2018/12/27 更新 就活コラム

AI時代の仕事選び

  • キャリア
  • 連載

2,3年前までは、最新のテクノロジーでまだ研究段階であったAIが私達の生活の中に入り込みはじめています。そのAIは、これから労働人口が減少するであろう日本で、一つの対応策として期待されています。そして、それは働く現場での大きな変化、つまりAIと私達が共存するということを意味しています。

AIの可能性は十分に理解してはいるものの、一方でAIによって仕事が奪われていく、というようなことを考える方もいらっしゃいます。AIが100%私達人間の変わりが務まるわけではない(今のところは)ですが、それはある意味正しい考え方だとも言えます。働く現場でこれまで人間が行っていたことをAIに代替するわけですから、それによって実際に仕事を失う人たちは必ず存在するからです。では、私達はAI時代でどのような仕事選びをすればよいのでしょうか。

まだ終身雇用が前提とされていた昭和では、社会的なステイタス、長期安定雇用、平均以上の収入など、大手企業への“就社”には相応の意味がありました。入社した後のキャリアを会社に委ね、人事異動によるローテションで様々な業務につき、その会社のスペシャリストになることで、就社した会社でのキャリアアップを実現していました。企業は成長し続けていましたので、多くの人が一定レベルの管理職につくことができ、相応の報酬を得ることができていました。しかし、終身雇用が絶対的なものではなくなり、就職した企業の存続さえ約束されたものではなくなってきている現在では、自分のキャリアを会社に預けてしまう“就社”は、大きな将来的なリスクを抱えてしまうことになります。

私は、仕事を選ぶ際に留意しなくてはいけないこととして、以下の2点があると考えています。
1) これまでの仕事はAIが代替できる仕事とそうでない仕事に区分される
2) 新たにAIを作る、AIを操作する、AIを利用するという三つの仕事が生まれる

こうした働く環境についての大きな変革は過去にも起きていました。古くは産業革命です。それまで人力に頼っていた動力源が蒸気機関という道具によって、より効率的に、より大きな成果を得ることができることになりました。この結果、人の仕事は蒸気機関で代替できる仕事とできない仕事に分けられました。

そしてもう一つ、私自身が経験したことでもありますが、PCとインターネットの普及による変革です。それまで、人がおこなっていた計算・分析・描画・デザインなどを、PCとインターネットで代替できるようになりました。これにより仕事はPCとインターネットで代替できる仕事とできない仕事に区分されたのです。

同じようにAIという新しい道具の登場は、それによって代替される仕事と代替が不可能な仕事に分かれることになります。当然ですが、代替可能な仕事は価値の低い仕事とみなされることとなります。こういう話をすると、“AIで仕事がなくなる危ない業界”といった業界単位でくくってしまう論調もありますが、実際は業界による区分ではなく、企業の中の一つひとつの業務、さらに一人が担当している業務の中でその区分が行われることになるのです。AIに任せるべき業務と人が行うべき業務、それぞれが一人の業務のなかに混在していくことになると思います。当然、AIに任せるべきことは任せて、人はそれ以外のところに集中できますので、生産性はあがっていくことになります。産業革命のときも、仕事を奪われると考えた一部の労働者が暴動のようなことをしたりしましたが、実際には肉体労働から解放された結果、生産性があがり個々人の賃金も上昇した、という事実もあります。

AIに代替される可能性がある仕事を考える時に、キーワードとしてあげられるのが、“マッチング”です。“マッチング”は、過去の統計を利用しつつ利用者の移行にあった商品(情報やサービスを含む)を提案する仕事があります。具体的には営業、マーケティング、仲介(人材、不動産など)が考えられます。そして、ルールや制度でやるべき仕事がきまってくるものも、ルールや制度との“マッチング”を行う業務といえますのでAIに適しています。申請・報告・処理をおもな業務とするような仕事などで、例えば公務員の事務方のような仕事です。ただしこれらもすべてが代替するわけではありません。人間の五感を通じて感情に訴える要素があるような業務は、引き続き人間での対応が必要となります。たとえば高価な買い物をするときに、いくつかの提案をAIが行い営業は顧客に寄り添い意思決定を促す、というようなことが考えられます。AIに代替できないのは、結局のところ人間としての力ということになりそうです。

新しい道具の誕生は、新たな仕事を生み出すことになります。それはその道具を、作る仕事、操作する仕事、そして利用する仕事です。例えばPCでは、PCを作る仕事、PCを操作する仕事、そしてPCを利用する仕事ということになります。

PCが世に出始めたときには、PCを作り販売する仕事は花形でもあり、そうした会社の多くは大きな成功を収めていました。ご存知の方も多いかもしれませんが、IBMは、International Business Machineという社名のとおり、もともとはハードウエアの会社でした。1980年代までは、メインフレームを中心としたハードウエアで大きな成功を収め、その後もビジネス利用のPC事業を行っていました。しかし、テクノロジーの発展にともないPCはコモディティ化し、PC事業でのIBMの優位性はなくなってしまいました。その後のIBMはソリューションビジネス(利用する仕事)に大きく舵をきり、堅調であったThinkPadの事業さえ発表から10年で売却しています。(事業開始時点で決めていたとも言われています)。いまではPCは物家電と同等に価格以外の差別化が難しい状況になってしまい、日本でも数多くあったPCメーカーが事業の売却や撤退などを行い、現在では大手メーカーとしてはパナソニックのみになっています。

また、当時はPCとそのソフトウエアを利用するために専門的な知識が必要とされる仕事も少なくなく、高いレベルの利用をするための専門職が存在していました。しかしその後、ハードとソフトのユーザビリティとユーザーのリテラシーの向上によって、操作に専門的知識を必要としなくなりました。その結果、現在では、『技術を要する専門職』ではなく『その業務を専門的に行う専門職』という位置づけになってしまい、その職種の価値は大きく変わりました。そして、現在でも高い価値を生み出しているのはPCを利用する仕事です。これは使用するという意味ではなく、PCを利用して新しい価値を生みだす仕事という意味です。PCの持つポテンシャルを十分に生かして業務を行ったり、新しいサービスを提供することを指します。

こうした考え方は、間違いなくAIについても同じことが言えると考えています。AIを作る仕事、AIを操作する仕事、AIを利用するという3つの仕事が新たに生まれます。 PCがそうであったように、こうした新しい道具は予想以上に早くコモディティ化することになりますので、安価になったAIで代替できる仕事の経済合理性の限界点はどんどん低くなっていく、つまり価値が下がっていくことになります。また新たに生まれる仕事のうち、AIを利用するという仕事以外の価値は、一部の人を除きそうは長続きしないということも予想できます

AIが当たり前となる世の中にあって、どのような仕事に就けばよいのか、明確な答えをだすのは難しいですが、AIの特性を理解したうえで、AIでは代替できない仕事もしくはAIを利用する(利用して新しい価値を生む)仕事を選ぶことは、自分の仕事の価値を高く維持するためには、間違いではないように思います。そして、それは業界や職種というより、働く人一人ひとりの意識にかかっているとも言えます。

これまでの日本人は、一般的に“作る”と“操作する”というところがとても好きで得意としていました。最先端の技術を使った新しいものを作る、そうしてつくられたものを操作するといったような仕事です。一方“利用する”というところはあまり得意ではなかったようで、他国に後れをとっている部分もありました。例えばITシステムなどでもそうですが、どうも日本人は最先端の技術に携わりたいであるとか、必要以上に細部にこだわったシステムを作るといった特性があり、作り手の満足のためにシステムを作るともいえるような傾向がみられました。そうしたことが高いクオリティを実現することになるので、すべてを否定するつもりはありませんが、それにしても作ることにこだわりすぎる感がありました。しかし、インターネットが世の中の基盤となり、スマートフォンやタブレットが手元にあることが当たり前である皆さんのような新しい世代の人たちは、これまでの日本人と比べると“利用する”ということに非常に長けていると実感しています。

AIが当たり前である世の中であっても、自分自身が、“AIには代替できない”、“AIを利用する”といった意識をもって仕事をする限り、新しい世代の皆さんは大きな心配は不要であると思います。AIも(いまのとことろは)道具なのですから。

  • 黛 武志
    採用コンサルティング 黛/MaYuZuMi 代表
  • 大学4年秋に内定していた企業の親会社が社会的問題を起こし内定を辞退。担当教授に卒論を不可にしてもらい、就職留年。卒業後大手日本企業の人事に”不本意ながら”配属されるが、その仕事に魅了され以後一貫して人事のキャリアを歩む。SAPジャパンの採用責任者、メットライフ生命保険の採用部長などを歴任。現在は、採用全般についてのコンサルティングを行っている。日本人材マネジメント協会で採用についてのセッションを担当、LinkedInでいくつかの記事を公開し、”元採用部長”の名でNote にも執筆中。