるのではないでしょうか」(金谷氏)
同社が目指す、優秀な“人財”を採りこぼすことのない柔軟な採用体制は、すでに一定の成果を上げ始めているといえそうだ。
一方で、通常の就活スケジュールに則って動く大半の学生たちにとって、通年採用は異文化でしかない。通年採用を実施している企業とは、つまり“いつ受けてもいい会社”でもある。となれば、エントリー期限のある、今しか受けられない企業を優先する流れになってしまう。通年採用実施企業が割を食う形にならないのだろうか?
「確かにその懸念はあります。だからこそ、私たちは自社の仕事内容や働く人、風土などをもっと理解していただけるよう、努力をしていきたいと考えています。具体的には、採用HPを刷新して情報量を増やしたほか、昨年から『linotice(リノティス)』というブログメディアの運営もスタートし、年間を通して継続的に当社の情報を発信することに積極的に取り組んでいます。また、当社のテクノロジーの高さや、保有する膨大な量のビッグデータを活用したビジネスの広がりに触れていただく機会を増やすため、サービス開発体験インターンシップの拡充も図っています」(金谷氏)
エントリー解禁のタイミングで情報公開を強化する企業群に対して、短期集中の情報戦では伝えきれぬ自社のスケール感を、年間を通して打ち出していく戦略だ。
同社が目指すのは、「情報技術を使って人々や社会の“課題”を解決し、日本をアップデート」(金谷氏)すること。そのビジョンをより具体的に体感してもらえる場として、インターンシップには特に力を入れているという。
「当社の場合、サービス認知度の高さに比べて、扱っている技術領域やビジネス構造が見えにくい部分があると思っています。インターンシップで実務を通して技術に触れてもらうことで、学生の方に自分が学んできた技術がどう当社のサービスと結び付くのかを、具体的に理解してもらえる。また、客観的に自分の技術の汎用性を知る良い機会にもなると思います」(金谷氏)
ヤフーをはじめ、通年採用実施企業の多くがインターンシップを積極的に開催している。就業体験を機に、インターンシップ開催企業で働くイメージが湧いた場合、通年採用ならばいつでも門戸が開かれているため、スムーズに選考に進めるというメリットもある。
就活シーズンの限られた時間の中で、複数の企業を比較検討する。それは、相対評価による取捨選択を招き、少なからずミスリードが生まれるリスクがある。通年採用は、絶対評価で第一志望を選び取るという、就職先選びの本来の形に添うものだ。
「通年採用は、『行きたい』と思った時にいつでも応募ができる、シンプルなシステムです。入学してすぐに社会人になった後の目標を具体化したい人もいるだろうし、学業に専念して学生生活を全うした後に自分の知見を活かせる場所を選びたい人もいる。そうした学生の方の多様なライフスタイルに向き合える体制だと思っています」(金谷氏)
社会や組織の歯車になることを忌み嫌いながら、就活は周囲と同調して「時期が来たから」という理由だけで始めるなんてナンセンスだ。一括採用実施企業の採用スケジュールに合わせて意思決定するのではなく、「こんな大学生活を送りたい」「こんな社会人になりたい」という自分の都合で、意志を込めて自分で就活スタート時期を決め、スケジューリングするのが本質ではないだろうか。
自分の人生は、自分でコントロールし、舵を取るのが筋だ。就職という大きな人生の決断こそ、主体的であるべきだろう。生き方の選択は、もうすでに始まっている。
(取材・文・撮影/福井千尋[編集部])