ビジネスパーソンの転換点を深掘り
キャリアの成長 Before/After
効率や最短ルートの追求だけが「いい仕事」なのか? ビジネスパーソンとしての成長は、試行錯誤を必要とする困難や挑戦を乗り越えた先にあるはずだ。
本特集では、各企業の第一線で活躍する社員のキャリアにおける成長のBefore/Afterを深掘り。彼らが壁を乗り越え、飛躍を遂げたリアルな姿から、効率だけでは語れない仕事の奥深さと、確かな成長イメージを学ぶ。
課長
仲間を信じて、頼る勇気を持つ
孤高の完璧主義だった若手時代
プライドを捨て、チームの力でつかんだ成功
私のキャリアにおける大きな転機は、入社9年目に経済成長が著しいベトナムの現地法人で、鉄スクラップの内販拡大を任されたことでした。鉄スクラップとは、不要になった鉄製品を回収・分別したリサイクル原料で、新しい鉄を生み出すために欠かせない資源です。現地での鉄スクラップ輸入ビジネスの拡大に加えて、鉄スクラップをベトナム国内で調達し、現地メーカーに直接販売できる仕組みを構築することがミッションでした。
しかし、現地の商習慣や規制、品質管理の常識は日本とはまるで異なり、言葉の壁や情報の少なさも重なって、日本では当たり前とされる品質基準をベトナムで実現することは、想像以上に困難でした。こうした状況の中、私は「1人でやり切る」という仕事の進め方に固執していました。日本では1人でプロジェクトを進めても大きな壁にぶつかることなく成果を出せていたため、そのやり方に強い自信を持っていたからです。
赴任後も最初の数カ月は、これまでのスタイルを貫き、現地スタッフにアドバイスを仰ぐことなく、高速道路を走り回り、見知らぬスクラップ業者を訪ねては、「鉄スクラップを買わせてください」と頭を下げる日々。汗だくで業者を回り、日本の品質基準を説明しても、現地の業者にはなかなか理解してもらえませんでした。そんなある日、赴任から約1年がたったころ、実績の振り返りをする機会がありました。自身が目立った成果を残せていないことを定量的に確認したときに、成長するベトナム経済の中で結果を出せず、会社の期待に応えられていない現実に直面し、それまであった私の自信は、音を立てて崩れていきました。
苦悩する日々が続く中、上司から「全てを1人で担う必要はない。誰が何を得意としているかを知っていればいい」という言葉をかけられ、その瞬間、私の視野は大きく広がりました。誰かの力を借りることは自分の無能さを認めることだと思い込んでいましたが、それこそが成功を妨げていたのです。
私はスタッフの人脈や知識、現地の感覚を信頼し、チームの力を最大限に活かすことにしました。最初は「本当にうまくいくのだろうか」という思いがよぎることもありましたが、その不安を打ち消すように、チームの動きは活発になっていきました。現地スタッフが彼らの言葉で品質基準を説明すると、現地業者の理解と信頼が得られ、内販拡大は大きく前進したのです。この経験を通じて、「自分一人では絶対に成し遂げられなかった」という大きな気付きを得ました。
当社には、社員の「挑戦したい」という意欲を後押しする文化があります。私も30歳という若さで希望していた海外赴任のチャンスを得ることができました。日本製鉄グループのブランド力は、海外でも必ず交渉の場を得る強みとなりますが、それだけではビジネスの成功にはつながりません。周囲を信じ、尊重し、チームで取り組むことで初めて成果が生まれるのだと実感しています。今後は、ベトナムでの経験を活かし、部下一人一人が持つ強みや個性を最大限に発揮できる成長の機会を提供することが目標です。


