2018/11/28 更新 変化の時代の「普遍」を考える 名リーダーたちの人生哲学

【梅澤高明氏】オジサンたちが作った古いルールに乗らなくていい。他の人と違う自分らしい生き方こそ大切にすべき

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変化の時代の「普遍」を考える
名リーダーたちの人生哲学
激動の時代─。これまでの常識をアップデートし、人生のグランドデザインを見直すべき時が到来している。しかし、世の中の変化に“流されてしまう”リスクも忘れてはいけない。そこで、時代を代表する名リーダーたちに、「変化の時代」をたくましく生き抜くための「普遍」について聞いた。私たちが見失ってはいけないものとは─。

A.T. カーニー株式会社 パートナー/日本法人会長 梅澤高明氏

東京大学法学部卒、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士。日米で約20年にわたり、戦略、マーケティング、イノベーション、組織関連のコンサルティングを実施。クールジャパン、デザイン、スタートアップ、インバウンド観光・ナイトタイムエコノミーなどのテーマで政府委員会の委員を務める。2020年の先を見据えた東京の将来ビジョンプロジェクト『NEXTOKYO』を牽引

キャリアの三毛作、四毛作が当たり前の時代に

現在は、私が社会に出た30年前には想像もしなかったような変化が起こっています。最大の変化の一つは、長寿命化により職業人生が長くなったこと。これまで社会人として働くのは40年ほどでしたが、今後は60年、70年に延びるかもしれない。そしてもう一つは、テクノロジーの進化により、新しいビジネスや仕事が次々と生まれていること。この二つの変化によって、働き方やキャリアも大きく変わろうとしています。

テクノロジーが進化すれば事業のサイクルは短くなり、現場の仕組みもどんどん変わるので、一つの仕事の寿命は短くなる方向にある。従って、一度身に付けたスキルが10年後も通用するかというとかなり怪しくなります。一方で、職業人生は長期化するわけですから、キャリアの三毛作や四毛作が当たり前になります。

同時に複数の仕事をする〝二足のわらじ〞も普通になるでしょう。これからの時代は、人生で何度かキャリアチェンジすることを前提に、働き方やスキルの磨き方も変えていく必要があります。

時代の変化に合わせて、新しい活躍の場へスムーズに軸足を移すには、左脳と右脳を両輪で使うことが求められます。左脳による分析力さえあれば、どんな分野でも正解に辿り着けると思うのは大間違い。新しい分野に移ったら、物事の全体を感覚的に捉え、その中から勘所を見出す、右脳的な作業が特に重要となります。

しかも今後は、左脳的、分析的な作業のうち、一定のプロセスに従えばできる定型的な作業や、意思決定基準が明確でAIでも判断可能な仕事は、自動化されていきます。一方、さまざまな情報を集め、ファジーな状況の中で全体を見て判断する仕事は、機械より人間の方が精度は高い。AI時代において、機械では代替不可能な価値の高い仕事ができる人材であるためには、やはり右脳と左脳の両方を、高度なレベルで統合して使えることが必須です。

一方、時代が変わっても大事にすべき普遍的なものもあります。

一つは、心身の健康です。平均寿命が延びて、健康寿命の個人差も大きくなる時代には、健康の価値がいよいよ高まります。日頃から食事や睡眠、運動などを含めた生活全般をコントロールし、病気のリスクを回避することが、職業人生の長さと質を今まで以上に左右します。

もう一つは、分野や職種が変わっても持ち運びできる基盤的能力。具体的には、「新しいことを学ぶ力」「突き詰めて考え抜く力」「チーム全体で目標を達成するリーダーシップ」などです。これらは従来からビジネスパーソンにとって大事な能力でしたが、人生三毛作や四毛作の時代になれば、重要性は一層高まります。

この基盤的能力を早く身に付けるには、若手のうちにプロジェクトベースの仕事を数多く経験できる会社で働くことを勧めます。短いサイクルでプロジェクトが回り、若手がいろいろな役回りを任せてもらえる環境ほど、成長速度は上がる。どの会社に就職しても終身雇用で働くわけではないですから、就職先を選ぶ際は、「若いうちにどれほどの機会を与えてくれるのか」を重視すべきです。

国がどう変わろうと個人が活躍する場はある

これから社会に出る学生は、日本の未来に不安を抱いているかもしれません。確かにGDPの順位は今後も沈んでいくでしょう。だからといって、個人の未来まで沈むわけではない。国内市場が縮小するなら、海外市場も対象にすればいいし、自分自身が海外に飛び出す手もある。活躍の場所は自分で選べるのだから、個人が未来を切り拓くアプローチはいくらでもあるはずです。

それに私は、日本の未来をそれほど悲観していません。4年前の米国赴任時には、むしろ「これからは米国より日本が面白い」と感じました。なぜなら、左脳と右脳を統合して新しいものを生み出す機会は、米国より日本の方がずっと多いからです。

米国はどの産業でも分業化と専門化が進み、一人一人が担当する仕事は細分化されています。しかし分業が進み過ぎると、異なる領域やスキルを新しく掛け合わせる機会が少なくなり、イノベーションが起こりにくくなる。その点、日本は一人の人間が幅広い仕事や業務を任されるので、左脳と右脳の両方を使い、あちこちで得た情報や経験を組み合わせる自由度があります。日本はイノベーション後進国と言われますが、そんなことはない。小さなイノベーションはたくさん生まれています。それをグローバル規模のビジネスに拡大するスキルや資金が不足しているだけで、イノベーションを生み出す力は決して海外に負けていません。

そもそも唯一無二のユニークな価値を提供できれば、外国と競争する必要もない。私自身、競争しないで価値を出せる人間を目指してきました。だって、人が定めたルールで競争させられるなんて嫌でしょう? だから若い人たちは、オジサンたちが作った古いルールになんか乗っからなくていいですよ(笑)。他の人と違う自分らしい生き方こそ、いつの時代も変わらず大切にすべきです。

取材・文/塚田有香 撮影/洞澤 佐智子 (CROSSOVER )